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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
番外編【勇者列伝】
228/236

十六代目  アリス

「還っちまったな……」


 フェリックスと共に、彼女の消えた荒野を見つめた。


 そこには、ほんの少し前まで彼女が居た。

 魔王と対峙する、少女……


『絶対防御』の勇者アリスが……。




 変な小娘だった。


 重い物は持てず、足は遅く、体力も無かった。

 少し体を動かせば、すぐに息があがった。半日の山歩きにすら耐えられず、フェリックスに泣きついていた。何もない所でもよく転んだ。


 戦えぬ『勇者』など……本来ありえん。

 普通の人間であれば、不甲斐ない己が身を恥じるだろう。


 しかし、彼女は開き直った。

『しょーがないでしょ、わたし文系なんだから!』と自分を正当化して。


 剣すらまともに握れぬくせに。

 騒動(トラブル)に自らつっこんでゆくような少女だった。


 負けん気が強く、意地っ張り。


 やりたくない事は、他人に押しつけるか、屁理屈をこねてやり過ごそうとばかりした。口だけは達者だった……。


 口癖は『文句なら神様に言ってちょうだい』『わたしが勇者よ』『気に入らないわね』『ダメよ。わたしの正義に反するわ』……。


『この世界の常識なんか知らないわよ』

『わたし、この世界の人間じゃないもの』

『わたしは、わたしの正義を貫くだけよ』


 たった一人で見知らぬ異世界に来て『勇者』となったというのに……


 怯えることなく。

 己が不運を嘆く事もなく。

 アリスは、いつも勝気だった。


 決して自分を曲げなかった。


 なぜ、彼女はああも真っ直ぐでいられたのか……?




