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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
幻想の野
26/236

花咲くエルフよ蜜を狩れ

 胸がキュンキュンした……



 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと八十〜 おっけぇ?》


 と、内側から神様の声がした。



 出会いがしらのキュンキュン。


 でも、これはキュンキュンするわ。


 だって、だって、だって!


 エルフなのよぉぉぉ!


 エルフといえば、アレよ。

 とんがり耳の、美形。

 ほっそりとした、美形。

 強力な魔法が使える、美形。

 ちょっぴりお高くとまってるけど、美形。

 年をとっても、美形。


 ともかく美形!


『勇者の書』でもエルフは、超人気。

 幻想世界他、五つの世界に存在が確認されているエルフは、勇者PTにひっぱりだこ。もちろん、男勇者は女エルフを、女勇者は男エルフを味方に加えるわけだけど。

 仲間にした勇者は『千年の幸福を得た』と書き残し、

 仲間にできなかった勇者は、己の不運を呪いながら、仲間にしたかった異種族ナンバー1にエルフをあげている。そんな勇者が片手じゃ数え切れないほどいるんだ。


 目の前の人は、アタシが心に思い描いてた通りの美形。


 先がピンと尖った、エルフらしい耳……

 背は高いけれども、ほっそりとしたしなやかな体。緑のチュニックに、栗色のズボンにブーツ。衣装も、それっぽい。森の中に溶け込んでる感じ。

 そして、何と言っても顔! 溜息が出ちゃうほど綺麗! 高い知性と教養を示すかのように品があって、やや女性的で華奢。

 やわらかなハチミツ色の髪に、切れ長の緑の瞳。

 静かに微笑をたたえる顔は、顔立ちが整いすぎているせいか冷たく見えて……。


 良い! すっごくいい!

 これぞ、エルフって感じ!


「エルドグゥイン……様?」

 エルフ様が名乗った名前を、そのまま口にした。

「どうぞ、エルドグゥインと」

 左胸に右手をあてて一礼する仕草が実に優雅で……これ、また何とも……


 アタシのハートはキュンキュンした……


「あなたは、森の王から愛された存在。緑を愛する花エルフ一族も、幸深き異世界勇者を歓迎します」


「何ものだ、貴様?」

 兄さまのでっかい背中が、アタシの前に立ちふさがる。

 いやいやいやいや!

 ガードはいらない!

 視界を塞がないで!

 アタシは兄さまの横から顔を出し、お美しいエルフ様を見つめた。


「護衛の方が、いきりたっていますね。今一度、名乗りましょう。私はエルドグゥイン。栄えある花エルフ一族の……王家に連なる者とだけ言っておきましょう」

 おおお!

 というと、王族? いや、(もと)王族? お貴族様かも?

 品があるわけだわ……

「偉大なる我が一族は、あらゆる種族から心頼されています。この度は、尊き花エルフ王に荒野の竜王より直々の依頼があり、名誉ある花エルフの一員であるこの私がこの地に参った次第です」


 へ?


 デ・ルドリウ様からの依頼?


「詳しい話を是非!」

 アタシは身を乗り出した。

 竜王の城に居たはずが、気づくと外で、兄さまとカトちゃんが戦ってるわ、ゾンビに襲われるわ、リッチに『力が欲しくはないか?』と誘われるわ、お美しい蝶の妖精と会うわ、みんなの幻を見るわ……

 キーンと耳鳴りがして、あっちこっち飛ばされまくりだったし……

 何がなんだか。


「ウォン!」

 突然カトちゃんが吠えた。


「ヨメ、だめ。キケン」

 グルルルと威嚇してるし。

「あぶない。ちかづく、死ぬ」

 死ぬ?


 エルフ様がフフッと笑う。

「我が一族の栄光は、荒野の野獣風情にまで伝わっています。私達は要らぬ争いは好みませんが、ひとたび戦となれば……ドラゴンすらも打ち負かしますから」

 おおお!

