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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
精霊の棲む領界
55/236

しもべ戦隊参上ッ!

「ご無事の帰還、何よりです。みなさん、精霊界での成果はいかがでしたか?」

 出迎えた学者がそう言った。

 ので、帰還早々だったけど、アタシは自慢の精霊達を見せてあげる事にした。



《アカグマー》

《モモクマ〜》

《シロクマー》

《クロクマー》

《キーグマー》

《ミドグマー》

《ムラグマー》

《ニジクマー》


《八体そろって》

 クマさん達が声をそろえて、叫ぶ。

《しもべ戦隊クマクマ(エイト)!》

 どど〜ん! と演出効果の八色の炎! バンザイする八体のクマさん!


 魔法絹布の前で、ヒーロー・ショーをするぬいぐま達。


 か、か、か、か、かぁわぁいぃ〜〜〜〜!


 胸がキュンキュンキュンキュン鳴った!

 鳴り響いてしまった!


 何度見ても、いいものはいい!

 ときめいちゃう!


 みんな、かわいい!


 それにしても、ルーチェさんの虹色クマさん、カラフルだなあ……

 体の色がレインボー……大胆なデザインだけど、これはこれでアリでしょ!


 兄さまとクロードが惜しみない拍手を送り、ドロ様もフフッと笑いながら手を叩いてくれる。

 お師匠様は、精霊界との行き来に使った『勇者の書 39――カガミ マサタカ』を物質転送で片づけていた。しもべ戦隊には、特に感想はなさそう。でも、いいの! お師匠様が無表情なのは、いつものことだし!

 使徒様は、ケッ!て感じにそっぽを向いている。だけど、いいもん! あんたにはわかってもらえなくても、気にしない!


《か、かわいい……》

 ほら、ニコラには好評!

 ゴーレムのピアさんと手をつなぎながら、白い幽霊は頬をゆるませている。


「あらあらあら。クマちゃんたち、愛らしくて格好いいですわね」

 侯爵家令嬢シャルロットさんも、しもべ戦隊を優雅に称えてくれる。

 その足元には、預かりものが。使徒様のゴーレム『ゲボク』だ。床よりほんのちょっとだけ浮いているそれは、伏せをする忠犬のようにも見える。


 よし! みんなのハートをわしづかみ! 一部(マルタン)を除いて!


 どう、テオ、アタシの精霊達は?


 振り返ってみた。

 アカデミックドレス、正方形の角帽、銀縁の眼鏡。

 学者様は、両腕を組んで、ジーッとアタシのしもべを見つめている。

 感情を排した、観察者の眼で。


 チッ。

 ノリの悪い奴。


……もうひと押し?


 アタシは、クマさんたちの背後にいる奴に合図を送った。

 肩より下の辺りで水色の長髪を結んだ、水色のローブの男。人間を模したその姿は、この精霊が自主的にとっている姿だ。

 ぬいぐまになるのを拒否ったこいつにも、ヴァン達はちゃんと役を振っている。

《やらなくてはいけませんか……?》

 心の中に、嫌そうな声が響く。アタシだけに話しかけているんだ。

 やるのよ、当然でしょ! アタシの精霊の素晴らしさを、テオにもわかってもらうのよ!


 アタシの心を読んだラルムが、フーッと溜息を洩らし、顔をひきつらせながら右腕を水平にあげ、人さし指を弱々しく伸ばす。

《い、行け……しもべ戦隊クマクマ(エイト)よ……》


 こら、ラルム!

 あんた、長官役なのよ! もっとビシッと決めなさい!

 大根!


《とう!》

 八匹のクマさんがジャンプ!

 空中で八色の光となって、部屋中に散り散りとなる。


《うわー!》

 ニコラが目をキラキラと輝かせる。


 光と化していた精霊達は、会場(オランジュ邸のアタシ用の部屋)にいい感じにばらけて、着地。

 ぬいぐま変化をし、思い思いの決めポーズをとる。

 でもって、

《しもべ戦隊クマクマ(エイト)!》

 息もぴったりに声をそろえる。


 素晴らしい!

 完璧だわ!

