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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
氷の世界
196/236

祈り

 突然、子供部屋に乱入し、マルタン君を抱きしめて大泣きしたアタシは……


 あまりにも挙動不審すぎるので、族長のセドリックさんのもとへと連れてかれた。



「二人っきりでお話がしたいんです。よろしいでしょうか?」

 そう頼むと、セドリックさんではなく、ジョゼ兄さまが難色を示した。

「そいつと二人っきりにはさせられん」

 セドリックさんに対しかなり失礼な態度だ。

 この人がアタシの一夜の夫になろうとしたのは、歓迎の為プラス一族の血を異世界に残せたらラッキー的な考えから。アタシへの恋愛感情や欲望は、明らかに無いのに。兄さまだって、わかっているだろうに。

 それでも、心配なのね……妹を守る兄だから。


「お義兄さんが立ち会われても、俺は構いませんよ。客人(まれびと)ジャンヌ様、それでお話とは?」



 倉庫の一室で。

 アタシと兄さまとセドリックさんを包み込む形で、ヴァンに風結界を張ってもらって。

 外に声が漏れないようにしてから、夢で見たことをセドリックさんに話した。


「甥御さんの夢を覗いてしまったんだと思います」

 なんでそうなったのかは、さっぱりわかんないけど。



 悲惨な夢だった。


 マルタン君を除き全員死亡。

 最後に残ったマルタン君は、狂ったように神に祈っていた……。



 シェルターに邪霊たちが入り込み、みんな、吹雪の地表へと逃げる。

 セドリックさんは、全員で死のうと……苦しませないうちに、子供たちを楽にしてやろうとするものの、レジーヌさんに止められる。

『神の救済は必ずある』『客人は必ず来る』『救われる運命の子を殺さないで』と。


 夢の中のセドリックさんは、『客人が訪れ、救われる未来』まで何とか子供たちを生かそうとあがき続けた……


 邪悪に体をのっとられないよう、亡くなった仲間の遺骸を葬り続け、レジーヌさんを殺し、子供たちに自分の死体を残さない手立てを与えて。


 子供たちに与えた物の話を始めたら、セドリックさんは表情を曇らせた。

「真っ暗で何も見えない夢だったので、どんな物かはわからないんです。ピンがあって、それを抜くと清めの炎が生まれるみたいでした。抜いてから三秒ぐらいしたら効果が生まれるみたいで、」

