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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
女王蜂 ― пчела-царица
85/236

修行にかけろ

 ラルムは水の粒になって、あっちこっちに居る。


 薄く広く。

 目に見えない水蒸気の姿で、空気中に潜んでいるんだ。


 アタシに触れることで、アリス先輩の特殊能力――絶対防御がラルムにも付加される。

 水蒸気姿でラルムは、病室で眠っているセザールおじーちゃんや、別室で医療の勉強をしているルネさんの周囲を包み、絶対防御の加護下に入れている。


 やってって、頼んだわけじゃない。

 自主的に、みんなまで守ろうとしてくれてるんだ。


 あのラルムが。


 たぶん、エスエフ界に来てすぐのことを気にして。

 超能力ジャマーで襲われた時、ラルムはもっとも長くアタシを守護できる形態となった。

 アタシの体だけを包みこむ結界となり、他の者は庇護下に入れなかった。

 つまり……見殺しにしたのだ。


 大事なのは百一代目勇者ジャンヌだけ、それ以外の人間はどうでもいい。そう考えたラルムにはムカついた。


 だけど、責めなかった。

 あの時は、ラルム自身も四散しかけていた。そんなせっぱ詰まった状況下で、アタシを守ろうと必死に頑張ってくれてたんだ。

 ただ守られていただけのアタシには、彼を責める資格はない……そう思ったから。


 でも、アタシに『不快』と思われたことが、ラルム的には嫌だったんだろう。

 あれからずっと、徹底して全員の守護をし続けている。


 無理してないといいんだけど。

 弱体化してるんなら精霊界に還ってしばらく養生したら? って提案しても、かたくなに聞かないし。


《この私が、能力を越えた愚行をするとでも? 自分の限界ぐらい心得ています。たかが人間のくせに、私の心配をするのはやめてくれませんか? 私は四散したヴァンたちとは違います。常に理知的です》

 な〜んて憎まれ口をたたきやがるから、『あ、そ。じゃ、好きにしたら』ってこっちも思っちゃうのよね。

 だけど、ラルムまで四散したら……とうぶん立ち直れないだろうな、アタシ。



 ヴァンたちは、まだ還って来てない。


 精霊は誕生した時から、恒常不変の存在。決して死ぬことはない。

 でも、強い衝撃を受ければ、力が弱まり、個としての形が保てなくなる。

 これが、四散だ。

 四散しても、個を保つ為に必要なものを補えば復活できる。

 ピオさんだったら炎、ヴァンなら風、ピロおじーちゃんは氷、ピクさんなら闇を吸えばいい。早ければ数時間、遅くとも数日後には復活するはずと、レイは言ってたんだけど……


 五日経っても還ってきてないのだ。


《このドームは人工物、ドームの外は汚染された死の世界である。それゆえ、充分な力が蓄えられず、ヴァンたちは復活に手間取っているのやもしれぬ》

 レイに言わせると、エスエフ界は精霊の存在基盤となる物質が乏しすぎるのだそうだ。


 精霊(レイ)を通して、お世話係のアンドロイドのアダムに頼み、空き部屋四つを精霊たちの為の部屋にしてもらった。


 たくさんのアルコールランプを灯し続ける部屋。

 空調を最大風力設定にした部屋。

 氷を欠かさない製氷室。

 灯りを全消灯した真っ暗な部屋。


 アダムには、四部屋の管理もお願いしている。


《その程度の物資や事象では、精霊の存在基盤の強化とはならぬ。無駄であろうな》

 雷のレイは、歯に絹を着せない。きついことを、ズバッ! と言う。

 でも、アタシとしてはやれることはなんでもやっておきたい。やんないよりはやった方が、ほんのほんのほんのちょ〜っとでも差ができると思う。数秒の差でもいいわ。みんなには、早く復活して欲しいもの。

《……むしろ、非論理的で感傷的(センチメンタル)な主人の存在自体が、ヴァンたちの復活を助けるであろう。しもべを深く思いやる主人の心に、四散したものとて応えようとするのである》


