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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
女王蜂 ― пчела-царица
94/236

レヴリ団の秘宝

「おかえりなさい、ジャンヌさん。今日のあなたも魅力的だ……あなたと再び出会えた幸運を、神に感謝いたします」



 胸がキュンキュンした。



 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴った。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まってゆくような、あの感覚がした。


《あと五十一〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がした。



 びっくりした〜


 エスケフ界から還ったら、目の前に美男子(イケメン)が!


 金の巻き毛もゴージャスな、気品あふれるそのお姿。

 サファイアのような青い瞳。

 まるで王子様みたいな、そのお方は……


「ボワエルデュー侯爵家のシャルル殿か」

 アタシの背後から、お師匠様の抑揚の無い声がする。

 そーよ、シャルル様よ! シャルロットさんのお兄さんの!

「たった今、シャルル殿は勇者の仲間となった」

 

『おお!』とか『あ〜あ』とか『ほう』とか、どよめきがあがる。

 部屋の中に何人かいるみたい。

 でも、アタシの目は、シャルル様に釘付けだ。

 こーんなにお美しい方と再会できるなんて……最後にお別れしたのは、王城よね。たしか、テオを仲間にした日。


「お久しぶりです、賢者様」

 シャルル様が胸に手をあて、お師匠様に会釈する。所作まで優美。ため息でちゃう。

 鷹揚に頷きを返してから、お師匠様が淡々と言う。

「ジョブを変えられたのだな」

「はい。騎士叙勲を受け、正式に魔法騎士(マジック・ナイト)となりました」

 魔術師じゃなくなったから、仲間にできたのか!

 シャルル様は百年に一度の天才魔術師。クロードとジョブが被っちゃったから、仲間にできなかったのだ。


 視線をアタシに移し、シャルル様が微笑む。百万の宝石もかすんでしまいそう、キラキラな微笑みだ……


「ようやくあなたのもとへ来ることができました」

「シャルル様……」

 シャルル様が凝っとアタシを見つめる。本当に綺麗……吸い込まれそうな瞳……

「全てはあなたの為。あなたにふさわしい別の私となりました」


「アタシのために、ジョブ・チェンジを?」


「ええ。麗しいあなたのお側にいる為に」

 えぇぇ?

「初めてお会いした日から、けなげでお美しいあなたに惹かれていました。ジャンヌさん、あなたがそこにいるだけで全てが輝いて見えます。あなたこそ、私の太陽だ」


 シャルル様が洗練された仕草で片膝をつき、アタシの右手をとって、

 手の甲に、

 接吻を……

「あなたの魔法騎士(マジック・ナイト)シャルル……ただ今、参上しました。これからは、ずっとおそばに……」


 はぅぅぅぅ!


 キュキュキュキュキュンキュンキュン!


「どうか微笑んでください、モン・アムール……私の愛と剣をあなたに……」


 愛ぃぃ????

 モン・アムールぅぅ?


 ボッ! と顔から火を噴いた!


《やめろよ。おねーちゃんが、困ってるだろ?》

 お? 白い幽霊のニコラがアタシとシャルル様の間に。

「ニコラ君か……フフフ、今の君は、勇者様を守る小さな騎士(ナイト)なのだね。実に頼もしい」

 アタシに抱きついたニコラが、ムッとした表情になる。

《おねーちゃんに、いやらしい顔を向けるな》

 睨むニコラを、笑顔で見つめ返すシャルル様。


 きゃーーー!

 なに、このシチュエーション!

 美少年と王子様が、アタシをめぐって睨み合ってる!


 夢?

 これは、夢?

 きっと、夢よね?


「相手すんなよ、ニコラ。そいつは、女なら誰でも口説く(スケ)コマシ。バカのバカ。歩く病気持ちなんざ、ほっとけ」

 はい、夢でしたー


 て! この声は!


