紡ぐ命を絶てぬ理由(わけ)
「暁ヲ統ベル至高神ノ聖慈掌・肆式!」
最悪な目覚めだ。
使徒様の回復魔法で目を覚ますとは……
瞼を開けると、亜麻色の髪の黒衣の男――使徒様が視界に入ってきた。
どこかの室内に居るようだ。
部屋に居るのは、偉そうに立っている使徒様。あとベッド横の椅子に、ちょこんと座っているクロさん。それから……
「お師匠様……」
マルタンの斜め後ろに控えるように、白銀のローブのお師匠様がいた。
いつも通りの無表情で、アタシを見つめている。
マルタンは左の指をパチンと鳴らし、所作のみで炎の魔法を発動させ、煙草に火を点けた。
ゆっくりスーッと吸いこみ、ふは〜と煙を吐く。仕草がオヤジくさい……
「仕事の後の一服こそ、至福の時・・・」
ベッドのアタシを気にせず、美味そうに紫煙をくゆらせやがる。
「まだ顔色が悪いな……」
少し前に出たお師匠様が、静かな眼差しでアタシを見つめる。
「今日はいい。このまま休め、ジャンヌ」
休む……?
「この八日、私は効率ばかりを追い過ぎた。おまえの肉体や精神への配慮に欠けていた。すまなかった。魔王戦は九十二日後、準備に九十一日も割けるのだ。今、無理をする必要はない」
倒れたんだっけか。
癒してもらったのに、体がだるい……
「ここ……何処です?」
「ドワーフの洞窟だ」
ここが?
言われてみれば、タペストリーが飾られているのは岩壁だ。家具は金属製。でも、部屋のサイズがドワーフ用にしてはデカイような?
「他種族用の客間をお借りした」
なるほど。
「まずは休め。全てはそれからだ」
「でも、急いで武器を依頼しないと……」
その為に、幻想世界へ来たんだし。
体を起こそうとしたアタシを、お師匠様がそっと押し止めた。
「明日でいい」
「だけど」
「休め」
うむを言わさぬ口調だ。
「時間は貴重だ。しかし、たかが数時間急ぐ事で、おまえの健康を損なうなど本末転倒」
「お師匠様……」
「休め」
「はい……」
「その年にもなって知恵熱か。振られて卒倒とは、まったく実にどこまでも、情けない・・」
などどつぶやいた使徒様を、お師匠様が黙らせる。
……胸がズキンと痛んだ。
「何か口にした方がいい。果物と水はテーブルだが、」
カランコロンとゲタの音が響く。
クロさんが左手にでっかいお盆を持って、水差しとコップを運んで来てくれたのだ。
上半身だけ起こして、水をもらった。
美味しい。
水が体中にしみわたる。
喉がカラカラだったんだ……
「あたたかいものをいただいてこよう。マルタン、すまぬが、今しばらくジャンヌにつきそってやってくれ」
と、言ってお師匠様は部屋を出て行ってしまった。
マルタンのつきそいなんて、絶対に嫌! って普段なら思うはず。
だけど、不思議と、気にならない。弱ってて、感性まで鈍ってるのかしら。
病人におかまいなく、使徒様はスパスパ煙草を吸っている。
「……何で、あんたが居るの?」
くわえ煙草の使徒様が、むっと顔をしかめる。
「きさまがメッセージを残したのではないか、ドワーフの洞窟に行く、と。来てやったら、きさまは転がってるわ、金髪カツラあらため筋肉がぎゃーぎゃーうるさいわ・・マッハで治癒せねばならなくなった」
チッとか舌打ちするし。
いつも通りのマイペースだ。
ちょっとだけ笑みが漏れた。
「森の王の所で、何してたの?」
疑問が口にのぼった。
「アタシは幻を贈られたの。お師匠様や兄さまやクロードや、みんなが居たわ……もしかしたら、未来予知してくれたのかも」
「ふん?」
「ずいぶん長く森の王の所にいたわよね。何かやってた? マルタンもあっちで何か見たの?」
眉間に皺を寄せ、目を細め……使徒様の凶悪な顔が、いっそう凄味を帯びる。
「完璧に、完全に、パーフェクトに愚問だな、女」
フッと使徒様が笑う。
「俺が何をしていたかなど、自ずと自明のはず。邪悪を粛清することこそが、俺の存在理由・・・。いついかなる時も、俺は常に戦場に居る」
森の王の所でも?
