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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
女王蜂 ― пчела-царица
82/236

機械仕掛けのカレシ

 目覚めたら、彼の腕の中……

 後ろからぎゅっと抱きしめられたまま、眠ってたみたい。


 体がだるい……


 髪にかかる、あたたかな息。

 規則正しい寝息を聞いてると、また眠りに落ちてしまいそう。


 背中から、彼の胸の鼓動が伝わってくる。

 とくん、とくん、と……。

 布越しに触れ合うぬくもりが、不思議なほど心地いい……


 しっかり回された、彼の腕。

 腰の上に巻きつく腕を、アタシの右の掌が撫でている。


 手の甲、手首、前腕、肘、二の腕。


 その形を確かめるかのようにしっかりと、或いはもみほぐすように、時には触れるか触れないかの距離でそっと優しく……


「いやぁん、筋肉ぅ♪ 見た目より逞しい♪ 着痩せするタイプなのね♪」

 アタシの口が、勝手にしゃべる……

 アタシの右手が勝手に動いて、男の腕に触れまくっている……


………


 一気に目が覚めたわ!


 やめてぇぇ、アリス先輩!


 マルタンの腕を撫で撫でさわさわなんて!

 アタシが変な人みたいです!


「あ? 起きたのね、ジャンヌちゃん」

 ペロッと舌を出して、アタシの顔が笑みをつくる。


 視界に入っているのは、赤いカーテンと赤いシーツ。

 聞こえるのは、寝息、つーか低いいびき。

 感じるのは、おんぶオバケのように背後からくっついている男の存在。


 目覚めても、何も変わっていなかった。

 抱き枕にされ、マルタンの炎精霊(しもべ)の変化――天蓋つきの赤ベッドに転がったままのようだ。


「いい夢見られた?」

 アタシの口が動く。

 アリス先輩……還れなかったのか。

 アタシは、先輩に憑依されたまま。しゃべることはおろか、小指一本動かせない。


「ジャンヌちゃん、八時間寝てたみたいよ。ソルくんが、そう言っている」


 ソル……?


 思い出した。

 土の精霊は、アタシと一体化してたんだっけ。

 ぜんぜんしゃべらないから、その存在自体を忘れてたけど。


「ジャンヌちゃん。ソルくん、喜んでるわよ。『放置プレイどころか、存在全否定だったなんて。さすが女王さま、素晴らしいプレイです』ですって。徹底的に無視される精神的な苦痛が、性的快楽に結びついたみたいね」

 ちょっ!

 先輩に変なことふきこまないでよ!

 プレイなんかしてないわよ。あんたが静かすぎるから、居るのをうっかり忘れてただけ。レイやラルムみたいに、普通にしゃべってくれてりゃ良かったのに。


「『黙れ』って命じられたから沈黙を守ってたって、本人(ソルくん)は言ってるけど?」


 言ったっけ……?


 覚えがない。


「ソルくん、大喜び中。『命令を与えたことすらもお忘れとは。あああ……ワタクシは女王さまのお心の片隅にも置いていただいてないのですね。虫けら以下、いえゴミにも等しい存在……ハァハァ……』」

 実況しなくていいです、先輩!

 きさま、永遠に黙ってろ、ソル!



 さわさわさわ。


 アタシの側頭部に、触れてくるものが。


 先輩の目が動く。


 さっきまで先輩が触ってた腕、てか、掌が動いている。


 ゆるゆると。


 使徒様の手が、アタシの髪を撫でる。

 ぎこちなさなど、まったくない。

 誰かを撫でるのに、慣れた手つきだ。


 優しくやわらかく触れる手。

 それは、まるで……

 愛を込めて恋人を愛撫するかのような……


 使徒様がアタシをぎゅっと抱きしめて、頭を……なで、なで、なで、なで……

 エンドレス……。


「あらぁ……やだぁ……ラヴラヴ……」


 いやいやいや!


 違います! こいつ、寝ぼけてるんです!

 アタシだとわかってないはず!

