どこまでも行こう
ふと目を覚ますと、どアップの黄クマが見えた。
《おはようございます、女王さま》
もこもこの黄色い毛皮、つぶらな黒い瞳、小さなお鼻、小さなお口、そして、丸いかわいいクマ耳。
ものすご〜く愛らしいぬいぐまが、枕を並べるかのようにアタシの左隣に寝て、照れたようにこっちを見ているのだ……。
とりあえず……
クマの顔をぎゅむぎゅむ押し潰しておいた。
「ソル。なんで、あんたが隣に寝てるのよ……」
《ひ、一人寝はお寂しいかと思いまして……本日の護衛担当のワタクシめが、添い寝を……》
いらんわ!
黄クマを床に投げつけた。
べしゃっ! と床に叩きつけられたヤツは、ぷるぷると身を震わせている……。
《あああ……容赦のない投げっぷり。たいへん素晴らしい!……素晴らしいのですが、罰にしてはぬるすぎです。ここは! ぜひ! 並行世界の土精霊へのお仕置きのように! ワタクシの足と足の間に蹴りを!》
黙れ、変態!
《あああ……怒りのボルテージが低い。やはり、裸ネクタイ益荒男姿で添い寝しておくべきでした……》
やめろ! やったら、八百万那由他の彼方とやらにぶっ飛ばしてるわッ!
あ〜 もう! 朝っぱらからキショすぎ!
《女王さま。朝ではございませんよ》
黄クマが、ひょこんと体を起こす。
《ただ今、夕方です》
薄暗い部屋を見渡してから、思い出した。
並行世界(裏世界?)に行って徹夜。
オランジュ邸に戻って、ベッドにバタンキュウしたんだっけ。
賢者ジャンたちに会っていろいろショックだったし、使徒様のせいで無駄に体力を消耗しちゃったから。
今、アタシは……
『マルタン』の名前を口にしようとするだけで首が絞まり、
並行世界のことを語ろうとすると額が強烈に痛くなる。
使徒様からいただいた、有難い聖痕のおかげだ。
『聖痕は、さほど保たん。せいぜいが一週間で消える。だが、上書きは可能だ』
ククク・・と笑う野郎の顔が、脳裏に蘇る。
非常に腹立たしいけど……
この呪われた聖痕ズとは、一週間でオサラバしたい! 一週間は、使徒様のご機嫌を損ねないように気をつけよう!
一週間はね!
《女王さまのお目覚めを、お仲間の方々に心話にてお伝えしましょう。湯あみやお食事の手配もいたします》
ソルって、しもべとして『無能』ではないのよねえ。
《ま、まずはお着換えのお手伝いを……。実はワタクシ、練習に練習を重ね、手を使わずに女性のストッキングをお脱がせするテクを身につけまして……。お寝巻きと下着だけならば、楽勝です。ぜ、ぜひ、口でご奉仕させていただきたく……》
どうしようもない変態だけど!
こら! 近寄るな、黄クマ!
やらせるわけないでしょ!
蹴ってやるから、大人しくしてろ!
入浴の後、食事をしてたら、仲間たちがやって来た。
「良かった……顔色がよくなったな、ジャンヌ」
「あのね、ジャンヌ。絵の部屋の先のことは、ジョゼたちから聞いたから! しゃべらなくていいからね!」
《ナカマが七人もふえたんでしょ? よかったね、おねえちゃん》
「しっかし、まあ。オレ、留守番組で良かったわ〜 イカレ僧侶に聖痕くっつけられるとか、冗談じゃねーもん。ま、お気の毒さま!」
「フフッ。おまえみたいなうるさいガキにこそ、首枷が必要だったのかもな」
「その通りだぞ、リュカ。おまえは少し口を慎め。……それから、勇者様。聖痕は絵の部屋に行った全員にまだ残っています。自然消去を待てとの、使徒様のお言葉がありまして」
「百一代目勇者様。オランジュ邸の方は、今のところまったく異常なしでございます。ご安心を」
ジョゼ兄さま、クロード、ニコラ、リュカ、ドロ様、アラン、セザールおじーちゃんが入室して来て、長テーブルにつく。
最後にやって来たシャルル様が、お誕生日席についた。
「ジャンヌさん、淑女たるあなたのお食事の時間を妨げ、たいへん申し訳ありません。しかし、幾つかご報告したい事、ご相談したい事があるのです。よろしいでしょうか?」
「構わないわ」
食事中の会議なんて、よくある事だし。
ただ、メンバーがちょっと少なくない?