「君の無礼は直らないね」

 やれやれと肩をすくめ、シャルル様が優美に立ち上がる。

「何度も忠告したはずだ。ボワエルデュー侯爵家嫡男にして魔法騎士(マジック・ナイト)たるこの私には、相応の態度で接したまえ。不敬罪で捕まりたくはないだろう?」


「ケッ! バカをバカと言っただけだろ、バーカ」

 毒づいてるのは、美少女みたいな美少年だ。

 ライトブラウンのショートヘアー、健康的に日焼けした肌、くりくりと動くかわいらしい目。動きやすそうな、庶民的なシャツとズボン。


《リュカおにーちゃん!》

「リュカ……」


 盗賊少年は、『よお』って感じに、アタシに軽く左手を振った。


 でもって、

「シャルル様のおっしゃる通りだ。おまえは、少し礼儀を学んだ方がいい」

 ぶっとい指が、美少年を軽くこづく。

 おおお!

 肌色が目に飛び込んでくる!

 身につけているのは背の大剣と腰布! あとはペンダントや腕輪のアクセサリーのみ! ほぼ裸の逞しい人が、リュカの隣に!


「アラン!」


 赤毛の裸戦士が、「お久しぶりです、勇者様」と礼儀正しくお辞儀をする。

 見た目は蛮族(バーバリアン)なくせに、中身はまとも。


「アランとリュカ、戻ってたのね!」


「先日、秘宝探索の冒険から帰ったのです」

 進み出たのは、テオだった。

「シャルルのことも含め、詳細は後ほどお伝えします。お疲れでしょう。まずは、お荷物を下ろし、ご休憩ください」



 テーブルへと移動するだけでも、一悶着。

 魔法絹布からテーブルまで、歩数にして十歩ってとこ。

 なのに、シャルル様ったら「ジャンヌさん、お手をどうぞ」だなんて! 紳士! 紳士だわ!

 更に! ニコラがムッとして《おねーちゃんをエスコートするのは、ぼくだよ》って、強引にアタシと手をつないでひっぱってくの!

 いやん、もう、嬉しい! なにこのモテモテ状態!

「知恵熱で卒倒するなよ、女。どうせ、こんな、あまりにもシュールで、リアリティに欠け、ありえぬ奇跡など、すぐに終わる」

 などと、アレな野郎が言いやがる。でも、いいでしょ。たまには、こういうことがあっても! いちおう、アタシ、逆ハー勇者なんだし!



 お師匠様が荷物を置いた席の隣に、アタシは腰かけた。

 アタシのもう一方の隣席は、ニコラがとった。で、『譲るもんか』と挑戦的な眼差しをシャルル様へと送る。

 シャルル様は微笑で応じた。大人の対応だわ。席にはつかず、ちょっと離れた所で、お師匠様と再従兄(またいとこ)のテオと何かを話している。


「よぉ、元気だった?」

 ニコラの隣の席に、リュカがスッと座る。

《リュカおにーちゃん、アランおにーちゃん》

 シャルル様との時とはうってかわって、ニコラは満面の笑顔だ。

 裸戦士の人は、立ったままだ。そこで控えるのが当然というように、アタシの席の後ろに立っている……なんとなく、兄さまを思い出した。


《おかえりなさい。お宝さがし、うまくいったの?》

 リュカがウィンクで応える。

「とーぜんだろ。オレ様の仕事にぬかりはねーよ」

《すごいや。さすがリュカおにーちゃん、未来の大盗賊!》

 いつの間にか仲良しになってたようだ。

 リュカたちが、お宝探しの旅に出たのって……あたしが幻想世界へ行った翌日ぐらいだっけ? ニコラがリュカといっしょにいたのは、一日ちょっとだろうに。


「昔の大盗賊の、なんとか団のお宝を盗みに行ってたのよね?」

「レヴリ団だよ」

 リュカが、チッチッチと指を振る。

「勇者のねーちゃん、オレ、盗みなんざしてねーよ。オレらは、荒波に囲まれた絶海の孤島へたまたま(・・・・)旅行に行って、そこでたまたま(・・・・)レヴリ団が隠匿してた財宝を発見し、所有者不明の財宝を一時的に保管してるだけなんだ。王室の許可を得てね」