 セザールおじーちゃんが元気になるのは、早くて三日後。


 帰還までには、みんなに還って来てもらいたい。


 置いて帰還しても大丈夫だと、レイは言う。

 四散から復活した時、その世界に主人がいなければ精霊は精霊界に強制送還される。精霊界に戻った精霊ならば、契約の石を通して召喚できる。問題ない、と。


 だけど、アタシのためにみんなは散ったんだ。

 できることなら、すぐに迎えてあげたい。

 おかえりなさい、痛かったでしょう? ごめんなさい、ありがとうって、伝えたい。


 ピオさん、ヴァン、ピロおじーちゃん、ピクさん……

 思いが力となるんなら、いくらでも祈るわ。

 早く還って来て……。



 今のアタシのしもべは、レイとラルムとソルの三体。

 でも、レイはルネさんのロボットアーマーに同化しているんで、アタシの側にはあんまり居ない。

 ラルムは常にアタシといっしょ。でも、水蒸気してるし、気が乗らなきゃ話かけてこない奴だ。居るのをついつい忘れちゃう。

 そんでもって、ソルは……アタシと同化したまんまなんだけど、ぜんぜんしゃべらない。

 アタシが『きさま、永遠に黙ってろ、ソル!』って思ったから。

 命令撤回してあげようと思いつつも、してない。

 てか、撤回する度に、新たに沈黙命令を出している。

 だって……会話を許すと、ろくでもないことを言い出すんだもん。何時間何十分にもわたる沈黙強制プレイに興奮しただの、アタシの女王さまテクニックは素晴らしいだの、『放置プレイの醍醐味』やら『羞恥心を煽る扇情的な言葉責めのバリエーション』やらを嬉々として語るんだ。アタシだけでなく、周りにも聞こえるように。

 一生黙ってろって、気分にもなるわよ。




 午後、いつも通りお師匠様の講義を聞いていたら、

《百一代目勇者様。ルーチェが合図を送っています》

 水のラルムからのお知らせがあった。


 右胸のホワイト・オパールのブローチがペカペカ点滅している。

 今は導き手の仕事はしてません、召喚OKですよ、の合図だ。

 この機能は、このまえ契約の石に追加された。


 ルーチェさんは、パートタイマーしもべ。

 しもべとして働けない時間がけっこう長い。

 来られるタイミングが一目でわかるようになったのは有り難いものの、けっこう目にうるさい点滅だ。


 ルーチェさん来てと願うと、光の精霊は実体化した。

《五時間こちらに居られます。護衛として働きますね》


 うぉ!

 今日は、素敵!


 アタシの胸はきゅんきゅんした!


 このところ、ルーチェさんの格好は奇抜だった。

 チューブやネジがいっぱいくっついたスチームパンクだの、クラゲによく似た古典的火星人だの。

 エスエフ界を意識したファッションは、他の人がやらなさそうな、とても個性的な装いだった。

 でも、アタシにはむぅ? な感じ。その良さがさっぱりわかんなかったのだ。


 だけど!

 今日のはわかる!

 これは、良い!


 今日のルーチェさんは、男性形!

 黒を基調とした全身フィットスーツに、サングラス! 髪まで黒!

 シックな黒の装いに、一瞬だけ光学的な光の細い(ライン)が走る。

 縦、横、斜め、ジグザグ線、曲線……さまざまなパターンで走る刹那の光は、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色! 虹色だ!

 カッコいい!


 サングラスを少しだけ下にずらして、ルーチェさんが上目遣いにアタシを見る。

《今日はサイバーパンク風にしてみました》

 こころもち目尻の下がった目が、満足そうに笑みをつくっている。

 服どころかサングラスや髪の毛にまで、パッパッと光が走って消えるのだ。


「いやぁん、素敵ぃ」

 アリス先輩にも、今日のルーチェさんは好評のようだ。


 なのに、同じテーブルにいたお師匠様とニコラは、

「今日は地味だな」

《全身黒づくめだー 闇精霊みたいだねー》

 とか言っちゃって……。

 ルーチェさんがムッと口を結び、首をかしげ出す。


《闇精霊と混同されるのは心外ですね。もっと七色を強調して、光精霊にふさわしく華やかにサイバーパンク・ファッションをアレンジしてみましょうか……》


 え~

……そのまんまがいいと思いますよ?

 基調が黒でなきゃ、目がチカチカします。

 それに、光が走るのが一瞬だけだからこそ、心に響くんです。うわぁ綺麗〜 もっと見た〜いって思えるの。常時、四方八方に光の線が走ったら、目に悪いし、落ち着かないわ。

 せっかくカッコいいんだもの! そのまんまでいて!


