きよしこの夜
歓迎の宴は、やめにしてもらった。
セドリックさんは残念そうだったものの、アタシが子供を産めない体だと聞いて(この説明もどうかと思うわ、ヴァン!)、わりとあっさりと引き下がった。
「お部屋は、みなさんが寝泊まりしやすいように直させましょう」
現在、かなりアダルトな内装になっているらしい……。
「……その間に、子供たちに会わせてもらえませんか?」
セドリックさんとレジーヌさん(マルタン君のお母さん)が、不審そうに眉をひそめる。
なので、ちゃんと伝えておいた。
「あの子の名前は絶対呼びません。他の子の名前も、もちろん口にしません。だから会わせてください」
「何故です?」
「それは……」
あの子がアタシの仲間の僧侶かもしれないから会いたい……とはさすがに言えないわね。
えっと……
なんか適当な言い訳を……
「……う、内なるアタシの霊魂が、マッハでそうせよと命じたからです」
苦しい! 苦しすぎる!
「ほう。あなたの霊魂が……。わかりました。レジーヌ、子供部屋にお連れしてくれ」
なんか、あっさり許された!
マルタンのノリが通じる世界なんだわ、ここ!
「この階層は居住エリア。あなた方がいた部屋は、倉庫の一つです」
先に立って廊下を歩くレジーヌさんの後を、ついて行った。
「子供部屋は最奥です」
「子供たちは、みんな同じ部屋で暮らしてるんですか?」
「分散しているより一カ所に集めた方が、暖かいですし、エネルギーの消耗を押さえられますので。年長者をリーダーにして、子供だけで過ごさせています」
つまり……
「レジーヌさんは、お子さんと一緒じゃない?」
「ええ、同室ではありません」
「下のお子さん、二才だとおっしゃってましたよね? お寂しいですよね……」
「有事ですから、仕方ありません」
レジーヌさんが、やわらかな声で答える。
「今、私が母親でいられる時間は、ほとんどないんです。この施設を維持する為の人手が、圧倒的に足りないのです。故障している箇所も多いですし……」
十五人が暮らして、大人は六人しか居ない……セドリックさんはそう言ってたっけ。
「それに、子供たちの中には、親兄弟が居ない子もいます。自分の子だけを手元に置いて可愛がるなんて、できませんわ」
あ……
「すみません、アタシったら……」
無神経なことを。
「いえ、お気になさらないでください。『光なき時も共にあり、苦しみをわかちあえ』ですわ。マルタンも他の子どもたちも、時空を司る 様に仕える弟妹。みんな、愛しています。導師として導いていきますわ」
階段がある場所に通りかかった時、レジーヌさんは「階段は使わないでいただけますか?」と頼んできた。
「神よりいただいた力で、上階には守護の為の空間が築かれています。一族以外の者の接近を、空間が拒絶するのです」
う〜ん……防御結界が張られてるってことかな? まあ、確かに近寄らない方が良さそう。
「また、下階には空調システム、発電室、貯水庫等の重要施設もありますので、」
「わかりました。上の階にも下の階にも行かないようにします」
「すみません。外出をお望みの時は、私かセドリックにお声をかけてください。客人であるあなたにご不自由を強いてたいへん申し訳なく思います」
むぅ。
ここの人、異世界人をもちあげ過ぎ。
こそばゆいわ……。
子供部屋は薄暗く、やっぱりものすごく冷えきってた。
部屋の子供たちは、最初こそ見知らぬアタシたちに戸惑いを見せたものの……
異世界からの客人だと、レジーヌさんが説明した途端、顔をキラキラと輝かせ始め、
更に、ツイン炎の精霊が部屋を明るくあたたかくしたもんだから、大喜びとなって、
「キャー! カワイイー!」
「次、あたし!」
「ピンク・クマちゃん、かして、かして〜!」
あっという間に、アタシの精霊たちの虜になってしまった。
一番モテモテなのは、バレリーナ姿のピナさん。
赤クマさんも、ショートマントをつけた緑クマさんも、まあ人気。
女の子は三人なので、黒クマさんはちょっとあぶれ気味。でも、みんな、一回は抱っこしてる。いろんな子から頬ずりされて、ピクさんは嬉しそうに照れてた。
いちおうソルにも、あんたもチヤホヤされたい? って聞いてみたんだけど……
《結構です。子供は、ワタクシの守備範囲ではありませんので。ワタクシが敬愛するお方は未成熟な果実であって、幼児そのものではありませんから》
とか、言いやがったのだ! それ、どういう意味? アタシの知性が幼児並ってこと? それとも外見? 幼児体型だって言いたいの? っくそ、あとで踏んづけてやる!
