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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
精霊の棲む領界
54/236

光と闇の間(はざま)で

 ドロ様が眠っている。

 目覚めたアタシの横で、寝息を漏らしている。


 あらためて見ると……まつげが長い。

 瞼はきつく閉ざされているけれども、眉は穏やか、口元も微笑を浮かべているような……

 褐色の肌が綺麗……

 上下する胸……

 無防備に眠ってるはずなのに、アウト・ローな雰囲気は健在。

 大人の魅力にあふれてて、妖艶で……

 いやん……セクシー……

 眠ってても、イケメンだわ……


《はいはいはいはい。オジョウチャン、よだれ、垂らさない》と、風のヴァン。

 え?

……う、嘘ばっか!

 口元、濡れてないじゃない! アタシ、ヨダレなんか!


《では、口からではなく……あああ……女王さまの、若いみずみずしい肉体が、青春の甘酸っぱさにも似た疼きに流され、おそらくは熱く淫らに、》

 とりあえず蹴っとばして、変態は黙らせておいた。


《その男は、闇精霊と交渉中じゃクマー。まだ、とうぶん目覚めぬであろうクマー》と、氷のピロおじーちゃん。

 そっか。


「期限まであと一日って言ってたわよね?」

《そうです。あなたが眠っていたのは二日です。闇精霊との交渉は、あなた方の時間で三日。あと一日分、時間があります》と、水のラルム。


主人(あるじ)よ。あちらに挨拶に行かれるのであれば、精霊を伴われよ。いついかなる時も、お一人での行動は慎むべきである》

 雷のレイが顔を向けている方を見て、ちょびっとゲンナリする。


 目には映らない。

 だけど、そこには結界があって、その中に仲間達が居るはずなのだ。


 行かなきゃ、ダメよね……


「俺も一緒に行こうか?」

 兄さまは、いつも優しい……

「嬉しいけど、いいの? ドロ様の体の護衛は?」

 闇の神殿には、闇精霊との交渉中で寝てる奴とその仲間が居る。深刻な事態にまでは発展してないけど、アタシ達は異世界人からあまり快く思われていない。無防備な状態の仲間を放置するのは、マズイと思う。

「おまえの精霊達に任せる。俺がいなくとも、手は足りている」

「ありがと、兄さま……」


 アタシがチラッと視線を向けると、

《アカグマー》

 アタシの炎のぬいぐまが、とつぜんバンザイをはじめ、

《モモクマ〜》

 その隣の兄さまのぬいぐまも、あわててバンザイをし、

《シロクマー》

 おじいちゃんクマさんが、何かをごまかすようにバンザイをした。

 三匹の顔が、闇精霊へ向く。

《え? お、おら?》

 三匹が、力強く頷く。

《ク、……クロクマー》

 おどおどと、でも、ちょっと嬉しそうに真っ黒なクマさんもバンザイする。


《アカグマー》

《モモクマ〜》

《シロクマー》

《クロクマー》


《アカグマー》

《モモクマ〜》

《シロクマー》

《クロクマー》


 その繰り返し……


「あんた達、うるさい。ご近所迷惑よ」

 闇界では、夢の中でしもべ交渉をする。そこらで異世界人さんが寝てるのに、大騒ぎしちゃ迷惑でしょ?

《だいじょーぶ。ボクらの声は、ジャンヌと仲間たちにしか聞こえてないからー》

《わしらは、ちゃんと礼節を心得ておるクマー。その上で、新人歓迎会をしてるのだクマー》

《ありがと、みんな! おら……がんばる!》


 クマー、クマーと、叫ぶ四匹のクマたち。


 よ〜く、わかったわ……ピオさん、ピロさん、それからピナさん。ついて来たくないのね。

 いいわよ、そこでピクさんと親交を深めてて。

 ムカつくけど……

 かわいいから、許す!


