妖しくも耽美な背徳の宴
一階のリビング・キッチン。
そこに顔を出すと、
「あら〜 ジャンヌちゃん。おはよ」
「ヨカッター 顔色、よさそうネ♪」
「食欲はどう? ふつうに食べられる?」
椅子に座ってるジュネさん、テーブルに料理を並べてたフリフリ先輩とアリス先輩が笑顔で迎えてくれる。
そして、あともう一人。
「よー!」
取り皿を運ぶ、金髪の兄ちゃんが。
「チョリッス! オレオレ、九十七代目、矢崎ユウ。知ってるかなー?」
「知ってますとも!」
日焼けした顔に、人懐っこそうな笑みが浮かぶ。
長めの前髪、整髪剤で固めたような髪。ゴテゴテのピアスとジャラジャラのネックレス、派手なシャツ、更にはブレスレット。何というか……目立つ人だ。
「はじめまして! 百一代目勇者ジャンヌです!」
「オレさー オシショーさまの初弟子じゃん。ジャンヌちゃんとは、マジ兄弟弟子ってヤツ?」
「ですねー お会いできて嬉しいです」
「オレも。ジャンヌちゃん、可愛くてラッキー」
でもって、ウィンク。
「オレっち言霊使いだから、戦力外だ、ジャンヌちゃんに会うなって、言われてたんだけどさー」
アタシの横のお師匠様をチラ見してから、先輩はへらっと笑う。
「まー でも、こーして会えたしwww 人生なにあっかわかんねーよねwww」
軽いわー。
昨晩は言霊使い師っぽくて、格好良かったのに。
こっちが、素?
「まー 座って、座って」
さりげなく肩を抱いて、ユウ先輩がテーブルへと案内してくれる。
細長いテーブルは端によけられていて、椅子があるのは片側だけだ。
「ジャンヌちゃんは、主役だから特等席ね。あとはテキトーで。椅子でも床でも」
真ん中の席からだと、テーブルをどかせて空けた空間がよく見渡せる。
アタシの横には、お師匠様とサイオンジ先輩が座った。
「ジャンヌちゃん、パンケーキ焼こうか? お粥でもヌードルでも作るわよ?」と、アリス先輩。
「ありがとうございます、普通に食べられそうです」
アタシが答えるのとほぼ同時に、ユウ先輩がおどけた声をあげる。
「ちょwww 寝起きにカップ麺? ヤバくないッすか、あっちの人にそのチョイスは?」
「ンなもの出すか。にゅうめんよ。葱と温泉卵を落とした、さっぱり味の、あったかい素麺よ」
「へー 美味そう。さっすが先輩、お料理上手ぅ〜」
「おだてても何も出ないわよ」
「やだなあ。本気本気。ちょ〜美人で、ちょ〜家庭的。理想のお嫁さんじゃん。オレ、いつでも結婚しちゃう。アリス先輩のためなら、氏ねる」
「バカ言ってる暇あったら働け、下っ端。次はドリンクね」
顔を合わせ、アリス先輩とユウ先輩が明るく笑う。
「面白い子よね」
テーブルの端に座ってるジュネさんがうふふと笑う。
「あたしも口説かれたわ。男だって教えたら、ソッコー逃げられたけど」
「そうか。まったく変わらぬな……ユウは」と、お師匠様。
『勇者の書 97――ヤザキ ユウ』を読んだから知ってる。
ユウ先輩は、女の子が大好きで、出遭ったらまず口説く! のスタンスの人。『勇者の書』に仲良くなった女の子について、いっぱいメモしてたっけ。
あと多かったのは、お洒落関係の書き込み。
『ショボーン。なんで、ムースもワックスもドライヤーもないわけ?』だの
『サイテー。オレ、プリンじゃん。テンションあがんねー』だの。
最初は、お師匠様とあんまり仲良くなかった。『やだもう。何このイケメンすぎる人』やら『うぜーつーの。オレ、あんたみたいな冷血サイボーグと違うし』やら腐してた。
でも、途中から『やッべぇ、受けるーwww オシショサマ、おもしろすぎwww』に転向したのよね。
昔を懐かしむお師匠様に、笑顔のサイオンジ先輩が声をかける。
「ユウがあなたの弟子だったのは、ほんの一年前のことです。さほど変わりませんよ」
「そうだった。私には九十二年前だが、ユウには昨年のことだったな……」
から揚げ、サンドイッチ、ほうれん草のキッシュ、カナッペ、手毬寿司という色とりどりの具をのせたライス、ラザニア、サラダ、一口サイズに切ったケーキ。
ユウ先輩は、大皿から一通りの料理を小皿にとってくれ、
「ジャンヌちゃんは未成年だから、コーラねー」