サイボーグおじーちゃんや逞しい兄さまは、男の子たちから人気。
ではあるんだけど……
「いねーじゃん、あのガキ」
うん……。
「ジャンヌ。あっち……」
クロードが指差してるのは、部屋の奥。二段ベッドの下段……
!
居た!
てか! マルタン君、ぐるぐる巻きに縛られてて、ベッドに転がされてる! 口には猿轡まで!
ちょっ!
「マ……」
じゃない!
「あの子、どうしちゃったんです?」
って聞いたら、レジーヌさんはあっさり答えた。
「『ふんじばって、ベッドに転がした』のです。セドリックから、やれと命じられましたので」
だからって、ほんとにやっちゃうなんて……か、過激ですね、お母様……
「解いてあげてください!」
「わかりました。客人であるあなたのご希望に従います」
レジーヌさんが、息子が転がっているベッドに向かう。
マルタン君の枕元には、大きなお人形がちょこんと座ってる……
と、最初は思ったんだけど!
生きてるわ! 瞬きしてる!
もこもこに着ぶくれた女の子。亜麻色のふわふわの髪の毛。可愛い子だ。だけど、大きな目はとろ〜んとしてて、半分眠ってるみたいな表情だ。
「マリー」
レジーヌさんに呼びかけられ、眠そうな目がパッチリと開く。
でもって。
笑ったのだ。
ほわほわ〜っと。
無邪気に、可愛く。
「ママ〜」
「ずっとおにーちゃんについていてくれたの? やさしい子ね、マリー」
両手を広げて待つ子供を、レジーヌさんは抱き上げて頬にキッス。
「おにいちゃ、ないてるの〜」
う。
そのスローモーなテンポが! 舌っ足らずなしゃべり方が! 胸にズッキュンとくる!
「泣いてないわよ、おにいちゃんは」
「おにいちゃ、いたいの〜」
「そうね。今、痛いのを取ってあげるわ。良い子に待っててね」
床の上に、もこもこのちっちゃい子がちょんと降ろされる。
あんなちいちゃな足で立ってるぅぅぅ!
小動物的な可愛さというか!
抱き上げて、頬ずりしたくなるというか!
「なー ねーちゃん、あいつ、汗かいちゃうんじゃね?」とリュカ。
「赤クマたちが室温あげてんだ。あんなブクブクじゃ、あちーだろ、あのガキ」
おお!
たしかに!
……よく気がついたわねえ、リュカ。
今、お母さんは、息子の縄を外すのに忙しそうだし……
アタシは、チビちゃんの前にしゃがんだ。
「上着、脱ごうか?」
こっくんと頷くのが、またなんとも……か、かわいい……かわいすぎる……持って帰りたくなる……
「あいがと、です〜」
脱がせてあげたら、お礼言うし!
……ときめいちゃいそう。
そうだ!
「ピクさ〜ん」
あぶれてた黒クマさんを呼び寄せ、
「はい」
おチビちゃんに手渡そうとした。
けど、受け取ってくれない。
大きな青い目をきょとんと丸め、女の子がピクさんを見つめる。
宝石みたいな目をパチパチ。
しばらく、真っ黒なクマさんを見つめてから、女の子は笑ったのだ。ほわわ〜んって感じに、それはもう愛らしく。
「わんわん〜」
え?
