レヴリ団の秘宝
「おかえりなさい、ジャンヌさん。今日のあなたも魅力的だ……あなたと再び出会えた幸運を、神に感謝いたします」
胸がキュンキュンした。
心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴った。
欠けていたものが、ほんの少し埋まってゆくような、あの感覚がした。
《あと五十一〜 おっけぇ?》
と、内側から神様の声がした。
びっくりした〜
エスケフ界から還ったら、目の前に美男子が!
金の巻き毛もゴージャスな、気品あふれるそのお姿。
サファイアのような青い瞳。
まるで王子様みたいな、そのお方は……
「ボワエルデュー侯爵家のシャルル殿か」
アタシの背後から、お師匠様の抑揚の無い声がする。
そーよ、シャルル様よ! シャルロットさんのお兄さんの!
「たった今、シャルル殿は勇者の仲間となった」
『おお!』とか『あ〜あ』とか『ほう』とか、どよめきがあがる。
部屋の中に何人かいるみたい。
でも、アタシの目は、シャルル様に釘付けだ。
こーんなにお美しい方と再会できるなんて……最後にお別れしたのは、王城よね。たしか、テオを仲間にした日。
「お久しぶりです、賢者様」
シャルル様が胸に手をあて、お師匠様に会釈する。所作まで優美。ため息でちゃう。
鷹揚に頷きを返してから、お師匠様が淡々と言う。
「ジョブを変えられたのだな」
「はい。騎士叙勲を受け、正式に魔法騎士となりました」
魔術師じゃなくなったから、仲間にできたのか!
シャルル様は百年に一度の天才魔術師。クロードとジョブが被っちゃったから、仲間にできなかったのだ。
視線をアタシに移し、シャルル様が微笑む。百万の宝石もかすんでしまいそう、キラキラな微笑みだ……
「ようやくあなたのもとへ来ることができました」
「シャルル様……」
シャルル様が凝っとアタシを見つめる。本当に綺麗……吸い込まれそうな瞳……
「全てはあなたの為。あなたにふさわしい別の私となりました」
「アタシのために、ジョブ・チェンジを?」
「ええ。麗しいあなたのお側にいる為に」
えぇぇ?
「初めてお会いした日から、けなげでお美しいあなたに惹かれていました。ジャンヌさん、あなたがそこにいるだけで全てが輝いて見えます。あなたこそ、私の太陽だ」
シャルル様が洗練された仕草で片膝をつき、アタシの右手をとって、
手の甲に、
接吻を……
「あなたの魔法騎士シャルル……ただ今、参上しました。これからは、ずっとおそばに……」
はぅぅぅぅ!
キュキュキュキュキュンキュンキュン!
「どうか微笑んでください、モン・アムール……私の愛と剣をあなたに……」
愛ぃぃ????
モン・アムールぅぅ?
ボッ! と顔から火を噴いた!
《やめろよ。おねーちゃんが、困ってるだろ?》
お? 白い幽霊のニコラがアタシとシャルル様の間に。
「ニコラ君か……フフフ、今の君は、勇者様を守る小さな騎士なのだね。実に頼もしい」
アタシに抱きついたニコラが、ムッとした表情になる。
《おねーちゃんに、いやらしい顔を向けるな》
睨むニコラを、笑顔で見つめ返すシャルル様。
きゃーーー!
なに、このシチュエーション!
美少年と王子様が、アタシをめぐって睨み合ってる!
夢?
これは、夢?
きっと、夢よね?
「相手すんなよ、ニコラ。そいつは、女なら誰でも口説く女コマシ。バカのバカ。歩く病気持ちなんざ、ほっとけ」
はい、夢でしたー
て! この声は!
