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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
女王蜂 ― пчела-царица
92/236

蟹と超能力者と科学者たちと

「ユリアーンお兄さま……そこにいらっしゃるのは、お兄さまですわよね?」

 ナターリヤさんが、ユリアーンさんを見上げる。

「わかりますわ……(わたくし)、ESP検査を欺いてきましたけれど、女王にふさわしい力を使えますのよ。人の心を読むこともできます。そこにお兄さまがいらっしゃるって、わかりますの」

 白い頬を涙がつたう。

 ああ、綺麗だ……と思ってしまう。

 まだ彼女に魅了されたままみたい。

 女なのに、女の人にときめいちゃいそう。

「……もう二度と、お会いできないと思っていましたわ……。ごめんなさい、ユリアーンお兄さま……私、許せなかったの……優等な種が下等な種に支配される現状が……。でも……お兄さまがあれほどお怒りになるなんて……思ってもいなくって」

 悲しそうに、ナターリヤさんがうなだれる。

「お兄さまを犠牲にしてしまったのですもの……何としても、素晴らしい世界を創らなければ……誰もが幸福となれる世界を創らなくては……お兄さまに申し訳ないって……私……」

 うちしおれている妹を、ユリアーンさんがそっと抱く。不器用そうに、でも、とても優しく……。

 ハッと顔をあげるナターリヤさん。

「……許してくださいますの?」

 無言の肯定。

 彼女の綺麗な顔が、幼子のように歪む。

「お兄さま!」


 堰を切ったように激しく泣く妹。

 ユリアーンさんは、小さな妹を優しく抱きしめ続ける……全てを許して。


 格好いい……。


 (おとこ)だわ、ユリアーンさん!


 蟹だけど!



 胸がキュンキュンした。



 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと五十五〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がした



 アタシは勇者の馬鹿力(バカぢから)を発動させた。

 いや、だって!

 アタシに憑依したユリアーンさんが、ナターリヤさんを殺そうとしてたんだもん!

 もともと仲良し兄妹なんだし! この世界の支配者(宇宙連邦だっけ?)が、超能力者たちを差別してるからナターリヤさんが怒って暴走したわけだし! 魅了されてた男の人たちも、それほどひどい扱いされてなかったぽいし!

 殺すことはないと思ったの。

 二人を止めたい! と願ったら、体が自由に動くようになった。

 で、アタシに憑いていたユリアーンさんはふっとばされて……もっとも身近にあった自分に縁深いものにくっついてしまったという。

 つまり、蟹に。

 強化装甲(パワードスーツ)TARA=BA=GANI。

 赤いカラーリングの、トゲトゲな巨大メカ蟹。カトちゃんより大きい、蟹のきぐるみみたいのに、今、ユリアーンさんは憑依している。


 強化装甲(パワードスーツ)から降りたアタシは、抱き合う兄妹を見つめていた。


「………………」


 まあ、でも!

 殺人は防げたし! 仲直りできしたし!

 たぶん、うまくいった!

 サイオンジ先輩もふっとばしちゃったけど、先輩は英雄世界に還ったわよね? そ、その辺のロボに憑依してませんよね、先輩? 居ませんよね? い、居たら、ごめんなさい!



 その時!

 やけにデカイ高笑いが響いた。


 振り返ったアタシは……

 キラキラ光る嫌なものを目にしてしまった。


「巨悪に踊らされし愚かな女よ。俺の堕落を願った咎人(とがにん)よ。きさまの罪は、万死に値する」

 ビシッ! とナターリヤさんを指差しているそいつは……

 グレードアップ……逆か、グレードダウンしたマルタンだった。

「しかし、残念ながら、あいにく、不本意ではあるが、きさまは邪悪ではない。悔い改めた以上、慈悲を示そう」

 黒い祭服に、五芒星マークつき指出し(フィンガーレス)革手袋(グローブ)

 そこらへんはいつも通り。

 胸元の金の十字架が何故かペカペカ点滅しているのも、かろうじて良しとしたげる。

 だけど!

 なんなのよ、その頭!

 包帯を巻いて両目を隠して!

 怪我なわけないわよね! あんた、包帯とか眼帯、好きそうだもん! ファッションでしょ?


