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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
番外編【勇者列伝】
233/236

七十四代目 ソノヤマ マスミ 中編

○月×日

 明日は、いよいよ王城へ行く。かなりドキドキだ。

 王族へのご挨拶の言葉は、暗記したわ!

 そこそこは……形になってる……わよね?


 ちょっとだけいい事と、かなり嫌な事があった。


 いい事は……

 ドレスが仕上がったの!

 これが、また! 馬子にも衣装と言うか! ザ・日本人顔の私じゃ、ドレスなんてぜったい似合わないと思ってたのに! 自分でもびっくりするほどの大変身! シンデレラな気分! これ着て、明日、王様たちに会うのか!

 ありがとう、着付け&メイクをしてくれたメイドさんたち!

 ありがとう、スポンサーのマティアス!

 ありがとう、ドレス・髪飾り・装身具一式を見立ててくれたロジェ!


 嫌なことは……

 ロジェがはっきりと言いやがったのだ……

「マスミはデブ(・・)だから、膨張色を避けてワインレッドのドレスにした。いかり肩を隠すのではなく、あえて見せるデザインで。ネックラインを大きく開けて、首・肩・鎖骨を見せ、胸元も下品スレスレまで見せてみた。スカートにレースや刺繍をふんだんにあしらってあるので、見る者の目は下に向く。上半身のゴツさを隠せるだろう」

 いかり肩で悪かったなぁぁ! あんたはもう! センスはいいけど、口は最悪だわ!

 てゆーか! デブとは失礼な! 私、あっちじゃ標準体型なんだから! 補正下着(コルセット)をつけるこっちがおかしいの! あんなのでギューギュー締めたら、肋骨がパキンといっちゃうわよ!


 更に嫌なことは……

 ダンスの練習をさせられたのだ……

 謁見の場でダンスはないけど、『キスができそうな距離』に接近する理由として、ダンスは自然だとか何だとかロジェが言って……でも……

「おれの手拍子にあわせて、ステップを踏め。あとは男性のリードに任せりゃいいんだよ。……おまえ、リズム感まで無いのか! バカで体力なし。その上、耳まで悪いのか。良いとこ無しのゴミ女だな」

 うるさい! あんたは歯に絹を着せろ!


 まあ、ケヴァンのリードはちょっと良かったけど……。優しく、ふわって包み込む感じで……ちょっとだけ、お姫様気分に浸れた。



※今日のお勉強

 宮廷作法+ダンス(講師マティアス・ケヴァン・ロジェ)

 神様のお話(講師ヨハン)



※プレイバックPart5(最終回)。


 ずっとマティアスの屋敷で過ごしている。


 仲間たちから、この世界のことや護身術を教わったりしてる。

 ヨハンも毎日、聖書のお話をしてくれる……ハァ。


 私は、だいたいドニ君とセット。

 ドニ君が席を外す時は、小鳥やら犬やら猫やら、ドニ君が操る獣がくっついてくる。私の剣にも盾にもなる護衛獣だ。


 時々、あっちこっちのギルドから仲間候補に推された人物がやって来た。

 けど、お客様と私が対面しても、髭賢者の頭の中にファンファーレが鳴り響く事はなく……

 また、私の隠れた能力が判明することもなく……。


 無為に日々は過ぎていき……



 ランディが切れた。

 グレンは過保護すぎる、このままのやり方では魔王戦までに残り五人が見つかるはずない、マスミを外に連れ出していろんな人間と対面させるべきだ、と。

 冒険家だから、ひとつところにじっとしてるのは性にあわないんだろうな。


 でも、その意見を、グレンは一蹴した。

 勇者を不特定多数の人間と接触させても、危険なだけだ。暗殺されるのが落ちだ、と。


 実際、ヨーロッパ風のこの世界では、いかにもアジア人な私は人目を引く。隠密行動は、まず不可能。


 その上、弱い。

 とことん弱い。

 ただのOLだもの……。

 秘められし力に目覚めない限り、たぶん最弱。

 そこらの子供にも、負けると思う……。


「そのうち、マスミの力がどんなものかわかるだろう。それまでは危険はおかさなくていい。マスミにはマティアスの屋敷に籠ってもらう」


 てな髭賢者に反発したのだろう、ランディは護衛のプロを二人連れて来た。

「人混みを歩けとまでは言いませんよ。でも、マスミはもっと行動範囲を広げるべきです。彼等と一緒なら、マスミも外へ出られる」



 一人は、盗賊のカロン。目つきと顔色が悪い小柄な男だ。カロンは周囲の気配を読むのに長けていて、暗殺者がそばに居れば確実にわかる(・・・・・・)のだそうだ……エスパー?