「君の無礼は直らないね」
やれやれと肩をすくめ、シャルル様が優美に立ち上がる。
「何度も忠告したはずだ。ボワエルデュー侯爵家嫡男にして魔法騎士たるこの私には、相応の態度で接したまえ。不敬罪で捕まりたくはないだろう?」
「ケッ! バカをバカと言っただけだろ、バーカ」
毒づいてるのは、美少女みたいな美少年だ。
ライトブラウンのショートヘアー、健康的に日焼けした肌、くりくりと動くかわいらしい目。動きやすそうな、庶民的なシャツとズボン。
《リュカおにーちゃん!》
「リュカ……」
盗賊少年は、『よお』って感じに、アタシに軽く左手を振った。
でもって、
「シャルル様のおっしゃる通りだ。おまえは、少し礼儀を学んだ方がいい」
ぶっとい指が、美少年を軽くこづく。
おおお!
肌色が目に飛び込んでくる!
身につけているのは背の大剣と腰布! あとはペンダントや腕輪のアクセサリーのみ! ほぼ裸の逞しい人が、リュカの隣に!
「アラン!」
赤毛の裸戦士が、「お久しぶりです、勇者様」と礼儀正しくお辞儀をする。
見た目は蛮族なくせに、中身はまとも。
「アランとリュカ、戻ってたのね!」
「先日、秘宝探索の冒険から帰ったのです」
進み出たのは、テオだった。
「シャルルのことも含め、詳細は後ほどお伝えします。お疲れでしょう。まずは、お荷物を下ろし、ご休憩ください」
テーブルへと移動するだけでも、一悶着。
魔法絹布からテーブルまで、歩数にして十歩ってとこ。
なのに、シャルル様ったら「ジャンヌさん、お手をどうぞ」だなんて! 紳士! 紳士だわ!
更に! ニコラがムッとして《おねーちゃんをエスコートするのは、ぼくだよ》って、強引にアタシと手をつないでひっぱってくの!
いやん、もう、嬉しい! なにこのモテモテ状態!
「知恵熱で卒倒するなよ、女。どうせ、こんな、あまりにもシュールで、リアリティに欠け、ありえぬ奇跡など、すぐに終わる」
などと、アレな野郎が言いやがる。でも、いいでしょ。たまには、こういうことがあっても! いちおう、アタシ、逆ハー勇者なんだし!
お師匠様が荷物を置いた席の隣に、アタシは腰かけた。
アタシのもう一方の隣席は、ニコラがとった。で、『譲るもんか』と挑戦的な眼差しをシャルル様へと送る。
シャルル様は微笑で応じた。大人の対応だわ。席にはつかず、ちょっと離れた所で、お師匠様と再従兄のテオと何かを話している。
「よぉ、元気だった?」
ニコラの隣の席に、リュカがスッと座る。
《リュカおにーちゃん、アランおにーちゃん》
シャルル様との時とはうってかわって、ニコラは満面の笑顔だ。
裸戦士の人は、立ったままだ。そこで控えるのが当然というように、アタシの席の後ろに立っている……なんとなく、兄さまを思い出した。
《おかえりなさい。お宝さがし、うまくいったの?》
リュカがウィンクで応える。
「とーぜんだろ。オレ様の仕事にぬかりはねーよ」
《すごいや。さすがリュカおにーちゃん、未来の大盗賊!》
いつの間にか仲良しになってたようだ。
リュカたちが、お宝探しの旅に出たのって……あたしが幻想世界へ行った翌日ぐらいだっけ? ニコラがリュカといっしょにいたのは、一日ちょっとだろうに。
「昔の大盗賊の、なんとか団のお宝を盗みに行ってたのよね?」
「レヴリ団だよ」
リュカが、チッチッチと指を振る。
「勇者のねーちゃん、オレ、盗みなんざしてねーよ。オレらは、荒波に囲まれた絶海の孤島へたまたま旅行に行って、そこでたまたまレヴリ団が隠匿してた財宝を発見し、所有者不明の財宝を一時的に保管してるだけなんだ。王室の許可を得てね」
プッと噴出し、リュカは笑い出した。
「バッカみてーだろ? でも、そー言えって学者のにーちゃんがうるせーんだよ」
「テオドール様のご判断は正しい。レヴリ団のお宝は、魔法武器に魔法防具、魔法道具など。家宝級の『特徴がありすぎる』アイテムばかりだ。未だにその行方を追っている、真の所有者もおられる。魔王戦の為とはいえ、勝手に我々が使っては、いずれ問題となる」
