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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
交錯する英雄の轍
66/236

もっと光を!

 闇精霊(ピクさん)がとらえた映像が、アタシの心に流れてくる。


 巨大リッチが、見える。


 さっきまでは見上げていたリッチを、今は上から見下ろしている。

 朽ちかけたローブをまとう骸骨へ、瘴気が群がる様がよく見えた。

 けれども、リッチを襲うどころか、触れることすらかなわない。

 リッチの方が高位。存在の『格が違う』から手出しができないのだ、そんな思考を感じた。


 また視野が変わる。

 冷めた笑みでリッチを見上げる、お師匠様の偽者。

 黒の気のような魔と戦う、兄さまとピロおじーちゃん。

 パンパンパンと見える範囲が切り替わった後、杖を手にしたクロードをジッと見つめる。

 紫雲の上にたたずむクロードのすぐ横に、アタシはぶっ倒れている。目も開けていない。たぶん気絶してるんだ。

 ピクさんが送ってくる情報を眺める事しか、今はできない。


 クロードを視界に捕らえたまま、その手前のものまでがいっぺんに見えるようになる。

 リッチは巨大だ。

 クロードの倍以上のデカさ。二階建ての建物より大きそう。


 リッチが、ゆっくりと杖持つ右手を動かす。

 と、同時にクロードも動く。巨大リッチとまったく同じように。


 同調(シンクロ)してるんだ。


 クロードの杖頭とリッチのそれが、前方を指し……


 それだけで、魔法が発動した。

 魔法の詠唱無しで。


 リッチの杖の先端から、光が炸裂する。


 多彩な光が激しく弾け、凄まじい勢いでぱーっと散ってゆく。

 まるで花火のように。


 四方八方。

 異空間の隅々にまで広がったそれが、行く手に存在する敵を貫き、破壊してゆく。


 鮮やかな光は、術師の魔力そのものだ。

 炎、水、風、土、氷、雷、闇。光系を除く七種の攻撃魔法が同時に発動している情報(こと)を、闇精霊が教えてくれる。

 炎の魔には水の刃となり、水の魔には雷の刃となる。

 弱点をつかれ、穢れたもの達は一斉に消し飛んだ。


 何万という魔が消えゆくのを、アタシは感じた。


 閉ざされた、でっかい異空間。

 そこに満ちかけていた魔を全て祓ったのだ。

 圧倒的な魔力をもって、たったの一撃で。


 しかも、七色の光は味方には異なる効果をもたらしている。

 鮮やかな光が、兄さまや、クロード、精霊たちに、スッと沁みこんでゆく。

 アタシの内もあたたかくなる。アタシと同化しているピクさんの力が、満たされたのだ。


 敵に対しては相手に合わせた属性攻撃を仕掛け、味方には魔力やら戦闘力を補充(エネルギー・チャージ)


 全体攻撃兼全体回復。

 一粒で二度美味しいというか。

 美味しすぎるというか。


 クロードがさっき使った雷魔法とは、何もかも桁が違う。

 威力も、範囲も、もたらす効果も。


 大魔法使いの魔法なのだ。


 魔はすべて消え去り……

 残るは、お師匠様そっくりな敵と、その背後の黒い空間に浮かぶ裂目――次元穴のみ。

 数多くの光が突き刺さった次元穴は、沈黙している。噴出口を塞がれた為、他次元のものを噴出せなくなったらしい。


 お師匠様の偽者は、静かに微笑んだままだ。

 リッチの攻撃をくらったろうに、平然としている。ダメージになっていない?