 アタシをチラッと見てから、ルーチェさんはサングラスをかけ直して目を隠した。

《今日は何の勉強をなさってたんです?》

 ルーチェさんが、テーブルのみんなを見渡す。見れば、口元がほころんでいる。ファッション変更はやめたみたいだ……良かった。




 最近のアタシは……

 使徒様に捉まってない時はだいたい、仲間探し。

 じゃなきゃ、お勉強をしている。


 先生は、お師匠様。

 医療の勉強やらナターリヤさんとの話し合いやらでお師匠様が忙しい時のみ、臨時講師アダムが登場。アダムからは、エスエフ界の歴史や常識を教わっている。



 まとまった時間がとれる今こそ修行の時!

 謎の敵――上位者に狙われてるし、魔王戦まで六十一日。精霊の手助けなしでも戦えるように、戦闘力を向上させたい!

 んだけど……アタシは、今、アリス先輩に憑依されている。

 小指一本動かせないんじゃ、肉体鍛錬を積めるわけもなく。


 仕方ないんで、知的鍛錬を積んでるのだ。



 お師匠様の話はいろいろ。

 見習い時代に習ったことの復習もあれば、初めて聞く話もある。


「勇者であるおまえが自ら運命を切り開いていけるよう、必要な知識を与えよう」


 異世界への転移・帰還魔法の呪文やその原理から始まって……

 これから、転移魔法で赴ける世界についての説明も聞いた。

 お師匠様は歴代勇者の書を使って、転移の魔法陣を築いている。つまり、教わった呪文で行けるのは、過去の勇者が関わった世界のみ。歴代勇者の出身世界や修行場などだ。

 幻想・精霊・英雄・エスエフを除く六十八世界が候補地。

 お師匠様は私見だと断った上で、幾つかの世界を推薦し、なぜ薦めるのか説明し、そこで出遭えるだろう職業の人間についても教えてくれた。


 魔王戦当日のことも聞いた。

 魔王が目覚めるのは、六十一日後の正午過ぎ。だから、その前に魔王城に乗り込み、魔王の眠る玉座の間へと行っておかなきゃいけない。

 魔王城への行き方や、異世界に居る伴侶達を召喚・帰還させる魔法の呪文やその原理も教わった。


 しっかり覚えておかなきゃいけないことは多い。


 アリス先輩が、お師匠様の話をまとめ、要点や呪文などをしっかり手帳に書き留めてくれてるので、ほんと助かってる。

 一度聞いただけじゃ覚えられないもん。

 体の自由を取り戻したら、先輩のメモを読んで復習しよ。



《ぼくはね、テオおにーちゃんの助手だから。おねーちゃんやテオおにーちゃんの役にたてるように、しっかりお勉強しておかなきゃいけないんだ》

 ニコラは望んで、アタシの横に座っている。

 八才の子供には難しすぎる話が多いのに。

 わからない時は手を挙げて先生(お師匠様やアダム)に質問して、アリス先輩に解説を求め、それでもわからない時にはうやむやにせず更に質問をして……ニコラは頑張ってる。

 しつこくてごめんなさいと、ニコラはよく謝る。

 けど、ニコラにも理解できるよう先生方が噛み砕いて説明してくれるのはアタシ的にはラッキーだったりして。


 わかりやすい解説を聞けてるし、アリス先輩がメモを残してくれてる。

 お勉強はそこそこ順調だと思う!




「本日は、ジャンヌの戦闘力向上について私見を述べていた」

 お師匠様が、淡々と説明する。

「本人に適した良き修行場にさえ赴ければ、短期間での能力向上も可能だ。二十四代目フランシスが、まさにそうだった。剣すらろくにもてぬ方だったのに、天界で生まれ変わられ、歴代勇者の中でも一二を争うほどの実力者になられた」

 二十四代目勇者は、ゆるふわ系の『困ったちゃん』だったらしい。

 努力嫌いの甘えん坊、難しい話や暗い話はとことんパス、好きなことだけやって楽しく生きていきたい……てな人間だったんだけど、彼は天界の住人にちやほや甘やかされ、楽ちんな修行をつんで物凄く強くなった。

 絶世の美少年だったから!

 羨ましい。

 顔が良い勇者は、たいてい得してるのよね……。


《天界で修行ですか》

 黒サングラス着用のルーチェさんが、にっこりと微笑む。

《悪くないですね。勇者は準神族扱いですから、天界で神の試練を受ける資格があります。試練を乗り越え、神の愛を得られれば、見違えるように強くなるでしょう》

 神の試練か……


「天界は神々の聖域。戦闘力の高い方々も多い。修行場としても仲間探しの場としても最適かと、私は思う」


《天界はやめようよ》

 白い幽霊がジーッとアタシを見つめる。

《修行なら、よその世界でしようよ》


「なんで?」

 アタシの口を使ってアリス先輩が尋ねると、ニコラは弱々しくかぶりを振った。

《わかんない。けど……心がざわざわするんだ……おねーちゃんは、天界に行かない方がいい……行っちゃダメだ……そんな気がするんだ……》


 むぅ?