 格好いいわ、クマクマ(エイト)


 学者様へと目を向けると……

 手帳を開いて、メモをとっていた。


 ヒーロー・ショー見てよ……


「勇者様の精霊は……炎が二体で、それ以外の、水、風、土、雷、闇、光は一体づつ……」

……やけに冷めてるわね、あんた。

 ぶぅ。

「炎も一体よ。ピンクのクマさんは、兄さまの精霊のピナさんよ」

「ああ、そうなのですか……炎も一」

 テオが首を傾げる。

「……質問します、あちらの……」

 しばし何と言おうか考えてから、テオは言葉を続けた。

「趣味があまりよろしくない配色のクマは、何精霊なのでしょう? お教え下さい」

 学者様が指さしているのは、虹色クマさんで……


《今、聞き捨てられないことをおっしゃいましたね、そこの方》

 虹色クマさんがズン! とテオに詰め寄っていく。

《このヴィヴィッドな七色の配色! 繊細でありながら、それでいて大胆な、色のマジック! この七色は、虹色です! 私が光精霊である事は、一目見ればわかるでしょう!》

「……失敬。わかりませんでした」

 でもって、テオが火に油を注ぐ。

「光精霊はあちらの方、一体だけかと思いました。勇者様の光精霊は二体なのですね」

 テオが指さしているのは、ピロおじーちゃんで……


《ピロ様は氷精霊です!》

 ルーチェさんが空中に浮かびあがり、テオの襟をガシッ! と握る。

《白クマだから、光精霊だと思いこみましたね?》

「あ、ええ、まあ」

《愚かな! 光(イコール)神聖(イコール)白という図式、安直すぎです! 古すぎます! 白光には虹色が含まれているのです! 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。その七色が揃ってこその光! 私は虹色を愛し、虹色ファッションを貫いているのです!》

「はあ、そうなのですか」

 テオはあきれ顔だ。

 そんでもって、言ってはならない一言を……

「……勇者様のしもべになるだけあって、普通ではないというか……特殊な思考の方なのですね」


《落ちつくのじゃ、光精霊よ。殺人はマズイのじゃクマー。勝手に()っては、光界に強制送還、その後、消滅処分になるぞクマー》

 白クマさんが、虹クマさんを羽交い絞めにして止める。

《どうしても()りたいのであれば、主人(あるじ)の許可をとるべきである》

 ちょっと、ちょっと。煽らないでよ、紫クマさん。

《つーか、そいつ、オジョウチャンの伴侶の一人だろ? 殺したら、託宣がかなわなくなって、オジョウチャンが破滅だぜ》

 緑クマさんの言う通りよ!


「落ち着いて、ルーチェさん。あいつは、ファッション・センスが悪いのよ。お洒落に興味がないんだわ。毎日毎日、飽きもせず学者のアカデミックドレスだもん。服装にまったく頓着しない、野暮ったい(ヒト)なのよ」

「勇者様。誤解です。私がこの格好で通しているのは、貴族としてではなく、学者として生きたいという意志表示であって、」

 黙れ、今はあんたの相手をしている暇はない。

「ダサい男に、最先端のファッションが通じなくてもいいじゃない。アタシは大好きよ、ルーチェさんの七色ファッション! 格好いいし、かわいいもの!」


 ルーチェさんがつぶらな瞳で、ジーッとアタシを見つめ……

 それから、アタシの胸に飛び込んでくる。

《勇者ジャンヌ……あなたの心の中は、私のファッションへの理解と称賛に満ちています……あなたのしもべになって良かった》

 もふもふの虹クマさんを、ぎゅっと抱きしめた。

 アタシも、ルーチェさんがしもべになってくれて嬉しいわ!


「勇者様の精霊は、炎、水、風、土、氷、雷、光、闇が一体づつ……光精霊は、特殊な趣味……」

 メモをとっている男を、ルーチェさんと共に睨みつけた。

 アタシの精霊たちは、みんな、素晴らしいのに!

 最高なのに!

 この馬鹿にわからせる方法はないものかしら!


