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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
ふたりのゆうしゃ
184/236

かわいそうすぎて、うっとりしちゃう

挿絵(By みてみん)

 あちら、勉強テーブル。

 テオたちがテーブルを囲んで、魔法陣反転の法の研究をしている。


 こちら、占いテーブル。

(それぞれの世界で)国一番の占い師が二人も居るせいだ。


 イザベルさんは、こちらの世界のドロ様にあたる女性だ。流浪の民風の外見も、占いに水晶珠を使うのも、ドロ様といっしょだ。男女の差はあるけど、超セクシーでフェロモン漂うあたりもいっしょか。


 ジョゼ兄さまとアランを占った後、イザベルさんはアタシににっこりと微笑みかけてきた。


「見ればみるほど……素敵な方ね、勇者さま」

 え?

「そうですか?」


 イザベルさんが、物凄い色っぽい目でアタシを見つめる。

 恍惚の表情と言うか……。


 やだ、ドキドキしちゃう。


 べ、別に、そんな趣味はないんだけど!

 女の人にキュンキュンとか!


 でも、でも、でも。


……胸が苦しい。


「あなたの運気も、最低最悪ね」


 はい?


 うふふと楽しそうに、イザベルさんが笑う。

「これから先の未来にも、不幸と困難がてんこもり。神の罠に、あなたを争う男たち、そして試練に恋……。これでもかってぐらいの男難ね。次から次へとよ。ああ、もう、ス・テ・キ。こんなド不幸な女の子、初めて。かわいそうすぎて、うっとりしちゃう……」


 へ?


「でも、大丈夫よ、勇者さま。そちらの占い師さんが、あなたを死から遠ざけてくれるから」

「そ、そうですか」

「ええ、大丈夫よ。信じる者は救われるから」

「ですよね!」


「助言とは他のことで、あなたのお手伝いをしますわ」

 女占い師さんは急に真面目な顔となった。


「《汝の愛が、魔王を滅ぼすであろう。愛しき伴侶を百人、十二の世界を巡り集めよ。各々が振るえる剣は一度。異なる生き方の者のみを求めるべし》」


「それは……」


「今のは、百一代目勇者ジャンさまの託宣ですわ」


 え?


「それ、まったく一緒だわ、アタシのと! 一言一句も違わない!」


「あら。やっぱりそうでしたの」

 イザベルさんの顔ににこやかな笑みが戻る。

「あなた方は表と裏ですものね」


「表と裏?」


「常にいっしょにあって、共には()れぬもの。コインの表と裏と思ってくださればいいわ。どちらかの面が欠けてしまっても、救いはある。けれども、それはあまりにも寂しい……」


「どういう意味です?」

「ごめんなさい。これ以上のことはお話できないの。あなたが勇者ジャンさまにそっくりだから、助けてあげたくなった……そう思ってくださればいいわ」

 はぁ。


「魔王戦は三十七日後、シャルルさまを加えて伴侶はあと三十五人でしたわね?」

「いいえ」

 アタシはかぶりを振った。

「賢者ジャンさんにも萌えたので、あと三十四人になりました」


「あら、そうなの。残りは三十四人」

 イザベルさんが席を立ち、

「ちょっとあちらに行きましょう」

 と誘ってくる。

 言われるままにテーブルから離れ、少し距離をおいてイザベルさんと向かい合う。

 兄さまとアランがついて来て、アタシの後ろに立つ。ドロ様は、テーブルに残ったままだ。ニヤニヤ笑って、こっちを見てる。

「仲間候補をご紹介しますね。私の男たちよ」


 女占い師さんが優美に手を振る。

 その時、初めて気がついた。

 その指を飾る綺麗な指輪に。

 一つ二つじゃない。左右の指に幾つもしている。精霊との契約の証だ。


「フラム、ラルム、ヴァン、ソル、グラス、トネール、マタン、ニュイ」


 彼女が名前を口にした途端……


 彼女の前に、人の姿をとった八体の精霊が現れる。


 炎、水、風、土、氷、雷、光、闇……八体の精霊だ。


 え? って思った。


「ラルム? ヴァン? ソル?」

 フラム? トネール? マタン? ニュイ? クロードとドロ様の精霊の名前だわ!