 リッチの七色の光が消え去る前に、兄さまは動いた。

 道を塞いでいた魔が消滅したのだ。

 一気に距離をつめ、お師匠様の偽物へと炎の拳をふりかざす。


 お師匠様の偽者の足元が凍る。アタシの氷精霊の足止めだ。


 逃れられぬ敵へ、燃える拳が迫る。


 けれども……

 それが達する前に、兄さまの体は後方に大きくはじかれた。


 ほぼ同時に、

「ぎゃう!」

 変な声をあげながら、アタシの側のクロードも転倒した。


 アタシも、衝撃を感じた。

 突風に煽られた……そんな感じだ。

 感じたのは、アタシ自身なのか、闇の精霊(ピクさん)なのかはわからないけど。


 つづいて襲い来る圧迫感。何か巨大なものに、のしかかられているみたいだ。


 お師匠様の偽者は、何もしていない。

 その場にたたずんでいるだけだ。

 なのに、アタシたちはまったく動けない。


 恐慌(テラー)

 上位者には抗えない。

 四散。


 誰のものかわからない思考が、頭に流れこんでくる。


「魔族の力を借りるとは……勇者の仲間にしては面白いことをしてくれる……」

 お師匠様の偽者が放つ気。威圧的なそれに、アタシたちは萎縮しているのだ。

「だが、役不足だ。私を討ちたくば、私に等しき光のものを呼ぶがいい」


 心の目に、空に飲み込まれるようにスゥゥッと巨大なリッチが消えゆくのが見えた。

 術師(クロード)の集中力が解けた為、姿を保てなくなったのだろう。


 次元穴を塞いでいたリッチの力も消え失せ、穴から再び魔が溢れ出す。


《ジャンヌ!》

 アタシに覆い被さる黒の気――ピクさんだ。


《我が存在にかけて、精霊支配者を守護する!》

 ピロおじーちゃんの声もした。


 魔の気配が濃くなるにつれ……


 苦痛が激しくなる……


 頭が朦朧として、視界が霞む……


 重い……

 苦しい……


 冷たい汗が全身を流れ、何時の間に体は震えていた。


 力の差がありすぎる。



 あいつは本気を出してない。

 どころか、まともに攻撃もしてない。


 なのに、アタシは何もできないのだ。


 兄さま、クロード、ピクさん、ピロおじーちゃん……

 兄さまやクロードの精霊たち。


 数多くのものに守られながら、起き上ることすらできず、みんなを危機に晒している。


 悔しい……


 力が……欲しい……


 みんなを救えるだけの力が……


 究極魔法。

 どんな敵にも、4999万9999の固定ダメージを与える魔法。

 あれなら、神様の力を借りた神聖魔法だ。お師匠様に化けたあいつを倒せるかもしれない。

 だけど、使ったら、アタシは死ぬ。あれは自爆魔法なんだ。


 勇者が死んだら、魔王を倒すものがいなくなる。アタシの世界はおしまいだ。


 それに、お師匠様の偽者は言っていた。


 魔王と勇者がある限り、終わりなき過ちが繰り返されるだけ……

 その愚かなる輪を断ち切りたい、と。


 究極魔法を使って死んでも、あいつを喜ばせるだけ。


 ぜったい、死ぬもんか。


 死なずに、みんなを救う。


 できるかわかんないけど、何かしたい。


 何もしないで負けるのは、嫌だ。


《ジャンヌ……》

 苦しそうなピクさんの声が聞こえ……

 ぼんやりと何かが見えた。


 どこまでもどこまでも続く闇の世界。

 アタシたちが封じられている、闇の異空間。


 そこにも、果てはある。

 異空間を他空間から隔絶させる境界。結界でいえば障壁にあたる部分だ。

 人の目にはただの闇にしか見えなさそうだけど、闇を司るピクさんにはそこが異質なもの――境界とわかるようだ。

 闇空間をすっぽりと覆うそれを、ピクさんは強く意識している。


《よぉぐ見で》

 ピクさんの見るものが、アタシにも見える。

 異空間の境界。

 闇の壁。


 真っ黒なそれをジーッと見つめると……


 小さな小さな穴が見えた。


 針の先でついたような、ものすごく小さな穴が闇の壁に散っている。


 ほんの微かに、クロードの魔力を感じた。

 さっきのリッチの七色光の爆発攻撃で開いた穴だ、穴を開けるために魔法使いはあの攻撃をしたに違いないと、ピクさんが教えてくれる。

《あのこぇぇヤツは、穴に気づいてねえ。あいつ、ものすごく大きいがら、小さなもんは目に入らねんだ。おらと同化して、その先を見てけろ》

 逃げろってこと? と聞くと、かぶりを振る黒クマのイメージが伝わってきた。

《逃げらんねえ。おらもピロ様も動けねえんだ。だで、あれをよぉぉぐ見で、ジャンヌ。穴の先は、何百って世界に通じてるけんど、ジャンヌの知った世界があるかもしれねえ。助けを呼ぶんだ》