 プッと噴出し、リュカは笑い出した。

「バッカみてーだろ? でも、そー言えって学者のにーちゃんがうるせーんだよ」


「テオドール様のご判断は正しい。レヴリ団のお宝は、魔法武器に魔法防具、魔法道具など。家宝(クラス)の『特徴がありすぎる』アイテムばかりだ。未だにその行方を追っている、真の所有者もおられる。魔王戦の為とはいえ、勝手に我々が使っては、いずれ問題となる」

 裸戦士は、外見に似ず知的だ。

「真の所有者? 百年前に、レヴリ団にしてやられたバカの子孫だろ? ンなバカども、ほっときゃいいんだよ!」

 リュカはお腹をかけてゲラゲラと笑う。「バレなきゃいいんだ! 魔王戦の後は、やっぱブラック・マーケットに流しちまおうぜ!」と言って、アランに拳骨をくらってたけど。


《そのお宝、どこにあるの?》

 わくわく顔のニコラに、リュカがにやりと笑って腰のものをポンと叩く。

「こいつも、そうだ」

 腰に差しているのは、シンプルで変哲のなさそうな鞘と柄の小剣。どこにでもあるというか、安っぽい見た目だ。

《それが、お宝?》

「見た目、ショボイだろ? けどな、お宝をお宝でござ〜いとみせびらかして歩いたら、盗まれちまう。誰にもバレねーように持ち歩く。それが、頭のいい奴のやり方だ」

《そうなのか! さすが、リュカおにーちゃん!》

 ニコラは、盗賊少年に尊敬のまなざしを向ける。

《どんな小剣なの?》

「内緒」

《えー》

「ったりめえだろ。手の内明かして悦に入るなんざ、ただのバカだ。お宝のすっげぇ力は、ここぞって時に使うためにあるんだよ。敵に情報が漏れないよう、味方にも内緒にすんのが常識だぜ」

《そうか……》

「ま、オレといっしょにいりゃ、いずれ見る機会もあるさ」

《うん!》


「オレのと、アランの両手剣、それからバカ貴族の腰のやつと野郎が持ってる護符なら、そのうち見られるだろ。それ以外のお宝は、あのバカ貴族が管理してやがるけどさー」

 ん?


「なんで、シャルル様がレヴリ団の秘宝を管理してるの?」

 アタシの問いに、

「シャルル様ねぇ……」

 ケッ! とリュカが小さな声で毒づく。「女って、ほーんとバカばっか! あんなキモ男にデレデレしやがって!」と。

 むぅ。

「あのバカのせいで、いらねーお宝売っぱらって、がっぽがっぽ計画がパーだ。ったく腹立つぅ〜 大バカの振りして近づいてきやがってぇ〜」


 む?


 首をかしげるアタシに、アランが説明してくれる。

「レヴリ団の秘宝探索は、アレッサンドロ殿が、とある組織から情報を購入することから始まりました。当初は、俺とリュカの二人で秘宝探しの旅に行くつもりでしたが、」

 アランが、微かに首を向ける。お師匠様と話をしているシャルル様へと。

「シャルル様が同行してくださったのです」


 へ?


「学者のにーちゃんが情報を流したんだよ」

 チッとリュカが舌打ちをする。

「あの野郎のご先祖も、レヴリ団に家宝盗まれたバカの一人だったのさ。家宝を取り戻したい、ついでに王家の宝もあるはずだそちらもお返ししたいと、最初は殊勝なこと言ってやがったのに、あいつ……」