裸戦士は、外見に似ず知的だ。
「真の所有者? 百年前に、レヴリ団にしてやられたバカの子孫だろ? ンなバカども、ほっときゃいいんだよ!」
リュカはお腹をかけてゲラゲラと笑う。「バレなきゃいいんだ! 魔王戦の後は、やっぱブラック・マーケットに流しちまおうぜ!」と言って、アランに拳骨をくらってたけど。
《そのお宝、どこにあるの?》
わくわく顔のニコラに、リュカがにやりと笑って腰のものをポンと叩く。
「こいつも、そうだ」
腰に差しているのは、シンプルで変哲のなさそうな鞘と柄の小剣。どこにでもあるというか、安っぽい見た目だ。
《それが、お宝?》
「見た目、ショボイだろ? けどな、お宝をお宝でござ〜いとみせびらかして歩いたら、盗まれちまう。誰にもバレねーように持ち歩く。それが、頭のいい奴のやり方だ」
《そうなのか! さすが、リュカおにーちゃん!》
ニコラは、盗賊少年に尊敬のまなざしを向ける。
《どんな小剣なの?》
「内緒」
《えー》
「ったりめえだろ。手の内明かして悦に入るなんざ、ただのバカだ。お宝のすっげぇ力は、ここぞって時に使うためにあるんだよ。敵に情報が漏れないよう、味方にも内緒にすんのが常識だぜ」
《そうか……》
「ま、オレといっしょにいりゃ、いずれ見る機会もあるさ」
《うん!》
「オレのと、アランの両手剣、それからバカ貴族の腰のやつと野郎が持ってる護符なら、そのうち見られるだろ。それ以外のお宝は、あのバカ貴族が管理してやがるけどさー」
ん?
「なんで、シャルル様がレヴリ団の秘宝を管理してるの?」
アタシの問いに、
「シャルル様ねぇ……」
ケッ! とリュカが小さな声で毒づく。「女って、ほーんとバカばっか! あんなキモ男にデレデレしやがって!」と。
むぅ。
「あのバカのせいで、いらねーお宝売っぱらって、がっぽがっぽ計画がパーだ。ったく腹立つぅ〜 大バカの振りして近づいてきやがってぇ〜」
む?
首をかしげるアタシに、アランが説明してくれる。
「レヴリ団の秘宝探索は、アレッサンドロ殿が、とある組織から情報を購入することから始まりました。当初は、俺とリュカの二人で秘宝探しの旅に行くつもりでしたが、」
アランが、微かに首を向ける。お師匠様と話をしているシャルル様へと。
「シャルル様が同行してくださったのです」
へ?
「学者のにーちゃんが情報を流したんだよ」
チッとリュカが舌打ちをする。
「あの野郎のご先祖も、レヴリ団に家宝盗まれたバカの一人だったのさ。家宝を取り戻したい、ついでに王家の宝もあるはずだそちらもお返ししたいと、最初は殊勝なこと言ってやがったのに、あいつ……」
忌々しそうに、リュカが口元を歪める。
「結局、ぜんぶ自分の手柄にしやがった。王家からのご褒美で、ちゃっかり魔法騎士になりやがって〜〜〜〜」
「賭けに負けた、おまえが悪い」
さらっと言ったアランを、リュカがキッ! と睨む。
……三人の間で、なにかがあったようだ。
けど、なにがあったの? と気軽に聞ける雰囲気じゃない。リュカはシャルル様への敵意バリバリだ。
《おねーちゃん》
白い幽霊が、アタシの手を握る。
《あいつを好きになっちゃダメだからね》
ニコラはムスッとした顔で、シャルル様を睨んでいる。
《あいつ、ヤな奴なんだ。リュカおにーちゃんに意地悪してたし、偉そうだし、それに……》
ニコラは、頬をふくらませる。
《このまえ、ぼくのアンヌの手に……キスしたんだ……》
……わかりやすい理由で、嫌ってたのね。
《ぼく、ジョゼおにーちゃんの弟分だもん。ジョゼおにーちゃんの代わりに、あいつから、おねーちゃんを守ってあげるね》
かわいい……
小さな騎士に、ありがとうと言っておいた。
「では、セザール様の呪いは解けたのですね」
テオの、やけに明るい声が聞こえた。
「うむ。エスエフ界の技術で、呪われた箇所を全て切除したもらった」
「それは何よりです」
