表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
ふたりのゆうしゃ
179/236

これだから厨二病は……

「聖戦を妨げた愚かな女よ。勇者にあるまじき恥知らずよ。堕落したきさまに、もはや神の慈悲は無い。内なる俺の霊魂が、マッハで、きさまの罪を言い渡す」


 還って来たら、いきなりピンチ!

 ()る気まんまんのマルタンが、魔法絹布の前で待ち構えていたのだ!


 マルタンが、アタシをビシッと指さす。

「有罪! 既に存在自体が、きさまの罪だ!」


 あまりにもあんまりな展開に茫然となるアタシ。


 おかまいなく神の使徒が、言葉を続ける。

「さて・・きさまに三秒やろう。その貴重なる黄金の時の間に、この世と別れを告げるがいい」

 使徒様が、右の親指をビシッと突き立てる。


「三、二、一・・・零」

 でもって、手首をゆっくりひねって親指を下に向け……


「ブッブー! 時間切れ(タイム・アップ)! 綺麗さっぱり、まったく、完璧に、完膚なきまでに殺してくれる」


 ちょっ!

 まっ!


 アタシの視界を、大きな背中が塞ぐ。男は背中で語るものと言わんばかりの逞しい背を見せ、庇ってくれたのは……

「俺のジャンヌに何をする気だ!」

 ジョゼ兄様!


「使徒様、どうか怒りをお鎮めください! ジャンヌは賢者様を慕うあまり、心を乱しただけ! けしてけっして聖戦を邪魔しようとしたわけじゃないんです! 愛ゆえなんです! 許してあげてください!」

 クロード!


《おねーちゃんをイジメるな!》

 小さな騎士(ナイト)ニコラまで!


「どけ、筋肉、イチゴ頭、ガキ! 聖戦を妨げし者は、等しく同罪に落ちるぞ!」


「いつぞやの勝負のつづきといくか、神の使徒? 悪いが俺はかなり強くなったぞ」

「ご、ごめんなしゃい、使徒しゃま。け、けど、ジャンヌはジャンヌは……」

《女の子は守るものだ! ぼうりょくをふるうなんて、男としてサイテーだぞ》


「ありがとう、みんな!」

 アタシは兄様の背中をトントンと叩いた。

「でも、ちょっと下がって。アタシがマルタンにひどいことしたのは、本当のことだもの。まずは謝るわ」

 でも、こいつが無茶しようとしたら、助けてね!

 いつでも飛び出せるよう、精霊たちもスタンバイしといて!


 ためらいながらも兄さま達が、どいてくれたので。

 アタシは、マルタンと向かい合うことになった。


 使徒様は顎をつきだし両腕を組んだ尊大なポーズ。

 アタシを見下ろす眼差しは、氷のような瞳ってきっとこういうのを言うんだろうってぐらい冷たい。

 だけど……

 まだ顔色が悪い。魔界から還った日に比べればマシになったけど。白すぎ。

 目の下の隈も濃い。

 魔界までアタシを救いに行った疲れが癒えていないのだ。


 なのに、アタシが『勇者のサイン帳』で呼んだらすぐに来てくれたのだ。


 ま、魂だけだから肉体の疲れなんて関係ないし、幻想世界(むこう)でこいつは好き勝手に大暴れして楽しんだけど。

 アタシに三つ目と白黒翼を生やしたことは、許せねーけど。


 それでも、アタシのピンチに駆けつけてくれたわけで。


 それを無理矢理追い返したわけだから。


 アタシが悪い。


「ごめんなさい、マルタン。あなたの聖戦を妨げちゃって」

 深々と頭を下げた。

「あなたの奇跡の力が、ブラック女神を退けたわ。幻想世界に平和を取り戻せたのは、あなたが力を貸してくれたからよ」

 それと、ダーモットとエドモンとニコラと……みんなのおかげ!

