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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
女王蜂 ― пчела-царица
95/236

消えた占い師を追え

「………」


 扉の前で、農夫の人が固まっている。


 両目を前髪で隠しているから、目線がいまいちわかんない。けど、誰を見てるのかは明らかだ。


「エドモンか」

 羽根付き帽子を被ったおじーちゃんが、きりっとした顔を向ける。

 もともとお年のわりにシャキッとした方だったんだけど、お体がツルツルテカテカのメタリックボディになっちゃったのよね。若々しいというかメカメカしいというか……

 エスエフ界に行く前とは、別人だ。


「………」


 エドモンは、無言だ。

 サイボーグ・おじーちゃんを見つめ、口をやや開いたまま、動かない。


……ショックなのも、わかる。

 寝込んでたおじーちゃんが、このまんまじゃ、九十八代目魔王の呪いで死んじゃう! エスエフ界に治療に行く! って旅立って、帰って来たらこれだもん。上半身、ロボットよね。


「何をボンヤリとしておるのだ、たわけ!」

 おじーちゃんが、孫に雷を落とす。

「百一代目勇者様と賢者様方が異世界から戻られたのだぞ! まずは『お帰りなさい。お疲れ様でした』じゃろーが! 特にこたびはこのわしが、みなみなさまからひとかたならぬご厚情を賜っておるのだ! 厚く御礼申し上げるのが筋であろうが! この愚孫(ぐそん)が!」


「あ」

 口をあんぐりと開けてから、それからゆっくりと、エドモンは口元をほころばせていった。

「……うん」

 歯をみせて、照れ臭そうに、嬉しそうに、弱々しくエドモンが笑う。

「……おかえり……じいちゃん」


「馬鹿者! わしではない! ジャンヌ様たちに挨拶せえと言ったのだぞ!」

「……うん」

「さっさとせんか!」

「……わかった」


 はやくしろとせかされ、エドモンがアタシへと顔を向ける。


「………………………」


 そのまま無言。何と言おうかって感じに、首をひねってる。

 おかしくって、ふきだしちゃった。

「ただいま」

 ってアタシから言うと、エドモンはホッと息をついた。

 でもって、ペコリと頭を下げ、「ども……」といつもの挨拶。

「挨拶もまともにできんのか!」とおじーちゃんから怒鳴られても、エドモンはず〜っとニマニマしたまんま。おじーちゃんに怒られるのが嬉しくってたまらないって感じ。


 よかったわね、エドモン。セザールおじーちゃんが元気になって。



 メイドさんがお茶を出してくれる。

 綺麗に盛りつけられた、ケーキやたっぷりのお菓子、サンドイッチ。

 どれも絶品! 美味しくって、涙が出そう!

 エスエフ界(あっち)の食事は、ボトルにストローを挿して、チュウチュウするだけ。ひどい薄味だったし、食事の楽しみゼロだった。

 噛んで、舌で味わい、飲み込む。あたりまえの食事(こと)が、すっごく嬉しい……


「あ、あの……アランさま」

 護衛よろしくアタシの後ろにたたずむ赤毛戦士のもとへ、黒髪の小柄なメイドさんがやって来た。

 メイドさんは頬を赤く染めてうつむき、手に布を抱えてもじもじしている。

「ご苦労様です、エリザさん。それは受け取りましょう」

 赤毛戦士の穏やかな声。

 メイドさんがハッと顔をあげる。そばかすが、かわいらしい。

「どうして、あたしの名前を……」

「一度聞いた名前は忘れません」

 俺は傭兵(プロ)ですからとさらりと言って、布を受け取ろうと、アランが少し身をかがめる。

「あ、あの、」

 メイドさんの顔がどんどん赤くなる。アランは、野性味あふれるハンサム。めちゃくちゃ格好いいのだ。その上、腰布一枚のムキムキ裸体。そんな男が近づいて来たら、ドキドキしちゃうわよね。