《ありますよ》

 アタシの心を読んで、ラルムがあっさりと言う。

《所有精霊への評価を向上させれば、良いのでしょう?》

 え?

 まあ、そうだけど……

《実行します》

……どうぞ。


 でも……

 できるのかしら、ラルムに?

 最近、いじめられっ子な印象が強いんだけど……


 水の精霊が、テオの前まで歩み寄る。

 何ごとかと、メガネをかけ直す学者。

 水色の髪に水色のローブ。ラルムは、自分の胸にそっと手をあてた。

《この姿は、三十九代目カガミ マサタカ様の移し身です。髪、目、服の色以外は、忠実に再現しています。あなた方の時間にして約千百年前……水界を訪れたあの方と、私は出逢っています》


「!」

 目を見開く学者。


 テオの前で、ラルムが変化する。

 髪と目とローブの色を、闇のように黒く染めたのだ。

《これで、完璧です。身長や体重はもちろん、髪のツヤも、肌のハリも、服の皺にいたるまで、完璧にカガミ マサタカ様です》


「カガミ、マサタカ様……三十九代目様……」

 テオが頬を染め、うっとりとラルムを見つめる。

「なるほど……凛々しく、知的で、お美しく……たしかに、三十九代目様にふさわしい容貌……」


 そーか。

 その手があったっけ。

 勇者おたくだもんね、テオ。

「嘘じゃないわよ。アタシの水精霊は、三十九代目のそっくりさんよ」


《カガミ マサタカなら、わしも会ったことがあるぞクマー》

 白クマおじーちゃんが、ホホホと笑う。

《人とは思えぬほどの輝かしい存在での、あれが氷界に現れた途端、全ての精霊たちが骨抜きになってのう、カガミ マサタカを争って氷界は揺れに揺れ、》

「おお……是非、詳しく教えていただけませんか」

 メモをもつ手もおろそかに、テオがめいっぱい瞳を輝かせている。


 勝った!

 アタシの精霊の素晴らしさを、この馬鹿にわからせたわ!

……わからせた、と思う。


「あらあらあら。いけませんわ、テオ兄さま」

 シャルロットさんがコロコロ笑いながら、またいとこ(テオ)の左手をそっととる。

「ご興味がおありなのはわかりますわ。でも、先になさる事がおありでしょう?」


 テオがハッとする。

「失礼。そうでした。八大精霊のことを含め、伺いたいことは山ほどあります。ですが、まずはご休憩なさいますよね? 食事の準備をさせましょうか?」


「まあまあまあ。ほ〜んと、テオ兄さまったら」

 シャルロットさんが口元に手をあてて、コロコロ笑う。

「レディがいらっしゃるのよ。まずは、湯あみでは? 身だしなみを整える時間すらさしあげませんの?」


「あ」

 テオは微かに頬を染め、眼鏡のフレームを押し上げた。

「失礼。ご希望を伺います。湯あみ、食事、睡眠。いずれになさいますか?」


「コーンポタージュ!」

 叫んでから口を押さえた。

 つい、心の叫びが……

「ポタージュ飲みたいわ……だけど、その前にお風呂がいいかな」

 頭が、ちょっとかゆいし。

 

