マッハは惜しみなく奪う
気がつけば、異世界。
しかも、飛ばされたのは魂だけ。
酒屋で店番してたはずのわたしが、ジャンヌちゃんに憑依してた……。
体は、どうなってるんだろう? 寝てるんなら、いい。だけど、誰かに憑かれてて勝手に動き回ってたり、意識不明の重体に陥ってたら、嫌だわ。
それに、何時、還れるんだろう? 《今しばらくは、協力されたし》とレイくんは言っていたけど、いずれ協力に終わりはくるのだろうか?
不安だらけ。
でも、今は……できることをしてくしかない。
異世界転移常連者――リーダーによれば、『なすべき使命を成し遂げれば、神の赦しが得られ、帰還可能となる』だそうだし。
やるべきことをやれば、還れるはず。
それに、不安なのはジャンヌちゃんも一緒。
わたしに体を奪われ、しゃべることすらできないんだもの。
かわいい後輩のために、先輩としてできるだけ力になってあげたい。
ぶっちゃけて言えば、楽しいし♪
この世の春と言おうか。
寂しがりやで甘えん坊な、幽霊の美少年。
ロボットアーマーはナニだけど、中身は渋い美中年。
ロボットアーマーに憑依している、皮肉屋の精霊。
頭のネジがぶっ飛んでそうな、俺様美青年。
ジャンヌちゃんの寵愛を求めるがごとく、四人が我を争うようにくっついてくるんですものぉ〜
辛抱たまらん!
あぁ……
今のままでも、ステキな構図だけど……
ほ〜んと、惜しい。ジャンヌちゃんが男の子だったら、私的にパーフェクトだったのに。主人公総受け百人逆ハーレム!
あと、ナターリヤさんも、性別逆転希望! オッドアイの美少女ならぬ美少年で、ぜひ! 男に囲まれる勇者に呆れ、軽蔑しながらも、触れ合ううちに、気がつけば自分自身も勇者の虜となり、やがて……
はッ!
いけないわ!
また妄想に、のめってしまった!
今は交渉役をやらなきゃいけないのに!
異世界人との交渉役は、賢者さまか勇者がやるもの。でも、ジャンヌちゃんは、わたしのせいで表に出られない。賢者さまは、気を失ったまま。
わたしがやるしかない。
科学に造詣の深いレイくんに代わってもらえるとありがたいんだけど、彼は無口になってしまった。マルタンさんが登場したあたりから? ナターリヤさんに会ってからだったかしら? ほとんど話さなくなってしまった。
集中! 集中!
煩悩は後回しよ!
今、ジャンヌちゃんが居るのは、高度な科学文明世界。
SF映画に出てきそうな、立体映像・ガイノイド・ステルス偵察機(しかもレーダーどころか集音・熱センサーにもひっかからない高性能)……
そして、オッドアイのナターリヤさん。
ぱっと見、十五六歳だけど、研究所副所長代行を務めているのだ。見た目通りの年齢じゃないわ。不老不死? 不老処置をして若さを保っている? その肉体は義体って線もあるわよね。服を替える感覚で義体を替える異星人の話とかあったなあ。
想像力が刺激されちゃうわ。
SFは得意じゃないけど、勇者世界の人間よりは科学知識がある。少しは役に立てる……と思う。
そう思いたい……。
わかった事が幾つか。
ジャンヌちゃんたちが、今いる所は宇宙連邦所属研究都市『バビロン』。
設立者兼研究所所長は、ナターリヤさんのお父さん(ご両親は、今、学会に出席中なのだとか)。
研究スタッフのほとんどが身内で、住人は百人にも満たない。本当に小規模なドームらしい。
――大きな声では言えませんけれど――
立体映像のナターリヤさんが笑いながら、教えてくれた。
この施設での研究内容を。
新エネルギー開発、植物の品種改良、新金属の開発、新薬開発、思考型機械の最適化、超能力研究、新兵器開発、死なない兵士の研究開発……。
兵器研究所だわ!