 なんで?

 どうして?

 どういうこと?


 頭ん中は『?』でいっぱいだ。

 みんな、気になる。


 それでも、ズラッと並んだ八体の精霊のうちで、アタシの目が特に惹きつけられたのは水色の精霊(ヒト)で……。


 魔術師風のローブは水色……

 肩より下の辺りで結ばれている水色の髪は、腰まで届く長さ。

 涼しげな切れ長の水色の瞳。女の人のように美しい繊細な美貌。

 髪とローブの色こそ異なるものの、その姿は若かりし頃のカガミ マサタカ先輩にそっくりで……。


 ラルムだ……


 天界の空中温泉でのことを思い出した。

 ラルムは、プールの端まで行ったアタシを心配そうに見守っていた。アタシの背後で両手を広げて。アタシが落下したら、すぐに拾い上げられるように側につきそっていたのだ。


 涙が、じわ〜っと浮かんできた。


 ブラック女神の器に、アタシが天界から堕とされた時……

 ラルムはアタシを包み込む結界となった。

 落下の風圧から、アタシを守る為に。

 そして、天界の境界を越える時の大ダメージを、アタシの代わりに受けて四散して……


 まだ復活してないのだ。


「ラルム……?」

 アタシの呼びかけに、水精霊が眉をひそめる。

 アタシに向けられる、情の無い瞳。

 無関心そのものの瞳を見れば、わかる。


 このラルムは、アタシのラルムじゃない。


 シャルA様とシャルB様みたいなもの。

 姿かたちがそっくりでも、アタシと共に生きているラルムじゃないんだ。


 精霊界にも、並行世界か裏世界があるのね。このラルムは、アタシのラルムとは別の精霊界に存在してた別精霊(べつじん)で……ヴァンや他の精霊たちも、きっと同じように別精霊(べつじん)で……


《ご推測の通りです、異世界の百一代目勇者様。私はイザベル様の水精霊です》

 ああ……声もいっしょ。

《この私があなたのように、美しくなく、賢くもなく、魔力もなく、品も知識も常識もない人間のしもべになどなるものですか》

 ううう……性格までいっしょ。


 ムカつく発言のはずなのに。

 目の前に、アタシのラルムが居るみたいで……


 胸があつくなって、


 キュンキュンした……


 けど、鐘は鳴らなかった。

 ラルムはラルムで、ダブってるから? シャルB様には鐘が鳴ったのに。


《ごめんねー 失礼な奴で。これでも、悪気はないんだけどさ》

 ラルムの横の精霊が、とことん軽ぅく言う。

 ガシッとラルムの肩を抱いたのは……緑の髪のハンサムだ。

 風をはらんで靡いているのは、薄緑色のショートなマント。ふわっとした薄布を体に巻きつけて腰でとめている。丈が短いから、膝上のワンピースみたい。踵に翼のついたサンダルを履いている。


 どこからどう見ても、人間バージョンのヴァンだ。


《ラルムくんはね、ものすご〜く性格が悪いのよ。許してあげて》

《ヴァン……それでフォローしているつもりなのですか? 私を貶めてるだけでは?》

《珍しく鋭いじゃん。貶めてるだけ》

 睨む水精霊に、へらへら笑みで答える風精霊。

 二人の関係まで、うちの二人とそっくり……。


 つづいて、

《仲間の不始末は、このワタクシが代わってお詫びいたします。百一代目勇者さま、ぜひ! 渾身の力をもって! 心が晴れるまで、どうぞワタクシを踏んづけて蹴っ飛ばしてくださいませ》

 アホな謝罪をしてきやがったのは……

 禿頭の色白のマッチョ。

 ソル。

 なんだけど!

 格好が変すぎる!

 首輪つけて、素肌の上に、革ジャン羽織ってて! 変な黒革のズボンを穿いてるのよ! 股間のとこが開いてて、黒の紐パンツがモロ見えよ!

《こ、このズボンですか? これはカーボーイの乗馬用オーバーズボン、シャップスの黒革版で、》

 聞いてねーよ!

