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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
鬼を狩るもの
98/236

鬼が追いし者

 ジパング界へ旅立つ前。


「それでは、みなさん、くれぐれもよろしくお願いします」

 ひどく神妙な顔で、学者様がおっしゃったのだ。

「勇者様の未来には暗雲が垂れ込めています。幻想世界で四体、精霊界で一体、英雄世界で三人と一体、エスエフ界では三体と二人……戦力外の仲間が加わっています。魔王戦開幕に『先制攻撃の法』を唱える私を含め、少なく見積もっても十五人が、まともに戦えません」

 テオのメガネがキラリと光る。

「四十九人中十五人! 物理・魔法耐性が異常に高い魔王に対し、総ダメージ1億が求められているのに、1500万ダメージも損失したということです」

 拳を握り締め、テオは仲間達――アタシと一緒にジパング界へ赴く、シャルル様、アラン、リュカ、エドモン、お師匠様――を見渡した。

「これ以上非戦闘員が増えぬよう……みなさん、ご協力ください。勇者様がろくでもない者に萌えそうな時は、全力阻止をお願いします」


 え〜


「勇者様がたいへん感情豊かな方である事は、存じています。しかし、心の赴くままに生きては、魔王戦敗北は必至。伴侶にしたいと思える人間以外は、視界に入れぬようお心がけください」

 アタシに軽くお説教してから、テオはルネさんへと目配せを送った。


「勇者様。ジパング界では、肌身離さずこちらを身につけてください!」

 ロボットアーマーの人が、ババ〜ン! とばかりにアイテムをつきつけてくる。

「萌えやすい? 困ったなあという方にはこれですぞ!『萌え萌え注意報くん』!」

 機械の手が持っているのは、英雄世界の懐中時計に似た丸い機械だった。

「うっかりキュンキュン防止装置です。勇者様がそろそろ萌えそうだなあという時、警告を発し、本当に萌えていいか問いかける機械なのです! 今朝完成した、出来立てホヤホヤのフレッシュな発明品! 旅のお供にどうぞ!」

 はあ。


「私が注文して作らせました」

 テオがため息を漏らす。

「血圧・心拍数・脳波・声紋の乱れをチェックする機械です。無いよりはマシという程度の出来でしょうが、携帯ください」

……ついに、すっかり信用を無くしたようだ。エスエフ界で非戦闘員を五人も増やしたのがいけなかったのか。バリーさんやダンさんへのキュンキュンは事故みたいなものなのに。

 だけど……

 ピオさんのネックレス、ヴァンとソルのイヤリング、ラルムの指輪、ピロおじーちゃんとレイの腕輪、ルーチェさんとピクさんのブローチ。

 その他にも、不死鳥の剣、ポチの入った培養カプセル、勇者のサイン帳、メモ用手帳も持ってるのに……あ〜 あと、エレガントなデザインのハンカチも持ってるのよ、しかも二枚。

 この上まだ携帯品が増えるのか……とほほ。


 と、思ったら、更に。

「勇者様、困ったなーという時にはこれですぞ!」

 大きな袋を押しつけられた。

「『ルネ でらっくすⅢ』! ジパング界への旅には、このルネは同道できません! なので! あらゆる危機に対処できる、発明品を詰めておきました! こちらも旅のお伴にどうぞ!」

 今までの『ルネ でらっくす』の改良版なのだそうだ。


「ルネさん。淑女にスプーンより重い物を持たせるのはいかがなものかね」

 気がついたら、手から『ルネ でらっくすⅢ』が消えていた。シャルル様が、サッとさりげなく奪っていかれたのだ。

 おおおお! 紳士!

「ありがとうございます!」

「ハハハ。礼には及びません。美しい方がお困りなのです、救いの手を差し延べるのは魔法騎士(マジック・ナイト)としての嗜みですから」

 キラめくような爽やかな微笑み……

 素敵……

 シャルル様……


 胸がキュンキュンしそう……


 お優しいシャルル様は『ルネ でらっくすⅢ』を、

「アラン」

 当然のように、右から左へ。

「はい。シャルル様」

 大袋は裸戦士の手に。


 あ?