「テオドールさんは?」
「テオは、魔法陣反転の法を研究しています」
だと思った。
今、アタシたちの手元には、
『勇者の書 7――ヤマダ ホーリーナイト』『勇者の書 24――フランソワ』『勇者の書 39――カガミ マサタカ』『勇者の書 78――ウィリアム』『勇者の書 96――シメオン』の計五冊がある。
でも、『勇者の書 24――フランソワ』から行ける天界、その裏世界である魔界にはもう行ってしまっている。
なので、テオは残り四冊を研究してるはずだ。
「シャルロットは、今、テオにつきそって助手のようなことをしています」
「使徒様はね! 今、魂が聖戦中なんだ!」
聞きもしないことを、幼馴染が教えてくれる。
「お体の方は、今、静養中! 魔界での疲れが、まだ完全には抜けてないみたい!」
「ボワエルデュー侯爵家秘伝の魔力回復及び魔力増強用の食事も提供しておりますし、魔法医の治療も大人しく受けておられます。まあ、明日までにはかなりお元気になられるでしょう」
ったく。具合が悪いんなら、聖痕大量生産しまくって魔力消耗するなよ、バカ。
「ルネ殿は、工房で新アイテムの開発中です」と、セザールおじーちゃん。
「至急開発するよう、スポンサーであるこの私が命じたのです」
シャルル様が、ふわっと髪を掻きあげる。
「明日の旅立ちまでに間に合えば良いのですが……まあ、アレには優秀なスタッフもつけました。結果を出してくれるでしょう」
ふーん。
「さて。明日よりジャンヌさんが赴く世界ですが、英雄世界とジパング界。おそらくはこの二世界いずれかの裏に赴くことになるでしょう」
「そうね」
英雄世界とジパング界なら、勇者ジャンが赴いた時に用いた呪文がわかってるんだもん。アタシたちの世界用にアレンジするのも楽だろう。
ま、精霊界・エスエフ界・幻想世界の裏に行く可能性もゼロではないけど。その可能性は、ほとんどないだろうな。
「それにあたり、皆と話し合いまして、共に旅立つ仲間の候補を考えてみました。まだ決定ではありません。ジャンヌさんがご不満でしたら再考いたしますので、とりあえず聞いていただけますか?」
おっけぇ!
「ジャンヌさんのお伴は、」
そこでいったん言葉を区切り、シャルル様はフーッと重苦しい息を漏らす。
「使徒様、ジョゼフ君、クロード君、セザール老、リュカ君。以上五名と考えています」
えっと……
「そのメンバーを選んだ理由を教えてください」
「簡単なことですよ、ジャンヌさん」
シャルル様のお顔は、とてもとても正直にお気持ちを表している。自分が行けないのは不満だ! と、その憂い顔は声高に主張している……。
「こちらで急務がある者、異世界に赴くのに問題がある者を除いた結果です」
はぁ。
魔法陣反転の法研究をしなきゃいけないテオ、何やら発明をしているルネさんは、異世界に行けないのは当然として……
シャルル様が大きくため息をつく。
「私はオランジュ邸警備の強化を進めつつ、各種機関への連絡、諜報組織からあがった情報の分析等を進めます。私が動けば、テオの雑事も減る。研究時間が増やせるでしょう」
なるほど。テオが研究しやすい環境を整えてくださるのか! さすがシャルル様!