《汝が在ることが仲間を護るであろう。あらゆる刃は汝に触れること能わず。汝の正義を阻むものは無しと、心得るべし》



 アリスの『絶対防御』の力は、確かに凄まじい。

 あらゆる敵意・攻撃から、彼女と彼女に触れられている者は護られる。

 誰にも傷つけられない。殺される事はない。


 けれども……

 アリス本人が死を選んだら……『絶対防御』は発動しない。


 彼女がうっかり階段から足を踏み外しても、同じだ。『絶対防御』は発動せず、打ち所が悪ければ普通の人間のようにアリスは死んでしまう。


『絶対防御』は、彼女を不死身にする力ではない。

 第三者からアリスを護る……それだけの力なのだ。


 それに気づいた私は、フェリックスやソフィーと共に彼女を守り続けた。


 そのへんでうっかり死にかねない、赤子より目が離せない、子供のような彼女だけを見つめ続けた……。


 彼女が私の前に現れた日からずっと……彼女が私の全てだったのだ。




『絶対防御』持ちの彼女がいたからこそ、範囲即死魔法をふりまく十六代目魔王に我々は立ち向かえたのだ。


 背負子(しょいこ)でアリスを背負ったフェリックスが、魔法剣と盾で魔王を足止めしつつ、隙を見て守護結界を切り裂く。

 そこに、私の指揮する魔術師団が攻撃の雨を降らせた。

 アリスと彼女を背負うフェリックスには、あらゆる攻撃が無害となる。

 私達の魔法は、魔王にだけ損傷(ダメージ)を与えていった。


 しかし、魔王の魔法防御力は尋常ではなかった。

 僧侶・尼僧の方々の回復魔法、魔法道具、魔法威力増幅の魔法陣、魔法陣形……さまざまなものに頼っても、時間と共に戦況は思わしくなくなっていった。

 魔力枯れを起こし、一人また一人と魔術師達は脱落していったのだ……


『大丈夫! いけるわ! 魔王の残りHP(ヒットポイント)は、たったの三千万とんで四十五よ!』

 アリスだけが強気だった。『仲間や敵の、攻撃値と残りHPを見る』勇者(アイ)で、魔王の残りHPを見ては、彼女は私達を励まし続けた。


『ここまで来たら、ぜったい負けないから!』

『いざとなったら、わたしがどうにかする!』

『わたしを信じて!』

『全力でいっちゃって!』

『あんたたちの本気を見せて!』

『男でしょ! あきらめないで!』



 剣すら握れぬくせに……

 あの局面で、なぜ勝利を疑わなかったのか……。


 不思議な小娘だった……。




 尼僧のソフィーに回復魔法をかけられてるフェリックスは、らしく(・・・)ないほどおとなしい。

 アリスを背負い、剣をふるい、盾で魔王を弾き、走りきったのだ。流石の体力馬鹿も、バテたようだ。


 かくいう私も、消耗しきっていた。

 杖に体重をあずけ、座り込んでいる。

 魔王を倒す為に、全ての魔力・体力を注ぎ込んだのだ。もはや小石一つ持ち上げられない。


 今はもう……

 何も気力が湧かない。


 気を失った魔術師団(ぶかたち)も、僧侶様方に任せっきりだ。


 今はただ……

 彼女が消えた地を見つめるだけだ。



「あ〜あ。フラレちまった……」

 フェリックスが舌を打つ。

 この男はアリスをよく口説いていた、『魔王を倒しても、還るなよ。こっちで、俺と結婚しようぜ』と。それに対しアリスは『冗談は顔だけにしてよね』とまったく相手にしてなかったが……。

「最後まで、ほだされてくれなかったなあ、アリスちゃん……」


「仕方ありませんわ。アリスは異世界人ですもの。使命を全うしてお家に帰れた事を、祝福してあげましょう」

 そう慰めるソフィーも寂しそうだ。

 無理もない。アリスと知り合ってから、片時も彼女のそばを離れなかったのだ。魔王の信奉者達から彼女を護る為、寝るのも食事するのも、風呂ですらも一緒だったのだ。


 喪失感は、ソフィーが一番強いのではなかろうか。



 魔王討伐後、歴代の異世界出身勇者はアリスを含め、全員この世界から消えている。


 皆、もとの世界に帰還したのだろう。



「何度も言うたはずじゃ、フェリックス」

 抑揚の無い声が響く。

「アリスがこの世界に残留したとて、『賢者』を継ぐだけ。おまえの妻になる未来などありえぬと」

 賢者モーリスは、いつも通りだ。

 ピクリとも表情を変えない。

 長い時を生きてこられたこの方は、人間らしい感情に欠けておられる。

 愛弟子(アリス)との別れにも、何の感慨も覚えていらっしゃらないようだ。

「また、我もアリスが我が跡を継ぐ事を望まぬ。あのような浮ついたおなごに、賢者は務まらぬ。……還って良かったのだ」


 白銀のローブをまとった賢者が、フッと姿を消す。

 移動魔法だ。

 王宮へ報告に行ったのか、呪われた北を包囲していた部隊のもとへ状況説明に向かったのか、はたまた新勇者(じゅうななだいめ)の気配を感じて迎えに行ったのか……行先はわからん。魔力切れの今の私では、賢者を追えない。



「ミッシェルが口説いてくれてりゃなあ」

 フェリックスは、何故か私を睨んでいる。

「あんたの求愛(プロポーズ)になら、アリスちゃんも心を動かしただろうに……」


 何を言ってるのだ、この馬鹿は。


「あの子、あんたに惚れてたんだよ。いつも、すっげぇ熱い目であんたを見てた。……さすがに、気づいてただろ? ちょ〜カタブツの宮廷魔術師様でも、さ」


 知らんな、と答えておいた。



 王命によって、彼女の仲間となった。


 彼女を護衛したのも、

 衣食住の手配をしたのも、

 彼女の愚痴につきあったのも、

 協力者を探したのも、

 魔王戦の作戦を考えたのも、

 欠陥だらけの『絶対防御』の秘密を隠させたのも……


 アリスを想ってではない。


 全て、国への忠義の為だ。



 しかし……



 戦闘中、フェリックスの背のアリスと何度か目が合った。


 勝利を信じる、彼女の勝気な瞳……


 まっすぐに私を見つめる黒曜石のような……


 煌めく瞳が、心に焼き付いている……。



 私は……

 生涯、あの瞳を忘れる事はないだろう。



 フェリックスとソフィーと、荒野を――『呪われた北』を見つめた。


 魔王誕生と共に、魔王城が出現する。

 歴代魔王の城は、全て同じ位置に同じ形で現れた。

 十六代目魔王の城も、ここ『呪われた北』に現れ……


 魔王を倒して、十六代目勇者は消え、魔王城も跡形もなく消え去ったのだった。



「……変な小娘だった」

 口から漏れた言葉に、何故かフェリックスは頷いた。

「だよな。あんなすげぇ子、二人といねえよ」


「ええ。アリスは、わたくしたちの大切な方。わたくしにとっては、たった一人の勇者ですわ」

 ソフィーが穏やかに微笑んだ。



 十七代目勇者が現れ、王命によりその仲間となったとしても……

『私の勇者』と心から思える相手は、アリスだけかもしれない。



……そんな予感がした。



* * * * * *



 奈々ならわかってくれるわよね……わたしの気持ち。



 わたし、勇者だった時のこと、忘れられないの。


 わたしの仲間――フェリックスとミッシェルのこと、まえに話したわよね?