 あれ?


 えぇぇ?


……いや、あの、確かに、お美しいシャルル様が召使みたいに大荷物を担いだらおかしいですが……アランに渡しちゃったらさっきのキュンキュンが台無し……


「ケッ!」と、子供盗賊がそっぽを向く。


「……あ」

 一方、エドモンは伸ばしかけていた手をのろのろと下げていた。

 手持ち無沙汰っぽい右手を、わきわきしながら。

 両目が前髪に隠れてるから、いまいち表情がわかんないんだけど……

……もしかして、持とうとしてくれてた? 動きがもっさりしてるから、出遅れたとか?

 会釈したら、ぷいっと顔をそむけられたけど。


「最後に、みなさまにはこちらを!」

 ルネさんが、同行する仲間たちに発明品を配る。

「勇者様が居なくなった? 困ったなーという時にはこれですぞ! 『じーぴーえすクン』! 勇者様の現在地が丸わかりのレーダー装置! エスエフ界でもこれで、行方不明の勇者様を探せました! どうぞご携帯ください!」


「これさえあれば、いつ勇者様がさらわれても安心ですな!」と暴言を吐いたルネさんは、

「バーカ! 勇者のねーちゃんがさらわれたら、大ピンチだろーが」

 リュカから正しい突っ込みをくらっていた。その通りよ、もっと言ってやって!



 アタシが仲間達とそんなやりとりをしている間、お師匠様は沈黙を守っていた。

 ただ淡々と、アタシを見つめていた。



「『勇者の書 39――カガミ マサタカ』をもって、ジパング界への道を開く」

 床に広がった魔法絹布の一番右端には、幻想世界とこの世を結ぶ魔法陣が刻まれて残っている。それから精霊界、英雄世界、エスエフ界への魔法陣が続いている。

 その左隣に、お師匠様は三十九代目勇者の書を置いた。


 三十九代目勇者は、水のラルム憧れの人だ。むちゃくちゃ精霊に好かれやすい体質だったらしい。

 子供の時にアタシたちの世界に転移してきたカガミ マサタカ先輩は、精霊界で修行をつみ、百体以上の精霊をゲット。おそらく超楽勝で魔王戦を終えたと思われる。その後は、たぶん、生まれ故郷のジパング界に還ったんじゃないかと。

 カガミ先輩が、勇者だったのは千百年以上前のこと。

 だけど、もしかしたら、ジパング界は時の流れ方が違うかもしれない。英雄世界で七代目勇者サクライ先輩たちと出逢ったラルムは、そう考えていた。

《過剰な期待はすべきではありません。しかし、カガミ マサタカ様のご生存の可能性も零ではない》

 お会いできるかもしれない。伴侶の一人にできるのでは? 亡くなっていたとしても、伝説は語り継がれているはず、子孫が居るかも……めいっぱい夢見てたっけなあ。


 ラルムは、今は精霊界で療養中だ。エスエフ界で大ダメージを受けた、ピオさん、ピロおじーちゃん、ピクさんも。

 とはいえ、ジパング界に行くんだ。治りきってなくても、呼んであげなきゃ……怨まれるわよね。


「ジパング界には、求道者が多い。修行・鍛錬が盛んな世界だ。可能であれば、()の地でジャンヌには修行を積んでもらいたい」

 抑揚の無い声で、お師匠様が言葉を続ける。

「だが、ジャンヌの使命は、百日で百人の伴侶を集めることだ。魔王が目覚めるのは五十六日後。あと五十一人の仲間を探さねばならぬ。優先すべきは、仲間探し。状況次第では修行は行わずに帰還する」