「勇者として、すごく感謝してるわ」


 マルタンから、何の反応もない。

 頭を下げてるから、こいつがどんな顔してるのかわかんない。けど、たぶん、表情をぴくりとも動かさず、『それで?』『言いたいことはそれだけか?』と言いたそうな顔してるんだろうな。


「もう決して、聖戦を妨げないわ」

 お師匠様が祓われたとしても、不老不死の賢者だから死ぬことはない、必ず蘇る……クロードからそう教えてもらったから。

 幻想世界のアレはお師匠様の偽物だったけど、本物だったとしても、うろたえる必要なんてなかったんだ。

「ピンチのお師匠様を見たらまた動揺しちゃうかもしれないけど……勇者として、私情じゃなく、世界のために動くように頑張ってみる。だから、このまえのアタシの無礼はどうか許してください。今ここであなたに殺されちゃったら、アタシ、この世界を救えなくなってしまうもの。この世界の為に寛大な慈悲をお示しください、使徒様」


「・・・チッ」

 使徒様が舌打ちをする。

「女、顔をあげろ」


 言われた通りにしたら、ズズンと顔が迫って来た。

 ちょっ!

 どアップ!

 眉をしかめて、眉間にしわを寄せてるし! 目の下には隈! 口元もむっつりしてて、おっかなそう!


 なのに、その目は……


 澄んだ泉のよう……

 赤子のように無垢な瞳というか……

 曇りがなくて、真っ直ぐで……

 とても綺麗だった……


 マルタンの息がかかる……


「俺を見ろ」

 胸がきゅぅぅんとした!


 いや、だって! 唇と唇が触れあいそうな距離で囁くだもん!

 あんたの声、深みがあると言うか! 艶のある低音ボイスというか!

 しっ、知ってるわよ! あんた、地声はもっと高いのよね? 神様が降りて来た時、キンキン声だったもん!

 セクシーボイスって言ってもあんたのは、宣教向けにボイストレーニングで身につけた、後天的な……


「俺の目だけを見ろ」


 胸がキュンキュ……

 いやいやいやいや! ときめいたら負け! つーか、ときめきたくない! マルタンなんかに!


 目をそらさず見つめ合うこと、数秒……

 マルタンはフッと笑い、顔を離した。

「異世界に『(ほとけ)の顔を三度まで』という名セリフがある。デュラフォア園で一回、これで二回目だ・・・俺が心優しい僧侶で良かったな、女」


 セーフ……?


 スッと下がって行くマルタン。

「さすが使徒様、かっけぇぇ!」って叫んでる、おバカはいつものこととして。


 マルタンの代わりに近づいて来たのは……、

「よお、お嬢ちゃん。幻想世界でなすべきことをなせたかい?」


「ドロ様!」

「アレッサンドロさん!」

《アレッサンドロおじちゃん? んもう、見てたんなら、マルタンとめてよ》

 黒いドレッドヘアーに、褐色の肌。頬と顎を覆う不精髭もワイルドな方が、アタシたちにニヤリと笑いかけてくれて……。

「もう体はいいんですか?」

「ああ、大丈夫だ。俺ぁ、寝不足でバテてただけだしな」

 ドロ様がチラッとマルタンを見る。あちらはまだ本調子じゃない……そう言いたそうに。


「俺の精霊(ニュイ)に、お嬢ちゃんたちの帰還を皆に知らせるよう命じた。詳しい話は学者先生たちが来てからで構わねえが……ジュネとエドモンくんはどうした? お嬢ちゃんの星が陰ったわけでなし……。死んじゃいねえんだろ?」


「向こうに残ってもらったの」


「ほほぉ?」


「アタシの代役よ。本当なら……」

 アタシのそばで、ニコラがモジモジする。

 ソファーにふんぞりかえったマルタンを睨んでは、そのすぐ脇に立ってるポチへと視線を動かして……

 いや、ちがう。見てるのは、ポチじゃない、ポチが飲み込んで拘束してるもの――ピアさんだ。


 兄さまがニコラの背を軽く押す。

 振り返ったニコラに、兄さまは頷く。アタシの方も見たので、大きく頷いてみせた。使徒様ももう大人しくなったわ、アタシの騎士役はもういいから!