ジャンヌちゃんたちが転移したのは、死なない兵士のサンプルを収めた部屋だそうで……
――睡眠カプセルの中に、ゲル状バイオロイドを素体としたサンプルを収めてますの。運動機能が低すぎて、まだまだ実用化にほど遠い段階なのですけれど――
……発砲されたのも、無理ない。
――設立当時は、ここも平和的な研究しかしてませんでしたのよ――
三百年前、宇宙規模の大戦争があったのだと、ナターリヤさんは説明した。
――母なる星は荒廃し、生き物が住めない環境となっていました。五十年前、母星再生を夢見て、お父様は『バビロン』を建造しましたの。ここでは、惑星再生研究がされていましたの。でも……――
よその星やスペースコロニーに移住した同胞たちに『母星再生』の意欲は薄く、資金難で計画は頓挫。
宇宙連邦のリクエストのままに兵器を製造し続け、現在に至る……という事らしい。
――惑星改造には、膨大な資金と豊富な物資とエネルギーが必要ですもの。宇宙連邦が復活プロジェクトにGOサインを出すなど、百年経ってもありえないでしょうね――
愛らしい顔に、皮肉な笑みが浮かぶ。
――永久に、バビロンの外は死の世界かもしれません。みなさま、くれぐれもドームの外には出ないでくださいましね。外は、生物の生存に不適な環境ですの。宇宙人のあなた方でも、健康を損ね、死に至るかもしれませんわ――
母星に住む人間はごくわずか。全員、外気が届かないドームの中で暮らしているのだと、彼女は静かに微笑んだ。
――ご希望の医療・技術チームは明日までに立ち上げますわ。接待用ロボを準備しますので、こちらでお過ごしください――
案内されたのは、『談話室』だった。
広々とした、サロンみたいな部屋だ。長机やソファーがあり、観賞植物の鉢植えもある。窓を模した巨大なスクリーンには、宇宙空間の映像が映し出されていた。
この施設の住人のレクリエーション部屋だろう。
――隣室が、ケンジャさんとセザールさんの病室です。二部屋の行き来は自由ですが、それ以外の場所にはおいでにならないでね。軍事機密に該当するものもございますし――
立体映像のナターリヤさんが、にこやかに微笑む。
――私のお願い、聞いてくださいますわよね?――
友好的なスタンスをとり続けているけど、さっき、彼女は脅迫もした。
――知的生命体を発見・接触した場合は、宇宙連邦への即時報告が義務とされています。殊に、ここ『バビロン』の出資者は宇宙連邦。立場上、宇宙人を匿えませんが……ご希望でしたら、あなた方の来訪を秘密にします。『バビロン』は父の個人所有ドームですので、私の裁量でどうとでもなりますもの――
考えるまでもない。
宇宙人発見! 研究だ! 国交だ! で大騒ぎになるのは煩わしいし、
宇宙人捕獲! 研究だ! 解剖だ! になったら、ジャンヌちゃんの大ピンチだ。
ナターリヤさんに頼り、その庇護下に入ってなきゃマズイことになってしまう。
魔王戦まで六十六日。
他の異世界にも行って、あと六十人くらい仲間にしなきゃいけないんだもの。グズグズしてはいられない。
円満かつ円滑に、仲間探しを進め、セザールさんって方の治癒をしてもらわなきゃ。
* * * * * *
ナターリヤさんに連れられ、お師匠様たちの病室へ行った。
この世界についてすぐに見た、教会堂に似た部屋。
そこに、ずら〜と並んでた金属の箱。
それとよく似た箱の中にセザールおじーちゃんは入っている。
――健康をチェックして、簡単な病気なら治癒する、医療マシーンですわ――
ナターリヤさんの説明を聞いて、アリス先輩(アタシに憑依中)は独り言を漏らした。
「酸素カプセルというか、SFのコールドスリープ装置みたいね」
アタシには、棺に見える。
上部の透明な小窓からおじーちゃんの顔を覗ける。おじーちゃんは、瞼を閉ざし、眠っている。
――外見だけでなく、体の構造も類似しています。皮膚、骨格、臓器、血液……ほぼそっくり……。これなら私達の医学が通じるかもしれませんが、もう少し検査を続けます。あなた方は異星人。私達の治療が、致命的な毒となる危険もございますもの――
「彼は今どんな病状なんですか?」
アリス先輩の質問に、ナターリヤさんは静かにかぶりを振る。異星人なので正確な診断はできない、と。
――私達とまったく同じ体だと仮定した上で申し上げれば、気管支、心臓、肺、肝臓、すい臓等の機能が低下していますわね。ただ、それが加齢による衰えなのか、病によるものなのかがわかりませんの。私達の世界では、ほとんどの者が二十代までに不老処置を受けます。この医療マシンも、老人用には調整されておりませんのよ――
老人のいない世界。不老処置。気になる単語がいっぱいあったけど、アタシはしゃべれない。アリス先輩が尋ねてくれるのを待つだけだ。
「失礼ですけど、ナターリヤさんって、お幾つなんですか?」
オッドアイの美少女が、にっこりと微笑む。
――三十六ですわ――
うぉ! 同い年くらいだと思ったのに! 三十六ぅ?