「てかさー やれて二、三日ってとこだろ。いっくら修行が盛んな地っつったて、そんな短期でお手軽パワーアップなんてできんの?」

 またもやリュカが、もっともな突っ込みをする。

「ジパング界の修行場が、ジャンヌに適していれば不可能ではない。先例もある」

 お師匠様が淡々と答え、アタシの幼馴染がやけに力強く頷く。

「そーですよね! ボクでさえ魔法が使えるようになって、ぐぅぅ〜んとパワーアップしたんだもの! 勇者のジャンヌなら、秘められた力とか持ってそう!」

『覚醒』、ババーンとパワーアップ、おおお! ジャンヌ、かっけぇぇ! と、クロードが目をキラキラ輝かせる。

 ババーンっとパワーアップ……できたらいいなあ。



「ジャンヌぅぅ、がんばってぇぇ。毎日、神さまにお祈りするよ。ジャンヌが元気に『覚醒』しますようにって」

「こちらのことはご心配なく。仲間探し及び修行に、どうぞご専念ください」

「お兄様、はしゃぎすぎて、ジャンヌさんの足を引っ張られては嫌ですわよ。ボワエルデュー侯爵家の恥になりましてよ」

《リュカおにーちゃん、おねーちゃんを守ってあげてね》

「エドモン、しっかり勇者様のお役に立つのだぞ」

「私の発明品はどれも最高ですぞ。使ってみてくだされ」



 仲間達に見守られながら、アタシはお師匠様と向かい合った。


「エスエフ界で、異世界への転移・帰還魔法の呪文やその原理について教えたな」

 アタシを凝っと見つめながら、お師匠様が静かに問う。

「ジパング界への転移の呪文は唱えられるか?」

 ぐ。

 教わってる。

 アリス先輩がメモに書き残してくれた。

「……メモ帳を見ながら唱えてもいいでしょうか?」

 お師匠様が静かにかぶりを振る。

「私が先に唱える。おまえは後に続け」

「すみません」

「いいや」

 お師匠様のすみれ色の瞳が、スッと細まる。まるで微笑むかのように。

「呪文は、定型文と、渡る世界の特徴を連ねる箇所に分かれている。各世界ごとの特徴は、歴代勇者の書の裏表紙の魔法陣を見れば推測できるのだが……書の魔法陣が見えるのは賢者のみ。おまえに酷なことを求めているのは承知だ」

 しかし、と、お師匠様が言葉を続ける。優しく諭す時のような声で。

「比較することで、ある程度の規則性は察せられるはずだ。これより共に唱える呪文と、他世界への呪文を後で比べておくといい」

「はい、わかりました」


 アタシも、いずれ賢者になるんだ。

 転移魔法ぐらい一人で使えるようにならなきゃ。


 お師匠様が体をかがめ、顔を近づけてくる……

 白銀の髪に、すみれ色の瞳。綺麗だけど、まったく感情の浮かんでいない顔……


 見慣れているのに、やっぱり……

 息が触れ合う距離になると……ドキドキしちゃう……


 額と額がくっつき合う……


……と、思った時だった。

 耳をつんざくようなサイレンが鳴り響いたのは。


 うるさくって、鼓膜が破れそう!


 部屋中のみんなが、慌てて耳を塞ぐ。


『警告! 警告! 血圧・心拍数上昇。脳波や声紋に乱れを確認しました! 間もなくあなたは萌えてしまいます!』


 アタシの胸のポケットから、ルネさん叫び声が響いているのだ。


『注意一秒、萌え一生! 相手をよくご確認ください! その方、100万以上のダメを出せそうですかー?』


「はっはっは。このような時にはですな」

 ロボットアーマーの人が近づいて来て、アタシの胸のポケットから小さな機械を取り出す。

 さっきもらった『萌え萌え注意報くん』くんだ。

 これが鳴ってたのか!

「ここを二回押してください。二回目は五秒以上のタッチです」

 騒音が、ぴたっと止んだ。

「中央の画面(モニター)を軽く押すと、一時停止。五秒以上押すと、スイッチのオン・オフとなります。取り扱い説明書は、『ルネ でらっくすⅢ』にございますので、後でご確認ください!」


「萌え防止装置としては、一応の効果があるようですが……」

 ふらふらっと、テオが歩いて来る。

「けたたましすぎます。音量(ボリューム)を下げてください」


「……ボリュームですか……むぅ……『萌え萌え注意報くん』は出来立てほやほやのフレッシュな発明品でして……テオドール様のリクエスト通り、バーン! と萌えを阻止する機能にのみ重点を置いて突貫作業で作りましたので、仕様書になかった機能は付加しておらず、」