 この二人がね……ほんと〜にステキだったの。


 二人を想うと、今でも胸がときめくわ……。



 フェリックスは、ムキムキマッチョな戦士で! 酒と女を愛する、ちょ〜ナンパな性格! なのに、いざって時は頼もしかったわ。剣一つでどんな敵でも蹴散らしちゃうし、女子供に優しいし。


 対するミッシェルは、ちょ〜真面目な宮廷魔術師(エリート)! でもって、ストレートロングの優男なのよ! 髪が長かったのは、髪に魔力をためる為らしいんだけど。それが似合う美形だったわけ。


 そんな二人といっしょに、魔王を倒す旅をしたのよ……。

 あ、尼僧のソフィーも居たけど。

 わたしとソフィーは、オマケ枠みたいなもので。



 夢のように幸せだったわ……。



 頭が良くて神経質で小言屋なミッシェルと、ずぼらで大ざっぱなフェリックス。


 その二人が絡むのよ、軽口をたたくのよ、嫌味をぶつけあったり、喧嘩したりしたの。


……眼福だったわ。



 だってだってだって!

 わたしを間にはさんでイチャイチャするんだもん!

 ミッシェルがね、フェリックスがわたしを甘やかしすぎると怒るとね、『妬いてるのかよ』とフェリックスったらニヤニヤ笑うわ、小突くわ……


 もうもうもうご馳走さまって感じ!


 戦闘も阿吽の呼吸なのよ!

 目と目で通じ合ってるのよ!


 たま〜に『やるねえ』とか『流石だな……』とかポロッとお互いを褒めたりしたけど。

 たいていは、ミッシェルはツンツン。フェリックスはニヤニヤ。

 ま、それも、フェリックスがミッシェルに見せつけるようにわたしやソフィーを口説いたからなわけで……

 わたし、気づいてたの。フェリックスが誰かを口説く時って、必ずミッシェルの側でなの。

 わたしとソフィーを出汁(だし)にしてたのよ!

 もうもうもう! フェリックスったら♪


 でね、でね!

 フェリックスったら、ミッシェルを呼び止める時、髪の毛をグイーッと引っ張るのよ。

 ミッシェルがいくらやめろって言っても聞かないの。俺のもんだから触らせろよって感じにね、こうグィィッと……。


 あぁぁぁ……

 フェリックス×ミッシェルでも、ミッシェル×フェリックスでも。

 どっちもイイ。

 どっちもイケル。


 美味しかった……。




 勇者世界(あっち)でね、二人の熱い触れ合いをいっぱいメモしたわ。

 会話やシチュも記録した。

 旅の間に、二人の美しい物語もね、いっぱい創作したのよ。


 なのに……

 なのに、なのに!

 わたしったら!

 よりにもよって!

 それ全部、『勇者の書』に書いちゃったのよ!


 書いたもの、あっちに置いてきちゃったのぉぉぉ!



 あぁぁぁ……


 絶対、モーリスに読まれた……。

 後輩勇者たちにも……。


 遺品としてBL同人誌を発見された気分……。


……一生の不覚。




 でも、まあ。

 勇者世界(あっち)勇者世界(あっち)、こっちはこっちだものね。こっちで、腐った趣味がバレたわけじゃなし!


 悔やんでもしょうがない事は、すっかり忘れたわ!



 でね!

 わたしのサイトのここから!

 パスワードを入力すると、『アリスの花園』のページにいけるから!


 奈々には、パスワード教えてあげる♪


 他の人には、ぜったい内緒よ。

 ぜーったいよ。


 BL小説目次には二次のもあるんだけど、隠しメニューもあるのよ。

《夢の囁き》から……

 そう、ここをクリックすると、『櫻井先輩シリーズ』&『フェリックスとミッシェル』一覧へジャンプ!


 先輩の話は、このまえちょっと見せたわよね。直矢くんとのヤツ。他にも、リヒトたち精霊、賢者のモーリス、七代目魔王とのCP(カップリング)があって……もちろん、先輩の総愛されよ。


 フェリックスたちの方は、リバCP♪

 話ごとに作風をガラッと変えてあるの。

 笑いあり涙あり! もじもじハムハムの純愛ものから、鬼畜ドS攻めものまであるから!


 奈々なら、ぜったいキュンキュンできるわよ!


 記憶をもとに書き上げたの。


 真実2割、妄想が8割よ。


 わたしが脇役で出てる話もあるから。


 読んでみて!

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