「うたかたの夢の中で踊るがいい・・超時限ノ(グッバイ・)滅ビヲ(チ・チ・チ・)迎エシ神覇ノ(ブレイク・)聖焔(バーン)



 なんだか、いつもの呪文と違う……そう思った時には、マルタンは指先から白い光を発射していた。


「お兄さま!」

 ナターリヤさんが悲鳴をあげる。

 撃たれたのは、ナターリヤさんではない。

 蟹だ。

 左鋏に、キラキラの光が直撃している。けど、穴が開いたわけでも、爆発したわけでもない。丸いマークがついただけだ。


「ククク・・慌てるな。聖痕をくれてやったのだ。その蟹は、勇者の伴侶の一人となった・・勇者が魔王を倒すまで、昇天できん」

「え?」

「ゆえに、タイマー浄化魔法をかけた。俺の聖痕が邪悪を退け、魔王討伐後には蟹を晴れて天へと導くであろう」


「では、ユリアーンお兄さまは……?」

 ナターリヤさんの問いに、包帯つき使徒様がスパーンと答える。

「地上残留だ。魔王が目覚めるのは六十日後。それまでは何処でどう生きようが、蟹の勝手。きさまが望めば、その蟹、きさまの更生につきあうのではないか?」


「お兄さま……」

 みなまでは言わせなかった。漢な蟹が、無言で(ヴォイス機能が無いからだろうけど!)妹を抱きしめる。

 華やかに微笑み、蟹にひしっと抱きつくナターリヤさん。

 喜びが彼女の美貌をより美しくしている……

 とても綺麗だ……


「マッハで次なる世界へ旅立たせてやる事こそが慈悲というものだが・・やむをえまい」

 目隠しマルタンが、胸元から煙草を取り出す。

「だが、ゆめゆめ忘れるな。死者は、神の御許に還る。それが宇宙の摂理だ。地上に留まったところで、魂がよどみ、穢れ、邪霊へと堕ちゆくのが落ち。白い幽霊ガキのように、な」

 わかってるわよ。だけど、仲違いしたまま永遠の別れとなってたんだもん。話し合い(蟹はしゃべれないけど!)、許しあえる時を過ごさせてあげたい……。


 使徒様が、パチンと指を鳴らしてくわえ煙草に火をつける。


「無事で良かったわ、マルタン」

 深く吸ってから、ぷは〜っと煙を吐くマルタン。完全に、仕事の後の一服モードだ。

「ナターリヤさんに誘惑されてメロメロになっちゃったかと思ってたわ」


「フッ。ありえぬことを言うな、俺は神の使徒・・穢れし女に誘惑などされん。堕落するぐらいなら、聖気(オーラ)を120%ほど解放し、お色気女ともどもこの世界をマッハで滅ぼしている」

 ちょっ!

「だが、俺の堕落も死も、ちなみに言えばきさまの死も、巨悪の思う壺だ。奴を喜ばせぬよう、自衛していたのだ」

 ククク・・と笑いながら使徒様は、微妙に指を立てた左手で目元の包帯に触れ、右手はピコピコ点滅中の十字架を握る。

「お色気女を見ぬように目を塞ぎ、あれが寄って来ぬよう結界を張っていた。十字架には、俺の念がこめられている。いざという時は、これを中心に結界が生まれ、綺麗さっぱり、まったく、完璧に、邪しまなるものを退けるが・・半日後には、ただの十字架に戻る仕様」

 ピカピカ十字架に顔を近づけつつ、マルタンがフッと微笑む。

「今日のところは誉めてやろう、女。タイム・アップ前に、よくぞ駆けつけた。きさまのおかげで、この世界を滅ぼさずに済んだ。この世界の神に代わって、礼を言おう。でかした」

 マルタンが十字架に顔を近づける。

 穏やかに微笑みながら。

 凶悪な両目が隠れているせいか、傲岸な使徒様っぽくない。表情が優しそうで……くわえ煙草のくせに、そ、そのまま、十字架に接吻を……


 その仕草が、なんとも言えずセクシー……


 胸がキュンキュンした……


……してしまった。


 うわ〜〜〜〜〜

 やめて! ときめいちゃうじゃない!

 あんたの接吻、みょ〜に肉感的なのよ!

 愛しい誰かに口づけを贈っているみたいに見えるんだってば!


「きょ、巨悪って! やっぱ、上位者が、か、絡んでたの?」

 やだ、声がうわずってる。


 くわえ煙草の使徒様が、『さあな』って感じに肩をすぼめる。

 詳しいことを話す気は、ゼロだ。

 ムカつく態度だけど、それすらも格好良く見えてしまう……目がどうかしてる。


「賢者殿のもとへ行くぞ。ついて来い、女」


「お師匠様? 無事なの?」


「無事ではなかった」

 紫煙をくゆらせながら、マルタンが答える。

「きさまが行方不明で消えてしまったがため、お色気女のもとへ談判に行き、接近しすぎた為、白い幽霊ガキともども、あの女の誘惑オーラにあてられたのだ」

 え!