「どうぞ、アランさまッ!」

 布をアランに押しつけ、メイドさんは急いで踵を返した。けれども、

「エリザさん」

 呼び止められてしまう。

 恐る恐る振り返ったメイドさん。待っていたのは、爽やかに微笑むアランだった。

「俺に『さま』付けは要りません」

「でも……」

「俺は、ただの傭兵。高貴な身分の方々とは違います。あなたと同じ庶民ですよ」

 蛮族な見た目なくせに、笑顔は知的で優しそう。しかも、これでもかっ! てばかりにハンサム。

「普通に接してください。その方が、俺も嬉しい」

 メイドさんの顔が、カーッと赤くなる。

「し、失礼しました! アランさま(・・)!」

 メイドさんは、逃げるように部屋から飛び出して行った。


「『さま』は要らないんだが……」

 布を手にしたアランがポツンとつぶやく。


 お茶を飲み終えたリュカが、ケッ! と毒づく。

「だから、言ってんじゃん。あんた、無自覚タラシなんだよ。そのやらしい顔と体で迫られたら、女はのぼせるに決まってるだろ。ちったぁ慎めよ、露出狂」

 アランがムッとする。

「おまえこそ、いい加減覚えろ。俺は露出狂ではない」

 頬は、ほのかに赤かったりして。

「……災厄除けスタイルをしているだけだ」


 お手上げだとばかりに、リュカが大げさに天をあおぐ。


 アランは布を小脇に抱え、両手剣を固定していたバンドを外し始める。

「なにやってるの?」と聞くと、

「間もなくシャルロット様がいらっしゃるのです」と、アランは苦笑した。

「シャルロット様は、未婚の淑女。おいでの時には、退出するか体を隠すよう求められています」

 むぅ。

 アラン(イコール)裸で受け入れちゃってるけど、アタシもレディとしてもっと恥ずかしがるべきなのかしら?

 武器を外すと、アランは布を羽織った。襟無しの、ロングマントだ。逞しい体や、左手に持った鞘入りの武器がすっぽりと布に覆われる。

「上に着ちゃっていいの?」

 最低最悪の運気を向上させる為に、裸になってるのよね?

「大丈夫です。羽織るだけなら『服を着た』ことにはならない。アレッサンドロ殿が、そうおっしゃっていました」

 それでもって、アランはアタシへと微笑みかける。眼力あふれるワイルドな顔で、爽やかに。

「勇者様が魔王を討伐を果たされるまでは、何があろうとも災厄除けスタイルを貫きます。あなたは、この地上の誰よりも大切な方。俺のひどい運気で、ご迷惑をおかけしてはいけませんから」


 胸がキュンキュンした……


 ハッ!


 今、うっかりときめいたけど!

 ちょっと待って、アタシ! アランの発言は、アタシのために裸でいますって言ってるも同然よ! それでキュンキュンするの、乙女としてどうなの?

 だけど! だけど! だけど!

 まだ胸がドキドキしてる……裸なのに、格好よすぎよ、アラン。これが、『無自覚タラシ』の力?