「その小狼が、輝かしいエルフ一族を恐れるのも無理からぬことです」


「おまえ、きらい」

 カトちゃんが、牙をむく。

 うん……絶対、気が合わなさそう。

 でも……

「カトちゃん。あの人とお話したいの。静かにしてて」

 腕の中の小狼は低くうなったままだ。よっぽどエルフが嫌いなのね。

「これ以上、あの人に近づかないから。なら、いいでしょ? カトちゃん、お願い」

「……わかった、オレさま、だまる。けど、あぶない、動く。エルフ、たおす」

「ダメ」

「ダメか?」

「ダメ」

「……わかった。ヨメいいと言うまで、たおさない」

……ほんと、かわいいわ、あんた。


 いちおう、釘を刺しといた。

「……兄さまも、喧嘩売らないでね」

 ぎくっと、背が揺れる。売る気だったのか……

 小声でつぶやいた。

「そのエルフさん、もう仲間だから」

「なに? あんな奴に萌えたのか?」

 肩ごしに振り返った兄さまが、戸惑うようにアタシを見る。

「……そうなのか。あんな男を……。まあ、おまえが好きそうな顔ではあるが……」

 む?

 何かひっかかる言い方。


「萌えて、私をお仲間にしてくださったのですか?」

 ひそひそ話はつつぬけだったみたい。

 さすがエルフだ、耳がいい。

「そうです……」

「光栄に存じます、勇者さま」

 エルフ様が(じっ)と、アタシを見つめる……

「百人の異性を仲間とし、魔王と戦う運命(さだめ)にある勇者さま……あなたゆえに、私が案内役に選ばれたのです。あなたがときめいても困らぬように……強く美しく賢いこの私が」

 穏やかな顔なのに、目だけが熱い……

「あなたの為とあらば、このエルドグゥイン、命を賭けて魔王に挑みましょう」

 瞬きを惜しむかのようにアタシだけを見つめている……


 胸がドキドキした……


「あ、あの……デ・ルドリウ様が、アタシの事とかエルフの王様に説明してくださったんですね?」

「はい」

「それで、どんなことを、依頼をなさったんですか?」

「あなたの導きを」

「導き?」

「赫々たる花エルフの王は、竜王からの依頼を受け、優秀な私に命じたのです。森の王の領域より異世界勇者が現実(うつつ)に戻る、その者をドワーフどもの洞窟にお連れするように、と」


「ドワーフの洞窟……」

 目的地だ。

 そこで、武器をつくってもらえと、お師匠様は言っていた。


「……アタシ達、あっちこっち彷徨って、それからここに来たんですけど……アタシの仲間のこと、聞いてません? 賢者のお師匠様と、魔術師と、農夫……じゃなくって狩人が今何処にいるか」

 エルフのエルドグゥイン様が、微かに首をかしげる。

「伺っておりません。絶大なる力を誇るエルフの王より命じられたのは、お話した事が全てです」

「そうですか……」


「しかし、誇り高きエルフに竜王が助力を求められた理由は察する事ができます。あの方はこの世界で最も強い存在ではありますが、巨大すぎ、小回りがきかないといいますか……失礼ながら鈍重なところがおありだ。ご自分であなたを迎えに来ては森の王の領域を侵してしまう、そう慮られたのでしょう」

「領域を侵す?」

「樹木を傷つけ、森を荒らすという事です」

 なるほど。

「また、口のきけぬゴーレムでは案内人に不適」

 それゆえこの私が、と涼しげに微笑む。


「森の王って、蝶の翅を持った妖精のことですか? さっき会ったんです。緑の髪で淡い紫の肌の、すごく綺麗な妖精でした」


 アタシの問いに、エルドグゥイン様がとてもにこやかな笑みを浮かべる。

「そうです。それこそが、森の王。大きな御力をお持ちの方ですが、外の世界にはめったにおいでになりません。美しいものや清らかなものを深く愛でられ、ごく稀に、領域にお招きになられるのです」

 クールだったお顔が一変してる。

 優しそうで、親しげ……。

 なんか……ドキドキ。アタシだけが特別な笑顔を見せてもらってるみたいで……。

「清らかな森に受け入れられたあなたは、敬意に値します。誉れ高き花エルフとも近しき者……たまらなく(いと)おしい」

 キャーーー!

