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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
光の檻
208/236

今そこにある危機

 ヴァンの移動魔法で、ボーヴォワール邸に移動した。

 案内役のテオ、護衛役の兄さま、おまけのクロードも一緒だ。


 跳んでった先は、お部屋の中。

 豪華なインテリアの、応接間だ。家具や置物や絵画、そのどれもが、どっしりとした重厚感と高級感にあふれている。

 そんな美しい部屋の長椅子から体を起こしたのは……

「空から天使が舞い降りて来たのかと思いましたよ……モン・アムール、今日もお綺麗だ。いつもあなたは光り輝いていらっしゃる……」

 シャルル様だった。

 窓際にはドロ様、扉の前にはアランも居る。


「異世界からご無事のご帰還、何よりです」

 シャルル様がアタシの前にひざまずき、掌に接吻をしてくださる。

 お変わりありませんね、シャルル様!

「アタシは元気です」

 でも……

「シャルル様、どうぞ楽に……」

 お顔の色がすぐれませんよね? お肌のツヤにもちょっと欠けてるし! お(ぐし)のキューティクルもちょっと剥げてるような!

「ご休憩中だったんですよね。アタシのことは気にせず、長椅子にお戻りください」


 シャルル様が微かに表情を曇らせる。

「ご心配をおかけしてしまったようですね。申し訳ありません。紳士として淑女の前で、お見苦しい姿をお見せしたくなかったのですが……」

 いえいえいえ!

「ぜんぜん見苦しくないですよ。シャルル様は素敵だもの。長椅子に寝そべってらしても、絵になるわ」

「ありがとう、ジャンヌさん」

 う〜む……アップで見れば見るほど……ほんのほんのほんのちょっとだけど美貌に影が差してるのがわかってしまう。本当にお疲れなんですね……。


「モンアムール、どうか微笑んでください。あなたのお姿を目にし、そのお声を再び聞けることこそ、無上の幸福……。あなたの愛が、私に力を与えてくれます。どんな敵にも立ち向かえます。どのような苦難も乗り越えてゆけるでしょう……愛があれば、私は無敵です」


 アタシの後ろから声がする。

「勇者様。今のたわごとは聞き流してください。シャルルはもう駄目です。じきに倒れるでしょう」


「テオ。ジャンヌさんの不安を煽るような言葉は慎んでくれ」


「事実を口にしただけです」


「テオ」


「それに、勇者様のお心を煩わす事はありませんよ。一日に二回魔力を注入しなければ石化魔法を維持できないこと、異世界の女神の信奉者であるあなたしかその役ができないこと、ボワエルデュー侯爵家秘伝の食事と『魔力ためる君 改』で魔力補充を続けているものの既にあなたの体力は限界を突破していることも、全てご説明済みですから」


「……よけいなことを」

 シャルル様が不快そうに眉をひそめ、

「必要なことです」

 澄ました顔で、テオがメガネのフレームを押し上げる。


 むぅ。

 シャルル様にしろマルタンにしろテオにしろ……アタシの伴侶って、見栄っ張りが多いわよねえ。弱っているところを見せるのを嫌がるというか……『男』だからなのかなあ?


「テオドール様。使徒様は、いかがなさったのです?」

 裸戦士のアランが、聞いてくる。

「後からいらっしゃるのでしょうか?」


「いいえ」

 テオがかぶりを振る。

「療養中です。裏エスエフ界で激しい戦いをなさった為、ひどく消耗しておられます。少なくとも五日は安静にしていただきます」


「五日……」

 アランが顔をしかめる。

「そんな……あと五日なんて、さすがに……」


「ま、それも運命ですかねえ」

 ドロ様が、肩をすくめてみせる。

「立ち話も何です。俺の女にお茶を淹れさせますんで、そちらへ」

 ドロ様の掌がさしたのは、長椅子の側のソファーとテーブルだった。




 お茶を出してくれたのは、炎精霊のフラムさん……イザベルさんの炎精霊(フラム)と違って、裸じゃない。真っ赤なドレスを着てる。性別も女だ。用事を終えると、ドロ様の精霊はフッと消えた。