 え〜

「ボリューム調整は、次回作に付加します!」


「じゃあ、これを持ってくのは次回からで……」

 って言ったら、お師匠様もテオも頭を横に振るし……。


 これ持ってくの? やだなあ……。



* * * * * *



 お師匠様が魔法で開いた魔法陣を通って、アタシは仲間達と共にジパング界に旅立ち……



 瞼越しにも感じていたまぶしい光が消えた時……


 アタシの体は、ふわっと浮いていた。


「ジャンヌ!」

 ぐらりと傾いだ身体を、優しい腕が受け止めてくれる。

 アタシは、お師匠様の胸の中で目を開いた。


 周囲から、ズザザザっと草を滑らせるような音が響く。見れば、仲間達は滑り降ちそうになりながら懸命にバランスを保っていた。


 どうやら、草木の茂った斜面に転移してしまったようだ。

 なかなかの急勾配。

 どうも山っぽい。雑木林が茂った斜面に、道らしい道はなく、枝葉が邪魔で視界も悪い。頂上も麓も見えない。


 アタシが体重をかけちゃってるのに、お師匠様の姿勢に揺るぎはない。知的な賢者のローブがよく似合うのに、意外なほど力持ち。

「ありがとうございます」

 お礼を言って離れようとしたんだけど、ズルッと足が滑って、またお師匠様にしがみついてしまった。

「すみません!」

「及び腰では転びやすい。体の軸が曲がり過ぎぬよう意識し、靴底すべてを地面につけて立つのだ」


 助言通りにしてみる。

 アタシがまたコケてもすぐに支えられるよう、お師匠様は腕を回したままだ。

 すみません、情けない勇者で! いつもありがとうございます!


「……木に……ひっかかってる……」

 ボソッとつぶやき、エドモンが動き出す。

 左手に黄金弓、腰に矢筒、背に荷物入れ(リュック)な人は、草だらけの斜面をひょいひょいと下っていく。山歩きに慣れてる。


「お怪我は?」

 蛮族戦士のアランはその逞しい腕で、なんとシャルル様を支えていた。

 斜面を滑りそうになったシャルル様を、とっさに支えたっぽい。


 ちょっと目の保養というか……


 お美しいシャルル様が、ほぼ裸のアランに抱えられている図は……なんとも言えず……


「……何ほどのことはない。が、助かった。礼を言っておこう」

 憂い顔で嘆息し、シャルル様は小声で何かをつぶやかれた。

 草に埋もれたシャルル様の左足の辺りが、淡い光に包まれる。


 あの光は……治癒魔法だ。


「大丈夫ですか?」

 アタシの問いに、シャルル様が静かに微笑まれる。

「転移時に、左の足首を軽くひねってしまいました」

 あらま。

「魔法にて、治癒はしましたが……あなたをお守りすべきこの私が……。お恥ずかしい限りです」


「アランが居なきゃ、転がり落ちてたぜ」

 生意気盗賊も辺りを歩き回っている。こちらも、山道なんか苦にしていない。軽い足取りだ。

「ご自慢の髪や顔がドロドロになるだけなら、ま、笑えていいんだけど。ぶつけどころが悪きゃ、死ぬし。滑落であの世行きじゃ、マヌケすぎだろ? ちょっとは慎重になれよ。お・き・ぞ・く・さ・ま」

 ケラケラ笑う少年を、

「リュカ。失礼が過ぎるぞ」

 赤毛の戦士がたしなめる。

 けれども、少年は気にした風もない。笑いながら歩き回っている。


「……忠告いたみいるよ、リュカ君」

 もういいとアランの腕を払い、シャルル様は背後のアランへと視線を向ける。

「この借りは、いずれ返そう」

「いえ、そんな。勇者様とお仲間をお守りするのは俺の役目ですし、シャルル様にはレヴリ団の秘宝探索の折に何度となく魔法で」

「恩には報いる。ボワエルデュー侯爵家嫡子として、矜持にかけて誓う」

 有無を言わせぬ口調。

 アランの顔に、戸惑いが浮かぶ。が、すぐに表情をひきしめ、「ありがとうございます」と恭しく頭を下げるあたり、世慣れているというか……貴族と傭兵という立場をわきまえているというか……