《お供ですか? いいですよ。あなたはマサタカ様と違って脆弱ですから、その辺でうっかり死んでしまいかねません。ついていてあげましょう》

《ワタクシは女王さまのしもべ……いついかなる時でもおそばに……》

 声をかけてきた水と土の精霊ではなく、別の精霊に命じた。

「ヴァン、レイ。ついて来て」


《え? オレ?》

 ヴァンはゲッ! と顔をしかめ、レイは無言で歩み寄って来る。


《パスさせてくんない? お供は、ラルム君でいいじゃん。ね? 当人もやる気になってるし》

「ラルムとソルは駄目」

 アタシはきっぱりと答えた。

「トロいから」


《私がトロい? トロいというのは俗語で、『反応が鈍い』『遅い』と言う意味ですよね? 聞き捨てなりません! 私はあなたの何百倍も速く動くことも、》と詰め寄って来る水精霊と、

《トロいと、女王さまがワタクシをお怒りに……ハァハァ……つまり、鈍くて……遅くて……役立たず……あああ》と、何やら嬉しそうな土の精霊。

 二人を置いて、兄さま達と風精霊の結界の中に入った。


 結界は二重構造だ。

 外側が風精霊、内側が光精霊が張っている。

 ドロ様は眠る前に、凶悪なものを封じておく為の檻を精霊達に張らせたのだ。

 中のものが外に出ると、全てが終わってしまうから……

 アタシは、ドロ様の風精霊と、白く輝く貴婦人――ドロ様が光界で仲間にしたばかりの光のマタンに挨拶をしてから、光結界の内へと入って行き……


 封印されているものたちと対したのだった。



「阿鼻叫喚たる地獄絵図・・死したるものどもは、無限に死の痛みを味わい続け、生者を怨み、己の死を嘆く。執着から解き放ち、浄化することこそ慈悲。それゆえ、俺は、いっせいに、こぞって、景気よく、邪悪どもを一発昇天させるべく聖気(オーラ)を磨き・・・」

《うううう……七十九回目……》

「それで、俺は言ってやったのだ、『殺人未遂、傷害、騒乱、器物破損、強盗、脅迫、誘拐の現行犯だ。内なる俺の霊魂が、マッハで、きさまらの罪を言い渡す』と」

「うぉぉぉ! 使徒様! かっけぇ!」

 うわ! 拍手してる! 目もキラキラ輝かせてるし! 本気で熱中してるの? その話、聞くの、あんたは何回目よ?

 まあまあまあ抑えて抑えてって感じに、手を軽く振る語り手。けど、口元はにやけている。

「颯爽と、華麗に、軽やかに、人馬より飛び降りた俺は、ふぬけの異世界勇者どもの前で聖霊光を高めつつも頭脳プレイで邪悪なる獣を・・」


 光結界の中は……アレな世界だった……

 チッ。

 起きてやがったか。

 そうなんじゃないかって、やな予感はしてた。

 だから、ラルムとソルは置いてきたのよ。あの二人、要領が悪いというか、運が悪そうというか……使徒様にとっつかまりそうなんだもん。

 兄さまが前に立ち、アレな僧侶とアタシの間に入ってくれる。


 いかにもなポーズをとり、気持ち良さそうに聖戦を語る使徒様。

 両手で顔を覆いさめざめと泣いている、マルタンの炎の精霊。

 拍手喝采を惜しまず、身を乗り出して聞いているクロード。

 そして、結界の隅に座っているお師匠様。いつも通りの無表情だけど、少しやつれたような。


 無理もない。使徒様が起きてる間は、ず――っと、使徒様ONステージだったんだろーから。


 何でこんな事になってるかというと……

 使徒様が、はた迷惑な存在だからだ。



 光界で、お師匠様はドロ様にお願いをしていた。

『闇界に滞在する間ずっと、マルタンを光の結界で包んでいて欲しい』って。


『闇の精霊の中には、邪悪な性質のものもいる。また、しもべを求めて神殿に滞在する異世界人の中には、邪教神官、闇使い、死霊支配者、悪魔崇拝者なども居よう』

 お師匠様が息を吐く。

『……氷界の二の舞は避けたい』

 そうと聞いて、ああ、なるほどと納得した。

 対戦待ちの間、控室で……神の使徒様は、邪悪な方々を挑発して喧嘩を売らせ、ド派手な神聖魔法を使って彼等の力を奪ったあげく、身ぐるみはいで氷界から追い出した……らしい。アタシは水鏡で修行中だったから、見てないけど。争いに巻き込まれて戦わざるを得なかった、兄さまが苦い顔をしていたのは覚えている。

