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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
精霊の棲む領界
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共鳴する魂

『君には……素晴らしい才がある……得がたき光……神秘的で……凄まじく、激しい……魅惑的な力。……魔法……そうだ、魔法だ。君には魔術の才がある。クロードくん、幼馴染を助けたいのなら、魔術師になれ。君の魔法が幼馴染を助けるだろう』


 アレッサンドロさんの占いを支えに頑張ってきた。

 けど、ちっとも魔法を覚えられなかった。


 聖教会の修道院学校で初級の治癒魔法や強化魔法は覚えられたし、魔術師学校の入学テストでは『魔法資性あり』の判定を貰えた。

 ボクには魔力がある。

 だけど、初級魔法のファイアーすら使えない。

 ずっと何でだろうって思ってた。


 頑張りが足りないのかなあ、もっともっと頑張らないとダメなのかなあって……


 でね、幻想世界でダーモットさんが探知とか過去見とか魔力感知とかいろんな魔法を使って調べてくれたんだ。それで……

《五才の秋、汝は汝の基盤を揺るがす大いなるものに遭遇している。しかし、その記憶には欠損がある。おそらくは、忘却の魔法……何ものかが汝の記憶を改竄した痕跡のみ感じられる》

 そんな事ぜんっぜん、覚えてなかった。

 なんでも、その時に攻撃の為の力を……たぶん自分で封印しちゃったんだろうって。



 思い出そうと頑張って、やっとおぼろげに浮かんだ記憶……


 昔、ボクは……


 ジャンヌを怖がらせた事があった。ずっと忘れてたけど、確かにあったんだ。

 何をやってそうなったのか、何でそうしちゃったのかは、思い出せない。


 だけど、ボクのせいなんだ。

 ジャンヌがとっても震えて……涙を流して……

 何度も何度もごめんなさって謝ったのに、ジャンヌの涙は止まらなくって……


 とてもとても悲しかった。


 だから、ボクは……

 二度とジャンヌをこわがらせるもんかと思って……


 自分の力を封じちゃった……みたい。


 でも、そんな事をしたのも、自分にそんな力があったことも、すっかり忘れちゃってた。



 ダーモットさんが雷を受けろと勧めたのは……

 ボクとジャンヌが落雷の跡地に居たって事を、その記憶の中から視てくださったからなんだ。

 ぱっくりと割れて黒く焦げた木があって、地面には木の枝みたいな模様――放電の跡がいっぱい残ってたんだって。


 その状況を再現できれば封印が解ける可能性がある、とダーモットさんは言った。

 だけど、死亡する可能性も高い、あまり勧められない……とも。


 そこんとこを、どーしてもってお願いして、雷魔法を使ってもらった。

 だけど、ボクを死なせないようにって手加減した弱めの魔法だったから、全然ダメで……。


《汝、力を欲すれば、死に至る道を歩む。されど、その道を避けては、おそらく、失われた力、戻る未来(こと)なし》



 ダーモットさんとの雷修行のことは、ジャンヌには話せなかった。

 言ったら……ジャンヌ、すっごく心配する……もう二度と無茶しないでって止められちゃうのもわかってたから……。


 賢者様には全部お話しして、どーしたらいいか相談したんだ。

 したら、賢者様は、雷界で雷精霊の攻撃を受けてみてはどうかって……

『精霊界の精霊は、殺人はせぬ。むろん、死に等しき苦痛は伴うであろうが、回復の達人(エキスパート)マルタンを同行させれば問題はなかろう。雷精霊の雷撃を受けるがいい。生死の境を彷徨おうが、もはや生きている事がおかしい状態になろうが、マルタンが癒す。死ぬことだけはない』