 穴の先は異世界……


 そう意識した途端、一つの穴に目が吸い寄せられた。


 光を感じる。


 穴の向こうに、アタシが居る。

 アタシの一部が、居る。

 そんな気がする。


 親兄弟よりも親しいもの。

 半身に等しいもの。


 魂で繋がった大切な人が、あの向こうに居るんだ。


 声が出せないから、アタシは心の中でひたすら思った。


 アタシはここに居ます。

 憎ったらしいお師匠様そっくりなヤツは、魔王級の強さだそうです。

 あいつをぶっとばせる光をどうかもたらしてください、と。



* * * * * *



「見つけた!」


 右の掌に意識を集中し、特殊能力(ギフト)の一つ――時空操作を発動。

 意識の及ぶ範囲内の時空に干渉する力……と言っても普段は、ゴミ捨て(いらない物やら銃弾やらを送る)か、スピード・アップぐらいにしか使っていない。


 高位の神魔は時空を越える事はむろん、異世界へ自他を楽々と送れる。

 が、僕の時空操作能力は、そこまで大それたものじゃない。

 行き先がコロコロ変わる異次元通路。

 それがたまたま目的の世界に繋がった時に、暫時固定するぐらいしかできない。


 形のない次元の切れ目に、『内に開いた扉』という形を与える。

「開けといてくれ」


 精気を光とし、右の掌に集わせ、刃とする。

 精神剣(サイコ・ソード)

 七代目勇者の時代に愛用した武器だ。


「五分以内に戻る」

 僕の能力では、そのへんが限界だ。

 それだけ言い残し、異次元通路に飛び込んだ。

 


 扉の先は、真の闇だった。

 漠々たる闇が広がるだけだ。どれほどの広さがあるのかも検討がつかない。


 踏み込むと同時に、僕の体を薄膜のような光の結界が覆う。

 配下の精霊デヴィウスが緊急対応で張ってくれたのだ。

《この世界は瘴気に満ちていますわ。呼吸すれば、体内を魔に侵されます。息を殺したところで、皮膚から邪気が浸透し、皮膚は爛れて溶け、人ならざるものへと堕ちてゆくでしょう》

 デヴィウスだけじゃない。僕と行動を共にしている四十八体のしもべ。そのほとんどが、守護に回った。そうでなければ、僕が危険だと判断したのだ。


 確かに敵は、主神級のS級の神魔らしい。


 こんな世界に落とされたのだ、少女勇者は死亡したに違いない、彼女の存在を何処からも感じられない、と身の内の精霊達は言う。


 だが、闇の彼方からジャンヌくんの気配を感じるのだ。

 まだ生きている。


 上位者とやらの力で、僕の精霊(しもべ)達は知覚を狂わされている。

 精霊達の五感は人間よりも遥かに優秀なので、いつもは彼等の目や耳を借りるんだが……

 自分の感覚だけを頼りに動くしかなさそうだ。


 勇者には勇者がわかる。

 僕が最も心惹かれる場所に、ジャンヌくんは居るはず。


 ジャンヌくんも、精霊支配者。おそらく配下のものに守護結界を張らせ、かろうじて保っているのだ。

 しかし、それにもいずれは限界がくる。

 彼女の配下(しもべ)は、八体しか居ないのだ。


 急がねば。


 時空操作でスピードをめいっぱい上昇させ、真っ暗な世界を走る。

 視界がきかないんで、全て勘だ。


 精神剣を振るい、進行方向を塞ぐ敵を祓う。


 精神剣には、神聖魔法のみを籠めた。

 剣が払えるのは、邪悪だけ。うっかりジャンヌくんたちを斬ることはない。


 ここが僕の世界と繋がっている時間は、わずかだ。


 ユウが言霊で、片桐くんが怪力で、扉を閉じさせまいと頑張ってくれてるだろうが。


 異次元通路が閉じたら、僕もこの世界に閉じ込められる。


 時間との勝負だ。



* * * * * *



 体が押しつぶされそうな、重圧。

 そして、全身のしびれと寒気、息苦しさ。


 苦しくって意識を失いかけた時、穴が変化した。

 針の先程の小さな穴が、みるみる大きくなって、扉となり……


 中から、助け手が現れたのだ。



 胸がキュキュキュキュキュンキュンと鳴った!