『マルタンは邪悪を無視できん。その存在を感知したが最後、祓いきるか悔悟させるまで聖なる戦いに身を投じる。神に誓いを立てている為、小悪すらも見逃せぬようだ。邪悪と化した闇精霊を浄化し、異世界人と死闘を繰り広げかねない……そんな騒ぎを起こし続けては、ジャンヌの仲間探しどころではなくなる。我々は闇界から追放されるだろう』

……たしかに。

『聖なる結界の内に籠らせておけば、邪悪を知覚せぬ。察知すれば戦わずばなるまいが……感じねば使徒の使命を果たさずともいい。マルタンが暴れることはない』


『それだけで、使徒様が大人しくなさいますかねえ?』

 ドロ様が愉快そうに笑った。

『結界の外に出りゃ、邪悪がわんさと居るんだ。大喜びで聖戦に赴かれるんじゃないかと』

『そうはさせぬ。おまえの結界の中に、私も籠る』

 お師匠様は、きっぱりと言った。

『側にいて絶えず注意を続ければ、マルタンとて大人しくしよう』

 傍若無人な使徒様も、お師匠様には何故だか敬意を払っていて、わりと素直に言う事を聞く。お師匠様が神様に選ばれた賢者だから? のわりには、勇者のアタシへの扱いはぞんざいなんだけど……。

『それから、クロードも籠らせよう。クロードが聖戦語りの聞き手を務めれば、マルタンの機嫌もよくなろうし……そうだ、アレッサンドロ、家具化した精霊達も貸してくれ。あと良ければ、おまえの残っている煙草も貰えまいか? 間もなく帰還するのだ、申し訳ないが、できれば……』

 お師匠様の声は、だんだん声が小さくなっていった。自分だけじゃ使徒様を押さえきれない、とわかってたみたい。



 んで、使徒様の突発性眠り病のタイミングで闇界に来て、

 マルタンと共にお師匠様とクロードが、ドロ様の光精霊の結界の内に籠って、

 光精霊の結界がまぶしすぎるから、神殿の他の異世界人さん達の迷惑とならないよう、光結界の外側に風精霊が透明化結界を張って、光が漏れないようにしている……というわけなのだ。



 光界に来てから、二日。

 アタシが眠っている間、お師匠様達がず〜っと、この迷惑僧侶の相手をしてたのだ。


「新たな仲間を得たようだな」

 お師匠様が口角をほんの少しあげて、アタシを見つめる。

 仲間を増やすと、賢者であるお師匠様にも伝わるらしい。どんな人を何のジョブで仲間にしたのかまではわかんないみたいだけど。


「ピクさんを仲間にしました」

「ピク?」

「ピクさんは、森のクマさんシリーズのぬいぐるみなの。職業は、行商人さん」

「又、ぬいぐるみか……」

 お師匠様が、無表情のまま額に手をあてる。

「おまえの萌えは、あいかわらず不可解だが……闇精霊を仲間にできたのならば良かった。精霊ならば、魔王に100万ダメージは難くない」


「あ」

 アタシは口元に手をあてた。


「どうした?」

……ピクさんは、生まれたばっかの精霊。ラルムは『卑小』だって見下していた。

 魔王に100万ダメージは……もしかして、無理?

 振り返ってみた。

 背後に控える雷と風の精霊は、頷いている。

 無理なのか……

「ジャンヌ?」

「……すみません、お師匠様……実は……」

 嘘をついてもしょうがない。アタシは正直に全てを伝えた。


「……その闇精霊、どれぐらいのダメージなら出せるのだ?」

 お師匠様が、アタシにではなく、二体の精霊に聞く。

《現状では、20万程度であろう》

 雷のレイが即答し、

《ま、精霊は精神生命体。主人への忠誠心から、劇的な変化を遂げるものもいる。魔王戦までにババーンと急成長……の可能性もありますよ、うん》

 風のヴァンがフォローしてくれる。

「その通りだ。だが、予想攻撃値は現状で計算しておくべきだな」

 お師匠様の表情が、ちょっと暗くなったような。

 ごめんなさい、お師匠様……。でも、ドラゴンとか古老の精霊とか仲間にしてるし、これから強い人だけにキュンキュンしてけば、どうにかなりますよ!……たぶん、おそらく、きっと!