 ボクは死なない……

 賢者様は絶対だ、っておっしゃってくださったのに……


 ボク……怖くって、怖くって……

 ダーモットさんの魔法だって、すっごく痛かったんだ。体中が痺れて、何度も気を失ったのに……

 それ以上に痛いんだと思うと、ビビっちゃって……


 雷界に行きたくない……とまで思っちゃった……


 ごめんね……本当、情けない奴で……。


 でも、ボク……

 やっぱ、力が欲しい……そう思うようになった。

 水界でジャンヌがラルムさんにさらわれた時……

 ボク、まったく何もできなかったんだ……


 アレッサンドロさんは、ジャンヌが何処に居るのか占って、水精霊を手に入れて救出に向かった……

 戦闘になるだろうからって、ジョゼと使徒様が同行した……。

 賢者様はアレッサンドロさん達に知恵を貸したり、水界の精霊達に向け心話で誘拐事件があった事を訴えた……。


 だけど、ボクは……

 おろおろしてるだけで……

『ジャンヌを助けに行きたい、水精霊さん、しもべになってください』ってお願いしても、誰も来てくれなくって……


 何の役にも立たなかったんだ……



 アレッサンドロさんや使徒様、それからアレッサンドロさんの精霊さん達に、いろいろ話を聞いてもらった。

 雷界で攻撃を受けるのが怖いんだって事も、ぜんぶ話した。


 使徒様は、

『きさまの進むべき道など、自ずと自明であろうが』

 と、叱咤してくださった。

『だいたい、きさま、無礼であろうが。雷精霊が、うっかりミスって迂闊にも、きさまを殺してしまったところで・・何ほどのことがある? 神の使徒たるこの俺が、側に居るのだぞ。きさまがホカホカの死体となったとて、マッハで復活させてやろう』

『聖教会の教えじゃ、死者の復活は禁忌じゃなかったんですかい? 神さまにバレなきゃ、いいんですか? それとも、死にたてなら、話は別なんで?』

 そう尋ねたアレッサンドロさんに、使徒様は、

『まだ生きている・・俺がそう判断を下せば無問題だ』

 って、スパーンと言い切ったんだ。ほ〜んと、使徒様、かっけぇ。


『クロードくん、君の進む道は茨の道だが……仲間が側に居るんだ……恐れず、背中を預けな……仲間を信じるんだ』


《それから、茨をむやみに怖がらないこと》

 アレッサンドロさんの風精霊のおねーさんは、明るく笑って教えてくれた。

《おにーさんの頭の中は、雷精霊への恐怖でいっぱい。殺されるんじゃないかって。ま、気持ちはわかる。だけどねー 精霊にだって心があるのよ。最初っから不信と恐怖を向けられたら、がっかりだわー 外界の者と仲良くなりたい、そー思ってる子だったら、特にね。雷精霊は、互いのいいとこを見せ合おうっと思って試合形式をとってるわけ。異世界人を傷つけたいんじゃないのよ》


 そっか! って思った。


 ボクは……


 ジャンヌのピアさんたちや、ジョゼのピナさんを可愛いなあって思いながら……

 死ぬのが怖くって……

 精霊さんを、すっごくおっかないものだと思ってたんだ。


 失礼だよねー

 何もされてないうちから、怖がっちゃって……


 ボクのしもべになりたい精霊さんが来なかったのも、納得というか……


 アレッサンドロさんの精霊さん達には、謝った。

 後で、ジャンヌの精霊さん達にも謝らせて。



 痛くても平気、死んでも平気。

 ボクが望んで攻撃を受けるんだから、精霊さんは悪くない。

 仲間が側に居てくれるんだから、大丈夫。


 そう思って、今日、頑張ってみた。


 ふぎゃ〜って倒れてばっかだったけど……


 ジャンヌの泣き声が聞こえて……

 どんどん泣き声が激しくなっていって……


 胸が苦しくなって……


 ジャンヌを助けなきゃ……

 早くジャンヌの涙を拭いてあげなきゃ……


 そう思ってるうちに、何となく、こう……

 う〜んと……

 そうだ。

 プッツン?

 心の中の糸が切れた?

 そんな感じ。


 すっごく気分が晴れやかになって……


 で、気がついたら、ああなってたんだ。


 え?


 嘘!