「魔族退治でもしてたの?」
そう口にして、後悔した。
「ほほお・・俺に語らせたいのだな、女?」
使徒様がニヤリと笑ったからだ。
「ククク・・きさまが望むのであれば、この俺の聖なる軌跡を、きっちり、かっちり、正確に、話してやろうではないか」
マルタンが、両手を胸の前で交差させたアレなポーズを取り始める。
ちょ! ま!
そこに、救世主が!
出入り口の布をめくって、ジョゼ兄さまが現れる。
「ジャンヌ。食事を持って来たぞ」
「チッ。時間切れ、か」
やれやれって感じに大袈裟に肩をすくめ、使徒様がアタシに背を向ける。
げ。
そうだった……こいつの背中にはデカデカと真言の模様があったんだっけ……神父衣装に、十字架に、五芒星マーク付き手袋に、真言……ちゃんぽん過ぎる。
マルタンが軽く左手をあげる。
「きさまに、神のご加護があらんことを。あばよ・・・」
マルタンと入れ替わりに部屋に入った兄さま。頭の上に盆をのっけたぬいぐまのピアさんが、後に続く。
あれ?
二人?
「お師匠様は?」
「……竜王に用事があるそうだ。おまえの看護を頼まれた」
むっつりとした顔で兄さまが言う。
「まあ、たぶん、気を利かせてくれたんだろう」
む?
「自分の馬鹿さ加減を反省して」
へ?
「まさか、兄さま……お師匠様に喧嘩売った?」
兄さまは、何故か一方的にお師匠様を嫌っている。仲良くする努力は約束してくれたけど。
「言うべきことは言ったが、喧嘩は売ってない」
「言うべきこと?」
「……託宣とジャンヌとどっちが大事なのか考えろとか……まあ、そんな事を」
「そんなの、託宣に決まってるじゃない」
アタシがそう言うと、兄さまは目尻を下げ、せつなそうな目でアタシを見つめた。
「そんな風に言うな……少なくとも、俺にとってはそうじゃない」
クロさんに手伝ってもらって、兄さまは、持って来たスープや肉料理やゆでた野菜を並べてゆく。
「そんなに食べられないわよ」
「俺も一緒に食べる」
起きられるか? って聞かれたんで頷いた。
倒れた時の格好のままだ、靴だけ脱がされている。
「アタシ、どれぐらい寝てたの?」
「三時間ちょっとだ」
んじゃ、もう夜か。
兄さまが椅子を引いてくれたんで、座らせてもらった。
「朝、食べたっきりなんだ。喰わんと体がもたんぞ」
そいや、そうか。食欲はなかったけど、スープを口にした。
兄さまから話を聞いたところ……
アタシ達をあっちこっちに跳ばしたのは、やっぱデ・ルドリウ様だった。
それも、帰還前に幻想世界の実力者に逢わせてあげようという親切心かららしい。
心話で他種族に協力を呼びかけ、それに応えたのがダーモット、森の王、花エルフの王だったようだ。
「ダーモットって誰?」
アタシの問いに、兄さまがあっさり答える。
「リッチだ」
リッチ……
「『力が欲しくはないか?』って聞いてきたあの骸骨魔法使い? ゾンビだらけの沼で会った?」
「ああ」
「あいつ、魔族でしょ?」
「そうだ」
と、これまたあっさりと兄さまが答える。
「あのリッチは、この世界一の魔法使いらしい」
「でも、魔族でしょ?」
ぞっと全身に鳥肌がたった。
「魔族なんか、勇者の仲間になるわけないじゃない!」
「なるようだぞ」
「は?」
「魔族には仲間意識が無いんだそうだ。あのリッチは竜王の友人で、対価を払えば魔王討伐にも協力すると答えたらしい」
「対価って何?」
どーせ邪悪な願いでしょ?