 心の中でポチに、頼んだ。『ニコラの大事なおともだち』を解放してあげてって。


 チェストぐらいの大きさのポチがぐにゃりと揺れ、オレンジのぬいぐまをぷるるんと吐き出す。


 真っ白な幽霊と、ぬいぐま・ゴーレムの目が合う。


《ピアさん……》

 大きく瞳を見開くニコラ。まっすぐに友人を見つめる顔は、今にも泣き出しそう。体も小刻みに震えている。


 ぬいぐるみそっくりなピアさんは、表情をつくれない。しゃべることもできない。

 けれども、まずアタシたちに向かって『ごめんなさい!』って感じに大きな頭を下げ、

『いろいろやっちゃった〜 テヘッ、ごめんね★』って感じに、短い前足で照れたように頬をかきだしたのだ。


 ピアさんらしく、とてもラブリーな仕草で。


《ピアさん!》


 どちらともなく二人は駆け出し、

 大きな頭を振り振り、トテトテ走るぬいぐまと、

 髪も体も服も何もかも真っ白なニコラは、ぶつかり合うように抱き合った。


《よかった……ピアさん……》

 思いを両手にこめ、ニコラがオレンジのぬいぐまをギュッと抱きしめる。

《ピアさんが、ピアさんにもどってくれて……すっごく、すっごくうれしいよ……》


 ニコラは、ピアさんの肩に顔を埋め、背を震わせる。

《おねがい、ずっとそばにいて。……ピアさんがいてくれたら……ぼく、きっと、いい子でいられる。だから……》

 その背を、オレンジのぬいぐまが優しく撫でる。


 ニコラは嗚咽を漏らすまい、泣き顔を見せまいと頑張ってる。

 泣き声をあげてるのは……

「ううう……よかったね、ニコラ君……ひっく、ほんと、感動のシーンだよね……」

……鼻たれてるわよ、クロード……




「おっかえりー お? おおお! やったじゃん! クマ公、もとどおりじゃん! おめでとー ニコラ!」


「勇者様、ご無事のご帰還何よりです。まずは必要最低限の情報交換をいたしましょう」


「ああ、ジャンヌさん……お許しください。この手をもう二度と離したくない……いま一度、思いを込め、あなたの御手に接吻………なんだね、ジョゼフ君、割って入って。ただの挨拶ではないか」


「おかえりなさい、ジャンヌさん、ジョゼフ様、ニコラくん、クロードさん」


「勇者様! 『ルネ ぐれーと・でらっくす』はいかがでしたかな? え? 向こうでは使用機会が無かったですと? それは残念至極! しかし! 私の発明品が不必要なほどノー・トラブルの旅だったのでしたら、それはそれで良かったですな!」


「お帰りなさいませ、百一代目勇者様……愚孫は、幻想世界(あちら)で多少なりともお役に立ちましたでしょうか?……は? 手紙? エドモンからですか? それでエドモンめは……何処に?」


 みんな、すぐに集まった。

 どんなに遅くとも今日還って来るってわかってたから、オランジュ邸で待機してくれてたのね。




 テオがメガネをかけ直しながら言う。

「一時間後、私の家まで移動していただきます。アレッサンドロさんの精霊に移動魔法で運んでもらいますので、移動時間はゼロです。が、日没までには絵の部屋に入っていただきたい。あまり時間はありませんので、情報交換は手短にいきましょう」


 頷いてアタシは立ち上がり、幻想世界でのことをざっと説明した。


 幻想世界に、お師匠様は居なかったこと。

 けれども、生きている人形――人造人間。竜騎士時代のお師匠様の偽姿――に宿ったブラック女神がデ・ルドリウ様を操って大暴れ。あっちは大混乱だったこと。

 女神の意図は不明。

 デ・ルドリウ様とエルドグゥインを魔王と勇者にしたてて共倒れさせようとしたのかも? あと、森の王を狙っているっぽかった。わかったのはそれぐらい。

 森の王から祝福を贈られ、

 エドモンは太古に滅びた翼竜を蘇らせることができ、

 ニコラは幻の花を手に入れ、

 アタシはお師匠様の過去を見た。白竜マルヴィナを愛しながら、託宣の為にその愛を否定し続けた勇者時代のお師匠様。マルヴィナを失ってからお師匠様は自分の感情が『愛』だったと気づき、激しく後悔していた。……お師匠様がブラック女神の器に選ばれた理由は、そのへんに一端があると思う。