「目覚めたのか、女」

 ちょうど話の区切りがついたのだろう、大満足って顔の使徒様が、どっかりとソファーに腰を下ろす。

「これで、ついにいよいよようやく、籠の鳥から脱却・・薄汚い闇界からおさらばできそうだ・・」

 籠の鳥は、あんたじゃないわ。かわいそうなのは、お師匠様やしもべさんよ。

 二の指と三の指の間に煙草を挟み、使徒様が無言で催促。

 溜息をつきつつしもべさんは、馬鹿の煙草に火をつける……


「まだ帰れないわよ」

 クロードから水筒を受け取る使徒様を睨んでやった。

「ドロ様は、しもべ探し継続中だもん」

「しばらく目覚めそうにないと、ジャンヌの氷の精霊が言っていた」と、兄さまも付け加える。


「なにぃ? あの男、まだ寝ているのか・・」

 マルタンは、派手に舌打ちをした。

「その気になれば、闇の下僕なぞ、一発ゲットのはず。居心地が良すぎるせいか・・はたまた、大物狙いか・・。しがない占い師のまま、真人間(まにんげん)であり続けられるのか、はなはだ、すこぶる、ひとかたならず、疑問だが・・」

 ん?


「まあ、いい・・刻限までに目覚めぬのならば、神の使徒の使命を果たすだけだ・・。それまでは、」

 ゴクゴクと水を飲みほしてから、使徒様が勢いよく立ちあがる。

 でもって、両手を胸の前でシャキーンと交差(クロス)させ……

 う!

 両手の甲の五芒星マークを見せつけるそのポーズは……


「筋肉と女。それと、女の下僕ども。無聊の慰めだ。きさまらの為に、この俺が、きっちり、かっちり、正確に、輝かしき聖戦について語ってやろうではないか」

 げ!

 やっぱり、聖戦語りモード!


 やんやとクロードが声援を送る中、

「アレッサンドロの護衛に戻る!」

「お邪魔しました!」

 兄さま達と、聖なる結界から飛び出した。

 背後から《あああ、この話は六十一回目……》って嘆きの声が聞こえたような……



《やっぱ、あの(ヒト)だけは苦手だわ》と、ヴァンが苦笑を漏らす。

《心が読めないのは、まあ、いいんだけど、言動おかしすぎ。次の行動が予測しづらいわ、無駄に霊力あふれてるわ、強引だわで、あっちのペースにひきずられちまうんだよなー》

 わかるわ……つーか、あいつが苦手じゃない(ヒト)って、クロードぐらい?

 お師匠様は、それなりには免疫がありそう。

 あと、ドロ様か。精霊界では、ドロ様があいつのお守してたようなものだし。

……ほんと、ドロ様ってば寛大。邪悪祓いしか能がない俺様僧侶を、よくも、まあ……。


 ドロ様は、いつも大人で格好良い。楽しそうにアタシや仲間達を見つめ、相談にのり、いざって時には颯爽と助けてくれ……


 もうすぐ『待たせちまって、すまねえな』って男っぽく笑って、ドロ様が起き上る。その傍らには、必ず闇精霊が居るわ。

 信じてる。

 ドロ様は、テオとの賭けに、絶対、勝つわ。

 占い師を廃業しないで済むのよ。


 ドロ様が目覚めたら、すぐに『八大精霊コンプリート、おめでとうございます!』って祝福したい。

 そう思って、アタシは眠っているドロ様の元へ戻ったんだけど……


《アカグマー》

《モモクマ〜》

《シロクマー》

《クロクマー》

《キグマー》


 まだやってたのか、あんた達……

 てか、一匹増えてない?