《ねえ、ジパング界はどうかな?》

 ニコラがそう言った途端。

 ピリリリリィ! と、空気が張り詰めた。

《ぼくね、テオおにーちゃんに聞いたんだ。ジパング界って、修行がさかんなんだって。ジパング界で『道』を極めたら、なんでも出来るんだ。気の力で、不治の病も治せちゃうみたい》

 なんといえばいいんだろう……空気が熱を帯びたというか……正しくは、空気中に潜む水蒸気が異常に興奮しているわけだけど……ビンビンに緊張した気が伝わってくる……。

《それにね、ジパング界なら、侍や神官がいっぱいいる。強い仲間がぜったいに見つかるよ。なんたって……………》

 そこでニコラは口ごもった。

《あ、えっと……なんだっけ、すごく有名な勇者がいたよね。さんじゅう……》


《ジパング界は、三十九代目勇者カガミ マサタカ様の出身世界です!》

 わざわざ実体化し、水色の奴が机に向かってめいっぱい身を乗り出す。

《幽霊の少年、卓越した見解です。その知的な判断を誉めてさしあげましょう。次に勇者様が赴くべきは、ジパング界。修行に適し且つ仲間探しに適した地は、ジパング界をおいて他にありません》

 カガミ マサタカ先輩のそっくりさん、というか『ジパング界に行きたい!』って顔の水精霊が熱弁をふるう……。




「ニコラ、ラルム。おまえ達の意見はわかった。ジャンヌが次に赴く世界は、私の一存では決めぬ。勇者たるジャンヌ、ジャンヌの伴侶たるテオドール達と話し合い、よく吟味した上で決める」

 お師匠様がそう言った後、ラルムは表面的に黙った。

 水蒸気に戻って、全員の護衛も再開した。

 でも、ラルムの大興奮が簡単におさまるはずもなく……アタシだけに、ず〜っとず〜っとずぅぅっと内緒話をしてきやがったのだ。


《カガミ マサタカ様があなたの世界で活躍なさったのは、千百年以上前のことです。マサタカ様は、あなたと同じく第八星体系哺乳綱サル目ヒト科ヒト種。有限の寿命はとうに尽きているであろうと思っていました》

 しかし! と水精霊が強調する。

《あなたの世界と英雄世界は、時の流れが異なりました。マサタカ様よりも前に勇者だった、巨乳好きで児童偏愛な七代目も、十六代目も三十三代目も存命でした》

 そうね。七代目のサクライ先輩は『僕が勇者だったのは、十六年前の事なんだ』って言ってたものね。アタシの世界じゃ、千八百年以上前のことだったのに。

《ジパング界も時の流れが異なるかもしれません》

 うん、まあ……その可能性もあるわよね。

《過剰な期待はすべきではありません。しかし、カガミ マサタカ様のご生存の可能性も零ではない。そうは思いませんか?》

 そうね。

《あああ……ジパング界ではどれほどの月日が流れているのでしょう? 水界を訪れた時と同じお若い姿のままでも……年を経て、相応の落ち着きを得られた姿であろうとも……マサタカ様ならば、きっとお美しいでしょう》

 そうかもね。


《反応が薄いですね》

 水の精霊の思念が、ムスッとする。

《百一代目勇者様。事の重大さをわきまえてください。カガミ マサタカ様がご生存でしたら、あなたはあのお方を伴侶にする事もできるのですよ? お美しく賢いあのお方が伴侶となれば、あなたの勝利は確実となるでしょう》

 うん……百体以上の精霊を仲間にした、アタシとはケタ違いの凄い勇者だもんね。

 伴侶にできれば心強いわ。

 でも、生きてるとも限らないのよ? 夢を見過ぎない方がいいと思う。外れた時、ショックでしょ?

《……ご心配は無用です。マサタカ様の生存確率が低いことは重々承知しています。私は常に理知的です》

 ならいいけど。

《しかし……素晴らしいあの方が人の世に埋もれたまま生涯を終えたはずがない。ジパング界では、あの方の伝説が語り継がれているでしょう……もしかしたら、子孫が居るかも……》

 めいっぱい夢を見てるじゃない!