「まったく……優秀すぎる我が身が怨めしい。私も、一芸にだけ秀でた社会的無能力者であれば良かったと思うよ」
不機嫌顔のシャルル様が見てるのはジョゼ兄さまで……。
兄さまはその皮肉をフンと聞き流し、代わりに反応したのは、
「すみません、シャルル様! ほんとならボクなんかより、ちょ〜優秀な魔法騎士のシャルル様がジャンヌにつきそった方が安心なのに! だけど! ボクじゃ残ってもテオドールさんのお仕事の肩代わりできないんです! 本当にごめんなさい!」
「ハハハ、クロード君。庶民の君が気に病む必要はない。君にテオの代役など、できるはずもない。負うものにふさわしい義務は、人間ごとに異なるからね」
シャルル様が爽やかにクロードに微笑みかける。
「君は君の全力をもって、ジャンヌさんをお守りすればいい。それが、勇者の魔術師たる君の義務だ。……健闘を祈らせてもらうよ」
「かッ、」
声をつまらせてから、
「かっけぇぇぇ!」
拳を握り締めて叫んでるバカはとりあえず置いといて……
アタシは、ドロ様を見た。
「ドロ様もこっちでやる事があるんですか?」
「そういうわけじゃあねえんだが、」
ドロ様が男らしくフフッと笑う。
「『アレッサンドロ』には、死相が出ててね……」
!
「水晶のお告げだ。俺が側に居たら、お嬢ちゃんまで俺の悪運にひきずりこんじまう……別行動をとった方がいいのさ」
そうだ、昨晩、異世界の女占い師イザベルさんは、ドロ様に言ってた。
『あなた、死ぬわね』って。『早ければ三日後』だとも。
「でも、それじゃ、ドロ様が……」
占いが当たるのなら、あさってが大ピンチ?
「俺のこたぁ心配いらない」
ドロ様は、余裕たっぷりで、肉食獣みたいで、フェロモンにあふれてて……頼りがいのある顔で微笑んでいる……。
「最強の護衛をつけてもらったからな」
「俺がアレッサンドロ殿をお守りします」
アタシの後ろ――定位置から裸戦士がきっぱりと言う。
「何がこようとも、何が起きようとも。この命に代えましても、必ず守り通します」
「アラン。誰も死なないよう護衛したまえ。君が亡くなるのも論外だ。一人欠けただけでも、ジャンヌさんの託宣は叶わなくなるのだよ」
「はッ。失礼しました、シャルル様」
「つーかさ、死相ってどゆこと? おまえ、また何か無茶しようとしてるわけ?」
ムスッとした顔のリュカに対し、ドロ様は肩をすくめてみせる。
「今は何も悪さはしてねえよ」
「ほんとかよ?」
「本当だ。だが、ま、水晶のお告げによれば……」
「お告げによれば?」
ドロ様がニヤリと笑う。
「今までのツケを払わされそうになってはいる、な」
「くたばれ、この死にたがり」
ドロ様をどつこうとするリュカに、ニコラがぴったりとくっつく。
《リュカおにーちゃん、心配しなくても大丈夫。おにーちゃんが向こうにいってる間は、ぼくがアレッサンドロおじちゃんを見ててあげるから》
「べっつに心配なんかしてねーよ」
《ピアさんもシャルロットおねーちゃんもいるんだもん。ぜったい守れるよ》
「だから、心配してねーつーの!」
白い幽霊と養い子。仲のいい二人に笑みをみせてから、ドロ様がアタシへと視線を動かす。
「俺としても、お嬢ちゃんの星が最もまばゆく輝く瞬間を共に見たいんでね……くたばるのはまだ早すぎる。お力をお貸しくださいませんかねえ?」
「アタシ?」
目をしばたたかせた。
「何すればいいんです?」
「お願いしたいことがありまして……」
ドロ様が、フフッと笑う。
「明日まで、炎、風、土の方々を貸してもらえませんか? 俺の女たちとの契約の証に、力を注いで欲しいんですよ」
「わかったわ」
って答えたら、《あああ。ワタクシ、せっかく本日の護衛担当でしたのに。その役をピクに奪われ、他の男に貸し出されるのですね……淫従プレイふたたび》と足元からハアハア荒い息が。
とりあえず……足元のは踏んづけておいた。
しょうがないでしょ!