《ちょっとガーターベルトみたいで……穿いてるだけで、ワタクシの股間はわくわく……》

 黙れ、変態!


 イザベルさんが、うふふと笑う。

「その格好、ソルの最近のお気に入りなのよ」

「下品すぎです!」

「あら。お嬢さんには刺激が強すぎたかしら」

「うちのソルは、もうちょっと、こう……」

 裸ネクタイで、最近は、ブーメランパンツを脱ぐとかどうとか……

 いや、あれも変態だった……うん。

「ごめんなさいね。私、姿形は精霊の好きにさせてるの。この格好で下着無しで現れた時には、さすがに、たっぷりとお灸をすえてあげたけど」

 こいつ、野放しですか? 懐広すぎです、イザベルさん!


 でも、まあ……

 ソルにヴァンにラルム。


 三体がいっしょに居たのは、天界までだ。

 ソルもベティさんの領域に突っ込んだ時に四散して、数日そばに居なかった。ラルムよりもダメージが小さかったせいか打たれ強いせいかはわからないけど、わりとすぐに復活できた。

 けど、ラルムはまだ復活してない。


 三体が揃うのは何時の事か……


 そう思うと、胸がちょびっと痛くなる。


《泣かないで、オジョーチャン》

 ふわっと肩が抱かれる。

《つきなみだけど、オジョーチャンは泣いた顔より笑った顔のがぜったいかわいいから》


 ヴァン……



 胸がキュンキュンした……



 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと三十三〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がした。



 あ?


 あれぇ?


 鐘、鳴ったぁ?


 どうして? ラルムの時には鳴らなかったのに?



《実に興味深い現象ですねえ、勇者さま》

 ヴァンがどいて、アタシのそばにマッチョ禿が。

《ワタクシでも鳴るか、試してみましょう》

 アタシの心を読んでキュンキュンしたのがわかったのだろう、ソルはアタシの右手をむずっとつかんで強引に……

 ソルの体の……

 乙女には未知の部分へと……


 右手を……



 胸がキュンキュン鳴った!


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと三十二〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がした。



「俺のジャンヌに何をする!」と兄さまが叫ぶのと、

「いやぁぁぁ!」

 アタシの口から悲鳴が漏れるのは、ほぼ同時だった。


 濃い香りが広がる。

 覚えのある香りだ。

 ピュアでフルーティーな花々の香りのような。

 甘い香りに包まれながら……アタシの視界は真っ赤になっていった。


 そして……

 アタシの中で、何かが外れた。


 アタシは……


 全身に鳥肌をたてながら、

「キモい! キモい! キモい!」

 目の前の変態を踏んづけ続けた。


 乙女になんってモノを触らせるのよ!


「ぶっ潰す!」


《あああ……素晴らしい……しびれるようなキックです……さすがは勇者……》


「待て、ジャンヌ! 気持ちはわかるが、やり過ぎだ! そこはやめておけ!」

 兄さまに羽交い絞めにされた!

「なんで止めるの、兄さま?」

「いや……男として見ていられないというか……」

 はぁ?

「離して!」

「ぐっ! なんて力だ!」


「きっと、勇者の馬鹿力(バカぢから)になってらっしゃるんです」

 アランまで! 二人がかりでアタシを押さえつけて〜〜

「ジョゼフ様のおっしゃる通りです。勇者様、そこはやめてあげましょう!」

「なんで?」

「何でって……。あ! 痛めつけたところで、相手を悦ばすだけですよ。蹴って体力を使うのも、もったいない。やめましょう?……ね?」

 む。

 確かに、アランの言う通りかも……。


 でも! でも! でも!

 この怒りをどこにぶつければ!


 と、思ったら!

 アタシの右手が火を噴いた!

 比喩じゃなくって!

 本当に、掌からボーッと火が吹き上がり、

 瞬時にそれは凍りつき、パリィィンと砕け、

 きらめく癒しの光がアタシの手を包み込んだ。


「大丈夫か、ジャンヌ!」

「お怪我は?」

 兄さまが、アタシの右手をつかむ。

 見たところ……掌はキレイなもので……。


《熱消毒しただけさー それで、ソル菌は消えたから。手はもうキレイだからね》

 そう言ってにっこり笑ったのは、赤毛の美少年だった。

《あ。わかると思うけどー おれがフラムね》

 燃えるような赤髪というか! 既に燃えているというか!