 侯爵家嫡男のシャルル様、中身はまともな裸戦士のアラン、斜に構えた盗賊少年のリュカ。

 秘宝探索の旅の間に、三人は三人なりの関係を築きあげているようだ。


「アラン」

 あっちを見ろと、リュカが坂下を指差す。


 エドモンが、のっそりと登って来ている。

 いや、山道って考えると早いか。いつも通りのペースなだけね。

 左手に黄金弓を持った農夫は、その頭や肩に鳥やリスを乗せている。さすが動物タラシ。もう懐かれてる。

 でもって、右手に本を持ち、腕に大きな袋をひっかけている。

 本は……『勇者の書』だ! そっか! 転移に使った三十九代目の書も斜面を滑り落ちたのね!

 そして、荷物は、出がけに、アタシがルネさんから押しつけられた『ルネ でらっくすⅢ』……


「あ」


 慌てて、アランが斜面を駆け下りる。エドモンやリュカほどじゃないけど、足取りはしっかりしている。危なげなく、急勾配を降りて行く。


「すみません、エドモンさん!」

 アランは、平謝りだ。

 エドモンはゆっくりとかぶりを振り、何か答えてた。けど、声が小さすぎて、よく聞こえない。


『ルネ でらっくすⅢ』、落っことしてたんだ……転びかけてたシャルル様を助けようとして、放り投げたのね、きっと。


「エドモン、すまぬ。助かった」

 お師匠様が、顔だけをアランたちの方へ向ける。両腕は、アタシを囲ったままだ。

「ルネの発明品、中身は無事か?」


「どうでしょう……?」

 わからないと、アランもエドモンも首をかしげる。

 ルネさんの発明品が、正常に動くかどうかなんてルネさん本人にもわからないんじゃ?

 てか、何が入ってるんだろ? 中身を確認してないのよね。壊れても爆発……しないで欲しいなあ。


「見て来てください」

 一人で大丈夫ですからと、強調した。


 お師匠様が静かにアタシを見る。無表情だけど、雰囲気でわかる。アタシがまたズリ落ちるんじゃないかって心配なんですよね?


「足元をよく見て、しっかりバランスとりますよ」

 こう言えば、お師匠様は引き下がる……わかってて、アタシは言葉を続けた。

「ちゃんとやります。アタシ、勇者ですから」


 心配してもらえるのは嬉しい。

 でも、子供扱いされ続けるのは、寂しい。

 アタシ、十六歳なんですよ。


「……ああ、そうだな」

 お師匠様が、アタシの周りの囲いをやめる。


「……ジャンヌ。精霊を呼んではどうか?」

 ん?

「精霊の力を借りれば、たやすく移動できよう。また、治癒魔法を使えるものを呼んでおけば、備えにもなる」

 おお! そーいえば、そうか!

「おまえは精霊支配者でもある。精霊は、あらゆる局面で使える。精霊を生かす道はないか、常に意識するといい」

 ですね!


 移動するなら、ヴァンの風渡りや風結界が便利よね。


 治癒魔法を使えるのは、ラルムとルーチェさん。そいや、ピクさんも、使いこなせるようになったって言ってたなあ。サクライ先輩の闇精霊に弟子入りした成果で。

 ルーチェさんの契約の証には『呼び出しOK』の合図が表れてない。今、導き手の職務中っぽい。

……ラルムに頼むか、ピクさんに頼むか……

 二人とも、生まれ故郷で休養中だ。無理はさせたくないけど、呼んでやればどっちも喜ぶだろうなあ。ピクさんに修行の成果を見せてってお願いするのもいいなあ。でも、ここはジパング界(・・・・・)だし、やっぱラルムにすべき?


「あれぇ?」

 調子外れの声。

「なんだ、ありゃあ?」

 リュカは身を乗り出し、遠くを見ている。


 木々の間から、眼下に広がるものがわずかに見える。

 大きな川と河原。

 そして、そこに動くもの。


 人と……

 人ではないもの。


 逃げ惑う人間を、奇怪なものが追いかけているのだ。

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