「母や家人には、別の屋敷に移ってもらっています」と、テオ。

「ここに居る者が、本宅に居る人間全てです。この部屋は、絵の部屋の隣室。この間、使徒様がお泊りになった部屋です」


「オランジュ邸同様、このボーヴォワール邸でも常時魔法結界が発動する仕掛けが完成しまして……」

 長椅子からシャルル様。

 寝そべるよう、テオが勧めても拒否。

 優雅に腰を掛けてらっしゃるんだけれども……肘掛けに片手を置いて、背もたれに体を預け、足を組んで……そのけだるげな様子が、やつれ気味の美貌が、乙女心を刺激するというか……アタシのハートはきゅぅぅんとなった。

「結界の維持は、アレッサンドロの精霊に頼んでいます。聖教会の僧侶様方には、その外側……つまり、屋敷の塀の外から敷地全体を覆う形で結界を張っていただいています。近隣も軍隊と魔術師協会の精鋭に固めてもらっています」


 屋敷自体にシャルル様がつくった結界が張られ、

 屋敷の敷地を僧侶の結界が包み、

 軍隊と魔術師たちも待機してるわけか。


 窓際のドロ様に聞いてみた。

「そっちに行ってもいいですか?」

「ああ、構わねえよ」


 ドロ様が空けてくれた場所に立った。

 窓から庭が見下ろせる。

 草木は茶色く枯れ、色が残っている葉も萎れている。まるで、冬の庭だ。もうすぐ夏だというのに……。瘴気で枯れてしまったのだろうか?


 お師匠様が見える。

 正門から続く道の真ん中に、ポツンと、本当の石像のように佇んでいる。

 ここは二階だし、距離もそこそこ開いている。あまりよく見えないけど。シャルル様の魔法剣が、お師匠様の左胸を貫いているのだそうだ。……テオからそう聞いている。


 見ていると、胸が苦しくなる。

 心臓が激しく鼓動する。

 こみあがってくる懐かしい気持ちは、『勇者であったもの』との絆のせい? 今すぐ駆け寄って抱きしめたい……そんな思いすら浮かぶ。


 兄さまやクロードも、窓の外をうかがう。

「凄いな……賢者の周囲に、気が渦巻いている……あれが、異世界の女神の石化の力か?」

「うわぁぁ。結界が何重も! 賢者様の周りが特にすごいや! 網の目模様だ〜」

 二人には、アタシには見えないものが見えてるようだ。



「賢者様にかけたのは、『守りの石化』という神聖魔法の一種です」

「神聖魔法なんですか……」

 石化なのに、意外。

「正しくは、技法と神聖魔法を掛け合わせた、特殊魔法らしいです。女神様と交信し、お教えいただきました。私の女神様の世界……つまり絵の部屋の向こうですね、あの世界の北部にのみ伝わる、従来の石化とはまったく異なる仕組みの魔法だそうです」


「どう違うんですか?」

「第一に、解呪が不可能であること」

 へー

「第二に、呪法の類ではなく、神聖魔法であること。通常の石化であれば、石となった体を砕かれれば死んでしまいます。しかし、『守りの石化』は、ありとあらゆる物理・魔法攻撃を弾きます。石化自体が、被術者を守護する鉄壁の守りなわけです」

 あら。

「神聖魔法だからこそ、ブラック女神によく効いたのです……」

 シャルル様が重い溜息をつく。

「『守りの石化』は三十日間、被術者を石化します。一度かければ、三十日石化が解けないのです」


 ん?


「一度かければ、三十日石化が解けない?」


「ええ、本来であれば。しかし」

 シャルル様が、肘掛けに頬杖をつく。

「『賢者』だけは例外。どんな状態異常であれ半日で回復してしまう……毒も眠りも麻痺も石化も、全てです。それが世界基準なのだそうです」


 は?


「世界基準って何です?」

「『賢者』が『勇者の指導者』となっている異世界は、複数あるそうです。その世界共通の基準だそうです」


 ほほう。


「女神様がおっしゃるには、とある世界の勇者(・・・・・・・・)が師の石化にうろたえて信奉神に『今すぐ師の石化を解け。全知全能なくせに、できないのか』と侮辱発言をしたのがきっかけだそうで……その勇者の魔王戦終了後、『どんな状態異常も半日で回復する』能力が賢者の世界基準に採用されたのだそうです」


 え?


