幻想の野みたび
転移のまぶしい光が消えた時……
アタシたちは、草原に居た。
何もない場所だ。
見渡す限り、草、草、草。
風が運んでくるのは、濃い緑の香りだけ。
遥か遠くに山々が連なっているものの、視界を遮るものが何もない。樹木も家も見当たらない。草原が続いているだけだ。
見上げれば、青空。雲一つない。空は、気持ちいいほどに晴れ渡っている。
ポカポカの陽光に、爽やかな風……
なんというか……
「絶好のピクニック日和よね」
ピクニックに来たわけじゃないけど!
「いい所ですねえ」
鋭い眼で周囲を見渡しつつ、アランがしみじみとつぶやく。
「濃い命の息吹を感じます。空気が、とても美味しい。胸に肌に、すんなりとしみこんできます。心も体も生き返るようだ……立っているだけで、どんどん活力がわいてきます」
丸太か何かみたいにマルタンを片手でかつぎながら、もう片方の手に大きな両手剣を持って。蛮族戦士な見た目に、草原はとてもよく映える。
「でしょでしょ?」
ニコニコ笑いながら、クロードがブランケットを草の上に広げる。
「目には見えなくても、肌でわかりますよね。幻想世界は、あらゆるものに魔法的な力が満ちています。空気にまで、敷き詰めた砂のようにびっしりと魔素があるんです。呼吸するだけで、魔素を吸収できるんですよ」
ブランケットを敷き終えたクロードが、「準備おっけぇです! 使徒様をここにおろしてください!」と笑顔でアランを促す。
アタシたちは、今、幻想世界に居る。
幻想世界には、不思議な力が満ちている。
この世界で魔法的な力を使うと、空気中の魔素が反応して魔法の効果が何倍にも膨れるんだけど……
魔素の効果はそれだけじゃない。
体にも優しいのだ。
空気を吸うだけで、老廃物を取り除き、若さや健康が保てて……
ついでに言うと、美肌になるらしい!
アタシも、思いっきり吸っとこう!
スーハー! スーハー!
『ジャンヌが、使徒様を幻想世界にお連れすれば……空気中まで魔素がいっぱいのあの世界なら、すぐにお元気になるんじゃ?』てなクロード案を採用し、アタシはみたび幻想世界へやって来た。
今回の旅の供は、
マルタン(療養に来た)、
アラン(療養+アタシたちの護衛)、
クロード(連絡役)の三名のみ。
あと二人連れて来ることもできたけど、やめといた。
向こうに、戦力を残しておきたかったから。
お師匠様の石化が解けたら、たぶん戦闘になる。
アタシたちの帰還までもってくれるといいんだけど。その前に、シャルル様がお倒れになるかもしれないし。
ボーヴォワール邸の護衛をもっと増やしたい、かといって勇者の書や魔法絹布があるオランジュ邸の警護を手薄にもできない。
あっちは、今、人手がいくらあっても足りないのだ。
ルネさん、セザールおじーちゃん、ニコラ、リュカ、それにテオ、あとシャルロットさん? それとピアさん? ゲボク……は戦うのは無理よね、うん。
仲間たちをどう分けるのかは聞いてない。というか聞いてる暇がなかった。
心配だから、バイオロイドのポチをニコラに預けてきた。
ポチは防御力が高い。星間ミサイルにも耐えられるって噂(星間ミサイルってのが何だかわかんないけど、きっと超強力な兵器よね!)。
いざって時にはみんなを守ってねと、ポチにはお願いしておいた。
「ピオさん、ラルム、ソル、ヴァン、レイ、ピロおじーちゃん、ルーチェさん、ピクさん」
口にしてから、しまったと思う。
レイは、もう居ないのに。裏エスエフ界のチビッ子マルタンに譲っちゃったから。
現れたのは、赤、黄、緑、白、黒のくまさん達。ラルムはまだ復活してないのね。ルーチェさんも来ない、導き手の仕事がまだ終わらないようだ。
《ジャンヌ、ボクたち、なにやればいいのー?》
クマさんたちは優しい。『レイ』の名前を呼んだことを、さらっと聞き流してくれる……。
「護衛をお願い。しっかり守りながらなら、何をやっててもいわ。ピクニック気分でゴロゴロしててもいいわよ」
《おっけー》
アタシは、グースカ寝こけている使徒様の隣に腰を下ろした。
血行の悪そうな白い顔。目の下の隈も、まだまだ濃い。でも、ちょっとは顔色が良くなったような……?