「じゃあ、お師匠様とニコラがナターリヤさんにメロメロ????」

「あの女の誘惑オーラは凄まじい。男であれば誰であれ、女でも大半のものを、あの女は傀儡(くぐつ)にできる。俺のしもべも、あれに心奪われ、不遜にもこの俺に逆らおうとしたので、精霊界に送り返してやった」


 胸がズキンと痛んだ。


「だが、今は無問題だ。眠りへと誘い、宵ヲ彷徨フ(クレセント・)月将ノ(シェイド・)菩蓮掌ディスアピアをかけた上で、あの女からひきはがした。距離をとったゆえ、目覚めればおそらく正気に戻られているだろう」


「……なら、良かった」

 お師匠様やみんなは、洗脳されているかもしれない。そう覚悟はしていた。

「ありがとう、マルタン。お師匠様を止めてくれて……」

 でなきゃ、アタシ……

 お師匠様と戦うことになったかも。ナターリヤさんを庇って、お師匠様がアタシを殺そうとしてきたら……うわぁあぁ、嫌! 想像したくない!


「……他のみんなは?」

 そう聞くと、マルタンは左手で床を指差した。


 そこには、変なものがひっくりかえっていた。

 形はぬいぐま。だから、アタシの精霊の一人だってのはわかる。

 だけど、頭のてっぺんから、手足の先まで、黒のラバースーツに覆われているのだ。キッチキチのラバーがぴったりと肌に密着してるわ、短い手足には手枷足枷がついてるわ。なんか、『ハァ、ハァ』と荒い息遣いが聞こえるような……

 全身ラバーのぬいぐまぁ?

 あんた、ソルね!

 変態よ! 変態だわ! 何でそんな格好であえいでるの!


 嫌すぎて、鳥肌が立った。

 なのに!

 どういうわけか!

 ありえないことに、はずみで、胸のキュンキュン・スイッチがポチンと入っちゃって……


「嫌ぁぁぁ!」


 床に転がっているものを、思いっきり蹴り飛ばした。

 それは、遠くまで遠くまで飛んでいった。


「耳目を塞いで自らを縛る。誘惑に抗う(すべ)としては、古来からの常套手段だ。あの状態できさまと同化し、あの土精霊、きさまを守っていたのだ。勇者の馬鹿力でひっぺがされるまで、な」

 う。

……いいのよ、あいつは! 蹴ってやれば喜ぶんだから!

 てか、なんでときめくのよ、アタシ? マルタンばかりかソルにまで!


 おかしいと思った。

 でも、アタシは、うっかり、

「ユリアーン兄さん!」

「ナターリヤちゃん!」

「そのTARA=BA=GANIに副所長のメモリーが移植されてる? 本当ですか、レナート?」

 背後からの声に振り返ってしまった。

 聞き覚えのある声が混じってたからだ。


 蟹と美少女のそばに、いかにも瞬間移動(テレポート)で駆けつけましたって面々が……

 見えるのは、後姿だけだけど。

 一人は、紫の髪の青年だった。後姿だったけど、紫の髪だからすぐにわかった。レナートさんだ、ナターリヤさんのお兄さんの。

 もう一人は、でっぷりとした……あ、いやいや、たいへん肉付きがよい人。

 んで、もう一人は、対照的な体形。ひょろっとして、長身。


「間違いない。その強化装甲(パワードスーツ)から兄さんの魂を感じる……」

 紫の髪の青年が、少し涙ぐんだ声で言う。

「うん、うん。ナターリヤちゃんも、これで元気百倍だぜ」

 このダミ声は、バリーさんだ。このガラガラ声は、間違いようがない。

「し、しかし、TARA=BA=GANIの人工知能では、人間の記憶のような大容量メモリーの保存は不可能……いったいどういう仕組みで?」

 解明したい、分解したい、とわめく痩せた人は、バリーさんにどつかれて黙った。この痩せた人は知らないなあ、現実でも過去の映像の再現でも会ったことがない。


「どんな姿でもいいよ……兄さんが還ってきてくれて……」


 ナターリヤさんを右鋏で抱きながら、蟹が左鋏側を大きく開く。『胸を貸すぜ。さあ、来い!』と、誘うように。


「兄さん!」

 紫の髪の人が蟹へと抱きつき、ちょっと遅れてぶっ太い人と痩せた人も蟹にハグ。

「ユリアーンよぉぉ!」

「副所長!」


 良かった……


 と、ホロっとしたら、ジーンとしちゃって……



 胸がキュンキュンして、キュンキュン、キュンキュンしてしまったのだ。



 心の中で鐘がリンゴ〜ン、リンゴ〜ン、リンゴ〜ン。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと五十四〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がして、