客人(まれびと)ジャンヌ様。もう、そこまでで。……説明は不要です。それが何か……俺にはわかっています」

 右手で顔を覆うセドリックさん。

「誰にも気づかれないよう……俺は、それを準備しています。このシェルターには、もうそれがあるんです……」

 指の間から覗くのは、苦渋に満ちた表情だった。


「まったく、俺って奴は……あんな物を子供たちに与えて……あげく、途中でくたばっちまうとは……。最低だ。出来そこないにもほどがある……」


「夢の中のセドリックさん、とても立派でした。子供たちを必死に守っていました」


「だが、守り通せなかった。そうでしょう?……それでは駄目なんです。第八の扉を持つ俺がそばにいなきゃ、ジェラールの空間に飲まれるだけだというのに……」


「その第八の扉なんですが、あなたの甥御さん、開けてました」


「マルタンが?」


「ええ、夢の中で。妹さんとあともう一人の子、三人っきりになってからでしたが。暖かくって怪我が治る空間を生み出してました」


「五つのガキが? 第八の扉まで開けた? そんな馬鹿な……」

 しばらく茫然としてから、セドリックさんはクククと笑った。口元をゆがめて笑う顔は、マルタンによく似ている……。

「極限状態が成長を早めたのか。さすが兄さんの子、いや、兄さん以上だ……天才だ」


「第八の扉のことを教えてくれませんか?」

 結界魔法の一種なのは理解した。

 でも、攻撃結界の第六、防御結界の第七に比べると、第八はわかりづらい。


「空間を支配する力。『自分の望みのままに空間をつくりかえる力』でしたよね?」


「そうです」


「夢の中でセドリックさんは、第八の扉で死者を送っていました。第八の扉で存在を完全に消去してやるって子供たちに言ってましたが、あれはどういう事でしょう?」


「ああ……それは……俺が『排他』がうまいからですよ」

「え?」

「客人ジャンヌ様。第八の扉まで開けても、等しく同じことができるわけではないんです。たとえば……マルタンがあなたの夢の中でつくったのは『治癒』のフィールドだと思いますが、同じことは俺にはできません。何をやれるか、どれほどの範囲に影響を及ぼせるかは、一人一人違うんです」

「そういうものなんですか」


「俺の主たる能力は『排他』です。自分もしくは自分に連なる者を守護し、己と異なるものを排除する力とでも言いますか……」

 へー

「俺が敵と認識したものは俺の支配領域に近寄れません」

 おお!

「凄い! それって無敵って事じゃないですか!」

「そうでもないですよ。支配領域外から、飛び道具で狙えますから」

 あら。

「それに、俺が支配できるのは、ごく狭い範囲です。周囲の補助(サポート)があっても、このシェルター全体を覆うのが限界だ。都市全体を飲み込めるジェラールとはレベルが違うんです」

……天才(マルタン)の父は、天才なわけか。

「ジェラールが本気でかかってくれば、一瞬で勝負は決まる。俺も俺の庇護下の者も、奴の支配領域から弾かれ、二度とここに舞い戻れなくなる。このシェルターで俺らが細々と生きていられるのは、奴の目こぼしのおかげというか……奴の目に俺なんぞとまらないからでしょう。俺は倒すべき『敵』と認識されていないんです」

 むぅぅ。


「話がそれてしまいましたね。『排他』ですが、何かを意識して排除したい時は、内なる第八の霊魂に願い、霊力(オーラ)を聖霊光にまで高めて、きっかけとなる言葉を口にして放ちます。言葉自体は何でもいいんですが、俺は教典の祈りの言葉を用いています」

 ほうほう。


 部屋を見渡し、セドリックさんは兄さまの背後の箱に目を止めた。

「失礼」

 兄さまの後ろにあった箱を手にとり、中身が空だとみせてから、セドリックさんはあの言葉を口にした。


「これが『排他』の力です」


 夢の中で、セドリックさんやマルタン君が何度も口にしていた……あの言葉だ。 


「『神に打ちくだかれる前に、安息を』」


 ピカッと右手が光ったと思った時には……

 セドリックさんは、もう何も持っていなかった。

 左手を傷つけることなく、箱だけを綺麗に消したのだ。最初からそこに無かったかのように、跡形もなく……


「あなたの夢の中で俺は、これで子供たちの亡骸を消していたんでしょう」


「ええ。さっきの祈りの言葉、何度も耳にしました。甥御さんも、いっしょに唱えてましたよ」


「あいつが……」

 セドリックさんが、小さく笑う。

「あの野郎。俺の『排他』に駄目だししやがったくせに」

「え?」

「台詞が悪者みたいだ、邪悪を葬るのならもっとカッコイイ台詞で言え、でなきゃ正義の味方になれないとか何とか」

 はぁ。



「あいつが予知夢らしきものを見ていることはわかっていました。あの野郎、一時期、俺を見る度に悲鳴を上げて逃げたんです」


 クククと笑てから、セドリックさんは静かに頭を振った。


「……そうかと思ったら、突然、必死の形相でお願いに来ましてね。『おじさん、おかしくならないで』『マリーやみんなをころさないで』『しぬしかないのなら、じぶんでそうする』『なきながらころさないでよ』って……」


 苦しそうに、セドリックさんは笑い続ける。



「あいつの夢の中で俺は、シェルターの人間(みんな)を一人一人『排他』していたようです。謝罪の言葉を口にし、神の御許へ旅立つよう祈りを捧げながら、第八の扉で消滅させていたんだそうで……」