「配下のゾンビの浄化だそうだ」
「え?」
「おまえの仲間の僧侶、つまり、マルタンに頼みたかったようだ」
兄さまが骨つき肉にかぶりつく。
「リッチが抱えていたのは、もともとは野良ゾンビ。いずれは昇天させてやろうと、行き場を無くしたゾンビを引き取り、庇護していたそうだ。自分の力では『消滅』しかさせられないから、『魂の浄化』ができる者を探していたのだとか」
「嘘……」
もしかして、『良い魔族』だったわけ?
「ちなみに、あいつ、無事だぞ」
へ?
「マルタンに浄化されたのに?」
「浄化されたのは分身だそうだ。リッチは職変更時に、魂を別所に移すらしい。魔法道具、金属、邪神像……何処に移すかは本人の自由で、その魂の器を破壊しない限り『死』を与えることはできないようだ」
頭の中が混乱した。
魔族はぜんぶ、滅ぼすべき悪じゃないの? 竜王とお友だち? てか、お師匠様もリッチをアタシの伴侶枠入りさせようとしたわけで……光の勇者が魔族を仲間にしていいの?
兄さまが不満そうに言う。
「リッチのことにしろ、あちこちに跳ばされたことにしろ、説明してからにして欲しかったが……」
最初が狼達のテリトリー、次がリッチのテリトリーの沼の島、最後が森の王の領域に通じる荒野の谷。ゴーレム達を通じ、デ・ルドリウ様は空間変替を発動させたらしい。
その後、森の王の領域からエルドグゥインの居る森へと連れてったのは、森の王のようだけど。
「何も知らせずおまえを旅に出せと森の王が助言したとか何とか……」
あの綺麗な妖精が?
「森の王は預言者だそうだ。森の王に言われるがまま竜王と賢者は、おまえと俺とマルタンを外に出した。ゴーレムを同行させ、ゴーレムを通し状況も把握していた、真に危機が迫った時には空間変替で駆けつけるつもりだった、問題はなかったはずだと言ったんで、さすがに」
兄さまは骨を皿に置いた。
「腹が立った。ジャンヌをないがしろにしすぎじゃないか、とな」
「兄さま……」
「託宣を叶えねば、おまえは敗北する。その為に人探しに励まねばいけないのもわかる。だが、だからこそ、勇者であるおまえを大事にすべきだ。おまえの心と体が折れてしまっては、何もかもが終わってしまう……」
そこで、兄さまは大きく深呼吸をした。気持ちを落ちつけようとするかのように。
「カトヴァドのことだが」
いきなり切りだされ、ドキンとした。
「……許してやれ」
え?
「わかってるだろう? ナリはああだが、あいつは子供だ」
「わかってるわよ……」
アタシは唇を尖らせた。
「別に、カトちゃんのこと、怒ってないし……」
「許してやれ」
兄さまが同じ言葉を繰り返す。
「子供はああいうものだ」
兄さまの口元に、微かに笑みが浮かぶ。
「おまえも……ああだった」
「アタシ?」
兄さまが頷く。
「『大きくなったら、兄さまのお嫁さんになる』と、昔よく言ってくれたな……俺はひねくれた子供だったんでな……無邪気に慕ってくれるおまえに救われた……ささくれだっていた俺の心を、おまえは癒してくれた」
「兄さま……」
「おまえの為なら何でもする、生涯おまえを守ろうと思った……だが、おまえはクロードにもプロポーズしていた」
え?
「そうだっけ?」
「言った。『ピーピー泣かないの、お嫁さんになってあげないわよ』って」
えぇ〜〜〜〜〜
「……覚えてない」
でも、アタシが言いそうな台詞……
「そうかと思えば、『せーじょ(聖女)さまになるの。ショーガイドクシン(生涯独身)なの』だの、『お姫さまになるの』だの、『ミレーヌおばあちゃん家のネコになる』だの……」
いやいやいやいや!