 ジャンヌ、見てない?


 ボク、魔法、使ったのに!

 球電さんたちを吹き飛ばしたの、ボクだよ!


 あ。


 ゴメン。

 そうだった。

 ジャンヌも吹き飛ばしたんだよね……


……ごめんなさい。



 ちょっと、もうね……いろいろくたびれちゃったから……魔法は、また今度。

 ちゃ〜んと見せてあげるから……今日はナシね。


 どんぐらい強くなれたのかは、わかんないけど……

 少しは、ジャンヌを守れるようになったんじゃないかな。


 頑張るジャンヌを助けられるよう、ボク、もっともっと頑張る。

 強くなるよ。

 いっしょに戦いたいもん。


 ボクはジャンヌを支えてあげたいんだ。



* * * * * *



「ごめん……クロード」

 アタシは、幼馴染の背をぎゅっと抱きしめた。


「ごめんなさい……」

 頑張ってくれてたのに……

 アタシの為に、必死になってくれてたのに……


 アタシ……

 失礼だった……


 泣き虫で、弱っちい、幼馴染……

 兄さまやアタシが守ってあげなきゃ何にもできないダメな奴……

 ずっと、そう思ってた……


 ごめんなさい……



 落雷の記憶は、アタシにはない。


 このまえ見た夢……


 あれが、あの時の記憶なのかも……


 あの場に、兄さまは居なかった。


 だから、クロードは、小さなアタシを守ろうと一生懸命になったんじゃないかしら。

 自分だって、小さかったのに。

 きっと、そうなんだ。


 だけど、その魔法で、アタシは怯え……

 クロードに罪悪感を与えてしまった


 クロードは号泣して、アタシに謝っていた。

『もうしない。もう、しないから。なかないで、ジャンヌぅぅ』

 目から涙、鼻水も出しちゃって、大きく開いた口もわななかせ、全身を激しく震わせて……。


 クロードは泣いていた……



「ごめんね、クロード……」

 もう一度、謝ってから、アタシはあの時に言えなかったであろう言葉を口にした。

「ありがとう」

 守ってくれて、ありがとう。

 アタシの為に必死になってくれてありがとう、って。




「話に決着がついたな? 二人とも、そろそろ立ちあがってくれまいか?」

……お師匠様、あいかわらず空気が読めませんね。いつも通りのマイペースだわ。

 アタシ達、今、感動の抱擁中なんですけど。


「しもべ候補の精霊が来ている」

 へ?

「我々の交渉が終了せぬ限り、闘技場は次のPTに譲られん。我々がいつまでも占有していては、他PTの迷惑となる」

 あ、そうだった!

 やだ! 空気読めてなかったのは、アタシとクロードの方だわ!


 二人して、慌てて立ちあがった。


 試合終了後、そのままクロードと話しこんでたんだわ。


 兄さまが、アタシ達を見てホッと息をついている。


 ドロ様が男くさく笑って、手を振ってくれる。そのすぐ側に精霊が居た。紫水晶みたいな、ツンツンと尖った髪。でも、人らしくないのはそこだけで、後はどう見ても女の子。可愛い顔立ちで、凹凸のあまりないスラリとした体。体、腕や足にプロテクターのように紫水晶をつけている。ちょっとビキニみたいな。

 ドロ様は、もう雷の精霊をゲットしたのか。


 闘技場の周りは、白くてほわほわした綿みたいな雲に囲まれてる。

 雷の精霊は、あの雲の中にいっぱい居るんだ。

 アタシとクロードが抱き合ってるところを、見せつけちゃってたのね。

 恥ずかしい……

 精霊は所属世界をあますことなく見渡せるそうだから、控えの間に居ても見られてるのは一緒なんだけど……それでも、やっぱ……


 今更ながら、顔が熱くなった。


「仲間割れに走り、対雷戦でろくに成果をあげなかったジャンヌ。最後に大魔術師の片鱗を見せたとはいえ、致死レベルのダメージを五度も受け、戦闘不能となり続けたクロード。本来であれば、二人にしもべ候補が来るはずもない。有り難く思い、しっかりと交渉するように」