「わんわん〜」
《お、おらのこと? おら、黒クマ……》
「わんわん〜」
どわっ!
いきなり、ピクさんの頭を鷲づかみ!
頭がつぶれてるわ! ぬいぐるみだからいいけど! 容赦のない掴みっぷり!
でもって、振り回すし!
「ダメよ! それじゃかわいそう!」
キョトンとしてる女の子から、ピクさんを取り上げた。
「わんわん……」
うわっ! 大きな目から、じわわ〜んって涙が!
「抱っこは、こうよ!」
赤ちゃんを抱っこするみたいに、やってみせた。
「わんわん……」
「返すわ。さあ、やってみて」
手を添えて、女の子が乱暴な抱き方をしないよう指導してみた!
「可愛い子には、優しくするの。お母さんが、あなたを抱っこする時みたいにね。愛をこめて、そっと、そっと、ね。……そう上手、上手。ほ〜ら、ピクさん、気持ちいいって喜んでるわ」
「わんわん〜」
うん……
さっきは悪魔みたいだったけど。
その笑顔は、天使だわ!
「その子はね、わんちゃんじゃないの。クマちゃんなのよ」
「わんわん〜」
むぅ……
「熊では通じません」と、レジーヌさん。
「動物を見たことがないんです。ここには絵本すらありませんし。マルタンの帽子の飾りの犬だけが、その子の知ってる動物なんです」
あらま。
見れば、マルタン君はもうベッドに座ってた。しびれちゃってるんだろう、腕をさすりながら。でもって、アタシをジーッと見てる。ものすごーく言いたいことがあるって顔だ。
「お仲間の精霊への狼藉、申し訳ありませんでした。ですが、決して悪意があったわけではありません。その子は、お人形遊びも知りませんので……ぬいぐるみの扱い方がわからなかったのです」
人形遊びを知らない……?
ここ、人形も無いのか……
胸がチクッと痛んだ。
「知らない事は、これから覚えていけばいいだけです。アタシの精霊も怒ってませんし」
抱っこされたピクさんが、女の子を抱っこし返す。
それだけで、キャイキャイ喜ぶんだもん。なんか胸が更に締めつけられそう……。
「気にしないでください。アタシも気にしませんから」
「ありがとうございます」
「ねえ」
マルタン君の声だ。
青い瞳が、ジーッとアタシを見つめている。
「……オレのなまえ、よんでくれた?」
「呼んでない」
「なんで!」
「あんたと契約を結ぶ気がないからよ」
「ケチ!」
「マルタン、客人に失礼ですよ」
お母さんから、ゲンコツ。
マルタン君は、上目づかいにアタシを睨み続ける。
顔は真っ赤。しかめて、しわだらけ。今にも泣くぞ!って、表情で訴えてる。
顔自体はそっくりなんだけど、こういうとこ似てないのよねえ。感情表現が、ストレートすぎる。
「少し息子さんと話させてください。内なるアタシの霊魂が、マッハでそうせよと言っているんです」
「わかりました。私はご就寝用の部屋を整えてきます」
またまたあっさりOKが出た!
『内なるアタシの霊魂』をつければ、なんでも要求が通りそうな予感……。
ベッドの端に腰かけ、床に目を落とし、ムスッとしてるマルタン君。
「隣、いい?」
しばらく待ったけど、返事がかえってこない。
無言を了承だと勝手に解釈して、その隣に腰かけた。
すぐ側では、彼の妹――マリーちゃんがピクさんを抱っこして、「わんわん〜」と無邪気に笑ってる。めちゃくちゃ可愛いな。
「アタシが来ること、夢で見たんですって?」
マルタン君、無言。
「どんな夢だったの?」
無言。
「妹さん、すっごく可愛いわね」
話題を変えてみても、やっぱり無言。唇をむっつり閉じたままだ。
「ねえ、力が欲しいって言ってたわよね? どんな力が欲しかったの?」
そこでようやく、マルタン君が口を開く。目は床に向けられたまんまだけど。
「……おしえたら、くれる?」
ん?