そう思いながらアタシは……使徒様の鼻をきゅっとつまんだ。
「ちょっ! ジャンヌ、なにしてるの! 使徒様、苦しそうだよ!」
幼馴染がうるさいから、すぐに手は離した。
「もう! 使徒様、無抵抗なのに! ひどいよ、ジャンヌ」
何となく、鼻をつまみたい気分だったの!
使徒様は、何事もなかったかのようにいびきをかいている。
ったく……
あんたが大人しいと調子狂うわ。
早く元気になってよね、マルタン……。
クロードが、アタシのそばにちょこんと座って。
「ボクらが来たことを、ダーモットさんにお知らせするねー」
そう言って、いそいそと目を閉じる。尊敬する不死の魔法使いとお話ができるのが楽しみ〜って顔だ。
アランは剣を片手に、突っ立ったまま。
いっしょに座らない? ってすすめても、ダメ。
「充分くつろいでます。俺のことはお気になさらず」と固辞する。
ドロ様を守る為にアランは無理をしたのだとか。ドロ様の精霊に癒されて、いちおう戦える体にはなったものの、あくまでいちおう。
ゆっくり休んでくれていいのに。
クマさんズを出したんだから、護衛は手が足りてると思うんだけど。
アタシの周りをチョロチョロしてるクマさんズから、内緒の心話が。
《オジョーチャン。要、不要じゃないんだ。男には、譲れない一線ってもんがあるんだ》
ふーん?
《いざという時、動けぬのは傭兵の名折れじゃからのう。雇用主であるそなたが安全地帯に入るまでは、戦闘待機を解かんじゃろうて……あ、いや、クマー》
なるほど。
アタシは天を見上げた、空の青さが、目に染みるようだ。
《位置的に、ドワーフの洞窟よりも南ですねえ》と、ソル。
そうなのか。
《木陰もねえんだなあ》と、ピクさん。
そうねえ、見渡す限り草原だもんね。いい感じの日陰があると、ますますピクニック気分になれるのにね。
でも、まあ……
前回前々回ともに、北部の海沿いに出現したわけだし。しかも、切り立った崖の端っこ。
それに比べると、ずいぶんといいとこに出られたわよね。崖から落ちないし! 肉食のリザートマンたちが襲ってこないもん!
突然クロードが、大きな声をあげる。
「あ! ダーモットさん! お久しぶりです!……別れてからまだ七日だ? そーなんですけど! でも、あれからいろいろあって……。はい! 幻想世界に来てます、ジャンヌといっしょです! それで、」
心話での会話なんだからしゃべる必要はないだろうに。
無意識に話してるのかしら?
「動けない? あ〜 まだ力を溜めてる途中……そっか、まだ七日だから……。いやいやいや、いいです、いいです。無理なさらないでください。ゆっくり休んでてください」
ちょっ! 目をつぶったまま、手を振りまわすな! ぶつかるとこだったわよ。
「ふぇ? デ・ルドリウ様が?……へー そっか。……ですよね。……はい、わかりましたー はい……はい……え〜 うわぁ、すみません……ありがとうございます! はい! チャレンジしてみます!」
クロードが、大きな目をパチッと開く。
話が終わったのかな?