お師匠様とシャルル様と何事か話してた学者様は、珍しく笑みすら浮かべている。
「ご心配をばおかけいたしました。みなみなさまのおかげで、かように元気となりました」
話題の主――セザールおじーちゃんが、テオたちへと頭を下げる。
羽根付き帽子を被った頭、真っ白な髪や顎髭、皺の刻まれた顔に変わりはない。
だけど、首から下は別人。
むきだしの上半身は、ツルッツルのテカテカ。
いかにも金属な、メタリックボディ。でも、本人のボデイラインを再現しているので、さほどはゴッツくない。隣に立ってるルネさんよりも、よっぽどすらりとしている。
軽鎧をつけているみたいで、格好いい。
「上半身を機械化したのですか?」
テオの質問には、おじーちゃんではなく、その横の人が答えた。
「いいえ! 部分サイボーグではありません、全身サイボーグです! メカメカしい上半身以外も、人工有機体だったりします! セザール様は脳を除いて! ほぼ! 全身! 人工物におきかわっているのです!」
「なぜです?」と、テオはメガネをかけ直した。
「呪われていたのは、右肩から頸部、右腹部まででした。全身を改造する必要はなかったのでは?」
「いやいやいや。はっはっは。確かに、上半身のみを代替人工物と交換すれば、呪いに関してはノー・プロブレムとなりました。しかし! セザール様のご希望は『戦える体』! 私の『迷子くん』と同等かそれ以上の攻撃力をお求めでしたので!」
ロボットアーマーの人が、どキッパリと言い切る。
「セザール様には、超人となっていただいたのです!」
「超人……ですか?」
あ。
テオの顔、ひきつってる。
「ついに魔王戦! 困ったなーという時にはこれですぞ! 『さいぼーぐ セザール様』! 握力、脚力、瞬発力、跳躍力、最大移動速度、最大馬力、すべてにおいて人間以上! さらにさらに! 両腕は換装式になっておりまして! 必要に応じて武器に換えられるのです! レーザー銃、レーザー・ソード、ドリルや、フックに着脱可能! もちろん、ロケットパンチもできます! 魔王に百万以上のダメージは確実ですな!」
「あなた、自分の趣味で、セザール様を改造しましたね!」
「めっそーもない! ちゃんとクライアントのご希望に応えていますぞ! エスエフ界の技術と、私のアイデア、そしてセザール様のご希望にそって、『さいぼーぐ セザール様』を造ったわけでして」
「普通の人間は、武器は武器、呪いの切除は切除と、切り離して考えます! なぜセザール様のお体を武器化したのです!」
「テオドール様。そこは、ほら、アレですよ……男の浪漫というやつで!」
ルネさんを指差して、生意気盗賊はケラケラ笑っている。
うん、まあ……
「ルネ殿は、良き仕事をしてくださいました」
セザールおじーちゃんが、機械の右手をぐっとあげる。
「新たな右腕は、たいへん優秀です。分厚い鉄板を貫け、卵のような繊細なものも運べる。両手を使って何かをするなど、四十年ぶり。楽しい時を過ごさせていただいております」
「セザール様……」
教鞭を取り出したものの、テオはそのまま手を下げた……ルネさん? テーブル? を叩くのはやめたらしい。
「この体があれば、この老いぼれとて、どうにか戦えましょう。勇者様、賢者様、テオドール様、みなさま、誠にありがとうございます。このご恩は、必ずや魔王戦でお返しします」
「ククク・・うかれるな。たしかに、とりあえずはジジイの余命は延びた。だが、この世に邪悪が存在する限り、真の安寧などありえん。注意一秒怪我一生、油断大敵、絶望の闇はマッハでやってくる、だ。古来より、遠足は家に帰るまでが遠足という。魔王の断末魔の叫びを聞くまでは、現世の混沌たる束縛はつきまとうと思うがいい・・」
使徒様は、いいこと言ったぜって、ドヤ顔だ。煙草プカプカで、偉そうに椅子にふんぞりかえってる……。
……確信した。あんた、やっぱ、一生『神秘の使徒』でいるべき。人前に出ちゃダメ。あんたがお説教したら、ぜったいに信徒が減ると思う!