 体中に赤ともオレンジともつかぬ炎をまとわりつかせているのだ。

 その体は華奢で、白すぎるぐらい白くって……裸だった。

 炎に隠れて、見えそで見えない。い、いろんなとこが。


 いや、ちょっと透けてるというか!


 そのエッチな姿にびっくりして、アタシの胸がキュンキュンする。


 だけど、鐘は鳴らない。

 なんなのよ、鳴ったり鳴らなかったり。

 なんだか、もう……さっぱりわかんない。



《怪我はないはずじゃ。精霊支配者よ、フラムの炎がそなたを焼く前に、わしが凍らせたゆえ》

 この声は!

 ピロおじーちゃん?

 でも、白クマじゃない。

 人の姿で……すらりとして、背が高くて、若々しいわ。

 シャルル様のお召し物のような素敵な装い……宮廷着? ううん、舞踏会の衣装ね。シャツも上着も上品で……雪のように真っ白で……それでいてきらびやかで……

 背へとたれる青みがかった白い髪は、縦ロールの巻き毛。普通の男の人には無理な髪形。だけど、この方にはぴったり。

 繊細な美貌なんだもん。深みのある青い瞳、誇り高そうな細い眉、高い鼻、微笑をたたえた口元……

 すっごい美形……

《グラスと言う。ピロは、異世界のわしのようじゃな》


 え―――――――ッ? 嘘!


《嘘ではない。そなたの記憶の中で白クマが『グラス』だと名乗ったことがあるぞ》


 え?

 そーだったっけ?

……覚えてない。


 だけど……


 この美形が、ピロおじーちゃんなの????



 胸がキュンキュンした……


 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと三十一〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がした。



 また鳴ったわ、鐘!


 でもって。

《僕はあなたの世界では、女性の姿をとってるみたいですね。占い師の精霊のようだ》

 にっこりと笑いかけてきたのは、いかにも神聖騎士らしい格好の人。

 キラキラと光る金の短髪。

 爽やかな笑みが似合う顔立ちだ。表情が柔らかいせいか、あんまり武人っぽくない。口髭も、文官のみたい。

 だけど、頭以外はごっつい鎧で覆ってるし、背にはマント、左手には大きな丸い盾、腰には剣を佩いて、しっかり武装している。

《マタンです。レディそれからお供の方たち、レディの御手は僕が癒しましたので、ご心配なく。レディをお守りするのは、騎士の大事な役目の一つですからね》


 紳士!


 光精霊は、いっぱい知ってる。

 ルーチェさんでしょ。

 サクライ マサタカ先輩のリヒトさんは、美形メガネな秘書だった。

 クロードのユーヴェは白い子猫の姿を好んでて。

 兄さまのバリバリは、スピード狂で……そーいえば、人形(ひとがた)、どんなんだっけ……あれ? 光界で見たはずなんだけど、忘れちゃったわ!

 イバラギの光精霊は、白蛇だったなあ。


 つくづく、個性豊か……。


 ドロ様のマタンさんとはちょろっとしか会ったことないけど……たしか白く輝く貴婦人みたいな姿だった。

 目の前の神聖騎士とは、ぜんぜん似てなかった。声も、まったく違ったような。


 けど。


 でも。


 この光精霊、魔と戦う光の騎士っぽいというか……


 普通にカッコイイ!



 胸がキュンキュン鳴った……


 鳴ったけど……

 鳴っただけだった。


 だから、なんで仲間入りしたりしなかったりするの?

 ぜんぜん、わかんない!



《わからずとも萌え続けることを勧める。主人(あるじ)の望みは、異世界勇者が伴侶を増やすこと。我らしもべはそのお心に従い、萌えてもらう為に集っているのだ》


 この声にも聞き覚えがある!


 紫色の精霊……雷精霊ね。


《トネールだ》

 というと!