「あの頃の俺は、精神的にかなり参ってましてね。シェルターのあっちこっちがイカレるわ、腹痛で亡くなった子供がいるわ……たぶん盲腸だったんでしょうが、手術をできる者が居らず……苦しませたあげく……」


「今を耐えれば未来がある、そう信じられれば良かったんですが……俺の支配空間では、ジェラールに勝てないのはわかりきっています。悲惨な未来しか見えなかった。みなを苦しませる前に楽にしてやりたい……そんな事ばかりを考えていました」



「マルタンは『生きたい』と俺に伝えて、あの未来を回避したんですよ」



「予知夢とは何なんだ?」

 それまで黙っていた兄さまが、セドリックさんに尋ねる。

「未来とは変えられるものなのか?」


「現状のままならば行き着いてしまう未来を垣間見る……それが予知夢です。必ずそうなるわけではありませんが、かなりの確率で訪れてしまう未来の形が見えるわけです。ろくでもない予知夢を見たら、それが現実とならないよう回避行動を起こせばいいんです」

「なるほど」


「しかし、子供の場合、語彙が少ないせいで予知夢の内容を他者に伝えられなかったりします」

「確かに」

「その上、聞いたところで、ただの夢なのか予知夢なのか、判断を下すのは難しい」

「……確かに」


「客人ジャンヌ様。マルタンの夢を共にご覧くださり、ありがとうございました。あなたは知るはずもないことを、夢で見ている。見たのは、予知夢に違いない。夢が現実とならないよう、努力してみます」

「頑張ってください」

 ぜひ、ぜひ……

 あれが、ただの悪夢で終わるように。


「それと、朗報をありがとうございます。マルタンが治癒空間を形成できるようになるのなら……あの子の第八の扉が開いた後、多くの者が救われます。久々に、絶望以外の未来が見えました」


 セドリックさんが、右手を差し出してくる。


「感謝します、客人ジャンヌ様」


「アタシはなにも……」


 右手をぎゅっとつかまれた。マルタンと同じ青い瞳の人が、澄んだ目でアタシを見つめる……。


「他者の夢への同調(シンクロ)は、よくあるのですか?」


「いえ、初めてです……初めてだと思います。時々、変な夢を見ますが」


「お尋ねしても?」


「う〜んと小さい子供のころの夢とか、アタシと同じ百……」


 ぐはっ!


 ズキンときた!


 おでこが痛い!


 賢者ジャンの世界のこともしゃべっちゃいけなかったのよね! うっかり忘れてた!


 額をおさえるアタシを、

「大丈夫ですか?」

「しっかりしろ、ジャンヌ」

 セドリックさんと兄さまが、心配してくれる……


「……もう大丈夫です」

 ズキズキ痛む聖痕をおさえながら、言い直した。

「自分が経験したことの他に、異世界の人たちの過去を夢で見ました。夢を見た時点では知り合っていない人まで、夢には出てきました」

 クロードが魔法を封印した日のこと。

 勇者の日の翌日のお祭り。

 賢者ジャンが勇者だった時の魔王戦。

 エスエフ界のナターリヤさんが、お兄さんのユリアーンさんに銃をつきつけているところ。

……変な夢は、それぐらいかな?


「過去見ですね」

 セドリックさんが、髭ごと口元を撫でる。

「本人が覚えていなくても、脳は過去を覚えていたりするものです。何かがきっかけとなって、過去の記憶が夢で再現されるのはさほど珍しい事ではありません」

 まるでテオのように理知的な説明だ。

「しかし、他者の記憶まで再現されるとなると、脳生理学では説明ができなくなります」

 ふむふむ。


「おそらく」

 セドリックさんが、きっぱりと言う。

「あなたの内なる霊魂は、過去と未来に通じているのでしょう」


 なんか急にうさんくさくなったーッ!