……それって。


 アタシとシャルル様が、なんとも言えない顔で見つめ合う。


「指導者である賢者がそばに居ないのは、確かに勇者にとっては危機(ピンチ)。理解はできます。しかし……あの男は、よけいなことをしでかしてくれました」

『あの男』って断定したー

 てか、まあ……師の石化にうろたえた勇者って……賢者ジャンよね、きっと。うん。


「石化が半日で無効となってしまう為、仕方なく、一日に二度女神様に願って『守りの石化』をかけ直していただいているのです。世界基準さえなければ……一回かければ、三十日もったのですが……」

 うわぁ。

「……たいへんですね」


「女神様に捧げる魔力が少なすぎれば、『守りの石化』は発動しません。あと何回、女神様のお慈悲にすがれるか……」


 むぅぅ。


「家宝の護符があれば……」

 悔しそうにシャルル様がつぶやく。

体力(ヒットポイント)魔力(マジックポイント)自動回復の、ボワエルデュー侯爵家の護符さえあれば……魔王戦まで賢者様を封じておけたでしょうに……」


「シャルル様の護符は、お師匠様が持ってってしまったんですよね? 石化が解けたタイミングで、ちょちょっと取り返すとかは……」

 できないんだろうなあ。


「今、賢者様は我が家の護符をお持ちではありません」

 確認済みなのか。

「何処に隠してしまわれたのか……魔王戦が終わるまで自分が預かっておくなどと、しれっとおっしゃっていて。思い出すのも、腹立たしい……」


「けど、まあ、今はお持ちでなくて良かったのかもしれません」

 そう言ったのは、腕組みをしているドロ様で。

「あれがあったら、魔法使い放題になる……手にした者は、アイテムに頼ってついつい無理をしてしまう。寿命に関わるっていうのに、ね」


 え?


「通常よりも遥かに速くHP&MPを回復させるんだ、人体に負担がかかるのも当然。ちょいと使う分にはいい。だが、あれを持ち続ければ、疲労の蓄積も激しくなる。護符を手放した途端に溜まりに溜まった疲労に一気に見舞われるんだ……数日、寝込むぐらいで済みゃ御の字……最悪のケースは……」


「承知している」

 毅然とした声で、シャルル様はドロ様を遮った。

「ボワエルデュー侯爵家は魔法騎士を輩出してきた家柄だ。御祖の活躍を支えた魔法道具の使用法ぐらい、心得ている」

「……よけいなことを口にしたようですね。失礼いたしました」


 シャルル様の形のよい唇から、何度目ともわからない溜息が。

「使徒様ならば、賢者様を撃退することも、封じることもできるはず。あと五日……たったの五日耐えられれば、後事を託せるというのに……」


 そんなシャルル様を見て、テオもため息をつく。

「あと五日は無理ですね。私には医学の知識もあります。あなたも、強制入院レベルの容態です。間もなく、補充しようにも体が魔力を受け付けなくなる……卒倒するでしょう」


「間もなくって?」て聞けば、

「早ければ、明日か明後日あたりでしょうね」って答えが返る。


「もう戦闘しか道はなさそうですね……」

 扉の前のアラン。

 よく見れば……彼の周りには、黒い玉が浮かんでいる。黒い光を放つ玉が、大柄なアランの体の周りをふよふよと漂っている。

「アレッサンドロ殿の精霊のおかげで、どうにか戦える体になりました。勇者様、テオドール様、どうぞ俺を使ってください」


 使ってくださいって言われても……


 テオを見れば、すごく真面目な顔だ。メガネをかけ直していたりする。

「石化の魔法が解ける瞬間、魔術師協会が動きます。賢者様には魔法はかけられませんので、あの方が立っている大地ごと、つまりこの建物を除く敷地を物質転送で遠い地に排除する事になっています」


「敷地ごと跳ばしちゃうの?」

「建物の周りに大穴があいちゃうね」

「遠い地って何処だ? 何処へ賢者を送る気だ?」

 アタシ、クロード、兄さまが、ほぼ同時に声をあげる。


 テオが、兄さまの質問に答える。

「都の遥か西の海、その深海が送り先となっております」


 !