――みなさまはお幾つですの?――
「勇者ジャンヌは十六歳です。あとは……」
助けを求め、アタシの体に宿る先輩がルネさんの方を見る。
「いやいやいや。はっはっは。私は四十三です。セザール様は五十九と伺っておりますぞ」
《ぼくは八才だよ》
アタシにくっついている二人が、素直に答える。
けど、使徒様はガン無視。てか、そもそもナターリヤさんの方を見てもいない。そっぽを向いてぶつぶつ独り言をつぶやいている。チッとか、くそとか、ろくでもないことを言ってるっぽい。
――あの方は?――
立体映像のナターリヤさんが、横を向く。
つられて、アリス先輩(アタシの体)も横に向いた。
そこには、お師匠様が眠っている。
セザールおじーちゃんとは違って、寝てるのは普通の白いベッド。装飾のない、簡易な造りだ。
超能力ジャマーは、アタシみたいな魔力ゼロ人間にも辛い攻撃だった。
けど、魔法が使える者ほどより辛く、更に深刻なダメージを受けるらしい。
お師匠様は不老不死だけど、痛覚は普通の人間といっしょだし、肉体を再生すれば疲労も激しくなる。
《治癒は済んでいます。今日一日療養すれば、明日には目覚めるでしょう》
水のラルムの内緒話が、心の中に響く。
ラルムは、今、水蒸気になってアタシやお師匠様に触れる形で存在している。本人がそう自己申告してきた。一度見捨てたけど、今は責任もってお師匠様を治癒をして見守っている……そう言いたいのだろう。
「賢者様のご年齢ですかな? むぅぅ……賢者様は五代前の勇者様ですから、確か、」
ルネさんの言葉を遮るように、アタシの体が動く。アリス先輩は右手でロボットアーマーをコツンと叩き、代わりに答えた。
「年齢はわからないわ。勇者の使命についたのは、二十歳ごろだと思うけど」
十九よ。アタシはそう聞いている。
――そうですの。あなた方は、本当に面白いですわ――
ナターリヤさんが、猫のように目を細める。
――私達の世界には居ない老人、中年男性。精神生命体の白い少年。それから『セーレー』でしたっけ? 他にも、精神生命体がいらっしゃいましたわよね。みなさま、素敵ですけれども、》
右眼が紫、左眼が金。
左右で色が異なる、オッドアイが妖しく微笑む。
――私が、今、一番心惹かれるのは……――
ナターリヤさんの視線は、アタシの体を通り越してその背後にいる……
「・・限界だ」
どわっ!
いきなり体が浮いた!
アタシ、抱き上げられている????
背後から抱きついてた使徒様に????
ぐ!