 お師匠様が淡々と言う……



《その通りである》

 背後の空気が揺れた……そんな気がしたんで振り返った。

《ましてや、勇者であるのであれば、いっそう私情を殺さねばならぬ。世界の命運を握る者は、己が感情にかまけてはならぬ。大局をみすえ、より良い未来を思索し続けねばならぬのである。必要とあらば非情の判断を下す……その覚悟なくば、世界を守護することかなわぬのである》

 紫の長髪に紫の瞳。細身だけど、颯爽とした物腰の男性が現れる。

 精悍さが漂う武人みたいだ。

 変わった服だ。オオエド界出身の勇者が、『勇者の書』に絵を描いて説明した『着物』に似てる。『着流し』だったけか? 羽織っているのは、たしか『半纏(はんてん)』って上着。


《なれど、情なき者の下に(つど)いたくなし》

 その人が微かに眉をしかめ、顔を近づけてくる。

 真っ直ぐに。

 ただ、ひたすら、アタシだけを見つめて。


 既視感を覚えた。


 アタシはこの視線を知っている……


 まるで宝石のような綺麗な瞳……


 アタシだけを見つめる、熱を帯びた視線……


 控えの間でアタシを見ていたのは、この人だ……


《己が未熟を恥じ、役目の為の成長を望み……愛を忘れぬ。心優しく気高き方こそが、吾輩の主人(あるじ)にふさわしい》


 そんな熱い目でアタシを見て、誉めちゃって……


 やん……



 胸がキュンキュンした……



 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと七十三〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がした。



 熱い眼差し。

 近づいて来る整った顔に、アタシはドキマギした。


 けれども、その精霊(ヒト)は唐突にアタシから離れ、肩にかかった自分の髪をサッと払い、息を吐いたのだった。

《おかしい……。まったくもって、子供である。知性は驚くほどに低く、品位も美も欠片すら見受けられぬ。発育したとて、これでは期待が持てぬ》


 は?


《このような野卑な子供……永久にお側にお仕えしたく思うはずもなし》

 ちょっ!

 嫌そうに溜息つかないでよ!


《面影は微塵も無し。しかし、その魂は……》

 紫髪の男が、思案げに首を何度もかしげる。

 気が進まないって感情を隠しもしない。だけど、目だけは、妙に熱っぽくアタシをジーッと見ているのだ。


《やはり気になる……奇妙なことだ、似てはおらぬのに……何かが吾輩の魂と共鳴している》

 不愉快そうに、そいつが、大きく溜息をつく。

《いた仕方なし。提案する。子供、貴様が望むのであれば、吾輩は貴様のしもべとなろうではないか》

 はあ?

《貴様は我が主人にふさわしくはない。格に欠けておる。なれど、不思議なことに、なにやら(えにし)を感じる。時を共にすることは不可能ではない》

 はあ……

《期間は貴様が魔王を倒すまで。その後は、双方の合意がある場合のみ、双方が望む期間まで延長する。それで良いな?》

 完全に、上から目線。

 ラルムみたい。

 いや、ラルム以上だ。口調からして偉そうなんだもん、こいつ。


「………」


 アタシはまず前方を見渡した。アタシのしもべになってもいいって変わった精霊(ヤツ)は、この精霊だけ。

 つづいて、背後を振り返った。

 お師匠様が頷きを返す。

 そうよね……ブーメランパンツ男とだって契約したんだもん。

 しもべになる気のある精霊は、誰でも迎えなきゃね……。

 萌えて、伴侶にしちゃってるし。


 でも、すっごく気が合わなさそうなんだけど!