「デ・ルドリウ様がどうかしたの?」
「ごめん。ちょっとまって」
やけに真剣な顔で。
クロードがほっぽってた杖を拾って、ごにょごにょと呪文を詠唱する。
クロードの前の空間が、ゆらゆらと揺れて……
目の高さの宙に、指輪が現れ、ふわふわと浮いている。
ワイン色の宝石――ガーネットが、クラシカルな台座に輝いている。ガーネットのまわりをちっちゃな宝石が彩る、なかなかに贅沢な指輪だ。
「やったー 届きました!」
クロードが、ものすごいいい笑顔になる。
「物質転送、成功です! 初めてできましたー!」
会話相手はアタシじゃなさそう。まだダーモットと心話で話してるようだ。
「今までの絆石とデザインが違いますね……え? ほんとに? すっげぇ! さすが、ダーモットさん! かっけぇぇぇ!」
絆石なのか、その指輪。ダーモットから力を借りたり、召喚したりする為の。貰った分全部無くしちゃったから、新しいのを貰ったのね。
「ありがとうございます! がんばります! はい、また!」
ほくほく顔のクロードが、指輪をつける。左手の薬指に……。え〜 同性から貰った物を……? ま、あんたがいいんなら、いいけど……
「もう話しても大丈夫?」
「あ、うん。へーき」
「デ・ルドリウ様がどうかしたの?」
「あ〜 なんかね、ボクが連絡いれるよりもまえに、ジャンヌが来たこと、デ・ルドリウ様がダーモットさんに知らせてたみたい」
「あら」
「ほら。ジャンヌ、鱗をもらってるでしょ?」
クロードがアタシの胸を指す。
服の下に、ドワーフの王様からいただいた魔法金属の鎖帷子を着ているんだけど。
その左胸のところに、デ・ルドリウ様の黒い鱗が編み込まれている。竜王の鱗は幻想世界のどんな金属よりも硬く、物理防御ばかりか魔法防御にも優れている。アタシの掌よりもちょっと大きいサイズのそれは、見た目も素敵。黒い宝石みたいにきらきらと輝いているのだ。
「鱗を持つのは、眷属の証。つまり、デ・ルドリウ様の庇護下に入るってことなんだ。だから、あの方には、ジャンヌが何処にいるかわかるし、ジャンヌが助けを求めれば声が聞こえるわけ」
へー
そいや、そうだったかも。
「デ・ルドリウ様も、今、こっちに来られないって。空間交替を封じられてるから。それで、代わりに、」
「代わり?」
「あ! いけない! 言い忘れてた! ダーモットさんは、顔出せないって。あのね、このまえの戦いのダメージが、まだけっこう残ってて、回復中で」
いや、それは、だいたいわかってる。ダーモットとの心話を、あんたが声に出してしゃべってたから。
「それより代わりって?」
「勇者様」
《オジョーチャン》
アランとヴァンが、ほぼ同時に伝えてくる。
「何か来ます」
《お仲間がこっちに向ってるぜ。どーする? オレ、迎えに行こうか?》
二人が顔を向けてる方角を見たけど。
アタシの目には、なぁんにも見えない。
「誰が向って来てるの?」
《だから、お仲間》
ヴァンがウィンクしてくる。
《それと初顔の奴ら。ま、戦闘は無いと思うけど。一応、ソルを同化させときな、オジョーチャン》
ドドドドという轟音と共に。
ヴァンに案内されて、やって来たのは。
「きゃぁぁん、ジャンヌちゃん。おひさしぶり♪」てなハイテンションの方と、
「……ども」ぬぼーとした人だった。
獣使いジュネさんと、獣の王エドモン。
アタシの代わりに、この世界に残ってくれた二人だ。
呪術化粧は落ちたみたい……なのはいいとして! ちょっとびっくりした! エドモンが前髪を横に流して、両目を出してるんだもん。すっごい三白眼が露わに!
けど、それよりもびっくりしたのは!
二人が騎乗しているもの、いや、方々だ。
なんというか……大きくって、逞しくって、立派!
圧倒されちゃうわ!
「はじめまして……」
握手を求めていいのかしら?
ジュネさんたちを乗せている獣人を見上げた。
ジュネさんがまたがってる方は、真っ黒だ。
何もかもが黒く、輝いている。
背へと垂れる髪も、目も、肌も。
アタシを見下ろす静かな顔、黒鎧をまとった上半身、右手に大きな黒いランスを持っており、そして……腰から下は、馬そのものだ。実のつまった、黒い馬体てヤツだ。
人馬だ……
対して、エドモンの方は、真っ白。
何もかもが白く、輝いている。
てゆーか……黒馬さんの方は鎧着てるのに、こっちは上半身裸なのよね! いや、下半身も何も着てない……オールヌードだけど……人馬だから、おっけぇよね!