 もう一人も、盗賊ギルド所属。

 けれども、杖と魔術師のローブを装備していて……

 ツンツン頭に、少し垂れ目の派手な顔つき。指輪、腕輪、首輪、イヤリングをジャラジャラとつけていた。全部、魔法装飾品なんだそうな。

 見た目はチャラ男で、

「どうも。ケヴァンでーす」

 口調も軽い。へらへら笑う彼は、魔術師というより……日焼けしてないサーファーみたいだった。ハンサムではあるんだけど!


 ケヴァンが私に近づいた時、髭賢者の頭の中にファンファーレが鳴り響いた。


 ケヴァンは、私の仲間だったのだ!



 彼は、魔術師ギルドを除名された魔術師だった。

 現在は、盗賊ギルドの顧問って形で収入を得ている。

 魔法の灯りなどの魔法道具(マジック・アイテム)を寄贈(って形で販売)したり、アイテムの鑑定をしたり、幹部の護衛の任に就いたり……。

「結界魔法は得意中の得意なんだ。薄膜のような魔法結界を、警護対象の全身に張り巡らせるオリジナル魔法も使えるんだ」


 そんな凄い人が、何で魔術師ギルドをクビに?


 ケヴァンは、悪戯っぽく笑った。

「禁忌魔法に手を出しちゃったんだよねー 豊胸魔法に貧乳魔法、スケスケ魔法、性転換魔法(♂から♀へ一方通行限定)に、ロリ化魔法、ケモ耳&ケモ尻尾魔法、それから……」


 桃色魔術師だったのか、あんた!



 でも、ケヴァンが仲間になった事で、髭賢者も考えを改めた。

 ギルドに所属していない人物でも、私の仲間たりうるのだ。暗殺の危険が少ないやり方で、私の出会いの場を増やすべきだと動いてくれ始めたのだ。


 その一つが、謁見の間での「勇者の就任挨拶」なのだ。

 私は仲間たちに、物理的にも魔法的にも守られながら、勇者からの言祝(ことほ)ぎって形で、王族と列席しているお貴族様方にご挨拶してゆく。

 基本的に玉座から出口に向けて。

 注意点は、お相手の爵位とお名前を間違えない(いざとなったら、マティアスが教えてくれる)。笑顔を絶やさない。優雅な所作を心掛ける。言祝ぎの台詞は五十パターン、同じ事を次の人に言わないよう気をつける。




※あらためて、ランディとロジェのジョブについて教えてもらった。

 冒険家というのは、ランディが好んでる自称であって、ジョブではないらしい。

 ロジェも『運命のルーレットダーツ』を習得したから、ギャンブラーと名乗ってるだけ。

 二人の正式なジョブは、トレジャー・ハンター。盗賊ギルドの所属だそうだ。

 ランディは、広く浅くいろんな技能を習得している。魔法も技法も剣も格闘も盗賊技も使える。けれども、どれも一流半なのだそうだ。

 ロジェは、魔法は初級まで。ランディよりも剣が使え、手先も器用。でも、やっぱり本職盗賊には及ばないらしい。罠外しに時間がかかったり、成功率が低かったり。

 ランディ曰く「二人とも、器用貧乏な便利屋」だそうで……。


 ランディ&ロジェ兄弟に、ケヴァンに、護衛のカロン……私の周り、盗賊ギルドの人ばっか!



* * * * * *



○月×日

 キター! ついにキタァァァー! 王子様よ! 王子様!


 いや、まえからそうなんじゃないかと思ってたけど!

 確信したわ!


 間違いない。

 この世界は……


 乙女ゲームだったのよぉぉ!


『異世界トリップ! 気がつけば、イケメンに囲まれていました!』

 うん、そんな感じ。


 右向いても左向いても、イケメン!

 イケメン!

 イケメン!

 イケメン!