 忌々しそうに、リュカが口元を歪める。

「結局、ぜんぶ自分の手柄にしやがった。王家からのご褒美で、ちゃっかり魔法騎士(マジック・ナイト)になりやがって〜〜〜〜」


「賭けに負けた、おまえが悪い」

 さらっと言ったアランを、リュカがキッ! と睨む。

……三人の間で、なにかがあったようだ。

 けど、なにがあったの? と気軽に聞ける雰囲気じゃない。リュカはシャルル様への敵意バリバリだ。


《おねーちゃん》

 白い幽霊が、アタシの手を握る。

《あいつを好きになっちゃダメだからね》

 ニコラはムスッとした顔で、シャルル様を睨んでいる。

《あいつ、ヤな奴なんだ。リュカおにーちゃんに意地悪してたし、偉そうだし、それに……》

 ニコラは、頬をふくらませる。

《このまえ、ぼくのアンヌの手に……キスしたんだ……》

……わかりやすい理由で、嫌ってたのね。

《ぼく、ジョゼおにーちゃんの弟分だもん。ジョゼおにーちゃんの代わりに、あいつから、おねーちゃんを守ってあげるね》

 かわいい……

 小さな騎士(ナイト)に、ありがとうと言っておいた。




「では、セザール様の呪いは解けたのですね」

 テオの、やけに明るい声が聞こえた。

「うむ。エスエフ界の技術で、呪われた箇所を全て切除したもらった」

「それは何よりです」

 お師匠様とシャルル様と何事か話してた学者様は、珍しく笑みすら浮かべている。


「ご心配をばおかけいたしました。みなみなさまのおかげで、かように元気となりました」

 話題の主――セザールおじーちゃんが、テオたちへと頭を下げる。

 羽根付き帽子を被った頭、真っ白な髪や顎髭、皺の刻まれた顔に変わりはない。

 だけど、首から下は別人。

 むきだしの上半身は、ツルッツルのテカテカ。

 いかにも金属な、メタリックボディ。でも、本人のボデイラインを再現しているので、さほどはゴッツくない。隣に立ってるルネさんよりも、よっぽどすらりとしている。

 軽鎧をつけているみたいで、格好いい。


「上半身を機械化したのですか?」

 テオの質問には、おじーちゃんではなく、その横の人が答えた。

「いいえ! 部分サイボーグではありません、全身サイボーグです! メカメカしい上半身以外も、人工有機体だったりします! セザール様は脳を除いて! ほぼ! 全身! 人工物におきかわっているのです!」

「なぜです?」と、テオはメガネをかけ直した。

「呪われていたのは、右肩から頸部、右腹部まででした。全身を改造する必要はなかったのでは?」

「いやいやいや。はっはっは。確かに、上半身のみを代替人工物と交換すれば、呪いに関してはノー・プロブレムとなりました。しかし! セザール様のご希望は『戦える体』! 私の『迷子くん』と同等かそれ以上の攻撃力をお求めでしたので!」

 ロボットアーマーの人が、どキッパリと言い切る。

「セザール様には、超人となっていただいたのです!」

「超人……ですか?」

 あ。

 テオの顔、ひきつってる。

「ついに魔王戦! 困ったなーという時にはこれですぞ! 『さいぼーぐ セザール様』! 握力、脚力、瞬発力、跳躍力、最大移動速度、最大馬力、すべてにおいて人間以上! さらにさらに! 両腕は換装式になっておりまして! 必要に応じて武器に換えられるのです! レーザー銃、レーザー・ソード、ドリルや、フックに着脱可能! もちろん、ロケットパンチもできます! 魔王に百万以上のダメージは確実ですな!」

「あなた、自分の趣味で、セザール様を改造しましたね!」

「めっそーもない! ちゃんとクライアントのご希望に応えていますぞ! エスエフ界の技術と、私のアイデア、そしてセザール様のご希望にそって、『さいぼーぐ セザール様』を造ったわけでして」

「普通の人間は、武器は武器、呪いの切除は切除と、切り離して考えます! なぜセザール様のお体を武器化したのです!」

「テオドール様。そこは、ほら、アレですよ……男の浪漫というやつで!」


 ルネさんを指差して、生意気盗賊はケラケラ笑っている。

 うん、まあ……


「ルネ殿は、良き仕事をしてくださいました」

 セザールおじーちゃんが、機械の右手をぐっとあげる。

「新たな右腕は、たいへん優秀です。分厚い鉄板を貫け、卵のような繊細なものも運べる。両手を使って何かをするなど、四十年ぶり。楽しい時を過ごさせていただいております」


「セザール様……」

 教鞭を取り出したものの、テオはそのまま手を下げた……ルネさん? テーブル? を叩くのはやめたらしい。


「この体があれば、この老いぼれとて、どうにか戦えましょう。勇者様、賢者様、テオドール様、みなさま、誠にありがとうございます。このご恩は、必ずや魔王戦でお返しします」