「『マレビトにはチシキとジョリョクを、マレビトからはチシキとトミを』。オレのことしりたかったら、タイカ(対価)をはらって。オレのマレビトになってよ」
ぐ。
「オレ、ただじゃ、チシキはつたえないよ」
こ、こいつ〜
「こら、マルタン! マレビトにしつれーよ!」
緑クマさんを抱っこした女の子が、走り寄ってくる。
「よばれたら、おへんじするの。あんた、もう五つなのよ。ちゃんとおにーちゃんにならないと、マリーにわらわれちゃうわよ」
七才ぐらい? もうちょっと上?
色白でそばかすだらけの子だ。顔のつくりは、マルタン君とよく似ている。
「うるせーよ、リナ」
「きたないことばは、やめなさい。ねんしょうしゃは、ねんちょうしゃの言うこときくものよ。さあ、マルタン、おぎょーぎよくして。マレビトのしつもんに、ぜんぶきちんとこたえるのよ」
アタシの横のマルタン君が、チッと舌打ちをする。
「えらそうにすんなよ。バカガキ」
「バカでもガキでもないわ。あたし、あんたよりおねーちゃんよ」
「よわっちぃくせに、いばるな」
伸ばされてきた女の子の手を、マルタン君がバシッとはらいのける。
「さっさとダイサンのトビラあけろよ、のろま」
そばかすの女の子の顔が、カーッと赤くなる。
「十までには、できるようになるわよ! それなら、ふつうよ! おねーちゃん言ってたもん! あたしは、ふつう! ヘンなのは、マルタン、あんたでしょ!」
「マリーはダイヨンまであけてるぜ」
「うそ……」
「うそじゃないよ。マリー、オレとおなじものみてるし、きいてるんだ」
「うそ! うそ! うそ!」
「二さいのマリーができること、どーしてできないんだよ。ほんきになれよ。八つだろ。ガキでバカなままじゃ、しぬんだぞ」
「うるさいッ! マルタンのバカーッ!」
そばかすの子は、もう半泣きだ。
子供のケンカではあるけれど……
この暴言は、聞くに堪えない。
マルタン君の頭にゲンコツを落として、見上げてきた顔に向け、びしっと指をさした。
「今のは、あんたが悪い!」
天才のあんたにはわからないんだろーけど!
凡人には凡人なりの成長スピードがあるの!
本人はものすごく努力してるかもしれないのよ。あんたの物差しで測ったらかわいそうだわ!
そんな気持ちを視線にこめて、睨んでやった。アタシも凡人代表だから……。
目を大きく見開き、口をむっと閉じて、しばらくブルブル震えて……
それから、マルタン君はアタシに背を向け、走り出した。
「待って」
伸ばしたアタシの手は、スカッと宙を切った。
マルタン君の姿が、フッと消えてしまったのだ!
最初から、そこに居なかったみたいに。
《魔法による移動です》
アタシと同化中のソルが、簡潔に教えてくれる。
呪文詠唱無しに、パパッと消えたわッ! 凄い!
「マルタンったら、また脱走? んもう、しょうがない子。思い通りにならないと、すーぐ逃げるんだから」と、女の子たちからブーイング。
そばかすの子は、もっと年長の子たちにヨシヨシと慰められていて……。
「マレビト。マルタンなら、このフロアーに居ますよ」
男の子たちが教えてくれる。
「さっき族長が、シェルター全体の空間を作り直したばかりですから。いくらあいつでも、今は外へは行けないはずだ」
よくわかんないけど、わかったわ! マルタン君は、この階のどっかに居るのね!
ポテポテポテっと。
お人形みたいにちっちゃな子が、廊下にむかって歩いてゆく。
ちょっ!
マリーちゃん!
ピクさん、ひきずってるわよ!
足もってひっぱるんじゃなくって! 抱っこしてあげて!