「俺は風呂は後でいい」

 ジョゼ兄さまがおなかに手をあてる。

「肉が食いたい」


「ボクもー」と、クロード。


「俺も食事を先で。まともな食事に飢えてるんで」と、フフッと笑いながらドロ様。


「ククク。俺も腹にガツンとくるものを・・」

 と、マルタンは言いかけたんだけど、

「使徒様。お留守中に、聖教会からお手紙が届いておりますわ」

 シャルロットさんに手紙を載せた銀の盆を差し出されて、後の言葉を忘れる。

 封筒を受け取ったマルタンは開封し、手紙を開き……

 チィッ! と、大きく舌打ちをしたのだった。


「まったくもって、完璧に、どうしようもない、無能どもめ!」

 手紙をくしゃっと握りつぶし、マルタンがテオへと叫ぶ。

「メガネ。風呂だ。大至急、風呂を用意しろ。俺は聖教会へ行かずばならん」


「何ごとです?」

「悪い知らせなの?」

 テオとアタシが、ほぼ同時に尋ねる。

 マルタンが亜麻色の髪を、派手に掻く。忌々しい! と叫ぶばかりに。

「巨悪が動いた。俺は祓っておけと言ったのだ。しかし、慈悲だ何だとほざき、真実から目をそむけたふぬけどもが、体裁ばかりを気にしたが為に・・」

 宙をみすえる使徒様。その左手が動いている。掌を開いては閉じ、閉じては開きを繰り返す。

「邪悪を粛清することこそが、俺の存在理由・・・あれを祓えるのは、おそらく、きっと、もはや、神の使徒であるこの俺だけであろう」


「どんな敵だ?」

 お師匠様の問い。

「魔王に関わる邪悪か?」

 使徒様は、目を細めた。

「・・賢者殿の問いであっても、答えられん。アレに関しては、緘口令が敷かれている。だが、まあ・・無縁ではないとだけお伝えしておこう」

「そうか……」

 お師匠様が、マルタンへと静かに頭を下げる。

「すまぬな、マルタン。勇者ジャンヌの為に、邪悪祓いを頼む」

 マルタンが微笑む。こういう顔もできたのかと思うほど、嬉しそうな顔で。

「賢者殿の為にも、後顧の憂いなきよう、完璧に完全にパーフェクトに祓ってくれよう」


 使徒様の目が、アタシへと向く。

「そういうわけだ。女。しばらく俺は邪悪退治の旅に出る。だが、俺が側にいないからといって、光の道を外れるなよ。きさまが邪悪と化した日には、神の使徒たるこの俺が粛清せねばならなくなる」

 なんないわよ、邪悪には。ったく、もう。

「あんたこそ、気をつけて。怪我しないように、ね」

「フッ。いらん心配だ」

 使徒様が鼻で笑う。

……かわいくない。


「使徒様。お部屋に、湯あみの準備を整えさせましたわ」と、シャルロットさん。

「でかした、クルクルパーマ」

 変なあだ名をつけられたのに、シャルロットさんはにっこりと微笑んだままだ。大人だなあ……。

「軽食も運ばせますわ。聖教会の戒律にのっとったメニューで準備させますが、お食べになりたいものはございます?」

「気のきく女だ・・何でもいいが、果物をつけてくれ」

 へー 果物(フルーツ)好きなのか。知らなかった。


「来い、ゲボク」

 使徒様に呼ばれ、白い雲そっくりなゴーレムがふよふよと動き出す。

「『ゲボク』さんには毎日魔力をさしあげましたわ。すぐにでもお乗りになれるかと存じます」

「何から何まで天晴だな、クルクルパーマ。どっかの勇者に、きさまの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぐらいだ」

 む!


 使徒様が、ひらりと白い雲に乗る。

 使徒様のゴーレムは、飛行形態だ。乗れば、歩かないでも移動できる。

 でも、『ゲボク』はドアノブを回せない。

 扉の前でいったん降りて、ドアを開ける使徒様。……マヌケだわ。


 背中のマントラ模様を見せつけながら、使徒様が軽く左手をあげる。


「きさまらに、神のご加護があらんことを。あばよ・・・」


 いいから早く旅立ちなさいよ、あんた……




「お食事の方は隣室へ。賢者様のお部屋にご移動ください」

 テオが咳払いをする。

「……勇者様は、どうぞこのままお部屋に。召使いに、入浴の準備をさせます。お疲れのようでしたら、今日はこのままお休みくださっても構いませんので」

 あら。

「へーきよ。さっぱりしたら、みんなと合流するわ」

「了解です。しかし、明日にも異世界に赴き、仲間探しの旅を再開していただくのです。かよわい女性の身なのです。精霊界での話は、他の方からでも伺えますので、決してご無理はなさらぬよう願います」