「ククク・・うかれるな。たしかに、とりあえずはジジイの余命は延びた。だが、この世に邪悪が存在する限り、真の安寧などありえん。注意一秒怪我一生、油断大敵、絶望の闇はマッハでやってくる、だ。古来より、遠足は家に帰るまでが遠足という。魔王の断末魔の叫びを聞くまでは、現世の混沌たる束縛はつきまとうと思うがいい・・」

 使徒様は、いいこと言ったぜって、ドヤ顔だ。煙草プカプカで、偉そうに椅子にふんぞりかえってる……。

……確信した。あんた、やっぱ、一生『神秘の使徒』でいるべき。人前に出ちゃダメ。あんたがお説教したら、ぜったいに信徒が減ると思う!

 そんな男に対して、セザールおじーちゃんは「肝に銘じておきます」と丁寧に頭を下げる。

 甘やかさない方がいいのに。下手(したで)にでると、そいつ、とことんつけあがりますよ?


 マルタンを見て、生意気盗賊はお腹をかかえて笑う。

 うん。わかる! おかしいわよね、そいつ!



 そこで、バーンと扉が開いた。


 息せききって部屋に駆け込んできたのは……


「おかえりなさい! ジャンヌ! 賢者様! 使徒様!」


 ストロベリーブロンドの髪の魔術師だ。

 ハッハッハッハと、荒い息。

 鼻を赤く染めた顔は、なんとなく子犬を思わせる。


「ただいま、クロード」


 大きな緑の瞳が、アタシを見る。

 うるうると潤んでいたそこから、ぶわっと涙が飛び出したと思った時には、


「ジャンヌぅぅぅ!」


 杖を投げ捨て、アタシへとまっしぐらだ。

 アランが、さりげなく下がる。

 その空いた場所まで駆けてきて、クロードはアタシをハグ!


「良かった! 無事だったんだ! 無事だったんだね、ジャンヌぅぅ!」

 ぎゅーって抱きしめ、アタシに頬を寄せてスリスリ。


 んもう。

 子供か、あんたは。

 アタシより年上のくせに。


「毎日、神さまにお祈りしてたんだ……ジャンヌが元気に帰って来ますようにって……」

 アタシを抱きしめたまま、クロードがえっぐえっぐとしゃくりあげる。

「ほんとに……良かった……ジャンヌ……ジャンヌ……ジャンヌぅぅぅ」


 っとに、バカなんだから……



 胸がキュンキュンした。



《涙をふきなよ、クロードおにーちゃん。みっともないなあ。『男が泣いていいのは、愛しい女と結ばれた時だけ』なんだよ。知らないの?》

 横からのつっこみに、

「あ、うん、そうだね。ごめんね、ニコラ君」

 幼馴染はわたわたと慌てて、アタシから離れる。

 そこへ、杖をスッと差し出され、

「クロード君。落し物だ」

 杖と杖を差し出す人を見て、真っ赤だったクロードの顔からサーッと血の気が引く。

 クロードの杖は、拳ぐらいのデッカいダイヤが杖頭にくっついた、超高級装備。

 勇者の仲間になったクロードへの、魔術師学校エリート(シャルルさま)からの贈り物なわけで……

「すみましぇん! シャルルしゃま! ジャンヌが無事帰ってきちゃから、ボク、嬉しくって! つい!」

 うわずった声で謝り、クロードは深々と頭をさげた。

「ハハハ。気にすることはない。君はジャンヌさんの幼馴染。二人の絆は、よく心得ているよ」

 爽やかに笑うシャルル様。

「ただ……杖を軽々しく手放すのはいかがなものかと思うね。君に贈った杖にもローブにも、魔力増幅効果がある。不測の事態に備え、常に魔法を打てるように己を保つ。それが、魔術師だ。学校で習わなかったかね?」

「はひぃぃ! すみまちぇん!」

 噛みまくり。

 クロードは、ひたすらペコペコ謝り続ける。



 ニコラの隣の席の(リュカ)は、テーブルにつっぷしている。

 ひぃひぃ苦しそうな声をあげて、笑い転げている。

「バカばっか!」


 うん……否定できない。


 部屋の中に、生意気盗賊の笑い声が響き渡った。

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