そんな男に対して、セザールおじーちゃんは「肝に銘じておきます」と丁寧に頭を下げる。
甘やかさない方がいいのに。下手にでると、そいつ、とことんつけあがりますよ?
マルタンを見て、生意気盗賊はお腹をかかえて笑う。
うん。わかる! おかしいわよね、そいつ!
そこで、バーンと扉が開いた。
息せききって部屋に駆け込んできたのは……
「おかえりなさい! ジャンヌ! 賢者様! 使徒様!」
ストロベリーブロンドの髪の魔術師だ。
ハッハッハッハと、荒い息。
鼻を赤く染めた顔は、なんとなく子犬を思わせる。
「ただいま、クロード」
大きな緑の瞳が、アタシを見る。
うるうると潤んでいたそこから、ぶわっと涙が飛び出したと思った時には、
「ジャンヌぅぅぅ!」
杖を投げ捨て、アタシへとまっしぐらだ。
アランが、さりげなく下がる。
その空いた場所まで駆けてきて、クロードはアタシをハグ!
「良かった! 無事だったんだ! 無事だったんだね、ジャンヌぅぅ!」
ぎゅーって抱きしめ、アタシに頬を寄せてスリスリ。
んもう。
子供か、あんたは。
アタシより年上のくせに。
「毎日、神さまにお祈りしてたんだ……ジャンヌが元気に帰って来ますようにって……」
アタシを抱きしめたまま、クロードがえっぐえっぐとしゃくりあげる。
「ほんとに……良かった……ジャンヌ……ジャンヌ……ジャンヌぅぅぅ」
っとに、バカなんだから……
胸がキュンキュンした。
《涙をふきなよ、クロードおにーちゃん。みっともないなあ。『男が泣いていいのは、愛しい女と結ばれた時だけ』なんだよ。知らないの?》
横からのつっこみに、
「あ、うん、そうだね。ごめんね、ニコラ君」
幼馴染はわたわたと慌てて、アタシから離れる。
そこへ、杖をスッと差し出され、
「クロード君。落し物だ」
杖と杖を差し出す人を見て、真っ赤だったクロードの顔からサーッと血の気が引く。
クロードの杖は、拳ぐらいのデッカいダイヤが杖頭にくっついた、超高級装備。
勇者の仲間になったクロードへの、魔術師学校エリートからの贈り物なわけで……
「すみましぇん! シャルルしゃま! ジャンヌが無事帰ってきちゃから、ボク、嬉しくって! つい!」
うわずった声で謝り、クロードは深々と頭をさげた。
「ハハハ。気にすることはない。君はジャンヌさんの幼馴染。二人の絆は、よく心得ているよ」
爽やかに笑うシャルル様。
「ただ……杖を軽々しく手放すのはいかがなものかと思うね。君に贈った杖にもローブにも、魔力増幅効果がある。不測の事態に備え、常に魔法を打てるように己を保つ。それが、魔術師だ。学校で習わなかったかね?」
「はひぃぃ! すみまちぇん!」
噛みまくり。
クロードは、ひたすらペコペコ謝り続ける。
ニコラの隣の席の奴は、テーブルにつっぷしている。
ひぃひぃ苦しそうな声をあげて、笑い転げている。
「バカばっか!」
うん……否定できない。
部屋の中に、生意気盗賊の笑い声が響き渡った。