 それに……

 そうだ! きっと、こいつ、こう見えて動物好きなんだ! 犬とか猫が好きなんです! ペットを撫で撫でするのに、慣れてるから、それで……

 じゃなかったら、こう見えて子供好き! そうだ! それに決定! 小さい子をいい子いい子するのに慣れてて、それで……


 ありえなさそうだけど、きっとそう!


 やめて!

 頭に息をかけないで!

 こそばゆい!


 だから、先輩! にやけないでください!

 アタシとこいつの間に恋愛感情なんて、これっぽっちも、まったく、微塵も、ほんとにほんの一ミリもないんです!


 なのに、今のアタシ(先輩憑依中)はマルタンに抱きしめられ頭を撫でられて、嬉しそうにニコニコしてるのだ。


 ありえない!


 悪夢よ。


 悪夢だわ。


 体の支配を返してぇ!


 自由に動けたら、肘鉄して、ぶん殴って、蹴っ飛ばしてこいつから逃げるのにぃ!




 アタシの背後のマルタンが、ううぅ〜んと低い声を漏らす。


「・・・マリー・・・」


 つぶやきが、耳に届いた。


 マリー……?


……誰?


「誰?」

 同じ疑問を、先輩も抱く。


 マリー……?


 もしかして、マルタンの……?


「愛して・・」

 語尾は、むにゃむにゃと口の中に消える。


 やっぱ、そうなのか……

 彼女が居たのか。

 へぇ……

 信じられない、こんな()に!

 確かに、顔はいい。邪悪祓いの腕も超一流。

 でも! でも! でも! 厨二病の俺様僧侶なのよ!

 アタシだったら、マルタンの彼女なんてご免よ! 大金を積まれたって、お断り! 


……世の中、奇特な人も居るのね。マルタンの彼女になってあげるなんて、どんだけ人格者?


 どんな()なんだろう……?


……胸がチクッとした。


 あ。

 そうだ。

 修道僧って、彼女をつくっちゃマズかったはず。

 信仰に全てを捧げ、生涯独身を貫くのがルールだもの。


 て、ことは……

 つまり……秘めた恋なわけ?

 他の誰にも内緒で、二人で愛を育んでるの?

 それとも、マルタンの片想い?


 こいつが世間体を気にして苦しい恋をしてるなんて、変だわ。

 そういう人間(キャラ)じゃないのに……


 何でかわかんないけど、胸がどんどん痛くなる。


 アタシを強く抱きしめる腕。

 髪を撫でる大きな掌。

 なだめるように優しく、髪に落とされる口づけ。


 顔が熱を帯び、息が上がる。


 こいつは寝ぼけてるだけ。

 アタシのことを、マリーって子と勘違いしてる。

 ただ、それだけなのに……。


 たまらなく息苦しい……


 アタシ、どっかおかしいのかも。




 どれぐらいそのままでいたのだろう。


 すっかり脱力した頃、足元の方からカーテンを開けるシャーって音がして、

「……驚いた……」

 抑揚のない声が降ってきた。


 アタシに宿ったアリス先輩が首をひねり、足元を見る。


 足先の方で、天蓋から垂れている幕の一部が開いている。

 そこに立っているのは、白銀の髪、白銀のローブの背の高い人で……


「おまえとて、十六。かようなことがあっても、おかしくはないのにな……」

 すみれ色の瞳が、アタシと背にくっついてる奴を見下ろしている。ただ、淡々と……。

「自由恋愛をするな、とは言わぬ。そこまで、おまえを束縛する気はない。しかし、ジャンヌ。おまえは女性なのだ。無知でいては、とりかえしのつかぬ事となるやもしれぬ……。そうだ、受粉の話をしよう。よいか、ジャンヌ。植物にはおしべとめしべがあって……」


 お師匠様ぁぁ!


 ズレてます!


 いや、そもそも誤解です!


 こいつ、寝ボケてるだけです!

 自由恋愛とかじゃないんです!

 二人の間には、ほぉんとぉ〜に何にもありませんから!