 アタシはバンザイしてた見慣れぬクマさんを、ひょいと持ち上げた。


 もこもこの黄色い毛皮、つぶらな黒い瞳、小さなお鼻、小さなお口、そして、丸いかわいい……クマ耳。

 頭がデカイ! 二頭身!

 まさに、ぬいぐるみ! これぞ、ぬいぐるみ! ぬいぐるみ以外のなにものでもない!

 そんな愛らしいクマさんが、黒のネクタイをつけ、て、たり、なんか、して……


「なんで、あんたがクマに……?」

 黄色いクマさんが、ポッと頬を染める。

《女王さまの為に、新境地を目指してみたく……変身しました……》


 これは、ソルだ……

 言葉づかいといい、格好といい……


 だ、だけど……


……アタシのハートに、ずっきゅんと何かが突き刺さった。


 魂の奥深いところが揺さぶられてしまったのだ……


 胸がキュンキュン……


 キュンキュンしてしまった!


 ああああああ!


「かわいい! かわいい! かわいい!」

 アタシは黄色いクマさんを、ぎゅっと抱きしめた。


 アタシってば! なんで萌えちゃうのよ!

 (もと)は、あの変態なのに!

 色白マッチョ、ハゲ、裸ネクタイのMなのに!


 ぬいぐまに変身しただけで、どうしてこうも簡単に……


 投げ捨てるべき……?

 そうよ!

 アタシ、変態は嫌いなのよ!


 で、でも……


 黄色いクマさんがつぶらな瞳で、アタシを見つめている……


「だめぇぇ! 元がアレでも、捨てられない! やっぱ、かわいい!」


《女王さま……じ、実は、ワタクシ……ブーメランパンツを脱ぎ捨て、下半身フリーダムに挑戦中で……下がすっぽんぽん……》

 黙れ、変態。

 ああ、でも、可愛い……

 この気持ちが、かの有名なアンビバレンツなのかも……クマさんの顔をぎゅむぎゅむ押し潰すことは出来ても、捨てられない……


 兄さまも、手をわきわきさせている……元があの土精霊とわかってるからか、『貸してくれ』とは言いださないけど……。


《ソルまで、ぬいぐまかー いっそのこと、全員、ぬいぐまになるかぁ?》

 ヴァンがゲラゲラと笑う。


 おおお、全員、森のクマさん?

 そ、それは、いい! 心躍る!


《嫌ですよ、私はこの姿に愛着があるのです》

 と、声を荒げるラルム。

《しかも、ぬいぐるみ? 冗談ではありません》


 でもって、雷のレイも、

《吾輩も、全員が森のクマさんのぬいぐるみとなるのは反対である》

 両腕を組みながら、冷静な声で言う。


《そうですよね、クマのぬいぐるみなど、児童の玩具。そんなものに身をやつすなど、誇り高き精霊として》

《愚か者》

 雷の精霊が紫の瞳で、水の精霊を睨む。

《しもべとは、主人(あるじ)の要望に応える為に存在するもの。主人が心安らかになられるのであれば、アニメ声の幼女にも、小鳥にも、吾輩はなるぞ》

《え?》

《吾輩が反対しておるのは、森のクマさん・シリーズには限界があるからである》

《……はい?》

《このシリーズには吾輩が化けるのにふさわしきクマがおらぬ……紫クマがいないのだ。主人よ、造形だけ似せたオリジナルのぬいぐまに化けてもいいであるか?》

「おっけぇ!」


《ぬいぐまになるのはいいんですか?……ほ、本当に?》

 あなた、そういう精霊(キャラ)じゃないと思ったのに……と、ショックを受けている水精霊。

 その前に、半纏を羽織った紫のクマが現れて……

 うわぁぁぁぁ、か、か、かわいい……


 ヴァンがシッシッて感じに軽く手を振る。

《いいよ、いいよ、ラルム。おまえはそのまんまで。おまえ無しでも、数は足りてる》

《数が足りる?》


《オジョウチャン。光の精霊、来れそう?》

「ちょっと待って」

 ソルを抱っこしながら、胸に飾ったホワイトオパールのブローチに触れ、光界に居る精霊に語りかけた。

「ルーチェさん、今、しもべ達が親睦会をしているんだけど、来られる?」


 返答は……

 ピンポンパンポーン。

 チャイム音から始まった……

《ただいま、導き手の職務中です。呼びかけにお応えすることができません。五時間二十七分後でしたら、おそらく通話可能です。ご用の時はピーという音の後にメッセージをどうぞ》