「いずれ自分の運命と繋がる者を夢で知る……我が一族にはよくある事です」


「ああ、夢で客人の来訪を知るんだったな」と、兄さま。


「ええ。客人ジャンヌ様の来訪は、マルタンが夢で見ました。まあ、『ひかりがマッハで、ドバーッときて、ババーンとわるいのをやっつけるんだ』とか何とか……言葉が足らなさすぎて、意味不明でしたが」

 五才じゃ、しょうがない。


「あなたは百人の仲間と戦う勇者。仲間と絆をお持ちだ。あなたの内なる霊魂が、相手の霊魂と同期して、過ぎ去った道と行く末を感じ取れても不思議ではないでしょう」

 むぅぅ……信心深い人の理論は、いまいち理解できない。


「お仲間の僧侶が戻られるまで、このシェルターにご滞在いただけるんでしたよね? 又、何かご覧になったら是非教えてください。生き抜く為の術を探せます」



 もちろんです、と答えた。


 でも、この人たちは、依然として絶望的な状況にある。

 魔王――ジェラールの脅威にさらされ、

 その魔王を倒したところで、救われない。

 これから何百年も厳しい冬が続き、春は来ないのだ。

 手持ちの物資はいずれ尽きる。

 その上、知識人技術者もいない、シェルターの設備も壊れまくりの状態。


 異世界に移住でもしない限り、生き残る道はなさそう。


 けれども、一つだけ。

 この人たちの今を助けられそうな方法がある。


 うまくいくかどうかはわからないけれども。


 試してみようと思った。



* * * * * *



 部屋に入るなり、叫んだ。

「クロード。あんたのトネールさんと、『魔力ためる君 改』貸して」


「え〜?」

 リュカといっしょに食料を長テーブルの上に並べてた幼馴染(クロード)が、首振り人形みたいに派手に頭を横に振る。

「ダメだよ! トネールさんはいいけど! でも、『魔力ためる君 改』はダメ! 使徒様専用魔力チャージ器だもん! ジャンヌのお願いでも、勝手には渡せないよ!」


「あいつは、自分の荷物をこの世界に捨ててけって言ったわ」

「そうだけど」

「処分は、あんたに任せるとも言ったわよね」

「うん」

「つまり! あんたがいいと思ったら、この世界の為に使ってもいいって事よ!」

『魔力ためる君 改』のうちの一本を置いてったのは、わざとだと思う。

 きっと、そう。


「アタシ、『魔力ためる君 改』でレイを起こしたいの」


「レイさん?」


「今『魔力ためる君 改』にチャージされてる魔力は、レイのものよ。それを、同じ雷精霊のトネールさんの力でアタシの契約の石に注いでもらいたいの。それでレイが復活するかどうかは賭けだけど、あいつが蘇ればこのシェルターの人たちを助けられるわ」


 セドリックさんは、シェルターの中のあっちこっちが壊れてるって言ってた。

 生産技術をほぼ全て失い、過去の遺産はあっても、生かせる技術者・知識人が居ないとも。


 だけど……

「レイなら、この世界の技術ぐらい、パパッとわかるはず! 修理も、補強も、使用できなくなった技術の再利用も、ぜったいできると思うの!」


 だって、あいつ、エスエフ界で、『このレベルの機械文明』って侮り発言してたもの! アンドロイドやら巨大メカがいっぱいだったあの世界で!


 セザールおじーちゃんが、頷く。

「確かに。レイ殿は、エスエフ界の方々と対等、いえ、もしかしたらそれ以上の機械の知識がおありだった。あちらの方に逆にアドバイスをした事もありましたし」

 でしょ?