 と、思ったら、すぐさま、

《あと五十三〜 おっけぇ?》

 てな神様の声が続いて、

《あと五十二〜 おっけぇ?》

 とどめとばかりに声がした。



 ヤバ……



「待て、女。何処へ行く?」


 使徒様の声をふりきって、アタシは全速力でその場から逃げ出した。


 だって、後から後から、

「ナターリヤ様、ご無事ですか?」

「副所長の思念を感じたんですが?」

「お怪我はありませんか、副所長代行?」

 てな男の人が駆けつけて来てたんだもん。


 留まってたら、アタシ、全員に萌えちゃう!


 うっかりしてた。

 ナターリヤさんの洗脳フィールドのせいで、バビロンに着いてからず〜っと興奮状態だったのよ。

 頬は火照って、息が上がって、甘酸っぱい痛みで胸がキュ〜ン。

 ンな状態で、男の人をちょっといいなあと思ったら、そっこーキュンキュン……


 アタシはうつむき、耳をふさいで廊下を走り続けた。






 かくして、バビロンの騒動は終結を迎えた。


 とりあえず、アタシは仲間と合流。


「・・色気女の色気は完全には消えてはおらんが・・アレの憑き物は落ちた。アレから距離をとり、平常心さえ保てば、もはや魅了されまい」

 そう言ってマルタンは包帯を外し、談話室にアタシを連れてった。

 お師匠様は床に倒れていて、ニコラはキラキラ光る巨大な光の矢に刺されていた……邪悪専用足止め魔法だそうだ。

《おねーちゃん!》

 矢が消え、自由となったニコラがアタシの胸に飛び込んでくる。ぎゅぅぅぅと抱きしめたげた。

「……すまぬ。私は正気を失っていた」

 目覚めるなり、お師匠様はマルタンに頭を下げた。

「フッ。無問題です、賢者殿。あなたには、大恩がある。多少の非道を行われようとも、まったく、完璧に、いっこうに気にしません。終わってみれば、すべて良しというもの」

「……悪かった」

 ナターリヤさんに操られて、マルタンを襲っちゃったのね、きっと。……どんな攻撃したのかなあ、お師匠様。勇者時代は、槍を使ってたはずだけど、エスエフ界には無いし。


 と、そこへ。

《百一代目勇者様》

 移動魔法で、ラルムが!


《百一代目勇者様?》

 ハグしたら、ラルムは目を丸めた。


「んもう! アタシ、あんたに怒ってるんだからね! 辺りの敵をひきつれて勝手に消えちゃって! 心配したんだから!」


《……心配など、不要です》

 抱きつかれたラルムが、不快そうに言う。

《あの数の敵ならば制せます。自信があったからこそ、連れて転移したのです。精霊は、あなたよりも遥かに優等な存在なのです。いらぬ心配はやめてください》

 む!

「んじゃ、ありがとう!」

《え?》

「助けてくれてありがとう、ラルム。おかげで、ユリアーンさん、ナターリヤさんの所まで行きつけた。仲直りできたのよ」


《……しもべが主人の為に働くのは当然です》

 ラルムはまだ不満そうだ。アタシから視線そらすし。むぅぅ。『ありがとう』の返事は『どういたしまして』でしょうが。


《そんなことよりも……発明家たちを見つけたのです》

 ルネさん!

《移動魔法でここに連れて来ますが、驚かれないように》


 なんでわざわざ断ってから、ルネさんたちを連れて来たのかは一目でわかった。


 セザールおじーちゃんと一緒なんだもん!