「遅くなりまして申し訳ございません。おかえりなさい、賢者様、ジャンヌさん、マルタン様、みなさま」

 しずしずと、シャルロットさんが登場。

 金の縦ロール、ふわふわドレスの美人さんだ

 その後ろには、二体のゴーレムがくっついていた。

 一体は、白雲型。マルタンのゴーレム、ゲボクだ。

 そして、もう一体は……


《ピアさん!》


 オレンジのぬいぐまが、アタシの隣席へと顔を向ける。

 つぶらなおめめにニコラを映し、クマ・ゴーレムは走り出した。短い足でトテトテと。大きな頭を振り振り、ニコラのもとへと。


 満面の笑顔で、ニコラはぬいぐまゴーレムを迎えた。

《ただいま、ピアさん! 会いたかったよ!》

 ピアさんが、大きな頭で頷く。『あたしもよ』と言うように。

《ピアさん……》

 ニコラはオレンジのゴーレムをぎゅっと抱きしめた。


 ほほえましいわ……

 ニヨニヨしちゃう。



 テオがすくっと立ち上がる。

「全員が揃いました。会議を始めましょう」

 シャルロットさんも、すっかり仲間扱いだ。まあ、テオの秘書兼ゴーレムの世話係で、毎日オランジュ邸に来てくれてるものね。


 澄まし顔のテオに聞いてみた。

「他の人は?」


「ジョゼフ様とジュネさんは、北からまだ戻っていません」

 兄さま、一ヶ月は北で修行したいって言ってたもんなあ……順調かしら?


「占い師は失踪中です」


 失踪ぉ?

 ドロ様が?


 リュカがチッと舌打ちをする。

「ちげーよ。旅行中だよ」

「書置きだけを残して、勝手に居なくなったのです。行き先も旅の目的も不明です」

「けど、早けりゃ一週間、遅くとも半月ぐらいで帰るって、書いてあったじゃん」

「……あの男には窃盗疑惑がかかっています」


 え?


 リュカがテーブルをバン! と叩く。

「その話題を蒸し返す気かよ? 証拠はないで、決着したろーが!」


「無罪である証拠もありません」


「テオドール様。確かに、アレッサンドロ殿が旅立たれた後、レヴリ団の秘宝の一部の紛失が判明しました。ですが、事実はそれだけです。予断はお控えください」

 裸戦士の人が、強い口調で言う。


「了解しています。あの男は、今はまだ容疑者に過ぎません。限りなく黒に近い灰色の、ね」


 えっと……


「ほんとに何か盗まれたの?」

「さあ、どうでしょう」

 アタシの問いに、シャルル様が苦い笑みを浮かべる。

「まだ目録作成中なので、何が無くなったと、はっきりとは言えないのです」

「じゃあ」

「ですが、持ちかえった秘宝が少なくとも二つ、見当たらない。とても珍しいアイテムなのです。記憶違いという事はありえません。あなた方のお戻りの前に、ちょうどその事を四人で話していたのですがね……盗まれたと考えるのが妥当でしょう。保管庫には、私が結界魔法をかけています。入室できるのは限られた人間だけだ。もっとも疑わしいのは、残念ながら、」


「アレックスじゃねーって言ってんだろ!」

 リュカが声を荒げる。

「あいつ、悪賢いんだぜ。やるんなら、バレねーようにうまく()るさ。数日で足がつく、ザルな仕事なんかするもんか!」


「俺も、アレッサンドロ殿は無実だと信じます」と、アラン。

「同感です」と、ルネ。

「ボクも……そー思います」と、クロード。

 ドロ様信者(占いの顧客)が、リュカの味方をする。


「そーよね。ドロ様が盗みをするはずないもの」

 大きく頷いたアタシに、冷たい視線が突き刺さる。


……テオ?


 眉間にしわを寄せた不機嫌顔で、テオがアタシを睨んでいる……。


 いや、でも……

 ドロ様が悪いことするわけないもん!


「テオドール。事情は理解した」

 お師匠様が淡々と言う。

「その上で頼む。今しばらくは憶測は控えてくれ。ジャンヌの為、仲間の調和の為、だ」

「……了解しました」


「で? なにが無くなったのだ?」

 くわえ煙草の使徒様が、シャルル様へと顎をしゃくる。

「わかる範囲で言ってみろ、クルクルパーマ2号」


 シャルル様の表情が曇る。『クルクルパーマ2号』は無いわよねー しかも、2号だし。1号はシャルロットさん? 妹なのに、むぅ。

 でも、内面を顔に出したのは、ほんの一瞬だけ。

 シャルル様はすぐに、お美しい微笑をお顔にたたえた。


「一点は、禁書です。学者ランベールの日記……その写本です」


「あれか・・」

 マルタンが、ククク・・と低く笑う。


「ご存じでしたか、さすが使徒様」


 ?マークをつけてるアタシたちの為に、テオが簡単に説明してくれる。

「悪魔支配者の日記です。魔界への行き方、悪魔との契約の仕方や御し方、悪魔がもたらす快楽や富貴が記された、不道徳な書です。原書は聖教会に封印されているのですが、写本やら写本の写本が何度なく世に現れています」