 心の中でリンゴ〜ン、リンゴ〜ンと鐘が鳴って、欠けていたものがほんの少し埋まっていく、いつものあの感覚がした。


《あと六十四〜 おっけぇ?》だの、

《あと六十三〜 おっけぇ?》だの、体の内から神様の声がした。



 けど、アタシはろくに聞いていなかった。


 闇精霊の目を通して見える世界が凄すぎて、心を奪われていたのだ。


 真っ先に飛び込んで来たのは、サクライ先輩だった。

 超新星のようにド派手に輝いているわ、右手に光の剣を持ってるわ。

 先輩の剣は、槍のように長く、鞭のようにしなり、闇を切り裂いた。

 光り輝く美しい剣と、凛としたサクライ先輩。

 闇の世界を駆けるその姿は、まさに勇者だった……


 それから、扉の側にもイケメンが二人。


 一人は、筋骨逞しいマッチョな男性。

 向こうから扉に体をねじこみ、両手をつっぱらせている。閉じかけている扉を、押さえているのだ。

 両手がキラキラと光っているから、力押しだけでやってるんじゃなさそうだけど。

 刈り上げた短い黒髪、半袖シャツから現れている太い腕、屈強そうな体、キッと前方をみすえる鋭い眼。雄々しいハンサムだ。


 もう一人は、マッチョの後ろにいる。金の髪の、ほっそりとした男性。

 優しそうな顔立ち、小麦色の肌、やたら派手な柄の開襟シャツ、ジャラジャラとした首飾り。

 武とは縁のなさそうな優男は、目を半ば閉じ、絶え間なく口を動かしている。呪言葉を詠唱しているんだ。


 扉前の二人が見えた途端、胸はキュンキュンした。

 まるで生き別れの家族と再会したような……そんな喜びすら湧き上がった。

 サクライ先輩と出逢った時とまったく同じ心境。

 あの二人も勇者なのだ。


 もう駄目かもと思った瞬間にイケメン登場。

 しかも、三人も。でもって、全員勇者。

 感動して、キュンキュンもするわよ。

 乙女のピンチに颯爽と駆けつける美男子――白馬の王子様は、乙女の萌えツボだもん!