「ぬ?」

 背後で、むくりと起き上がる気配。

 いつの間にか、お腹に巻きついてた赤い毛布は消えてた。

 マルタンは大あくびをしてから、アタシの横にあぐらをかいた。


 アリス先輩も、慌てて体を起こす。


「・・賢者殿か」

 ボーっと開いた半眼。

 マルタンは肩を交互に上げ下げしつつ、首を左右に振る。

 変な格好で寝てたから、肩と首が凝ってるみたいだ。


「聖戦から戻った後、そのまま沈没した・・いささか寝すぎたようだ」


 お師匠様が微かに瞳を細める。

 いつもと同じ無表情。だけど、たった今、口元が微かにほころんだような……?

「マルタン……おまえはまだ、神の使徒のままか……。ジャンヌとは何もなかったのだな」


 やだもう! 何言ってるんですか、お師匠様!


「ジャンヌ。残念ながら今日は時間がない。次の機会に、植物の誕生について最後まで講義しよう。おまえには刺激が強すぎるやもしれぬが、女性には必須の知識だからな」

 いえいえいえ! 古典的な性教育は結構です! そこまで子供じゃないんです、アタシ!



 アリス先輩が胸元に手をあて、身を乗り出す。

「賢者さま。わたし、十六代目だった藤堂杏璃子(アリス)です。実は、」


「ルネ達から事情は聞いている。ジャンヌに憑依しているのだそうだな」

 皆まで言う必要はないと、お師匠様が軽く右手をあげて先輩を制する。

「アリス殿。すまぬが、ジャンヌの為に今しばらくお力を貸していただきたい」

「ええ。もちろんです」

「感謝する、アリス殿」

「とんでもない! 可愛い後輩のためですもの。できることは何でもしますわ」


 見つめ合う、お師匠様とアリス先輩。


 その横で使徒様は、炎の精霊に火を点けさせて煙草をプカプカしだした。

「目覚めの一服こそ、至福の時・・・」

 美味そうに紫煙をくゆらせる……。

 せめて、もうちょっと離れなさいよ。マナー悪いなあ。デリカシーのない奴は、彼女に嫌われるわよ。


「アリス殿、確認する。ジャンヌは、今、起きているだな?」

「はい。ちょっと前に起きました。この会話も聞いています」


 お師匠様が、まっすぐにアタシの顔を見つめる。


「ジャンヌ。仲間候補が居る。戦闘力が非常に高く、おまえの好みのもの(タイプ)のようだ。ときめかぬか、会ってみてくれ」


 カーテンがめくれ、お師匠様よりも背の高いものが入って来る。



 びっくりした。


 なんというか……カッコいい。


 全身が紫と黒。


 小さい頭、すらりとしたヒーローっぽい体型、無骨さの無い長い腕。

 華奢な腰や、ニーハイブーツを履いたような魅惑的な脚部は、女性っぽいかも。

 でも、大きな飾りのついた肩から胸部にかけては、意外なほどがっしりしている。胸鎧を装着した騎士みたい。


 男の猛々しさとセクシーさがないまぜとなった美しいフォルムというか……


 頭部には、無駄なパーツが全くない。

 髪や眉毛はもちろん、口も鼻も耳すらもない。フルフェイスのヘルメットを被ってるみたい。

 そんなシンプルすぎる顔の中で、金色に輝くモノ・アイと紫のバイザーだけが威風堂々としていて……


 見惚れてしまう。


「アンドロイドのアダム。我々の接待ロボットだ」


 お師匠様の紹介を受け、アンドロイドが動く。


 カツンと響く靴音は、軍靴を思わせる。


「ナターリヤさまかラ、みなさまノ、お世話役を任じられましタ。アダムと申しまス」

 アクセントが微妙におかしい。機械音声だ。

「今朝起動したばかりノ、若輩者ですガ、ご満足いただけますよウ、誠心誠意ご奉仕させていただきまス」

 けれども、所作はメカっぽくない。

 右足を引き、右手を体に添え、深々と頭を下げる仕草は、優美といっても良いくらい。

 スムーズに動いて、実に洗練された所作をする。


 とても綺麗なお辞儀をして、それがモノ・アイでアタシを見つめる。


 アタシだけをジッと……。


「どうゾ、お見知りおき下さいまセ、ジャンヌお嬢さマ」


 ジャンヌ……

 お嬢様?