 やっぱ、そう?

 そうなんじゃないかと!

 熱い瞳でアタシを見てるし! アタシの為に命賭けるって言ってるし!

 こんな美形が、アタシに一目惚れ?

友人(とも)とお慕いしたい」

 くっ。

 な〜んだ、友人か……。


「この森の樹木と樹木の(はざま)に、森の王の世界があるのです。森に()住まう我等花エルフは、隣人として森の王ともその眷族たる妖精達とも親しくしておるのです」

 へー


「さて……勇者さま。参りましょうか。卓越たる力を有する私の案内があれば、この深き森を抜けるなど易い。日のあるうち、森に愛されたあなたを、ドワーフどもの穴までお連れできるでしょう」


 背を向けて歩き始めたエルフ様を、兄さまが止める。

「待て。まだ仲間が来ていない」


 仲間?


 アタシは視線を動かした。

 腕の中のカトちゃん。

 足元のクロさん。

 兄さま。

 その腰ぐらいまで積み上がった荷物の塊……アタシと兄さまの荷物+『ルネ でらっくす』。その下に居るのは……ピアさん? 一人で持ってるの? すごい! 力持ち、さすがゴーレム!


 ん?


 全員居るんじゃ?


「ジャンヌと共に消えた僧侶がまだ現れていない。森の王とやらの領域に留めおかれているようだ」


「………」


 あ。


 そっか、マルタンか。


 あいつ、アタシと一緒に森の王さまの所まで行ったのよね……

 まだ出て来てないの?


 キョロキョロと辺りを見回した。

 けど、傲岸でハチャメチャな使徒様の姿は見あたらない。


「輝かしき私は、異世界の勇者さまをドワーフどもの洞穴へと導くよう命じられています。供のものがあれば、共に連れゆくようにとも命じられてはおります。が、それだけです。この場に居ないものの事は、知りません」


 え?


「なんだ、その言い方は!」

 兄さまが声を荒げる。

「あの男はどうしようもない奴だが、あれでもジャンヌの仲間だ。無事を確認できてもいないのに、俺達だけで、このまま」


 兄さまの声に負けないよう、アタシは声を張り上げた。

「休憩!」

 振り返った兄さまとエルドグゥイン様に、アタシは大きな声で言った。

「少し休ませて。起きてから、まだ何も口にしてないの。おトイレにも行ってないわ。いいでしょ?」


 アタシは兄さまを見上げた。

「休憩している間に、マルタンが来るかもしれないし」


 アタシを見つめ、兄さまがあげた拳を下げる。

「そうだな……」

「構いませんよ。しかし、もう少し東へ。ここは森の王の座所に近すぎます。それから、森で火を焚く事をお慎みくださいますか?」

「わかったわ。でも、森の王の座所ってのが見える所にしてくれます? うちの僧侶、森の王さまに会ってるはずなの」


「ほう。森に愛された幸深き方が他にもいらっしゃるのですか」

 エルフのエルドグゥイン様が、破顔する。

「それは是非お会いしたい。僧侶ならば、さぞ徳の高い、清らかな方なのでしょうね」


 徳が高い……?


 清らか……?


 マルタンが……?


「それとも、穢れを知らぬ幼子のような方なのですか?」


 い、いや、その……

 なにかというと『俺の内なる霊魂が』とか『マッハで』とか叫ぶ、イっちゃってる僧侶です。

 内に十二の世界があるんだそうです、眠ってる間に邪悪と戦ってるんだと信じきってます。

 完全に、夢と現実の区別ができてません。

 普通の厨二病ならいずれ覚めますが、あいつは僧侶としてもの凄く優秀なんです。

 なまじ実力があるから、たぶん永遠に夢から覚めません。

 覚めない厨二病です。


「……邪悪を激しく憎む、正義漢の強い僧侶です」

 と、だけ言っておこう。うん。






 少し離れた、倒木の所で休憩となった。

 ここだけ枝葉が無いので、光が降り注いでいてとても明るい。

 樹木の間から、さっきの王の座の辺りが見える。マルタンが妖精の国から帰って来たら、バッチリわかる。


 ずっと我慢してたトイレは、ルネさんの『どこでもトイレ』のおかげで解決!