短く刈り上げた髪も、肌も、白い。精悍な顔立ちをしている。
左手に持ってるのは弓で、(人間部分の)背に矢筒を背負ってるから、エドモンは抱きつきづらそうだ。
しかし……色が白いせいか、ムキムキまっちょな筋肉がモロわかり。その上半身はアランに匹敵するというか……ソルの人形を思い出させるというか……兄貴ぃな感じ。
そこまで思ったら同化させてる奴が《あああ……つまり! ワタクシが馬なみだと! 激しく逞しいもっこりだと! しかし、女王さま……ご存じですか? ああ見えて、馬はけっこうトホホで、一回あたりほんの30秒しか》
黙れ、変態。
「はじめまして、異世界の勇者様。クロエと申します」
あら、黒馬さん、女性だわ。
「こちら、族長アシエ様の曾孫シロエ様」
紹介された白い人馬が、微かに頭を下げる。けど、口は開かない。
黒い人馬さんが、笑顔で挨拶を続ける。
「族長アシエ様の名代で参りました。竜王を止めてくだすった異世界の勇者様、そしてお仲間のみなさま。あなた方に深き感謝を。人馬一族は、あなた方との友情を望みます」
「ご丁寧にありがとうございます。人馬一族からの友情を嬉しく思います」
勇者らしく、きちんと挨拶をした。
「まだお若いのですが、」
黒馬さんが、横の白馬さんをチラッと見る。
「シロエ様はこと弓にかけては一族随一で、このように眉目も秀麗」
ん?
「デ・ルドリウ様より『勇者様の伴侶候補』に推されております。シロエ様ならばきっと魔王に大ダメージを与えられるでしょう。伴侶候補としてご一考いただけますか?」
はぁ。
仲間候補なのか……
アタシは、白い方の人馬さんを見上げた。
馬の首にあたるところが上半身なもんで、顔がある位置が普通の人間よりズーッと高い。
首が痛くなりそう……。
白マッチョな体に比べて地味というか。
濃くないというか。
ハンサムなんだけど、顔立ちはあっさりしている。
でもって、なんか不機嫌そう。
ムスッと口を閉ざしたままだし。アタシと目が合うと、視線をそらすし。
『別に勇者の仲間になんかなりたくねえが、周りがうるせえから来たんだよ』って感じ?
むぅぅ。
萌えない。
アタシ、人馬萌えじゃないし。
それに、萌えたところで駄目なんじゃ? 『弓使い』だとエドモンとジョブ被りよ。
「お心づかいありがとうございます」とだけ言って話題を変えることにした。白馬さんの背の上のエドモンを見てから、もう一度白馬さんを見つめる。
「アタシの仲間と仲良くしてくださってるのですね」
話しかけたのは、白馬さんなのに。
はいと答えたのは、黒馬さんだった。
「獣の王エドモン様たちにご来訪いただき、人馬一族はみな喜んでいます」
そこで、ぼそっとつぶやき声が。
「ひいばあちゃん、元気になった……」
白馬さんだ。見た目のわりに、声が細いというか、トーンが高いというか……マッチョに似合わない可愛い声だ。
その一言だけ言って、黙る白馬さん。
黒馬さんは、『やれやれ』って感じに白馬さんの方を見てから、アタシに笑顔をみせた。
「族長アシエ様も、エドモン様から元気をわけていただけました。草原を駆けたい気分になったと、おっしゃっておられましたわ」
……ご病気だったってことかな?
挨拶が終わったとみて、ジュネさんが手を振ってくる。
「ジャンヌちゃーん、使徒さまの療養に来たんでしょ?」
「よくご存じですね」
「デ・ルドリウさまから連絡があったのよ」
ジュネさんは左手で胸元を指さす。上着に縫い付けられているのは、アタシが貰ったのと同じ黒い鱗……デ・ルドリウ様の鱗だ。
「謝罪の旅で訪れてた村の、すぐそばに来てくれるなんて♪ きっと、この世界の神さまのお導きね♪」
お美しい獣使い様からのウインク。
「この近くに、すっごいリラクゼーション空間があるんですって。療養向け。そこに行ければ、ふつーの何倍もの早さで元気になるみたいよ。シロエくんとクロエちゃんが案内を申し出てくれてるんだけど、行ってみない?」
おお!
ここに居るだけで、もとの世界より早く回復できそうなのに! それよりももっと早くなるわけ?