ドロ様の精霊は、闇のニュイさんを残して四散中なんだもん。協力してあげなきゃ!
とはいえ、ラルムとレイとピロおじーちゃんが四散中、ルーチェさんは導き手の仕事で来られない。
水、雷、氷、光の精霊は貸せないから……
「兄さまのバリバリさんと、クロードのトネールさんも借りたら?」
「そちらは、もう頼んであります」
あら。じゃ、居ないのは水と氷だけか。
「侯爵家嫡男さまが魔術師の手配をしてくださったんで、明日以降はまあ問題なく魔力注入してもらえそうなんですがね……四散中のあいつらが少しでも早く復活してくれりゃ、それだけ生きのびる道が開きますんで……ご協力を願った次第で」
なるほど。
「まあ、人が動けば、運命も変わりゆく……より良い未来のために、明後日までいろいろとあがいてみますよ」
* * * * * *
とある世界の裏に行く為には、
1.裏世界用の魔法陣反転の法(技法)をテオが唱える。
2.技法発動後(十分以内)に裏世界に行く為の転移の魔法をアタシが唱える。
の2ステップが必要。
魔界に行った時は、
1.魔界に行く為の古代技法をテオが唱えた。
2.魔界に行く為の転移の呪文(天界への転移呪文を一部変更し、魔界用に置き換えたもの。『聖』を『邪』に、『光』を『闇』に、等)をお師匠様が唱えた。
ドロ様がアドバイスをしたおかげで、魔界行は何とかなったものの……
古代技法にしろ、転移の魔法にしろ、正確に呪文を唱えなきゃいけない(古代技法の場合、そのうえ、正確な所作をしなきゃいけない。まばたきのタイミングまで正確に……)。
一言一句違っても、呪文の効果は発動しない。
なので、テオは、
今日一日は、研究スタッフと共に呪文の候補を山とつくり、
日付が変わってからは呪文の生産はスタッフに任せ、(考えた)魔法陣反転の法の技法が発動するかどうかを魔法絹布の前でテストしたいようだ。
シャルル様から「客室にお移り願えますか?」って頼まれたので、おっけぇした。
魔法絹布は、オランジュ邸のアタシ用の部屋にある。アタシがグーグー寝てる部屋じゃテオもやりづらいだろうし、アタシもぐっすり眠れないものね。
でも、その場に、シャルル様とニコラとピアさん、それにセザールおじーちゃんが(護衛もかねて)立ち会うって聞いてびっくりした。
眠る必要のないニコラとピアさんはともかく。シャルル様は残留組だからいいとしても。
「セザールさん、徹夜して大丈夫なんですか?」
異世界でバテない?
セザールおじーちゃんが「わしは、サイボーグですので、不眠不休で数日活動できますぞ」なんて言うもんだから、更にびっくりした。
「毎日五分程度、任意の時間に休憩すれば良いだけ。ほぼ丸一日活動できます」
「サイボーグ体って便利なのね」
「いやいや。その分、ルネ殿にはご迷惑をおかけしております。機械というのはデリケートなものでして、定期的なメンテが必要なのですよ。帰還後は、数日場合によっては一週間ぐらいメンテとなるでしょう」
うへぇ。
「わしも簡単な修理ならば自分で出来るようになりました。が、内部は触れませんので。ルネ殿に頼りっきりなのです」
でも、次の旅ではルネさんは同行しない。
向こうでおじーちゃんが大怪我したら、大変なんじゃ?