 へー


 シャルル様が金の髪を掻き上げる。

「無くなっているのが明らかなのは、あともう一点。ルビーのブローチです。意匠が美しく見事な血の色でしたので、記憶に残っていました。魔法装備と思われますが、探知の魔法をかけていなかったので装備効果は不明です」


「ルビーか・・」

 紫煙をくゆらせながら、使徒様はゆらりと席を立った。

「賢者殿。俺は行くぞ」

 お師匠様が、微かに眉をひそめる。

「上位者のこともある。おまえには次の世界にも同行してもらいたかったのだが……」

「問題ない。俺のサインを渡してある」


 マルタンが、 びしぃ! とアタシを指差す。

「女。いざという時は、手帳を使って俺を降ろせ。きさまの前に現れた愚かなる邪悪は、この俺が綺麗さっぱりまったく完璧に完膚なきまでに祓ってやる」

「わかったわ」

「だが、しかし。呼んでいいのは、精霊を体に受け入れ、魔力とした時のみ。なぜならば、素のきさまは魔力無し。能無しの、役立たず、虫けら以下の女だ。俺の器には向かん」

 ぐ。

「精霊を魔力として使う(すべ)は、イチゴ頭が体得している。習っておくがいい」


 出て行く気まんまんの男のもとへ、テオが慌てて走り寄る。

「どちらへ?」

 マルタンが、ジロリとテオを睨む。

「・・自ずと自明のことを聞くな」

「写本の処分に行かれるのですね」

「・・見つけたら、焼くぞ」

「……構いません。マルタン様がそうすべきだとお思いでしたら、お心のままに。……ただ、一つお願いがございます」

 マルタンがフンと笑う。

「なんだ? 言ってみろ、メガネ」

「その写本を持ち出したのがアレッサンドロで、よこしまな目的で書を利用していたとしても……」

 メガネをかけ直し、テオは言葉を続けた。

「どうか、アレへの神罰はご容赦ください」


 テオの意外なお願いに、アタシは目を丸めた。


「あんな男でも、勇者様の伴侶の一人です。百人の伴侶の一人が欠けても託宣は叶わなくなります。罰すべき罪があろうとも、今しばらくは寛大なお心で裁きはお待ちください。この世の為、勇者様の為に」


 胸がキュンキュンした……。


「ドレッド次第だな。しがない占い師のままで生きると言うのなら、良し。そうでないのならば、まあ・・」

 テオを、アタシを、お師匠様を見て、マルタンは笑った。いかにも悪人な、凶悪そうな面で。

「悔悟を示すまで、灸をすえてやるだけだ」

「マルタン様……」

「殺しはせん。とりあえず、今はな」

「ありがとうございます」


「来い、ゲボク」

 使徒様に呼ばれ、白い雲そっくりなゴーレムがふよふよと動き出す。

「『ゲボク』さんには毎日魔力をさしあげましたわ。全速力で飛べるかと存じます」

「でかした、クルクルパーマ1号」

 ああ……やっぱ、シャルロットさんが1号なのか。


 ひらりと白い雲にのっかったマルタン。つづいて、炎精霊を召喚する。

「いでよ、『自動扉開け』」

《やめて! 変な二つ名で、私を呼ばないで!》

『しもべ』さんは先行し、シクシクと泣きながら、アレな主人の為に廊下への扉を開けてあげる。いつ見ても、かわいそうな女性(ヒト)