《そちらでは、灰猫の姿で、魔術師の精霊となっている》


 幼馴染(クロード)が『さん』付けで呼んでるあの猫か! たまに紫雲になってる! このまえ幻想世界でレイとの契約の証に魔素を注入してくれたのは、トネールだった。


 半獣半人? ちょっと爬虫類っぽい? いや、魔族っぽいというべき?

 額にデカイ一本角があって、体中に雷紋のような模様と紫水晶のような鉱物をくっつけている。

 紫の髪は蔓みたいだし、トカゲか蛇を思わせる縦長の光彩のある目だし。

 口からちょろっと牙ものぞいている。

 人形(ひとがた)ではあるけれど、完全に人外だ。

 でも、すっごく知的な感じなのだ。

 眉目秀麗って言葉がぴったりきそうな顔立ちだし。

 アタシに向けられている顔は、妙に冷めている。

 なんとなく、レイに似てる。

 プライド高そうだ。


 そこまで思ったら、フッと笑われた。

……考えを読まれたようだ。


 別にバカにしたわけじゃないわ。ただ似てるって思っただけ。


《『レイ』の姿になってやってもいいぞ》


「それはやめて」

 そんなサービス、嬉しくない。

「あなたはあなた、レイはレイだもん。姿形を真似たって意味ないわ」


《姿形を真似ても意味ない、か》

 トネールが薄く笑う……レイを思い出させる表情だ。

《実体のない精霊相手に言うべき言葉ではないな。我の真の姿は雷ぞ》


 むぅ。

 それはそうかも……


「でも、今日その姿で現れたってことは、それが『お気に入り』なんでしょ?」

 トネールがかすかに首を傾げる。

「イザベルさんから、アタシに萌えてもらえって命じられて、選んだ姿だもの。その姿があなたにとって『最も美しい自分』なんでしょ。なら、それでいるべきよ」

《なるほど……人間らしい思考だな》

 む?

 どういう意味?

《面白いと言っているのだ》


 雷精霊が、笑う。

 口の端を歪めるだけの笑みではなく。

 声をあげて快活に。

 楽しそうに。


 なんかその顔……

 ちょっとだけ……可愛いかも。



 胸がキュンキュンした……



 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと三十〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がした。



《最後は、()であるな》

 進み出たのは、見るからに闇精霊な方。

《ニュイである。異世界の勇者よ。余を見よ、そして萌えよ》

 漆黒の肌に、黒くて太い縮れ毛。

 長身で筋肉隆々。

 身にまとっている服は、赤い一枚布だけ。靴すら履いてない。

 だけど。大振りのジャラジャラしたアクセサリーで首や腕や耳を飾っているし、やたら威厳漂わせているし。南国の王様って感じ?

 鋭い眼光を放つ瞳に、太い眉、厚い唇、頬から顎を覆う立派なラウンド髭、気品あふれる顔。

 力強い野生と洗練された美がいい感じに混ざり合っていて……


 渋くてカッコイイ!



 胸がキュンキュンした!



 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと二十九〜 おっけぇ?》

 と、内側から神様の声がした。



 ドロ様のとこのニュイさんは、黒のドレスの美女だった。

 喪服の美女というか、黒衣の女王というか。

 南国風のイメージはなかった。

 だけど! 今のニュイさんは素敵だし、これでこれでアリというか!



《イザベルさま、終了です。異世界勇者さまは全員に萌えました。が、フラムとラルムくんとマタンくんは仲間入りせず。計五名の伴侶を増やすにとどまりました》

 ヴァンが、自分の主人(あるじ)に恭しく礼をとる。


「あら〜 それでも、賢者ジャンさまと勇者シャルルさまと合わせて七名ね」

 女占い師さんが、うふふと笑う。

「すごいわね、ジャンさまだって、一日にそ〜んなに仲間を増やせたことありませんわ」


 いえ。アタシだって、記録更新です。

「イザベルさんのおかげです。ありがとうございました」

 深々と頭を下げた。


 魔王戦は三十七日後。

 仲間の数は七十一。

 あと三つの世界に行って伴侶を二十九人増やせば、託宣は叶う。


 一気に! 一日で! あと三十六人から、あと二十九人に!


 プレッシャーが、少し軽くなった!



 ちょっとだけ未来に希望の光が見えた……そんな気がする。

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