 胸がキュンキュンした。



 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと五十九〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がした




 エレガントな雰囲気。

 発音こそナニだけど、完璧な敬語。

 そして、このお辞儀ポーズ。

 とどめは、『お嬢様』呼び。


 執事ロボだ!


 ロボなのに、執事?

 おぉぉぉ……

 素敵! 新ジャンルだ!


 大好きなのよ、執事!


 執事は乙女の憧れだもん。


 ゴーレムをつくる時だって、おじいちゃん執事にしようか本気で悩んだわ。

 悩んだ末に、番長黒ウサギのクロさんを作ったことに、後悔はない。


 だけど、執事には執事の醍醐味があるわけで!

 主人に深い忠誠心を抱いてるところとか、礼儀正しいところとか、徹底して敬語なところとか……。

 ツーンと澄ましたとっつきにくいタイプも、穏やかなおじいちゃんタイプも、大好き!



「……アダムを仲間にできたか」

 お師匠様が小さくつぶやくと、

《おねーちゃん、萌えたって!》

「はっはっは。やりましたな! 我々のカスタマイズが完璧だったという事ですぞ!」

《いや、たまたまツボにはまっただけであろう。歯に絹着せずに言う、主人の萌えツボは奇怪至極である。わりと何でもOKであるのに、吾輩には理解できぬ理由で萌えを拒むこともあるのである》

《……何でもいいです。百一代目勇者様に四十一人目の仲間ができた。その事実だけで充分です》

 垂れ幕の向こうから、ぞろぞろと仲間が顔を出す。



 カスタマイズ?

……ってなに?


 アタシの心の声が聞こえたのか、そんな単語をアタシが知ってるはずないと察してくれたのか、お師匠様が淡々と言う。

「ナターリヤ殿から借りたロボットを、みなが調整したのだ。見た目、武装、思考パターン等々。さまざまなものを変更したようだ」

 私は完成形と対面したのでどのように変わったのかわからぬが、とお師匠様が首を傾げる。



「実はですな、この『アダム』君は、カスタム・アンドロイドでして」

 ロボットアーマーの人が、アダムの肩を抱く。

「初期状態でも、百科事典並の知識があり、家事全般がプログラミング済み、アンドロイドの戦闘パターンも何万通りも覚えています。超優秀なアンドロイドなのです」

「恐れ入りまス」

 アンドロイドが畏まる。

 スラリとしたアダム。

 金属製のチェストみたいに角ばったルネさん。

 二人並ぶと、ルネさんのがロボットっぽい。


「しかし! アダム君の凄いところは、手を加えれば加えるほど、生き生きとする事なのですよ!」

 ロボットアーマーが機械の両手を握り締める。

「所有者の好みのままに、あらゆる設定ができるのです! マスク、装甲、武装などの見た目はもちろん、思考パターン、会話パターン、口癖等々! つまり、『人格』が与えられるのですよ! 使用する我々で好きに設定していいと、ナターリヤさんがおっしゃいましたので、」

 ルネさんは大興奮だ。

「この、ルネが! 責任をもちまして! アダム君を『萌えカレ』設定にしてみたのです!」


 へ?