「ですが、火口の溶岩の中や、地中の石の中へ放り込む方がより良いという意見も出ています。いまいちど、協会長と話合おうと思っています」


「何処に送ろうとも無駄じゃないか? 賢者は不老不死だ。その上、移動魔法が使える。死んだとしても蘇り、何処からだろうがここに舞い戻って来るぞ」


 ドロ様が頷く。

「でしょうねえ。俺を殺すか、絵の部屋の次元通路を壊すまで、何度も何度もここに戻ってきそうだ」


「時間が稼げればいいのです。ボーヴォワール邸の結界は、かろうじて稼働しているレベル。主神級のお力を有するブラック女神の器に、どれほど抗い続けられるか……」

 テオがぐっと拳を握りしめる。

「使徒様のお力は、神にも等しい。使徒様さえお元気になられれば、万事解決します。五日……あと五日さえ耐えられれば……」


「あのぉ……五日もいらないんじゃ?」

 そうポロッと言ったのは、兄さまの隣に居た奴だ。


 テオ、シャルル様、ドロ様、アラン、兄さま、アタシが一斉にそちらを向く。

 部屋中の注目を浴び、ビビリ気質の奴が身を縮こまらせる。


「クロード君。何故『五日もいらない』のです? 何を根拠としての発言ですか?」


「いや、だって、あの、しょの……」

 あ、噛んだ。


「使徒しゃまが、神聖魔法をつかえればいいんれしょ?」

 舌を噛みながら、クロードがしゃべる。

「それなりゃ、その……ジャンヌが」


「アタシ?」


 鼻の頭を赤く染めた幼馴染が、アタシの胸ポケットを指さす。


「サイン帳で使徒様を体に降ろしぇば、すぐに魔法つかえるし、」


 あ。


 ああ〜


 なるほど!


「その手がありましたか!」

 完全に失念していた! って感じに、テオが額に手をあてる。

「『歴代勇者のサイン帳』を使用すれば、勇者様は使徒様をその体に降ろせるのでした! 拝見したところ、勇者様はご健康そのもの! 大きな魔法の負荷にも耐えられそうだ!」


「待ちたまえ、テオ。巨大な悪を祓おうとすれば、相応の魔力が必要だ。ジャンヌさんには魔力が無い。『魔力ためる君 改』を利用したとて、その身にまとわせる魔力量には限界がある」


「魔力量の少なさは、精霊を宿していただけば補えます」


「それこそ馬鹿げている。『魔力ためる君 改』をルネにつくらせたのは、精霊が犠牲となった事をジャンヌさんが嘆いておられたからだ。精霊の犠牲を前提に作戦を考えるのは、」


「むろん、強制はしません。けれども、今は有事です。勇者様の精霊とて、きっと納得して協力してくれるでしょう」


「私が納得しない」


 テオがムッとする。

「他に代替案があるのですか?」


「無い。しかし、女性のお心を悲しませる真似はできない。私の信念に反する」


「シャルル!」


「もう一つ言わせてもらう。精霊には性別が無い。男性の姿をとっていても、女性でもあるのだ。精霊を犠牲にする案は承服できないね」


「な? 精霊にまで紳士気取りですか? あなたの女性崇拝主義は、おかしすぎます!」


 睨み合うテオとシャルル様。


 と、そこへ、のんびりとした声が。

「……精霊は、護衛であり、相談相手、精神的支柱でもある。これからも異世界旅を続けてゆく勇者さまには、精霊の支えがあった方がいい。四散させるのはうまくない……」

 ドロ様は何処から取り出したのか、水晶珠を手にしていた。

「まあ……どうしても『魔力』が必要なら、俺の女たちを提供しますがね……精霊を犠牲にするこたぁ、どうあってもシャルル様が納得なさらないだろうし……それに、どうもよろしくない……いくら読んでも……」