 レイは、電気に関係のある雷の精霊で、超高度な機械文明を知ってるんだもん。


「レイなら何とかしてくれる、そんな気がするのよ! だから、あいつの復活に力を貸して! お願い!」




 雷精霊のトネールは、珍しく、灰猫でも紫雲でもない姿で現れた。

 おでこからデカイ一本角を生やした、魔族っぽい姿。半獣半人な外見は、イザベルさんのしもべのトネールとそっくりだった。

「うわ〜 うわ〜 うわ〜。トネールさん、かっけぇぇ!」

 おバカな主人にニィィッと薄く笑いかけてから、クロードの精霊は『魔力ためる君 改』を手に取った。

 ルネさんの発明品は、ボトルにストローがささっているようなつくりだ。

 ストローに口をつけ、中身をズズズズーっと一気に吸い込み……

 トネールはアタシの左手をとって、手首のアメジストのブレスレットに口づけを……


 なんか、ちょっと、ドキドキするというか……


 アタシの胸は、キュンキュンした……



《吾輩の復活時に、他の存在(おとこ)に萌えておるとは……。あいも変わらず、嫌になるほどお気楽な女である》


 この声は!


 背後の空気が揺れた……そんな気がしたんで振り返った。

 紫の長髪に紫の瞳。細身だけど、颯爽とした男の人が居る。

 着ているのは、着物に半纏(はんてん)


 レイの人形(ひとがた)だ。


 いつも通りの澄ました顔。

 両腕を組んだ、泰然とした態度。

 レイは、口元だけで笑みをつくった。


主人(あるじ)よ。ただ今、四散より復活した》


「おかえりなさい!」


 気持ちのままに、レイに飛びついた。


「魔界では、ありがとう! それから、ごめんなさい! あなたを四散させちゃって! もう二度とあんなことにならないようにする! 復活してくれて嬉しいわ! それで早速なんだけど、あなたに頼みが!」


《待たれよ》

 肩を掴まれ、ぐいっと引きはがされた。

 レイは眉をひそめ、目を細め、いかにも迷惑そうな顔をつくっている……


《主人の説明など、聞くだけ無駄である。あなたに理路整然とした思考は、不可能ゆえ。記憶を読ませていただく。しばし待たれよ》

 くぅぅぅ……

 あんたこそ、あいかわらずね……。



 とりあえず、クロードとトネールにお礼を言って(トネールはあっという間に灰猫になっちゃったけど)、

「よかったな、雷のにーちゃん復活して」とリュカに背中をポンと叩かれ(そいや、リュカとレイってジパング界でちょこっとだけ一緒に行動したんだっけと思い出したり)、

「レイ殿が復活したのなら、これで安心ですな」ってセザールおじーちゃんと頷き合ったりして。


 アタシが暇を潰している間に、レイは視線を他へと移していた。部屋の中を見渡し、上を、それから下を見る。たぶん精霊的な力で、壁や天井や床を通り越した先を見てるんだろう。



 口元に手をあて、目を半ば閉じて。

 レイは、何やら深く物思いに沈んだ。


 これぐらいの文化レベルなら、楽勝でしょ? あんただったらパパッとどうにかなるんじゃないの? って考えたら、


《主人よ。文化レベルが違いすぎるのが問題なのである。わかりやすい例で説明する。これは、馬がおらぬ世界の原始人に馬車での走行をさせるも同然。難事なのである》

 原始人発言きたー

《まず原始人に教育をほどこし、馬の飼育環境を整えさせてから、馬を輸入し、馬車をつくらせ、更に馬の御し方まで教えねば、馬車を動かすことかなわぬのである》


「無理ってこと?」


《不可能ではない。吾輩は雷の精霊。常に進化を続ける存在なのである。文明レベルが低ければ、それに応じた技術を発明し、文明を繁栄させる。造作もないのである》


 おおお! 頼もしい!


《なれど、技術の改良、文明の担い手たちの育成は一朝一夕ではできぬ》


 レイは、大きく息を吐いた。


《主人よ。あなたのご希望は、このシェルター内部の人間の存続と繁栄。それで間違いはないな?》


「ええ。三年後に全滅なんて冗談じゃないもの」


《ならば、手立ては一つしかなし。このシェルターの誰かに、吾輩を譲られよ》


 え?


《吾輩には、滅びかけた文明を復活させた実績がある。吾輩が指導するのであれば、この世界の文明は何百年何千年も続くであろう。しかし、その基盤をつくるには、少なくとも十年は必要。その間、吾輩はこの世界から離れるわけにはいかないのである》

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