 ほんの少しだけ気力が戻った。


 サクライ先輩の強さは、半端なかった。

 魔族も瘴気も恐慌(テラー)もものともせず、そこに在るものを弾き飛ばし、なぎ払い、突進してくる。

 先輩の手のキラキラ剣は、たぶん精神剣(サイコ・ソード)だ。精神力によって生み出される武器。

 精霊の目を通して見ると、先輩は吹きすさぶ光の嵐だ。何もかもが、アタシとは桁違い。てか、精霊ですら動きが封じられる世界で爆進とか、おかしすぎる。


 けれども……

 お師匠様の偽者は、笑っていた。

 接近しつつあるサクライ先輩を見つめる眼差しも、冷ややかだ。


 逃げようともしなけりゃ、戦おうともしない。

 ただ、面白そうに眺めているだけなのだ。


 猛進撃中のサクライ先輩も二人の勇者も、歯牙にもかけていない。


 そうとわかって、ぞっとした。


 このままでは負ける……

 兄さまたちや、駆けつけてくれたサクライ先輩すらも巻き込み、アタシは殺される。


『私を討ちたくば、私に等しき光のものを呼ぶがいい』

 お師匠様の偽者はそう言っていた。


 敵は、創造神、破壊神、魔界の王(ランク)の存在。精霊ですら塵芥としか思わない敵。


 まだ光が足りないのだ。


 もっともっともっと強い光が欲しい。


 もっと光を! とアタシは祈った。

 苦しい時の神頼み。

 今のアタシは動けないんだもん。祈ることぐらいしかできない。


 (せいぎ)は邪悪に負けちゃいけない。

 あの邪悪を祓えるだけの光をもたらしください。


 必死に願ったわ。

 生まれてから初めて、たぶん一番真剣に。


 そして……


 その願いは、聞き届けられた。



 何処からともなく聞こえる高笑い。

 その後、

「良くやった、女。自ら囮となり、この俺様の為に獲物を用意しておくとはな! 見上げた、下僕根性! 誉めてやろう!」

 てな声が続いたのだ。


 でもって、いきなり世界がまぶしくなる。


 輝かしすぎる光は、お師匠様の偽者のすぐそばに唐突に現れた。

 そこにあったはずの魔の出現口――次元穴を吹き飛ばしての登場だ。


 お師匠様の偽者が、意外そうに背後を振り返る。

「次元穴を浄化したのか……」


 闇の世界を強烈に照らす光。

 地に落ちた太陽とも、光の爆発とも見える。

 ド派手すぎるせいか、闇精霊のピクさんにはそれの姿を正確に捉えきれない。

 けど、腰をくねっとひねり、右手を前につきだしたアレなポーズをとっていることだけは、ものすごく良くわかった。


「詐欺、誘拐、誘惑、殺人幇助の現行犯だ。しかし、そんなものがなくとも有罪なのは、自ずと自明! 勇者の死を願う、愚かなる罪人よ! 世界の滅びを望む、穢れしものよ! 内なる俺の霊魂が、マッハできさまの罪を言い渡す」

 こ、この馬鹿げたしゃべりは間違いなく……


「有罪! 浄霊する!」


 やっぱ、マルタン!


 壁の先は、あっちこっちに通じてる、アタシの知った世界もあるはずだって、ピクさんは言ってたけど……


 まさか、あんたが来てくれるなんて!


 嘘みたい。


 嬉しい。


 胸がキュンキュンと鳴った。


 ちょっとだけ見直したわよ、マルタン!

 乙女のピンチに駆けつけるなんて、やるじゃない!

 邪悪祓いは、あんたの数少ない長所!

 珍しくあんたが役に立つ時よ!

 思いっきりやっちゃって!


 全身からまばゆい光を発する使徒様は、親指を下に向けたいつものポーズ中。

 おぼろげに、非常識なほど光り輝く姿が見える。

 七三分けの黒髪、黒縁のメガネ、ひょろっとした背、白い着物に紫の袴。


 邪悪と対峙する悦びのあまり笑顔になっている顔は、ものすごく凶悪だけど……


 亜麻色の髪で青い瞳、宗教ちゃんぽんな怪しい神父服なマルタンとは、あまりにも似ても似つかぬ姿で……


 あ?


 あれ?


 えぇぇ?


「また、貴様か……」

 お師匠様の偽者が冷たく笑う。

「その体で私が祓えるのか?」


「きさまこそ、その体で俺に勝つ気か?」

 メガネの男が、ふんぞりかえって顎をつきだす。

「俺が本気になれば、きさまなど敵ではない。マッハで滅びるぞ」

「ほう? その器で力を解放する気か? その男、死ぬぞ」

 ククク・・とメガネの男が笑う。

「構わん。邪悪を粛清することこそが、俺の存在理由・・・この男は、正義の為であれば喜んで死に、聖戦の礎となる。そうでなければ、俺の器には選ばれん」


 何か物騒な話をしてるんですけど!


 口調もしゃべってる内容も、どー考えてもマルタン。


 だけど、その姿は別人で……

 器って言ってた……


 て、ことは……憑依?


 この男の人に、マルタンの魂が憑いている?


 けど、何で? どうして? どうやって?



 呆然としている間に、マルタンはいつものアレな魔法を完成させていた。


「その死をもって、己が罪業を償え・・・終焉ノ(グッバイ・)滅ビヲ(イービル・)迎エシ神覇ノ(ブレイク・)贖焔(バーン)!」


 どデカい白光の玉が現れた! と思った時には、流星のような光が遠くから突っ込んできていた。


 サクライ先輩の精神剣が、お師匠様の偽者を貫き……


 全てが白光に包まれていった……

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