「子供の言ったことだから!」
「そうだ……子供の言葉だ。その場限りの……」
兄さまの顔に、少し苦い笑みが浮かぶ。
「だが、いい加減な気持ちで言ったのではない。その時には真剣に『成りたい』と思った。そうだろ?」
「うん……」
「カトヴァドも同じだ。真剣におまえが好きだったんだ」
「でも、アタシ、振られたわ。エドモンに負けちゃったのよ」
「気にするな。あの男は、動物に好かれまくる体質なんだそうだ」
へー
「さっきはエドモンに夢中だったが、エドモンがいなくなればその時に最も関心があるものの元へ行くだろう。子供は移り気だからな」
「そうね」
「だが、その場その場では真剣だ。カトヴァドはおまえを『振った』とは思ってない。あいつ、おまえが倒れた時、取り乱してたぞ。『しっかりしろ、嫁』ってな、ベロベロ舐めまくりだった」
う。
「エドモンが止めなきゃ、おまえが目覚めるまでずっと舐めてたろう」
うわぁ……
有り難いんだけど……
「どの辺、舐められてた?」
「手や顔。でも、クロさんがきちんと拭いてくれてたぞ」
ホッ。
「なあ、ジャンヌ。明日でいい。カトヴァドに会え。で、言いたいことを言ってすっきりするといい」
「……うん」
「『よくもアタシを振ったわね』と、怨みごとのひとつも言ったらどうだ?」
「……別に、アタシ、カトちゃんを好きだったわけじゃないわ」
「ああ」
「プロポーズをどうやって断ろうかって、それだけを考えてたんだもん」
「そうだな」
「傷つけちゃかわいそうだから……ずっと悩んでたっていうか……」
アタシはうつむいた。
カトちゃんの姿が心に浮かぶ。
もこもこの蒼い毛糸玉のような小狼……
蒼の長髪のワイルドな人型。イケメンのくせに、子供っぽくニッコリ笑うのがアンバランスで……
胸がチクチクする。
もしかすると、アタシ……
ほんの、ほんの、ほ〜んのちょっとだけど……本気で好きだったのかも。
アタシを『勇者』としではなく、『一人の女の子』として見てくれたのも、嬉しかったんじゃないかな……。
「……カトちゃん、どうしてる?」
「エドモンに押さえられて、クゥ〜ンクゥ〜ン鳴いてる。おまえの所へ跳んで来たがってるぞ」
あら、やだ、かわいい……
「明日まで待たせちゃ、かわいそう。連れて来て、兄さま」
「いいのか」
兄さまがジーッとアタシを見る。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
アタシは微笑んだ。
「ありがと、兄さま。兄さまと話したら、ちょっとすっきりした」
「なら、良かった」
ピアさんから渡されたナプキンで手をぬぐって、兄さまは席を立った。
「ヨメ、いたい、ないか?」
腕の中に飛び込んできた小狼を、ぎゅっと抱きしめた。柔らかい……ふわふわのもこもこだ。
とっても愛しい。
狼族は伴侶を決めたら、生涯連れ添う。
でも、OKしないまんまアタシが自分の世界に還れば、カトちゃんは自由だ。その場その場で真剣に生きて、自分の『お嫁さん』を見つけるだろう。
誰かいい子を見つけたらアタシに気にせず『お嫁さん』にしてと……それだけを伝えておけばいい。
カトちゃんを抱っこしたまま顔をあげると、農夫の人と目が合った。
小狼のお守をしていた人は、アタシにペコリと頭を下げ、ポツポツと語り始めた。
* * * * * *
……いろいろ、すまなかった。
……誤解させたし、怖い思いをさせた……
……すまない。おれのせいだ。
……なぜと聞かれても、答えられないが……
……ものごころつく前から、ずっとこうなんだ。
……不思議と、生き物に好かれる。
……こちらから何もしなくても……獣から近寄ってくる。
……牛も、山羊も、馬も、羊も、鶏も、犬も、猫も……
……ネズミ、ウサギ、鹿、狐、狼、猪、熊、鷲、鷹、烏……
……モンスターまでもおれになつく……草食肉食、オスメス問わず、だ。
……だから、フェロモンではないと、思う