 ボールサイズのそれは、スイッチポンで巨大化! プライベートを守る簡易テント(付属品)付き! 匂い消しのレモンのスプレー! アレなものは密閉タンクに入るから、次の人にトイレを譲る時も安心! 引き出し式だから、タンクの中身も簡単にポイできちゃう!

 素晴らしい! 天才だわ、ルネさん! これが、アタシ的にはベストオブ発明だと思う!


 ルネさんの携帯洗顔器『お顔ふき君』で手や顔を洗ってから、倒木の所でお食事をした。

 荷物入れから、非常食料と水筒を出して。

 干し肉はカトちゃんにあげた。人間用のじゃ塩分高すぎだろうけど、カトちゃんは人間にもなれる。たぶん問題なし!

 右手でパンを食べながら、左の掌に干し肉をのせてカトちゃんにあげた。尻尾ふりふりで、すっごく可愛い。時々、掌を舐められちゃうけど!

「……自分で喰えばいいものを」

 カトちゃんにぶつぶつと文句を言いながらも、兄さまはアタシに干し肉を分けてくれた。


「ジャンヌ、ご機嫌だな?」

「うん。すっごく嬉しいもの」

 兄さまが優しいから。

 ついつい顔がニマニマしてしまう。

「さっき、マルタンの事で怒ってくれたでしょ?」

「ん?」

「びっくりしたけど、ジーンとしちゃった。マルタンのこと『仲間』って言ってたし♪」

「あれは……」

「ほーんと良かった! 兄さまが、アタシとクロード以外の人とも親しくなれて♪ 仲良くなったのがマルタンってのがかなり意外だけど!」

 別に仲良くなったわけでは……と、兄さまが口の中で後の言葉を濁す。

「……あんな奴でも、おまえの仲間。仲間は、何があっても見捨てん。それが男というものだ」

 うん、うん♪



「……栄えある花エルフ一族の者と話をします」

 木陰に立つエルドグゥイン様は、そう言って目を閉じ、口を閉ざした。

 たぶん、心話で同族の人と会話しているんだろう。


 樹木と一体化するようにしなやかにたたずみ、涼しげに沈黙を守るエルフ様。風に、ハチミツ色の髪がさらさらとなびく。

 絵になるわ……

 濃い緑の香りと、清涼な風、木漏れ日の光と、美形なエルフ……癒されちゃう……


「あいつ、シャルルに似ているな」

 チーズをかじりながら兄さまがつぶやく。

 む。

 婚約者(シャルロットさん)のお兄さんを呼び捨てにするとは。普段は『様』づけしてるくせに。アンヌおばあさんの目が届かない異世界に来てるからか。

「そうね。容姿端麗で気品あふれるところなんか、そっくりよね〜」

 貴公子って感じ!

「……お高くとまった、ナルシスト。自慢好きで、そっくりだ」

 むむぅ!

 聞き捨てならないことを!

 エルドグゥイン様とシャルル様がお美しすぎるからって、色眼鏡で見てない?



「……少々、力を使います。頑愚な獣を押さえていていただけますか?」

 エルドグゥイン様が、にこやかにアタシに微笑みかけてくる。一族の方とのお話は終わったみたいだ。

 何だかわからないけど、とりあえずカトちゃんを抱っこしておいた。


 エルドグゥイン様が胸元から小袋を出し、中身を指でつまんで地面にパッと撒く。

 その口が、何かをつぶやいている。けれども、聞き取れない。

 自動翻訳機能が反応しない特殊言語……一般人には使えない呪文の類い、あるいは獣語だろう。


 最初は、何をしているのかわからなかった。

 下草が邪魔で。

 けれども、じきにわかった。何かを撒いたところから、にょきにょきにょきっと草が伸びているんだ。

 エルフ様の前で、葉が茎が見る見る大きくなってゆく。

 魔法で育成しているのだと気づいた時には、それは彼の腰ぐらいの高さの小さな木となっていた。

 枝に緑の葉が茂り、かわいらしい白い花がポンポンポンと咲いてゆく。


「綺麗……」

 手品みたい!