攻略相手(仲間たち)

 ドニ君 = ショタでもふもふな獣使い

 ランディ = 金髪メガネ冒険家。爽やかと見せかけて腹黒。

 ロジェ = 無愛想クールなギャンブラー。微S。毒舌。

 マティアス = 老け顔イケメンボイスの学者。お金持ち。

 ヨハン = 敬虔な聖職者。清らかな天然。

 ケヴァン = 桃色魔術師。チャラ男。


サブキャラ(仲間じゃないけど側に居る人)

 髭賢者 = ちょい悪オヤジ。もと戦士。大ざっぱだけど心配性。

 盗賊のカロン = 目つきが悪くて背が低い。無口。



 ここに来て……強力なメンバーが……


 アンリ様登場ぉぉ!


 ともかくド派手!

 衣装からして、キラキラだし!

 パツ金の巻き毛、まばゆいばかりにキラキラのゴールデンブロンド! そして碧眼! 額が広くて、鼻が高くて、頬骨が高くて、おまけに背も高い!

 威風堂々な、俺様王子なのだ。

 そう……王子。

 比喩ではなく。

 この国の第四王子様なのよぉぉぉ! 王子様が私の仲間ぁ? さすが異世界トリップ乙女ゲー!


 でも、ただ一つ! 彼には欠点が……

 十八歳……

 十八歳なのおぉぉ!


 もっとヒロインの年齢に合わせようよ、六つも下だよ! せっかくの俺様王子が……



 そしてそして。

 ついでのように仲間になった人が!

 近衛騎士のフェビアン。アンリ様付きの護衛騎士も、私の仲間と判明!

 これまた、タイプの違うイケメン。

 色素の薄い短い髪、切れ長の鋭い瞳。アンリ様よりも高い背、逞しい体。

 礼儀正しい、美丈夫!

 常に敬語!……敬語騎士か……大好物!


 

 あと二人素敵なカレシを見つけて……

 十人のカレシによる争奪ラブストーリーが始まるんだわッ!


 私は平凡なOL。ステータスも平凡。技術も資格も能力もなく、容姿も普通……。

 でも、ヒロインだもの! 『主人公補正』が働いて、モテまくりね! 幾多の困難も、高いラック値で乗り越えてみせるわ!


 王侯貴族・近衛騎士・魔術師、ショタ……はぅぅ、誰にしよう。サブキャラの髭オヤジも、実は……とかイベントありそう! 私の魅力で、魔王まで堕とせるかも!



 俺様王子がさっそくグイグイくる。

「私を選んだ運命の勇者よ、もっとおまえを私に見せてみろ……」


 離宮監禁エンド??????


 じゃなくって、アンリ様の離宮に私達勇者一行全員が招待された。

 これからしばらく離宮暮らし。

 マティアスの屋敷もキラキラだったけど、離宮はもっともっと眩しくって……別世界だわ。


 惜しむらくは、俺様王子の一人称が『俺』じゃなくて『私』だったことだけね!



* * * * * *



○月×日

 髭のおっさん。人の日記を勝手に読むなよ……


「おまえ、頭大丈夫か?」とか、よけいなお世話……


 うん、まあ……このとこ、私のテンションはおかしかったわね。それは認める。


「誰が仲間にできるかわかったわ! 顔面偏差値が高い人間よ!」

「狙うなら、今ない属性の人間ね。硬派、ヤンデレ、クーデレ、電波、へたれ、鈍感、マザコン、女嫌い……」

「私の一押しは、クーデレよ!」

 アホなことを言ってた昨日までの自分を……穴掘って埋めたい……。



 うん。だいぶ、目が覚めた。

 乙女ゲームは、ゲームだから許されるんだと思う。


 独占欲の強い俺様王子と、私を慕う少年(辺境の出だからか、王族が偉いとわかっていない)が火花を散らし……

 清らかな僧侶が「お心を和やかに。神の国のお言葉をお伝えしましょう」と朗々と聖書の言葉を読み上げ……

 腹黒メガネとギャンブラーがつるんで、俺様王子を挑発。剣の勝負! となって……

 王子様が二人にこてんぱんに負けてしまったのだ。

 ランディもロジェも、自分たちに手も足も出ないなんて弱すぎると嘲笑。

 王族に何てことを! と、常識人のマティアスはひたすら平謝り。

 でも、護衛役のフェビアンは、王子様がボロ負けしてもけろっとしてた。逆に「勝ちを譲られなくて、ようございましたね」などと王子様に言っていて……意外とサド?