お姫様抱っこは、ほんの一瞬で終わり。
使徒様は、すぐに持ち直し、アタシを小脇に抱えた。
荷物扱いかよ。
「きゃぁぁ! 略奪愛? ステキ!」
《こら! おねーちゃんになにするんだ!》
「マルタン様、いったい何を????」
《ラルム。水蒸気にて、主人と部屋のものを全て包み込むのである。さもなければ、》
《黙りなさい。あなたに、私に命令する権限など無い》
部屋の中のみんながしゃべる中、
アタシを左脇に抱えながら、使徒様は開いた右の掌を前方に突き出した。
「いでよ、しもべ!」
宙が揺らぎ、マルタンの炎の精霊が現れる。
赤い髪、赤い服の女の人だ。
――まあ。テレポートですの? 未知の超能力……素晴らしい。本当にあなたは魅惑的ですわ……――
使徒様は、ナターリヤさんを完璧に無視。
「しもべ。俺は行かずばならん。帰還まで俺の体を守り、」
アタシを指差す。
人差し指が鼻に当たりそう。
「これを俺にくっつけておけ」
炎精霊の赤い目が、面白くなさそうにアタシと使徒様をチラッと見る。
《わかりました》
ボン! と爆煙が広がった!
と、思った時には、視界が変わっていた。
何もかもが赤い。
赤い天井、赤いカーテン、赤い掛け布団。
天蓋つきベッドに、横たわっているようだ。
何処よ、ここは? と、思ったら、
《移動していません。さきほどの部屋に、私の結界を築いただけです》
て答えが帰ってきた。聞きなれない声だ。
結界の中?
何か息苦しい。
アタシに憑いているアリス先輩が肩越しに振り返り、
「きゃぁぁん♪」
黄色い声をあげた。
けど、アタシは……
真っ白になってしまった。
だって……
使徒様の顔が、す、ぐ、そ、こ、に……
閉ざされた瞼。
くすぐったいような息が、後ろから……かかって、きたり、なんかして……
こ、腰のあたりに、手が……のっかってる……
アタシのじゃない、黒い祭服の長袖が見える……
…………
どわぁぁ!
後ろから抱きつかれてる!
ぎゅ〜っと!
てか、マルタン、寝てるし!
アタシはすっかり抱き枕状態だ!
これって、アレよね!
恋人たちの憧れの寝姿NO1って奴!
愛する子猫ちゃんを、彼氏が後ろからハグ!
寝てても、二人はラブラブ!
恋人同士なら、ステキな構図かもしれない。
でも、しかし!
アタシに抱きついてるのは、使徒様なのよぉ!
いやぁぁ!
暴れてふりほどきたい!
てか、アリス先輩! なんで、動かないんです? 肘鉄してください! 逃げましょうよ!
こんな奴とくっついてると、精神汚染されちゃいますよ!
「やだもぉ……ラヴラヴねえ」
違います!
誤解です!
アタシたちの間に、恋愛感情なんて1ミリもありません!
「素敵なシチュエーションだけど、今はマズイわ。わたし、ナターリヤさんとお話中だったのよ。もとに戻してくれる?」
アタシに憑依している先輩がそう頼むと、
《できません》
にべもない答えが返ってきた。
む!
後ろから、更にズンズンと体が迫って来る!
《『くっつけておけ』と命じられたので、実行中です》
アタシと使徒様は同じ毛布をかけている……てか、二人まとめてお腹のあたりで赤い毛布にぐるぐる巻きにされてるんだ。
縛られてる!
毛布から、冷めた声がする。
《主人マルタンは、聖戦中です。諦めて、大人しくしていてください。早ければ五分程度、遅くとも半日もすれば主人は目覚めます。それまでの我慢です》
つまり、それまで、抱き枕になっていろと?
ありえない!
なんで、アタシがこの馬鹿とくっついてなきゃいけないのよ!
《あなたゆえではありません。絶対防御ゆえです》
アタシの心を読んで、しもべさんが答える。
《異世界へ聖戦に赴いている間、主人は眠りに就き、その体は無防備となります。なので、主人は絶対防御を求めたのです。十六代目勇者とそれに触れている者は、あらゆる危険から身を守れます……飢えた牝蛇の毒牙も恐れるに足りません》
飢えた牝蛇……? なに、それ?