 水晶珠を撫でながら、ドロ様が首を傾げる。

「行き止まりだ」


「行き止まり?」と、テオ。


「勇者さまに使徒さまを降ろせば、神聖魔法をうてるかもしれないが……そこまでだ。未来につながる道が見えない……」


「どういうことです?」


「進むべき道が間違ってるってことでしょう。……より良い未来は、他にある……」


 テオとシャルル様それにアタシが顔を合わせる。


「ああ、なら、」

 あっさりと、クロードが言う。

「使徒様に魔法をうってもらえばいいんだ」


「それができれば……」

「五日後ではあまりにも」


「いや、でも……五日かかるのは、ただ安静に寝てるからでしょう?」


「違います。『魔力ためる君 改』で魔力補充し、ボワエルデュー家秘伝の魔法騎士用の食事をとっていただいた上で、です」


「んじゃあ、それプラス……」


 いかにも自信なさそうにおどおどと、幼馴染がしゃべり続ける。

 けれども。

 その提案は、とても意外で……


 全員の目が丸くなった。


「……だと思うんですけど……どうでしょう?」

 びくびくと、テオやシャルル様の顔色をうかがうクロード。『かっけぇ』と尊敬はしているものの、この二人はいかにも偉そうで頭良さそうで。苦手意識は残っている模様。


「脱帽だよ、クロード君……先程の提案といい、君の着眼点は見事だ。実に、素晴らしい」

「……私もクロード君の意見を採用すべきだと思います」


 二人に褒められて、クロードの顔がパーッとほころぶ。本当に嬉しそうだ。


 シャルル様とテオが、アタシを見る。


 最終判断は勇者であるアタシに任せるってわけね。


 て、ゆーか。

 他に手は無いんじゃ?

「採用よ。その手でいきましょう」



「となれば、」

 長椅子のシャルル様が、扉の前の赤毛の戦士へと視線を向ける。

「アラン。君はジャンヌさんに同行したまえ」


「え? ですが、」


「君の体調も万全ではない。回復のおこぼれを頂戴してくるといい」


「しかし、俺がここを離れたらいざという時の護衛が」


「その役は、俺が引き受けよう」

 挙手したのは、なんとジョゼ兄さまで!


「シャルル様が俺を快く思っていないのは承知していますが……」

 窓の方をチラッと見て兄さまが言葉を続ける。

「仲間として、共に難事を乗り越える事はできると思います。シャルル様は、賢者を石化できるただ一人の男。アレッサンドロは、絵の部屋の主。俺は全力で護衛しますよ……ジャンヌの為に」


「ジャンヌさんの為……か」

 フフッと笑い、シャルル様が金の髪をふわっとかき上げる。

「よかろう、ジョゼフ君。君に護衛役を任せる。しかし、最初に言っておくよ、私は口先だけの無能者は大嫌いだ。やると宣言した事は、是非とも全力でやり遂げてくれたまえ」


「男に二言はありません」


 見つめ合う兄さまとシャルル様。あいかわらず、バチバチって火花が散りそうな空気を漂わせているものの……ちょっとだけ仲良くなった……ような?


「こちらに残られるのでしたら、ジョゼフ様、これを……」

 裸戦士が手に持っているのは、吸血鬼王からの貰い物。コウモリを模した蝶ネクタイがくっついた、チョーカーだ。


「それ、アタシの護衛をする時には装備するんじゃなかったの?」

 ってアランに聞いたら、苦笑を返された。

「魔族の力を借りるなど、使徒様がお許しになるわけがありません。持って行っても使えないので、置いていきます」

 むぅぅ……なるほど。


「……これは、ジョゼフ様にお渡ししておきます」

 真剣な顔で、アランが兄さまを見つめる。

「この蝶ネクタイを血で赤く染めれば、吸血鬼王を召喚できます。チョーカーを又貸しした事をお怒りになるかもしれませんが、それでも……ブラック女神の器との戦いであれば、喜んで参戦してくださるはず。いざという時は、ノーラ殿を召喚してください。あの方は頼りになります」


「わかった」

 兄さまが、コウモリのチョーカーを受け取る。



「じゃあ、アタシ、行きます」


 アタシにできるのは、一刻も早く行動すること。

 そして、一分でも一秒でも早く、マルタンを連れてこの場に帰って来ることだ。


 お師匠様の石化が解けて、戦闘になるまえに……何としても。

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