 エルドグゥイン様が、にこりと微笑む。

 再び呪文。

 声の調子が変わったような?


「ウフッ!」

 カトちゃんが、変な声を漏らす。

 耳を前に傾け、鼻面に皺を寄せて、うなっている。

「どしたの?」


……音がする。

 うなるような、耳障りな音だ。

 獣の声……じゃないな。

 音は、どんどん大きくなる。


 カトちゃんが牙をむいて、怒る。


 ようやくアタシにも、狼王が何を警戒しているのかがわかった。

 森の木々の間から、それらが現れたから。

 ぶーん、ぶーんと低くうなる小さな生き物が……数えきれないほどいっぱい。

 四方から後から後から湧くように現れては、アタシ達の側を通り過ぎてゆく。


 ひ。


「動くな、ジャンヌ」

 兄さまからの警告。

「……じっとしてやり過ごせ。下手に動いて刺激するな」

 アタシの横で兄さまは、どっしり構えて座っている。


 緊張のあまり、体が震えてきた。

 すぐそばを……うわ〜んうわ〜んと音をたてながら、小さいものが飛んでゆく。頬や目の近くを通られると、ゾッとする……


「失礼。警戒させてしまいましたね」

 穏やかな笑い声がする。

「心配はご無用です。みな、誉れ高き花エルフ一族のしもべ達ですから」


 アタシはそちらへ目を向け……


 頭が真っ白になってしまった。


 エル、ド、グゥ、イン……様?


 エルドグゥイン様が魔法で作った木に黒いものが蠢いていて……


 お美しいエルフ様が居た場所には、真っ黒な塊があった……


 人の形を象ってはいるけれども、人よりも膨れ上がっている。


 てか、その下にあるものが確認できないほど群がっているんだ……

 蜂が……。


「偉大なる一族の、忠実なしもべ達です。比類なきこの私が命じない限り、何も刺しませんよ」

 虫にたかられているモノから、エルドグゥイン様のお声が……


 全身蜂だらけ。

 もちろん、顔の判別もつかない。

 つまり……蠢いて、這いまわって、いる、わけだ……

 エルドグゥイン様の目の上にも、鼻の上にも、唇の上にも、耳にも、も、も、もしかして耳の中までも……


 うごうごと、蜂が……


 蜂が……


 は、ち、が……




 その辺が、アタシの限界だった。


 その後のことはよく覚えていない……気がついたら兄さまとクロさんに抱きとめられていた。


 パニックになって、キャーキャー悲鳴をあげながら森の中を駆け回ってた……らしい。

 カトちゃんを抱っこしたまんま……。


「オレさまの、テリトリー、ほんの、ほんの、すこし、みどり、ある。エルフ、たまに、くる。花、おると、おこる。ハチ、けしかける」

 嫌そうにカトちゃんが、低くうなってる。

「ねえさん、言った。エルフ、森とか野原にすむ。けど、草木あれば、どこにでも、わく。やっかい」

 なに、その油虫的な比喩……

「相手しない、にげる。かしこい」


 思い出した、この世界のエルフは園芸家で養蜂家だった。

 お師匠様の勇者の書には、

『幻想世界のエルフは、蜜蜂を使役する。花の(まも)り手を自称する彼等は、授粉、新種の花作り、農耕の手助けの為、蜂を操る』のようなこと書いてあったっけ。


 だから『花エルフ』なのだ。



「驚かせてしまったようですね。申し訳ありません」

 もとの場所に戻ったアタシを、エルドグゥインが笑顔で迎える……

「子犬が主人を慕い抱きつくように、素晴らしき私の元にハニー・ビー達が集っただけのことなのですが……。襲われていたわけではありませんよ」

 エルドグゥインは爽やかな笑顔だ。

 もう蜂はくっつけてない。

 だけど、アタシのハートは冷めきっていた。


 だって、あの姿は……


 うぅぅぅ……


 夢に見そう……。

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