《当然である。吾輩が無知な子供と気が合う道理などない》

 うわぁぁぁ……

 な、殴りたい、こいつ……。


《愚かしいほどに人間であるな、子供……いや、主人(あるじ)よ》

 紫の髪の精霊が、口の端だけで笑みを浮かべてみせた。

《吾輩は雷の精霊レイ。仕えるからには忠実なしもべとなる。吾輩の望みは、主人が幸福な未来を手に入れること。主人の幸福な未来を手にいれられるよう、これからは助力しよう》



「やるよ」

 ドロ様がアタシに、アメジストのブレスレットを渡してくれる。

「アメジストは、決断力・愛情・献身・豊かな感受性を与えてくれる石。邪気を祓うとも、恋愛成就のお守りともされる」

 ドロ様のすぐ側の精霊が、ニッコリと笑う。

《あたし、エクレール。アレッサンドロの精霊ー よろしくねー 勇者さま》

 ニヤリと笑ってドロ様が、右手を見せてくれた。薬指に新たにアメジストの指輪が増えている。エクレールとの契約の証か。


「……さっきは悪かったな、お嬢ちゃん」

「いえ。アタシの方こそ、カッとして馬鹿やっちゃって、ごめんなさい」

 ヴァン達にも謝らなきゃな。


 ふと、マルタンが見えた。

 ちょっと離れた所で、使徒様は女性型の精霊と向かい合って座っていた。

 クロードが死なないようにずっと癒してくれてたのよね、あいつ。なのに、アタシったら、勇者の馬鹿力(バカぢから)で殴りかかって……。


 うん、謝ろう。


 歩み寄ると……

《うううう……ひどい、ひどいわ。勝手に印をつけたなんて……》

 精霊の泣き声が聞こえた。

 人型の精霊の襟を、使徒様はがっしりと掴んでいる。

「炎界で、きさまには、聖痕をくれてやっていたのだ」

 手を離すと、そこには指の跡がしっかりと残っていた。

「上書きした。その聖痕がある限り、きさまは俺の所有物。俺の内なる霊魂の輝きが、マッハできさまをしもべにとりたてるのだ」

《私、しもべになるって言ってないのに!》

「何を言う。俺の聖気(オーラ)は素敵だ、是非お話を拝聴させてくださいましねと、おまえが願ったのではないか」

《願ってません! しもべになりたいと思ったのも、勘違いだってすぐに取り消したじゃないですか! ひどいひどい! 勝手に傷もの(しもべ)にするなんて! 通り魔だわ! 悪魔!》

「悪魔とは聞き捨てならんことを・・俺は神の使徒だと語り聞かせたのに、もう忘れたのか・・」

《ええ、ええ! 伺いましたとも! 同じお話を二十四回も! あなたのお話はもうこりごり!》

「・・聖痕は、さほど()たん。せいぜいが百日。きさまが俺のしもべでいるのは、ほんの短い間だけだ」

 ククク・・と神の使徒が笑う。

「上書きせねば、な」

《う》

「邪悪は徹底的に駆逐し、不信心者は更生するまで教え導く。だが、俺は慈悲深い男だ。敬虔で殊勝な信徒には格別の情をかけるぞ」

 胸元から取り出した煙草をくわえ、使徒様が横柄に顎をしゃくる。

「火」

《ううう……》

 シクシク泣きながら、炎の精霊が人さし指をちょんと煙草の先端に向ける。

 あぐらをかき、紫煙をくゆらせるマルタン。その側で泣き崩れる炎精霊……

 ヒモとその被害女性みたいな……



 魔王が目覚めるのは、七十七日後だ。



 次のエリアへ移動する事になった。


 クロードは、すっごく眠そうだった。

 でも、支えようとする兄さまに、『へーき、へーき』っと答えてた。『次の所へ行ってから眠るよ』と。

 で、腕の中の精霊をぎゅっと抱きしめてた。

 モフモフでやわらかそうな……紫がかった毛の灰ネコだ。

 と、いうかネコ好きのクロードの為に、精霊はネコの姿になってるんだ。

 美猫だ。ふわふわの毛で、顔をうずめたら気持ち良さそう。

 精霊が、ネコの声で鳴く。

 トネールって名前なんだそうだ。

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