 髭賢者からもキツイ言葉が……

「アンリ様が王族であられることには、敬意を表します。しかし、ここはあえて、賢者として言わせてもらいます。アンリ様、あなたの剣では魔王に通用しません。今のままのあなたでは、魔王戦で何の役にも立たないでしょう。戦力が一人減れば、我々の勝利は遠退きます。あなたのせいで、マスミは負けかねない」


 そんな中、桃色魔術師がチャラく言った。

「オレが見たとこ〜 王子さま、魔法の才がありそーだよ。けっこー魔力あるでしょ? 魔法、どんぐらい使えるの?……初級まで? はい、はい、魔法理論がめんどくさくて、お勉強やめちゃったのね。んで、剣も王族として恥ずかしくない程度身につけたらおしまいにした……と。ん〜 賢者さまってあらゆるジョブの師匠(せんせい)になれるんだよね? 王子さまをさ、魔法剣士に育ててみない? 剣技は近衛騎士さんが、魔法はオレがサポートするからさ」



 魔王が目覚めるのは、七十四日後。



 このままじゃ、魔王に勝てない。

 仲間が強くなきゃ……

 私が強くなきゃ、魔王に負ける。

 私は殺され、この世界は滅ぶのだ。


 王子様だ〜って浮かれてた自分が恥ずかしい……。


 アンリ様は魔法剣士の勉強を始めた。

 だけど、私の方はさっぱり。護身術がまったく身につかない。「どんくさ女」とロジェに、ののしられ続けている……。

 私の秘められし力って、ちゃんと目覚めるのだろうか?



* * * * * *



○月×日

 アンリ様はめきめきと強くなっておられるようだ。あれ? この敬語、ちょっと変かも? まあいいか。

「フッ。当然だ。私はやればできるのだ」と俺様王子顔も回復中。

 さっすが王子さま〜とケヴァンはおだて上手だし、賢者も万事がテキトーだから傲慢発言も「はいはい」と聞き流すし。

 でも、王子様、ランディとロジェは苦手みたい。二人が来ると、とたんに無口になっちゃう。


 近衛騎士のフェビアンは、淡々と護衛をし、淡々と王子様に剣の指導をしている。


 だけど、時々、口元をゆるめてるのよね。ケヴァンや髭賢者が王子様を指導しているのを見守ってる時とか。

 デキの悪い弟の成長を喜ぶお兄ちゃん的な顔というか……


 たまたま二人っきりになった時、フェビアンにいろいろ聞いた。


 お姉さんがアンリ様の乳母だった縁で、フェビアンはアンリ様付きの近衛騎士となり、それから八年間ずっとアンリ様の成長を見守ってきたのだそうで……


「お仕え始めた時から、アンリ様はたいへん優秀な方でした。少し学ばれただけで、どんなことも我が物としてしまわれる。多才と言えば聞こえはいいのですが、表面を学んだだけで次の事を始めてしまわれて……」

 それも生まれゆえの事と、フェビアンは苦笑した。

「第()王子ですからね。王位はほぼ望めず、学者か聖職者にでもならない限り表舞台に立たれることもまずない。兄君の嫉妬を買わぬよう、何事にも手を抜いておられたのです」


 勇者(わたし)の仲間となった事で、アンリ様は初めて本気になれたのだと……フェビアンは嬉しそうだった。


 王族もたいへんなのねえ。


「アンリ様を仲間に選んでいただいたこと、心より感謝いたします」と、フェビアンは言ったけど、私が何かやったわけじゃない。そういう運命だっただけのことよ。



……ていうか、手抜きしてた天才はいいわよ。本気になれば、成長を見込めるもの。


 でも、全力でやってもへっぽこな凡人は……どうすればいいの?????


 今日も、ロジェにさんざんののしられた……。



「すべての人間を神は等しく愛されておられます。信心深き者もそうではない者も、優れた力を持つ者もそうではない者も、富める者もそうではない者も、みな等しいのです。ありのままの自分を、他人を受け入れましょう。神を愛するが如く、隣人を愛するのです」


……ヨハンのお話を聞いてたら涙が出てきた……。


 明日も、がんばろう……。

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