治癒魔法は、機械の体には効かないし……。
ふと、レイが居れば何とかなるかも……と思った。
あいつは、機械に詳しい。何番目かのご主人様が高度機械文明の人間だったからとか何とか(その上、武闘にも詳しい。何番目かのご主人様が武闘家で、共に戦場を駆けたとか何とか……。あいつ、有能すぎる)。
エスエフ界にいる間、レイはルネさんに貸していた。というか、ちょっと夢見がちなルネさんの手綱役をさせてた。
セザールおじーちゃんのサイボーグ手術に関しても口出ししてたようだし、メンテナンスの知識もバッチリだし……
あいつが今そばに居てくれれば、安心なのに。
四散中なのよね……。
* * * * * *
翌朝。
早めの朝食をすませ、テオたちのもとへ急いだ。
部屋に迎え入れてくれたのは、セザールおじーちゃんだった。
「百一代目勇者様。警備の方は問題なし。つつがなく実験は進んでおります」
横からシャルル様。
「おはようございます、モン・アムール。今日もお綺麗だ。あなたがそこに居る……それだけで私の疲れた体が癒されてゆきます……」
すぐにニコラがとびついて来る。
《ジャンヌおねーちゃん! 聞いて、聞いて! テオおにーちゃん、すごいんだよ! 三つも成功なんだ!》
おお!
その通りだと、オレンジ・クマが頷く。
テオは、魔法絹布の前に立っていた。
そして、しゃがんだり、立ったり、体をひねったり、手足をバタバタさせたり。体操のようなことをしている。アクロバティックな動きは無いんだけど、けっこうせわしない。
「…… 様と子と聖霊の御力によりて、奇跡を与え給え。魔法陣反転の法!」
魔法絹布に向かい、テオが高らかに技法を唱える。
………
けれども。
何も起きない。
「これも外れですか……」
フーッとため息をついてから、テオは振り返った。
「あ。勇者様……おはようございます」
今初めてアタシに気づいたようだ。精神集中して雑音をシャットアウトしてたのね。
角帽は外してるし、ネクタイはゆるめてる。アカデミックドレスもちょっと、よれてるような。
目の下にはクマ。顔色も良くない。
二日の徹夜の疲れが、ありありと表れている。
なのに。
「お喜びください、勇者様」
その顔はとても誇らしげで……
赤く充血した目は生き生きと輝いているのだ。
「英雄世界、ジパング界、更にはエスエフ界の裏世界へ行く為の技法を発見しました!」
おおおお!
「テオドールさん! 天才だわ!」
それに対しテオは、『違う』と静かにかぶりを振った。
「みなさまのご助力のおかげです」
研究スタッフの協力ももちろんあったろう。でも、本当は『セリアのおかげ』と言いたいんだろうなあ。賢者ジャンの世界のことを自由に話せるんだったら、きっと。
「技法の検証は、とりあえずここまでとしておきます。私は転移の呪文研究中のみなさまのもとへ一度戻りますので、勇者様はこのまま部屋でお待ちください」
「わかったわ」
アタシは、テオに微笑みかけた。
「ありがとう、テオドールさん」
テオの口元が笑みを形づくる。
「感謝の言葉は、勇者様が無事に三つの裏世界にいらっしゃれた時に頂戴します」
……胸がキュンキュンした。
今日のテオは、まったくキリッとしてない。
だけど、なんか、すっごく素敵なのだ。
「それでは」
「待ちたまえ、テオ。帽子を忘れている。ネクタイも直してやろう」
「そんなの、どうでもいいです」
書類を抱え、スタスタと扉に向かうテオ。
その後を、シャルル様が追いかけてゆく。
《テオおにーちゃん、すごいよね。カッコイイよね》
「ほんとね」
二人が居なくなってから、ニコラとニッコリと微笑み合った。
「若いのに、たいしたものです」
セザールおじーちゃんが、腕を組み、しみじみと言う。
「うちの愚孫とおない年とは、とても思えませんな」
は?
おない年?
テオとエドモンが?
あれ?
テオって二十五歳じゃなかったっけ……?
エドモンも二十五歳なの?
兄さまやシャルル様よりずっと年上……?
え〜 嘘ぉ! 二十五にはぜんぜん見えないわッ!