《……馬鹿》
毛布からの声が、とげとげしい感じになる。
《ともかく! 私はあなた方を離しません! どうしても嫌なら、実力行使なさったら? ご自分の精霊を使って、私を倒して、ご自由を取り戻せばよろしいのよ。水の精霊も居るし、私を四散させるのは簡単でしょ?》
「いえ、わたしは別に嫌ではないわ」
アタシの口を使って先輩が言う。
アタシは嫌です。アレな使徒様に抱きつかれるなんて、鳥肌がたっちゃう。
嫌だけど……
だからって、ラルムたちをけしかけて、戦わせるのも、ちょっと……。
《ぜったいに降伏しませんよ》
拗ねてそっぽを向くイメージが伝わってきた。
《三下精霊と、この男にののしられたくないんです。争うのでしたら、四散するまで抵抗します》
むぅぅ……
「ねえ、天蓋ベッドの外はどうなってるの?」
アリス先輩の問い。
真っ赤な天蓋から垂れ込める赤いカーテンが邪魔で、ベッドの外は見えないし、外の声も聞こえないのだ。
しばらく沈黙してから、マルタンの炎精霊は答えた。
《発明家が交渉役を代行し、雷の精霊が助言役を務めています》
ほう。
《水の霧の一部をこの結界に紛れこませてやりましたので、水精霊が空気中に張った結界には絶対防御の効果付加がされています。外の連中も、牝蛇の魔眼の餌食にならずにすんでいるようですね》
牝蛇……
魔眼……
ナターリヤさんのこと……よね?
しもべさん……ナターリヤさんに対し、むちゃくちゃ悪印象を持っているような。
「レイくんが動いてくれてるのなら、あっちはきっと大丈夫ね」
アリス先輩が、朗らかに笑う。
「焦ってもどうにもならないわ。休憩といきましょ、ジャンヌちゃん」
う〜
つっても、ろくに体が動かせない。
しもべさんも静かになっちゃったし。外の様子もわかんない。
使徒様の寝息が聞こえるだけだ。
暇すぎ。
先輩は? と、いうと頬をゆるませ、ずーっと背中の馬鹿を見つめている……
……楽しいですか?
「はぁぁ……俺様美形に後ろから抱きしめられるなんて♪ ス・テ・キ♪ 萌え萌えよ♪ いい夢、見られそう♪」
先輩……趣味が悪いです。
顔はいいかもしれませんけど! 顔だけですよ、そいつ?
「萌えるシチュエーションよね! 唯一にして最大の萎えは、ジャンヌちゃんの性別……。まあ、このまんまでもいいんだけど、せっかくなら、ねえ」
さすが、アリス先輩。ブレがない……。
「……ジャンヌちゃんは男の娘って設定でいこうかなあ」
先輩の発想が、どんどんぶっとんでいく……。
先輩が振り返るのをやめてくれる。
良かった……首が痛くなりそうだったのよね。
世界が闇に包まれる。
先輩が瞼を閉ざしたんだ。
「……寝て起きたら、もとの世界かもしれない……このままかもしれない……どうなるかわからないけど……いちおうお別れを言っておくわね。ジャンヌちゃん、この世界での伴侶探し頑張ってね」
アリス先輩……
「何でジャンヌちゃんに憑依しちゃったんだかわからなかったけど、楽しかったわ。マルタンさんにもレイくんにもニコラくんにも、萌えたッ! ジャンヌちゃんの彼氏たち、レベル高いわぁ♪ 萌え彼百人そろい踏み、楽しみにしてる。ほんと、頑張ってねッ!」
微笑みたくなった。
思い通りに体を動かせないから、今はできないけど。
アタシの萌えカレの中には、アリス先輩もフリフリ先輩も入っちゃってるんですよ。
先輩も、萌えカレの一人なんです。
忘れてるでしょ?
楽しい気分のまま、アタシは……
心地よいけだるさに身を任せ……
そして……