 ったく、もう!



 アタシとラルムがこっそり心で会話している間も、みんなは、アタシのパワー・アップ手段が他にないか話し合ってくれていた。


「そうだ! 武器よ!」

 アリス先輩がポンと手を叩く。

「魔法剣ゲットでパワーアップ! 勇者の王道よね! たしか、幻想世界のドワーフ王がジャンヌちゃんの剣を鍛えてるんでしたよね? そちらはどうなってるんです?」


「仕上がれば、ゴーレムを通じ、デ・ルドリウ様がお知らせくださる」

 お師匠様が淡々と答える。

「ピアやゲボクが何も言ってこぬのだ、完成しておらぬのだろう」

《けっこー時間がかかるね》とニコラが唇をとがらせる。

「ドワーフは誇り高い職人だ。満足のゆく物が出来るまで決して妥協はせぬし、期日は何があろうとも守る。ドワーフ王ファーガスは、魔王戦の十日前までには武器を仕上げると約束した。王の言葉を信じ、待とう」

 剣でお手軽パワーアップは、とうぶん無理っぽい。


《護身用アイテムの(たぐい)をもっと調達してみては?》

 ルーチェさんは、アタシの体(アリス先輩憑依中)を上から下まで見つめているっぽい。黒のサングラスのせいで、目線がいまいちわかんないけど。

《神聖防具、魔性防具、属性防具等々、攻撃力や防御力を上昇させる装備はさまざまな世界に存在します。周囲に助けを求めるための道具も効果的ですよね。精霊とは異なる系統の使い魔を持つのもいいと思います。装備次第で生存確率は高まりますよ》


「装備か……」

 お師匠様が、考えこむようにうつむく。


「伝説の防具に、使い魔! いいわね! ステキ!」

 アリス先輩は、ニコニコ笑顔だ。



「恐れ入りまス。お教えくださイ。ツカイマとハ、何なのデ、ございましょウ?」

 アタシの背後からの声。

 執事っぽくアタシの背後に立ってたアンドロイドが、ほんのかすかに首をかしげている。


「契約によって、主人に絶対服従を誓ってる召使。ただし、人外……かな?」

 アリス先輩が、頭をひねりながら答える。

「精霊の他にも、魔物や召喚獣、妖怪なパターンがあるわね、創作じゃ。超優秀な護衛だったり、戦闘要員だったりもする。たいてい主人より強いんだけど、契約に縛られていて仕方なく従ってるのよ。そこが萌えポイントなの」


 アダムのモノ・アイがチカチカと点滅する。


「ジャンヌお嬢さマ。バイオロイドなどハ、いかがでしょウ?」


 ん?


「バイオロイドの中にも、戦種・防衛タイプもございまス。カタログをお持ちいたしましょうカ? それとモ、バイオロイド研究室ヲ、ご見学なさいますカ?」


 バイオロイド?



「申し訳ありませン。配慮が行き届きませんでしタ。お嬢さまガ、護衛をお望みになるほド、身の危険を感じておられたとハ、気づきませんでしタ。執事失格でス」

 胸に手をあて、謝罪の為にアダムが頭を下げる。ロボットだけど、綺麗な所作。


「今すぐどうこうってことじゃないのよ」

 アタシの体に宿ったアリス先輩が、慌てて手を振る。

「ただこの体は、正体不明の敵に狙われてるから用心のためにね」


「ジャンヌお嬢さマ」

 アダムが顔をあげる。

「アダムはあなただけのアンドロイド。あなたのためだけに存在していまス。あなたのいらっしゃらない世界など耐えられませン。『デンセツの防具』、『ツカイマ』。ご希望品をご用意シ、あらゆる対策を講ジ、命に代えてモ、お守りしまス」


 アダムのモノ・アイが更にチカチカする。


「他の誰にモ、あなたヲ傷つけさせませン。あなたガ、傷つくぐらいなラ、このアダムガ、いっソ、お嬢さまヲ……」


……背筋が、ぞくっとした。


 このアダムが、いっそ?


 ちょっ!


 そこで黙らないでよ! 続きを言って! 何をする気なの? 気になるじゃない!


 ルネさ〜ん。

 アダムの性格はドS執事に設定したんじゃなかったの?

 違う性格も入ってませんか?


「いやぁん、独占欲? ヤンデレっぽい♪」

 いやいやいや! そこ、喜ぶところじゃないですよ、アリス先輩!


 なんかちょっぴり怖いんだけど、アダム!

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