黒くてシュワシュワした炭酸飲料をコップに注いでくれる。
「西園寺先輩はいつもの? オシショーサマは?」
アタシだけじゃなく、テーブルについた全員にサービス。
「二人ともソフト・ドリンクぅ? つまんねーの……。オカマちゃんは、どする? ビール?」
「……あたしの名前はジュネ。教えたわよね、坊や」
ジュネさんが妖しく微笑む。
「覚えられないんなら、一晩かけてじっくり教えてあげてもいいのよ。あたしの名前がぜったいに忘れられなくなるよう、う〜んと濃い夜にしてね」
セクシーなウィンクを避けるように、ユウ先輩は勢いよく頭を下げた。
「サーセン、ジュネさん! オレ、ノーマルなんで! お気持ちだけで! オトモダチでヨロシク!」
「あら〜 残念」
ジュネさんが、うふふと笑う。
「ワイン、どうスか? 赤も白もいいのあります。簡単カクテルも作れますよー ブラッディーマリーとか、お似合いっすよ」
「リンゴ酒ない? あたしのスイートハートが好きなのよ。英雄世界の土産話に飲んでみたいわー」
ケッコー、話がはずんでる。
床にちまっと座ったクロードのもとへは、アリス先輩がお盆に載せた料理とオレンジジュースを運んだ。
「クロードくん、もうちょっと下がって。そこでショーをやるから。顔はあっち向きね」
缶ビールと山盛りの料理を運び、ユウ先輩も床にあぐらをかく。
アリス先輩たち女性陣は、ジュネさんと反対側のテーブルの端に座った。
全員に料理が行き渡ったのを見てから、アタシの背後に立つリヒトさんがショー開始の合図を送る。
《ノヴァ、シュトルム。始めてください》
空いた空間に、薄絹ドレスをまとった二体の精霊が現れる。
勝気そうな、赤髪の美少女。
水色の髪の、おっとりとした感じの美少女。
二人とも小柄で華奢なんだけど、胸がボーン、お尻がバーンなボンキュッボン。
……サクライ先輩の精霊ってみ〜んな童顔で、メロンのように胸が大きいのよね……。
唯一の例外――クール・メガネのリヒトさんが、二体の説明をする。
《炎精霊ノヴァはアジトの護衛役ですので、ジョブは警備員ですね。水精霊シュトルムは、諜報・遊撃・正孝を含むOB会メンバーの影武者等、状況に応じて動いてもらっています。ジョブは工作員になるでしょう》
二人の美少女が、にっこりと微笑む。
とっても可愛い。
《ブリーズ。音楽を》
リヒトさんの指示で、何処からともなく怪しげな音楽が流れ始め……
二人が音楽に合わせ、踊りだしたのだ。
腰をクイックイッ、大きな胸がたっぷんたっぷん……
ちょ……
ちょ!
ちょ!
「何ですか、これは!」
カーッと熱くなった。
二体はお色気たっぷりに踊りながら、アタシに投げキッスやウィンクをして、服を少しづつ脱いでいるのだ。
「ストリップです」
のほほんと、サイオンジ先輩が答える。
いや、それはわかります!
ヒューヒューと口笛を鳴らすユウ先輩。
手拍子をとってるジュネさん。
「キャー素敵ィ、ノヴァちゃぁん、シュトルムちゃぁん♪」フリフリ先輩やアリス先輩の黄色い声。
肌が露になっていくにつれ、みんな、どんどんノリノリに……
「うつむかないで。あなたのためのショーなんですから」
顔をあげると、サイオンジ先輩のニコニコ笑顔にぶつかった。
「アタシのためって……仲間さがしじゃなかったんですか?」
「ええ、そうですよ」
「じゃ、なんでストリップ? しかも、女の子の姿で?」
「もちろん、あなたのためです」
サイオンジ先輩が黒縁メガネをかけ直して、きっぱりと言い切る。
「女の子の姿でとびっきり色っぽくやってくださいと、ぼくがお願いしましてね」
答えになってないんですけど!
「アタシ、裸の女の子にキュンキュンしません! 仲間になんかできませんよ!」
「ぼくもそう思います。リヒトさん曰く、あなたに『同性愛の嗜好は無い』だそうですし」
「だったら、なんで!」
「だって」
サイオンジ先輩は、アタシを通り越し、アタシの隣に座る人を見つめた。
「賢者様が納得してくれないんですよ」
お師匠様は眉一つ動かさず、服を脱いでゆく精霊たちを眺めている。
「おまえは、十六代目アリス殿と、三十三代目フリフリ殿に萌えた」
う!