 むぅ……

 恥ずかしいような、嬉しいような。

 テオは、アタシを女の子扱いしてくれる。キツい事をバシバシ言うけど、根は紳士なのよね。


 でも、次にどんな世界に行くか気になるし……

 それに……

 アタシは、テオからドロ様へと視線を動かした。


 ドロ様が、八大精霊を全てゲットできるかどうかの賭け。

 その賭けの勝者と敗者がどう動くのかも気になる。


 テオは、たぶん勝敗がわかっている。

 ドロ様の両手の指輪を一瞥していたし。

 契約の証の指輪だって、知識があるから気づいているはずだ。


 ドロ様は余裕の笑みをもって、テオを見つめるだけ。

 テオが言いだすのを待っている感じだ。


「勇者様?」

「あ、ううん。何でもない。お風呂から出た頃には、みんなも来てるかなあ、と。ちょうどいいわよね」


「セザール様、ルネさん、エドモンさん、ジュネさんは間もなくいらっしゃいますわ。先ほど、ジャンヌさん達のご帰宅をお知らせに使いを走らせましたの」

 おっとりと、シャルロットさんが教えてくれる。

「アランさん達からは、まだ連絡がございませんの。ちょうどあちらに着いた頃ですし、今、まさに冒険中だと思いますわ」

 アランとリュカは、百年以上前に大陸を席巻した大盗賊団の秘宝探しの旅に出ている。

 魔法武器に魔法防具、魔法道具を主な獲物とした盗賊団だそうで……その秘宝ならば、魔王戦で役に立ちそうなモノがありそう。

 お宝は絶海の孤島にある、魔術師が同行している、いざって時は移動魔法で逃げられる……アタシが知ってるのはそれぐらいだ。詳しいことは、お師匠様とドロ様とテオしか知らない。


 いろいろと気になる事は、あるけど……

 まずは、お風呂よ。


《クマさん達は、お師匠様についてって。アタシに代わって、精霊界での事をテオに話して欲しいの。ムカつくことはあっても、質問にはちゃんと答えてあげてよ》


《はーい》

 クマさん達がかわいらしくお返事をして、縦一列に並んでちょこちょこと歩き出す。

 お師匠様の背後へ。

 一瞬、微かにだけど、お師匠様が眉をひそめる。

 お師匠様が隣室に向かって歩き出すと、その後にぬいぐま達が続く。大きな頭を振り振り、短い足でヨチヨチ歩いたりなんかしてて……

 あああああ!

 かわいい〜〜〜〜〜!

 兄さまとクロードが、ぽわ〜んとした目でぬいぐまの背を見つめる。

 クマさんのすぐ後ろに、ピアさんと手をつないだニコラがついたもんだから、かわいさは更に倍増……


 うっとりと手を振って見送った。


 テオもシャルロットさんも、み〜んなアタシの部屋から出て行った。


 けれども、何故か紫クマだけが残っている。

《吾輩は、本日の護衛である》

 紫クマが、つぶらな瞳でアタシを見上げる。

《くじ引きで決まったのである》

 くじ引きかよ。


「アタシ、これからお風呂に入るんだけど」

 光界での、レイとのやりとりを思い出した。

 アタシは全然タイプじゃない、アタシの裸なんて野生の猿から毛が抜けたようなものだ、とこいつは言ったのだ。


「どうやって護衛するの?」

《雷の結界となり、浴室の周囲を固める。視覚では中を見ぬ。ゆるりと湯につかられるがよい》


『見ない』と言葉にしてくれた。

「……ありがとう」

 

主人(あるじ)が我々を男性と混同している事は、重々承知しているのである。だが、いついかなる時も、主人を一人にすべきではない。八体の意見は一致しているのである》

 男性の姿の精霊にお風呂護衛をされるのは、かなり抵抗がある。

 けど、ぬいぐまの護衛なら、我慢できなくもない。

『見ない』と約束してくれてるし……

 まあ……嫌なのは、嫌なんだけど。


 紫クマがフーッと溜息をつく。

《吾輩は、『男』としての興味をあなたには抱いておらぬ……そうお伝えしたはず。主人の入浴など、獣や小鳥の沐浴と変わらぬ。お色気の欠片もない。必要とあらば観察いたすが、あえて見たいなどと思うはずもなし》


 一言も二言も多いわよ、クマさん!

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