「カタログによると、アダム君は10万馬力と時速600キロのスピードを誇る超強力アンドロイド。兵装次第では、最新鋭軍事ロボットに匹敵する戦闘力なのです。これは萌えていただかねば、損ですから!」

 強いなら、まあ、そうかも。


《みんなで知恵を合わせて、おねーちゃんが好きそうなロボットにしたんだよ!》

《仕方ないのである。任せておくと、発明家が自分好みにアンドロイドを設定してしまうゆえ。角ばったダンボールのごとき外装がいいだ、腕をドリルにするだチェンソーにするだ、自爆装置は必須だの、正気を疑うのである》

「いやいやいや。男には幾つになっても男の子回路というものがありましてな」

《……こんな不格好な機械にときめくなんて、理解できません。せめて顔ぐらい美しいものにすればいいのに……カガミ マサタカ様をモデルにすれば完璧でしょうに》

「いやいやいや、何度も言いましたがそれは無理なのです。急なことなので、今回はオーダーメイド・パーツは無し。カタログにある既成パーツの組み合わせで『萌えカレ』をつくらねばなりませんでしたので!」

 ニコラ、ロボットアーマーに宿ったレイ、ルネさん、ラルム。

 仲間達に囲まれたアダムは、全員に一礼していく。

「みなさまノ、ご尽力によっテ、アダムは誕生できましタ。みなさまハ、お嬢さまニ次ぐ大事な方々でス」

 礼儀正しくて、愛想がいい。表情をつくれるのなら、にっこり微笑んでそう。


《吾輩が主人の伴侶のデータを多角的に検討し、外見をスリムにせよと助言した。いかつい男もお嫌いではないが、優男タイプの方がやや多いゆえ》

《ぼくは、森のクマさんがいいって言ったんだ。おねーちゃん、クマが大好きだから》

「ですから、無理なのです! 外装は既成パーツだけなので! この身長で、ぬいぐま! そのアイデアは私的には実にナイスだと思いますが、残念ながら没なのです」

 いや……等身そのままでぬいぐまなのは、アタシ的にはちょっと……

《……意のままに造れるのなら、マサタカ様のごとく美しいものを造ればいいのに……》


「性格は百八種類から選べました。優しいお兄ちゃん、かわいい弟、生意気な年下、クールな一匹狼、真面目教師、包容力あふれる父親、隙の無い軍人、ほのぼの……どれにしようか結構迷ったのですよ。勇者様はどれもお好きそうですし」

 いや、まあ。

「甘えん坊、ヤンデレ、ちょい悪、ドジっ子。意外性をついた性格の方が勇者様はキュンキュンするのでは? と私は思ったのですが、」

 ロボットの……ヤンデレ?

《執事以外ありえないよ。男タイプの側仕いだもの》

「と、ニコラ君が強く主張しましてな! 多数決で基本行動パターンは執事にすることになり、」

 ありがと、ニコラ。そうよね、執事よね! ヤンデレなロボにつきまとわられるのは、さすがに嫌すぎだもん!


「性格は、女性好みの執事にプログラミングいたしました!」

 ん?


「実は、私には娘がおりまして、」

 それは、寝る前に聞いた。


「娘が少女小説や漫画を薦めてくることがありましてな、若者文化への理解を深める為、その手のものは全て! 完璧に! 斜め読みしてまいりました!」

 斜め読みよかよ。

 娘さんが好きな本ぐらい、ちゃんと読んであげなさいよ、パパ。


「なので、私はちゃぁんと心得ているのです!」

 明るい声で、発明家が胸をそらせる。


「執事とは、深い忠誠心をもって主人に仕える存在。主人を愛し、主人だけを大切にし、主人の為であるなら苦言も辞さない」

 うん、そうね。

「そして、そして! 従順に仕えつつ、嫌味と意地悪でチクチクお嬢様をいたぶるテクニックの持ち主! 世間知らずで負けん気の強いお嬢様は、身も心も翻弄され、メロメロに! ドS執事! これぞ萌えでしょう!」


 え?


 ドS?


 いや、あの……嫌いじゃないですけど……ドSが世話係なんですか?


 アンドロイドが、アタシに対し深々とお辞儀をする。


「お嬢さマ。アダムは誠心誠意をもっテ、お嬢さまニ、お仕えいたしまス」

 モノ・アイがアタシだけを見つめる……

「常識に欠けるお嬢さまガ、お困りになることがないようニ、完璧にサポートいたしまス。どうゾ、このアダムにお任せくださイ」


 言ってることは、キュンキュンもののセリフ。

 なのに、なぜだか背筋が、ぞっとした。

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