「オランジュ邸では、メイドが複数働いており、オランジュ伯爵アンヌ様も居られる。戦闘力のない者ばかりを仲間にすれば、おまえは破滅する」
いや……それは、そうなんですけれど……
女の人が好きなわけではなくって……
「あのお二人は例外というか……」
「ぼくも、藤堂さんと一之瀬さんは例外だと思っています」
ウーロン茶を飲みながら、サイオンジ先輩が言う。
「あなたは、もともとあの二人の信奉者だったんですよね? 二人の勇者の書を、愛読書にするぐらいに」
頷いた。
「その上、勇者には勇者に惹かれるという困った特性がある」
この世界の勇者に出遭った時、激しい郷愁を感じた。先輩たちが側に居ると、心がほっこりした。
「勇者ゆえの思慕で、胸がときめいた……と、ぼくは思っています」
「それじゃあ、他の女の人にはキュンキュンしないってことですか?」
「ええ、ぼくはそう思ってますよ」
サイオンジ先輩はにこやかな顔を一層にこやかにした。
「ぼくは、ね」
『ぼくは』のところを強調してから、先輩は掌でお師匠様を指した。
「しかし、賢者様は見解が異なりまして……これからは男の人はおろか女の人からも隔離しようとお考えでした」
げ!
「常に目隠しと耳栓をつけさせるべきかと悩んでもおられましたよ」
先輩が微笑む。とてもとても優しそうな顔で……
「つけたいですか?」
全力で否定した。
先輩が嬉しそうに頷く。
「賢者様に盲目的に従うのはやめるのですものね。なら、身をもって説得しなきゃ。ストリップ・ショーを穏やかな心で見学してください。萌えたら、目隠し+耳栓が標準装備ですよ」
萌えません!
絶対に!
そんなわけで、アタシは……
美女精霊二人の、お色気ショーを見学するはめとなった。
正直に言えば、ドキドキした。
だって、女の人の生胸なんて、見たことなかったし……
二人とも胸もお尻も大きくて、それでいて形が崩れて無くって、ムーディな音楽にのって踊る姿はなまめかしくって……
すごく美しかった。
最後の一枚に手がかかった! 途端、パッと照明が落ち、パパッと灯りが点る。今度は、ピンクがかったライトだ……もしかして、光精霊が演出効果してる?
二人は、二十代のおねえさまに変化していた。ビキニとロングドレスにベールをまとった格好……また胸とお尻が大きいわ。
エキゾチックな音楽に合わせ、柔軟に腰をくいっくい振るのは芸術的。てか、美しい。
美しいけど!
良かった、キュンキュンしない!
アタシは大丈夫だ!
隣のお師匠様を見た。でも、お師匠様は前方を見つめたままだ。無表情のまま、ストリップ・ショーを見ている……
「………」
観念して、大人しくショーを見学した。
リビングはわきあいあいとした、お祭りムード。
真っ赤な顔のクロード以外、みんなショーを楽しんでる。
二人は、いろんなタイプの美形に変身し、いろんな踊りをする。バレエやアクロバットみたいなのやら。絡み合うユリっぽい演出もあったり。
ショーとしては、面白いんじゃないかと思う。
けど、最後には決まって脱ぐんだもん。だんだん、女の人の裸に免疫ができたというか飽きてきたというか……
《ワン・パターンなショーですね》
ポケットから、あきれ果てたと言わんばかりの声がする。
《変身に美学が感じられません。脱げば済むと思って、萌えというものを軽視しています》
ふいに空が揺れ……
アタシの斜め背後に、大きい紫のリボンを頭につけたブロンドの美少女が現れる。青のバルーンミニドレス。透きとおる白い肌、やや目尻の下がった可愛らしい緑の瞳、可憐な赤い唇。愛らしい顔だちだ。
この顔は……
「ルーチェさん?」
導き手やってた時の人型ですよね? 服装はめいっぱいカラフルだけど。
《あなたは女性には絶対にときめかない。賢者様を納得させる為にも、最高レベルの女性と対面すべきです。三流変化しかできない精霊たちになど任せておけません》
一瞬だけリヒトさんに鋭い視線を投げてから、ルーチェさんがパッと消える。
赤髪と水色の髪の、サクライ先輩のしもべ精霊。
その側に、ルーチェさんが現れる。
三人は無言のまま、互いの姿をジロジロと眺め合う。
炎の精霊が、ズン! と胸をそらせ、大きな二つのふくらみを見せつける。今の格好は、ハイレグのレオタードだ。
その挑発的な態度に、ルーチェさんは笑みで応じた。笑うとできる、えくぼが可愛い。ふわりとスカートをつまみ、優雅にお辞儀をする。
水の精霊が着物姿に変身する。首から肩までを露出させた着付け、結い上げた水色の髪には大きな花と飾り玉が挿さっている。英雄世界独特の、異国情緒にあふれるファッションだ。