「マリーについてけばいい。マリーは、おにいちゃんが大好きなんです。あいつがどこに隠れてるんでも、マリーならすぐに見つけますよ」
マリーちゃんの後をおっかける事にした。
廊下は寒いだろうと思って、ピオさんを呼び寄せると、
「ボクもいっしょにいく」
「俺も」
クロードと兄さまがついて来た。
リュカはバイバイとアタシに手を振って、セザールおじーちゃん&男の子チームの方に合流しに行った。この部屋から出たくない模様。
「ピオさんの代わりに、ユーヴェちゃんを出しといたから」と、クロードはニコニコ笑顔。
クロードの光精霊は、白い子猫の姿だ。ピオさんの代役のはずのユーヴェを見た途端、女の子はキャーっと甲高い悲鳴をあげ、たちまちピナさんまで放り出すぐらいの熱狂ぶりに……
《チェッ》
アタシのすぐそばで、赤クマさんがイジケル。
《チェッ、チェッ、チェッ》
しょんぼりとうなだれ、つまらなさそうに右足で床を蹴ったりなんかしちゃってて……
大丈夫よ、ピオさん! 子猫のユーヴェもすっごく可愛いけど! ピオさんも、すっごくラブリーだから! アタシが保証する!
マルタン君は、すぐに見つかった。
てか、すごくわかりやすい所に居た。
上の階に通じる階段の踊り場で、こちらに背を向けて膝を抱えて座っていたのだ。
隠れてないし!
あからさまな『オレ、拗ねてます!』『誰か気づいてよ』アピール。
思わず吹き出しちゃった。
そういう面倒くさいとこ、うちのマルタンによく似てる。
「おにいちゃ」
ヨチヨチ足のマリーちゃんが、階段をヨタヨタとあがり出して……
落ちたら、危険!
アタシとクロードは左右をガード、兄さまは落ちてきてもキャッチできるようすぐ後ろについた。
ピクさんもひきずられるのをやめ、マリーちゃんと手をつないでひっぱってあげている。
他の階へ行っちゃ駄目って、レジーヌさんから注意されてるけど……
踊り場までなら……
おっけぇ?
だといいな!
いや、だって! この子一人で昇らせらんないでしょ?
「お兄ちゃん、妹がそっち行こうとしてるわよ。降りて来て」
つっても、チビ・マルタン、動かないし。
どうにか!
無事に!
踊り場に到着!
「おにいちゃ」
可愛い妹はニコニコ笑って、イジケてるお兄ちゃんのもとへ。
「おにいちゃ」
右手でぎゅっとつかんだものを、ひっぱって、
「わんわん〜」
見て見てって感じに、お兄ちゃんにくっつける。
そんな愛らしい妹に、お兄ちゃんはポツリと一言。
「……クマだよ」
「わんわん〜」
マリーちゃんが、マルタン君にピクさんを押し当てる。
貸してあげる、抱っこしていいよって感じに。
「いらないよ」
「おにいちゃ、わんわん〜」
「いらないってば」
「わんわん〜 ギュッ。おにいちゃ、わんわん〜」
「チェッ」
面倒くさそうにマルタン君は右手をあげ、マリーちゃんごとピクさんをギュッする。
「……ありがとう、マリー」
マリーちゃんが、キャッキャ楽しそうに笑う。
「仲がいい兄妹だな」と兄さま。
うん、ほっこりしちゃう……。
「オレ……つよくなりたいんだ」
背を向けたまんま、マルタン君がつぶやく。
「……オレがつよくなんなきゃ、みんないなくなっちゃう。ママもマリーもリナもおじさんも、みんな……だから、」
小さなマルタン君は妹をそっと離し、立ち上がり、振り返った。
息をのんだ。
目の前に居るのは、五才の子供なのに。
その青い瞳は、どこまでも澄んでいて……
その顔は、信仰を貫く決意に満ちた殉教者のようで……。
「マレビト。トミは、オレにください。オレたちがウちくだかれるまえに、オレはわるいヤツをたおさなきゃいけないんだ」