 廊下に出る前に左手をあげ、マルタンはいつもの台詞を言った。

「きさまらに、神のご加護があらんことを。あばよ・・・」



「……だから、アレックスが盗ったんじゃねーって言ってんのに。決めつけんなよ、バーカ」

 うつむいたリュカがブツブツつぶやく。

 隣の席のニコラは、リュカとテオを困ったように見比べている。どっちの味方をしようか、迷ってる感じに。

「もちろんだ。アレッサンドロ殿は、神秘の占い師。理由もなく、罪を犯すはずがない」

 リュカの肩に、ぶっとい手がそえられる。

「よしんば盗んだのだとしても、マルタン様と同じ理由からのことだろう。あの邪悪な書を処分しようと、持ち出されたに違いない」

「うん、そーだよね! ボクもそー思う!」すかさず、クロードがアランに同意する。


 けれども……


 リュカは、アランの手を乱暴に払いのけてしまった。

「よしんばもクソもねー! こんなショボイ盗み、あいつはやんねーよ! 今回ばかりは濡れ衣だ! どっかの腹黒野郎の仕業なんじゃねーの?」

 リュカが睨みつけてるのは、シャルル様で……。


 ドロ様が盗みなんかするわけない。アタシも、信じる。


 だけど、なんか……


 いろいろとこじれているような……。






 まず、テオがこっちであったことを教えてくれる。

 だいたい、さっき聞いた通り。秘宝探索の旅から、アラン、リュカ、シャルル様が戻ったこと、その功績でシャルル様が魔法騎士になったこと、ボワエルデュー侯爵家お抱えの古物商や魔術師が秘宝リスト作りをしていること等々。


「保管アイテムは、魔王戦で使用可能です。暫時、みなさまに有用なアイテムをお渡ししてゆく事になるでしょう。しかし、あくまでも借用です。魔王戦後に国に返還する借り物である事を、留意ください」

「テオ。私の剣と護符は例外だろ?」

 シャルル様が優美に手を組みながら、尋ねる。

「文献通りの形状に、能力。この二点は、明らかにボワエルデュー侯爵家の家宝だったものだ」

「例外はありません。魔王戦後、レヴリ団の秘宝は全て国に寄贈します」

「テオ」

「よく似ているだけの、別の品かもしれません。専門家による精査が必要です。しかるべき手続きを踏んで、家宝とおぼしき品の返還を求めてください」

 シャルル様が肩をすくめ、額に手をあてる。

「……我が再従兄(またいとこ)殿は、堅物が過ぎる……。困ったものだな」



 つづいて、エスエフ界であったことをアタシが話した。


 やれることは、自分でやる。

 そー決めての、初の説明役だ。


 新たな仲間については、話しづらかった。

 アンドロイドのアダムは、いいわ。

 蟹になっているユリアーンさんや、弟の超能力者のレナートさんも。

 だけど、バド、ルヴ、リオは、愛玩用バイオロイドだし……

 バリーさんとダンさんは、バイオロイド開発者だ。

 100万ダメージは、絶対、無理……。


「そうですか、八人中五人の方が……」

 テオは大きくため息をつき、できの悪い生徒を嘆くかのように頭を振った。

 けど、それだけ。お小言らしい、お小言は無し。

 むぅ。

 言っても無駄だって、思われちゃったのかしら?