それに対しルーチェさんは『趣味がお悪いですね』って感じに口元を隠して笑い、着物姿に変化した。
鮮やかな色の着物を重ね着した、重たそうな姿。けど、楚々とした気品がある。てか、ルーチェさん、髪も目も紫色になってるし。
「おいらんVS十二単ですかー いいですねー ノヴァさんも和式ファッションにしませんか?」
サイオンジ先輩は楽しそうだ……
それから、美女精霊三人の変身お色気バトルとなった。
ルーチェさんは、必ず虹色ファッションだ。髪色や衣装やアクセサリー、どこかしらに赤、橙、黄、緑、青、藍、紫を、信念をもって取り入れている。
そして、安易に脱がない。着衣のまま、女のアタシが見ても惚れ惚れするような美しい仕草で動き、可憐にポーズを決めるのだ。指先や足先まで、とっても優雅だ。
ルーチェさんを意識して、炎と水の精霊たちは、より凝った変身をする。
看護師、保母、女子高生、女教師、バニーガール、婦警、社長秘書、受付嬢、サンタさん、カウガール……何の格好だか、サイオンジ先輩がいちいち解説してくれる。
ジュネさん、ユウ先輩、アリス先輩、フリフリ先輩は大興奮。拍手喝采を惜しまない。
幼馴染は、うつむきっぱなしだけど。
ふと見ると、ユウ先輩のすぐ横に、緑の髪の男とクマさんたちが現れていた。
ヴァンはユウ先輩と肩を抱き合って、ピューピューヒューヒューやってるし。
《ピロおじーちゃん、水精霊の太ももに注目! あのメイド服がねー かの有名な絶対領域なんだよー》
《ほうほう、ミニスカートとニーハイソックスの間から見える太腿が萌えなのかクマー。勉強になるのうクマー》
……楽しそうね、あんた達。
《そろそろ、ボンテージ・ファッションなど、いかがでしょう……。仮面と鞭とピンヒールもオプションで、ぜひ……》
黄色クマまで……。
《私は、あなた以外のものに興味はありません》てな水精霊と、
《外見だけの変化では、吾輩の魂と共鳴しないのである》という雷精霊はポケットに残っていたけど。
かくして、宴は夜遅くまで続き……
アタシが女の人にキュンキュンしないとお師匠様は納得してくれたものの、帰還は翌日に持ち越されたのだった……。
翌朝。
目覚めたアタシは、『彼氏の手作り朝食』という胸キュンなメニューをいただいた。
カリッカリのベーコン、ふわふわとろとろのオムレツ、まろやかな酸味のドレッシングサラダ、チーズにバゲット。
そしてそして、コーンポタージュぅぅぅ! クリーミーで濃厚! 舌にやさしくて、なめらか! コーンの甘みと香りが絶品な一品!
美味しすぎて、涙が出そう!
《お喜びいただけて何より》
英雄世界風ファッションのヴァンが、胸に手をあててお辞儀をする。
《オジョーチャンのために作ったんだ、その笑顔が何よりのご褒美だぜ》
すっかり忘れてた。おととい、『明日の朝食作りも手伝う。オジョーチャンの分は、オレが作らせてもらうんだ』って言ってたのよね。
お師匠様の偽者のせいで一日遅れたけど、その分、サプライズ度アップだわ♪
人数分まとめて作ったメニューもあるものの、フライパン料理はアタシ限定。
男の人がアタシのためだけに料理してくれるなんて……嬉しくって、きゅぅぅんと萌えた♪
ポタージュのおかわりをいただいている時、ジョゼ兄さまが現れた。
リヒトさんの移動魔法で運ばれてきのだ。
「よかった……すっかり元気だな」
アタシを見て、兄さまが優しく微笑む。異空間で別れたっきりだったものね、あの時、アタシ、気絶してたし。
「おかえりー ジョゼ!」
リビングに居た幼馴染といっしょに、兄さまのもとへ駆け寄った。
ちょっとくたびれた感じ。
二十九代目の下でハードな修行をしたのかな。目の下に隈ができてて、黒の癖っ毛も乱れている。
「兄さま。おとといは、ありがとう!」って言ったんだけど、
「いいや……」
兄さまはかぶりを振って、笑みを苦々しいものに変えてしまった。
「礼を言われるようなことはしていない」
「そんなことない。兄さまとクロードが駆けつけてくれなきゃ、アタシ、死んでたわ。二人は命の恩人よ」
「ジャンヌ……」
兄さまがアタシをジーッと見つめる。
すごく何か言いたそう。
このところ、兄さまはよくこんな表情をする。
でも、胸のうちを明かさない。
少しせつなそうに、アタシを見つめるだけだ。
「……仲間探しは終わったのか?」
視線を泳がせて、話題を変えちゃうし。
「終わったわ。サイオンジ サキョウ先輩、炎精霊のノヴァさん、水精霊のシュトルムさんを仲間にできたの」
「昨日ねー ジャンヌ、すっごくがんばったんだよ。ストリップ……」
肘鉄で黙らせて、幼馴染は撃退した。
昨日のことは思い出したくない。
てか、広めたくないの!