「おおお! 勇者様、よくぞご無事で」

 おじーちゃんとルネさんが駆け寄って来る。

 アタシの目はおじーちゃんに釘付けだ。


 九十八代目魔王に呪われた箇所を切除して、代替人工物に置き換えたとは聞いていたけど……

 予想外。

 別人みたい。


「勇者様! お怪我はなさそうで何よりです!」

 ルネさんも、おかしい。ふくれあがっている……もとい、いろいろくっついている。頭、両肩、両手、胸、腰に、機械の塊やら銃やら剣もどきをつけていて……

「……どうしたの、その格好?」

「はっはっは。残念ながら、私の発明品ではありません。エスエフ界の機械を装備しております」

 これがロケットランチャー、こちらがレーザー・ソードと、発明家が嬉々として装備の説明をする。

「レイ殿がみつくろってくださったのです!」


《武器庫のものを拝借した》

 ロボットアーマーから声がする。そこに宿っている、アタシの雷精霊だ。

《発明家の発明品、主人(あるじ)の現在地を追跡する『じーぴーえすクン』によって、主人がドーム外に出たことを察知したのである》

 これが『じーぴーえすクン』です! とばかりに、発明家が右手に持っている丸い機械を見せつける。

主人(あるじ)が何らかのトラブルに巻き込まれたのは明白であったゆえ、しもべとしての緊急対応で、発明家たちと共にドームの一部を破壊し、主人の後を追ったのである》

 ちょっと! 今、あんた、破壊って言った?


「わしは、レイ殿に覚醒していただきました」

 頭は普通。黒いサングラスをかけてるものの、真っ白な髪や顎髭や、皺の刻まれた日焼けした顔はまちがいなくセザールおじーちゃん。羽根付き帽子も被っているし。

 だけど!

 上半身がツルツルテカテカなのよ!

 メタリック装甲ってやつ?

 カクカクした体の上にゴテゴテ装備をくっつけたルネさんと比べると、装飾は実にシンプル。右手が銃で、左手がソードになっているだけだ。


 右手が……銃?

 左手が……ソード?


「セザール様に注目なさるとは! さすが、勇者様! お目が、高い!」

 いや、見るでしょ、普通。

「魔王に100万ダメージが欲しい? そんな時にはこれですぞ! 『さいぼーぐ セザール様』! エスエフ界の技術と、私のアイデア、そしてセザール様のご希望にそって、セザール様を改造したのです! これで魔王戦は楽勝ですな!」


 さいぼーぐ……?


 ルネさんにつづいて、ロボットアーマーに宿った奴が説明してくれる。

《機械化人間である。呪われた箇所を人工物に代替するのであれば、人間以上の存在になりたいと本人が望んだゆえ。戦闘ロボットと同程度の体に改造したのである》

 はぁ。

《ちなみに両腕は換装式である。人間らしい両手とも交換できるのである》

……ホッ。


「申し訳ありません、勇者様。ピンチに駆けつけられず……ルネ殿と共に急いだのですが」

 おじーちゃんは、沈痛な顔だ。


 ラルムがため息まじりに説明する。

《立ち寄った緑化実験場『エデン』で、襲撃されたでしょう?》

 ああ……バビロンに帰る直前にそんなことあったっけ。

《あの襲撃者は、この二人だったのです》


 へ?


「勇者様がさらわれたかと思いまして! 全力で救出に向かったのです! ですが、レイ殿があの施設のコンピューターをのっとった時には既に勇者様たちはバビロンに戻られていて! 慌てて転送装置で追いかけて来た次第で!」


 えぇぇ!


……ナターリヤさんからの刺客かと思ったのに、ルネさんたちだったの?


 焦って逃げて、損した。

 てか、合流しとけばよかったわ。

 むぅぅ。


「……さて」

 お師匠様が静かな眼差しでアタシを見つめる。

「バイオロイド三体の後、おまえは更に四人にときめいたようだが……」

 仲間欄が見えるお師匠様が、淡々と聞いてくる。

「誰を仲間にしたのだ?」


 えっと……


 一体は蟹です。霊魂が蟹型強化装甲(パワードスーツ)に宿ってるだけで、ほんとうは人間ですけど。軍事用強化装甲(パワードスーツ)だから、魔王に大ダメージを期待できます。

 それから、超能力者です。蟹さんの弟で、ナターリヤさんとも兄妹です。ESP部隊の隊長だからかなり強いと思います。

 あと、バリーさんです。お師匠様もご存じの……バイオロイドの生みの親の……。

 それと、痩せた科学者さん。たぶん、ううん、ぜったい戦闘できなさそうな……普通の。てか、どーして仲間にできたんだろ、バリーさんとジョブ被りっぽいのに。何のジョブで仲間入りしたんだろ?


 エスエフ界の人間なら、超強力な武器を扱えそうだけど……

 魔王に100万ダメを出せるかというと、微妙……

 てか、たぶん、無理……



 お師匠様が、凝っとアタシを見つめている……


 ごめんなさい、お師匠様。アタシ、また、やっちゃったみたいです……

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