 何度も、お師匠様が言葉不足を補ってくれた。


 炎のピオさん、水のラルム、氷のピロおじーちゃん、闇のピクさん。

 あっちで大ダメージを受けた四体は、精霊界で療養中なことも伝えた。


 上位者が絡んでいたことも話した。けど、あいつがやったこと、イマイチわかんないのよねー


 セザールおじーちゃんの説明は、ルネさんに代わってもらった。

「『さいぼーぐ セザール様』には、まだまだ調整が必要です。今後、問題なくお暮らしいただく為にも、魔法炉からのエネルギー変換器の開発を……」

 しばらくは、ルネさんがおじーちゃんにつきっきりになるようだ。


 貰ってきた、ポチも見せた。

 掌サイズの培養カプセルの蓋を開けると、中からぐにょぐにょぶるぶるの、半透明な緑のゼリーが現れる。

「ポチは、護衛型バイオロイドよ。不定形ゲル状の人工生命体で、飴玉みたいに小さくなれるし、山のように大きくもなれるわ」

 心話(テレパシー)でアタシの心を読み、ポチが次々に形態変化をする。

 かわいらしいクマのぬいぐるみから、ウサギ番長、キャベツへと。形はアタシのイメージ通り。だけど、色はそのまんま。緑がかった透明ボディで、ぐにょぐにょしてる。

 最後に、バリアになってもらった。

 半透明の緑の薄い膜が、部屋をすっぽり覆う形に広がる。

「ポチのバリアは、エスエフ界でも最高峰のものらしいわ。(せかい)を破壊するミサイルをくらっても、へっちゃらなんですって」


「触れても構いませんか?」と、テオが尋ねたので、「どうぞ」と応じた。

 テオだけじゃなく、シャルル様にアラン、おっかなびっくりクロードも、バリア化したポチに触れる。

 ポチは冷たくって、プルプル。触り心地はやわらかいのに、弾力があって、触れるものを弾き返すのだ。

 そのうち触るだけじゃ物足りなくなったのか、「ジャンヌさん、攻撃魔法を仕掛けてみてもよろしいでしょうか?」とか「勇者様、斬ってみてもいいですか?」とか聞かれた。もちろん、「どうぞ」と答えた。


 ポチは、シャルル様が放った魔法を吸収し、気合を入れてアランが振り下ろした両手剣の刃を弾き返した。


「素晴らしい防御力ですね。精霊に加え、このバイオロイド。勇者様の護衛は充実しました」と、テオ。


「次になすべきは、ジャンヌ自身の戦闘力の向上だろう」

 お師匠様が淡々と言う。

「良き修行場に赴ければ、短期間での能力向上とて可能だ。仲間探しに適し、且つ修行に適した世界といえば、天界をおいて他にはあるまい。ジャンヌが次に赴くべきは……」

 そこまで言いかけて、お師匠様は口元に手をあてた。

「いや……。私は、天界を次の候補地にあげる。みなと話し合って決めよう。意見はあるか?」


《ぼくは、おねーちゃんは、天界に行かない方がいいと思う……前にも言ったけど、何となくヤなんだ……》と、ニコラ。


「あらあらあら、まあまあまあ」

 シャルロットさんが、おっとりと頬に手をあてる。

「私達には感じられない何かが、ニコラ君にはわかるのかもしれませんわね」


「しかし、『何となく』では理由になりません。確たる理由があって天界行きを避けるのでしたら、納得しますが」

《テオおにーちゃん……》

 ニコラをちらっと見て、テオはコホンと咳払いをする。

「ですが、ご存じのように、天界は神々の聖域。天界が認めた清らかなる者しか入界できません。転移の魔法を用いても、不純な者は弾かれもとの世界に還されると言われています」

 邪悪を許さぬ聖なる世界。それが天界だ。

「入界前に、赴くメンバーを吟味し、護符や聖絹布に携帯用聖結界リングなどのアイテムを全員分準備しなくてはなりません。今日明日のうちに天界に赴くのは不可能です。次の世界は、天界以外とすべきでしょう」


《テオおにーちゃん》

 ニコラの顔に笑みが戻りかける。


「聖なるアイテムの準備をしつつ、ニコラ君の不安についての解明を進めましょう。情報を分析し、次に勇者様が赴かれるにふさわしい地を千慮しておくのです。ニコラ君、協力していただけますね?」

《うん。ぼく、何でもするよ》

 ニコラは、大きく頷いた。

《それとね、ぼくね、おねーちゃんは、ジパング界で修行するのがいいと思うんだ。テオおにーちゃんが前に言ってたでしょ、ジパング界は修行がさかんだって。『道』を極めたら、なんでも出来る『達人』になるって。だから、》


……ジパング界に行くことになりそうな、予感。


 ラルムに教えたげようかなあ?

 でも、休養中だし……

 行ってからでもいいか。

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