美女のストリップ・ショーも、かなりナニだったけど!
問題なのは、むしろ後半!
男性のショーの方よ!
なんで、男も脱ぐのよぉぉ!
その上、アリス先輩が『そこ、もっとくっついて! 絡まなきゃ、もったいないわッ!』と演出に口をはさみ、
『ぜんぶ、脱いじゃえ〜』とジュネさんがあおって、
フリフリ先輩が興味津々って顔で『で? ジャンヌちゃんは、どんなCPが好きぃ?』って質問したせいで……
ついついイメージしてしまって……
それをノヴァさんたちに読み取られ……
萌えた!
萌えたわよ!
精霊変化だってわかってたわ!
だけど、下着同然の男性二人が、目の前でイチャイチャするのよ!
そーいうシーン、生で見たの初めてだし!
キュンキュンするわよ! 当然でしょ!
しかも、アタシが一番萌えちゃう組み合わせ!
クール美形と、男くさい筋肉マッチョ。そんな二人が、普通と逆というか、邪道……
ああああ、駄目! もうこれ以上は無理! 恥ずかしくって、思い出せない!
ジュネさんとアリス先輩たちだけなら、とことん腐れたのに! ショーも堪能できたわよ!
でも、クロードが居たのよ! アタシの精霊たちも! ユウ先輩、サイオンジ先輩、リヒトさんも!
でもって、お師匠様も!
お師匠様は、男二人のラブシーンを、いつもと同じ無表情で見つめ、
アタシが萌えると、『良かった。サクライ マサタカ殿の精霊であれば大ダメージを期待できる』と平坦な声で言い、
部屋に帰ってしまったのだ。
それ以上の感想は何も述べずに……。
死にたくなった……
勇者だから、死ねないけど。
落ち込んでたら、
《嫌だ嫌だとおっしゃりながら、心の奥底では半裸の男性をお求めとは……。女王さまのお望みのままに……どうぞご堪能ください……》
などと言って、土精霊はクマ変化をやめ、ブーメランパンツ姿になりやがった。
頭にきて思いっきり蹴っ飛ばしてやったら、周囲の目がますますなまあたたかくなって……。
忘れよう……。
昨日のことは、もう思い出さない。
炎精霊のノヴァさん、水精霊のシュトルムさんを仲間にできた。
それだけで充分よ!
「賢者様! 勇者様! ただいま戻りました! イメージはもうバッチリですぞ! セザール様の義手は、やはり戦闘タイプで! ロケットパンチ、電磁ナイフ、レーザー砲! 小指は着脱式で偵察機に……」
研修からルネさんが戻ったので、帰還となった。
お師匠様が、『勇者の書 7――ヤマダ ホーリーナイト』をリビングの床に置く。
「オシショーサマ、ジャンヌちゃん、まったね〜」
「元気でネ」
「魔王戦がんばりましょうね」
還る直前に贈られた、先輩たちからの餞別。
英雄世界ならではのお土産……缶詰やお菓子なんかが詰まった紙袋。嬉しい心づくしを、アタシは抱きしめた。
「私に続き、呪文を唱えよ」
お師匠様と向かい合っての呪文詠唱も、これで六度目。だいぶ慣れた。
それでも、おでことおでこが重なるとドキドキする。
お師匠様はいつも通りの無表情。
白銀の髪に、すみれ色の瞳。冴えた月みたいに、綺麗な美貌……
ほんの一瞬だけ、その顔に幻影が重なる。
優しく微笑むお師匠様。
その表情をつくったのは、偽者なのに。
魔王が目覚めるのは、六十七日後だ。
英雄世界での出来事、出会った人たち、異世界に行ってしまったサクライ先輩。
いろんなことを振り返りながら、アタシは……
英雄世界に別れを告げ、お師匠様達と共に、もとの世界へと還っていった……