「ありがとうございます、ぜひ案内してください!」
人馬のふたりにお礼を言った。
「そこに寝てる僧侶を、一分一秒でも早く元気にしたいんです! もとの世界で戦闘が待ってるんです! ぜひぜひお願いします!」
「承知しました」
「わかった……」
ジュネさんがひらりと、人馬の背から降りる。
「つもる話もあるし。そっち行くわね。風精霊くんの結界に包んで、いっしょに運んでちょうだい」
「……おれも、そっちにいく」
エドモンも、白い人馬から降りたんだけど。
「行くのか……」
白い人馬が、ジーッとエドモンを見つめる。
「……うん。百一代目の彼女と……すこし、話したい……」
「そうか……」
そのまま見つめ合う二人。
「おまえになら……」
「……うん」
白馬の人が、前肢で地面をガリガリする。
「いつでも……」
「……うん」
前から後ろに向かって、地面を掘り堀り。
「背を許す……」
「……すまない」
掘り、掘り。
「また……」
「……うん」
掘り、掘り。
「必要な時……」
「……うん」
掘り、掘り。
「声をかけてくれ……」
「……ありがとう」
掘り、
掘り……
………
しゃきしゃきしゃべらんかーッ!
《ま、ま、ま。オジョーチャン、落ち着いて》
《ホホホ。馬が前肢で地面を掘るのは、前掻きと言っての、具合が悪かったり、要求があったり、感情が不安定な時にやってしまうのじゃクマー》
《ほんとは、ず〜っとエドモンさんを乗せてぇと思ってるだな。けど、口にだせねーから、それで……》
《エドくん、獣の王だしー おんなじのんびりさんだから、気が合うんだろーね。武器も同じ弓だしー》
「日が暮れちゃうわよ、エドモン。さっさと移動しましょ」
獣使いさんが獣の王の腕を取って、強引にひっぱってくる
去りゆくエドモンを名残惜しそうに見つめる白い人馬さん。
そして、よく見れば……黒い人馬さんもけっこう熱い眼差しをエドモンに送っている。一挙一動を見逃すまいって感じに、ジーッと見てる。
あいかわらず獣にモテモテね、エドモン。
「獣人の村を五つ回ったわ」と、ジュネさん。
「ま、何処いってもこんな感じ。デ・ルドリウさまの謝罪の旅は、順調よ」
その分、ジュネさんの心労は絶えなさそう。
《んじゃ、全員、ブランケットの上に座って。風結界でつつんで運ぶからさ》と、ヴァン。
「は〜い、魔術師くん、戦士くん♪ 使徒さまは聖戦中?」
「……ども」
「お元気そうでよかったです、ジュネ殿、エドモン殿」
「エドモンさん、かっけぇ!」
「……かっけぇ?」
首をかしげるエドモン。
「今までも、かっけぇかったけど、」
クロードが、にっこりと笑う。
「目が出て、ますます凛々しくなりましたよね! ね、ジャンヌ?」
「ほんと、そうね」
アタシは頷いた。
「なんで、イメチェンしたの?」
「……みんなが、」
「ん?」
「……獣人達が目を見たがる……いちいち、髪をあげるのが面倒で……」
「ああ、それで前髪を横に流したのね」
「……うん」
エドモンは、虹彩がちっちゃい。すごい三白眼だ。
だから、ちょっと見、怖そうではあるけれども。
凄んだ兄さまや使徒様のが、よっぽど凶悪面だし。
何より……
「出して正解ね」
「……え?」
「夕焼けみたいな瞳よね。紅くて、とっても綺麗」
「………」
「あっちに帰ってからも、ずーっとそのままでいいんじゃない? 前髪で隠しちゃったら、もったいないわ」
「………」
眉をしかめ、鼻の辺りに皺をつくって、エドモンが下唇をつきだす。
でもって、超不機嫌そうな顔で、ぷいっと顔をそむけたのだ。
む?
何か気に障ること言っちゃった?
と、思ったら、
「ありがと、ジャンヌちゃん」
獣使いさんに、ほっぺにチュッされた!
「もっと言ってやって言ってやって、エドモンの目はラブリーだ、セクシーだって」
「え?」
「あたしがいくら称えてもダメなのよ、信じてくれないの。……エドモンは自分の目が好きじゃないから」
あらま。
「ボク、エドモンさんの目、かっけぇと思います!」
「確かに目つきは鋭いです。が、それも一流の弓使いゆえでしょう。生命力にあふれた良い目をしていると思います」
「宝石みたい。素敵な紅い瞳ね」
「……やめてくれ」
ぼそぼそっとエドモンが言う。
顔もずっと、そっぽを向いたままだ。
でも、その顔も耳も首まで赤くなっていて……
可愛く思えて、アタシの胸はキュンキュンした。
各章の扉絵を変更しました。
【これまでの QnQnハニー】か異世界へ旅立った回に挿入してあります。