……匂いも原因の一端だが……匂いが届かぬ遠くのものからラブコールをされる事もある。
……正直、よくわからない。
……ガキのころは狩人を継ぐつもりだった。
……わしに代わって勇者さまにご恩返しをしてくれと、じいちゃんから頼まれてたし……
……ペンを握るよりも早く……子供用の弓を渡され……じいちゃんと森を歩いてきた。
……弓を扱うことは楽しかった……
……しかし……
……罠にかかった獣も……おれの矢で傷つき倒れた獣も……おれが近づくだけで、興奮して……甘えてくる……
……刃を向けても……『さあ、どうぞ。お好きになさってください』とばかりに、無防備な姿勢をとる……
……仲間が狩られているのに、他の獣は次々にすり寄ってくる……
……獣の方からのこのこやってくるんだ。狩人となれば、生涯、食いっぱぐれることはない……と、思った。
……だが、さすがに……
……嫌になった……
……親愛の情を示してくるものに、矢を射かけるなど……
……射かけ続けるなど……
……卑劣極まりない。
……殺したくなくて……『そばに来るな』と願うようになった。
……おれの心に応え、生き物たちが距離をとるようになった時には驚いた。おれの心がわかるのか、と。
……しかも、見てるんだ。遠くから、じーっと。憐れを誘うような眼で。『そばに行きたい』と訴えるかのように、おれを囲んで、遠くからじーっと……
……それで、まあ、いろいろあって……
……おれを狩人にするのは無理だと……じいちゃんもわかってくれて……父さんの仕事を手伝うことになった。
……『不幸な体質』なのは、おれだけだ。じいちゃんも、父さんも母さんも普通だ。おかしいのは、おれだけだ……
……さすがに、虫や魚にまでは好かれないが……
……おれの願いは、思うだけで、生き物たちに伝わる。『そばに来るな』だけじゃない。『来い』も、『木の実をとってくれ』も、『水場に案内してくれ』も叶えてもらえる。
……おれの方は鈍い……生き物たちが何を望んでいるか……おぼろげにしかわからない。推測するしかないんだが……
……そこそこ意志の疎通はできる。
……おかげで……昔は……ジュネにえらく嫌われてた。
……まあ、いろいろ……された。
……あいつは稼業の技を厳しく仕込まれて育ったから……
……労せず、生き物から好かれるおれが……ねたましかったんだそうだ。
……それが、獣使いとして熟練度があがるうちに……あいつも獣に近くなって……
……おかしくなった。
……全力で甘えてくるようになったというか……。
……だが、まあ……今は、あいつは王都暮らし。そうそう会うことはない……離れているんだ、異常な興奮もいずれはおさまる……と思う。
……力の及ぶ範囲は……個体ごとに違う。
……遠くから呼び寄せられるものもいれば、そうでないものもいる。相性の問題だ、と思う。触れ合える距離まで近づけば、確実に、どんなものにも、おれの心が伝わるようだが。
……この世界に転移してすぐ……
……岬で……
……生き物と不死生物に囲まれたことだが……
……ゴーレムやスケルトンを呼び寄せたのは、まちがいなく僧侶だ……
……しかし、生き物に関しては……おれにも責任がある、と思う。おれがあそこにいたせいで、引き寄せられたものもいそうだ。
……あの時、この狼王が興奮したのも、おれのせいだ。
……僧侶の魔法結界が張られていて、匂いの源がわかりづらい状態だったんで……あの場にいたメス……いや女性の匂いだと……勘違いしたのではないかと。
……オスもメスも反応してしまうが……おれの匂いは性的フェロモンに近いんじゃないかと……思うんで……
……その……
……本当に……
……すまなく、思う。
* * * * * *
カトちゃんがアタシに一目ぼれしたのも、エドモンのせいだったのか。
なんかもう……
笑うしかなかった。
謝る農夫の人にもすり寄る獣にも、もう平気だからと答えておいた。