 ピー。

「……来られそうなら、あとで来て」

 プツン。ツー、ツー、ツー。


《しょーがねえなあ、あいつの参加は保留ってことで、当面は七体でいくかー》

 と言って、ヴァンが変化する。

 !

 緑のクマさん!

 でもって、背にはショート・マント!

 この子も、森のクマさんシリーズにはいないわ!

 オリジナル・クマさん!

 いやぁん、かわぃぃぃぃ!


《グループ名は、しもべ戦隊クマくまーんで、どうよ?》と、緑クマ。

《ヴァン。クマクマ(セブン)は?》と、赤クマ。

《7はマズイ。光精霊も参加するかもしれねえし》

《光精霊が参加を表明したら、クマクマ(エイト)を再結成すれば良いのである》と、紫クマ。

《8は演技のいい数字なのじゃクマー。∞を示し、異世界文字によっては末広がりとなる。『未来が開ける』と尊ばれるのだクマー》と、白クマ。

《う〜ん……ま、クマクマ(エイト)でもいっか》


《8って……私を数に入れないでください。迷惑です。ぬいぐるみになる気はないと何度も》

 むっとしてる水精霊に対し、愛らしい緑クマがチチチって感じに右手を振る。

《安心しろ、おまえは数に入ってない》

《え?》

《おまえは、ずーっとそのまま『マサタカ様』のコピーでいていいよ。光精霊抜きのクマクマ(セブン)が、世界の平和とオジョウチャンを守るから》

《クマクマ(セブン)? 光の精霊と私を除外するのです、(シックス)ではありませんか?》

《いいや。オレ、ピオ、ピロじーさん、ピク、ソル、レイ。それとピナさん。ほら、七体》

《ピナ? 勇者様の兄の炎精霊?》

《うん》

《よそのしもべではありませんか! グループ入りは、明らかにおかしい。百一代目勇者様の為のグループなのでしょう?》

《しょーがねえじゃん。おまえ、クマになる気ないし》

《そうですけど! そうなのですけれども! でも……》

《クマになる?》

《う》

《『マサタカ様』の移し身を捨てて、クマになれんの?》

《ううう……》



 かくして……


《アカグマー》

《モモクマ〜》

《シロクマー》

《クロクマー》

《キグマー》

《ミドリグマー》

《ムラサキグマー》


《七体そろって》

 クマさん達が声をそろえて、叫ぶ。

《しもべ戦隊クマクマ(セブン)!》

 どど〜ん! と演出効果の七色の炎! バンザイする七体のクマさん!


 アタシと兄さまは、拍手喝采!


 いやん、もう……かわいい! かわいい! かわいい!


 ヴァンが透明化結界で包んでくれたから、遠慮なく声援も送れちゃう。


 あ。


 もちろん!

 ちゃんとドロ様の体の護衛もしてるわ!

 クマクマ(セブン)に不参加のラルムが。 


《語呂が悪いわ〜 キーグマ、ミドグマ、ムラグマの方がいいと思うの〜》

《ヴァン。戦闘シーンほしい。敵も出そうよー》

《だな。ラルムにやらせよう》

《嫌ですよ、私は。悪役なんか絶対やりません》

《では、長官はいかがであるか?》

《戦隊のマスコットや乗り物の枠も()いておるぞクマー》

《……下半身露出……異常な格好なのに、女王さまが無視(スルー)……ハァハァ》

《クロクマー》


 途中で光精霊のルーチェさんも合流。

 しもべ戦隊は、クマクマ(エイト)になって……


 そして……



 ドロ様が目覚めたのだ。

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