 腰にさした新武器『ジャンヌの剣』も見せた。ドワーフの王様の作は、残念ながらまだ未完成。でも、使えないことはないし、今までよりも強くなったと付け加えた。

 デ・ルドリウ様の鱗つき鎖帷子の方は……ここで洋服脱いで見せるのは恥ずかしいんで、口で説明するだけにした。



「で、正気に戻ったデ・ルドリウ様の補佐役に、エドモンとジュネさんに残ってもらったの」

 友好のためにしばらくあっちで働いてもらって、魔王戦よりも前に空間交替(コンバート)で送り届けてもらうことになっている。

「ドワーフの王様から是非にって望まれたの。二人はアタシの代役なのよ」


「愚孫からの手紙も読みました。我が家に伝わってきた黄金弓は、翼竜の骨……エドモンはご先祖の力を蘇らせ、獣の王としてあちらで認められたそうで……。あのエドモンが!」

 セザールおじーちゃんが、感極まった! って感じに目もとを覆う。

……機械の体でも涙って出るのかしら?

「気迫も気概も闘争心もなく、枯れたジジイのようにぬぼーっとしていたあのエドモンが、勇者様の代役まで任されるとは! ほんに嬉しゅうございます! あのマヌケ一人ではなく、ジュネも一緒! ジュネのフォローがあれば、あの愚孫でも大任を果たせるでしょう!」

 おじーちゃんが、すごいイイ笑顔となる。

「愚孫に負けてはおれませぬな。わしもジャンヌ様の為にしっかり働かねば!」


 兄さまたちが、アタシが言い忘れたことを伝えてくれる。

「謹慎の為、竜王はしばらく能力を制限されるが、魔王戦時には全力で戦える状態に戻してもらえるそうだ。それから、今回は仲間探しの余裕がまったくなかった。仲間は一人も増えていない」

《でも、竜王が、ジャンヌおねーちゃんのためにナカマ候補をさがしとくって言ってたよ。百人集められなかった時は、またげんそーセカイに来ればいいって》

「ダーモットさんもいま本調子じゃないんです。だけど、魔王戦までには復活しとくって言ってました」




 つづいてこっちの世界の話を聞いた。


「王城・大学・魔術師協会・聖教会に協力を呼びかけ、勇者の書の研究を始めました。まだ魔法陣反転の法及び呪文の体系の研究段階です。私達の手元にある書の裏世界が存在すのるか、存在するのであればどのような呪文で行けるのかは、今のところ判明しておりません」


「オランジュ邸の結界強化は、順調に進んでいます。ジャンヌさん、ジョゼフ君、クロード君、後ほど所有精霊をお借りしたい。魔法道具に、仲間の魔力波を覚えさせたいのです。魔力は個体ごとに異なります。味方以外の魔力を弾くシステムを構築しようと思っていましてね」


「実はですね、勇者様! 私、助手ができたのですよ! しかも、五人も! シャルル様がご所有の工房の人間を回してくださったんです! 近日中に大学の教授も招聘くださるそうで、もう夢のようです! いやはやまったく! このルネへの厚い援助! さすが、シャルル様。お目が、高い! 専門家の意見を取り入れつつ、魔王戦に向け、既存の発明品の改良及び新アイテムの発明に取り組む予定でして! もちろん! サイボーグ・セザール様専用開発チームも立ち上げますぞ!」



「あらためて、確認します」

 テオがメガネのフレームを持ち上げる。

「『今日の夜、月光が差す時間に、オランジュ邸の絵の部屋に居り、使徒様の協力が得られれば、勇者様の託宣をかなえる術が見つかる』。そうですね?」


 テオの問いに、その通りだとドロ様が頷く。


「異世界に渡る(すべ)を発見できるという解釈でいいのでしょうか?」


「まあ、それは……」

 ドロ様がニヤリと笑う。

「お嬢ちゃんと学者先生、二人のがんばり次第だろう」


 アタシとテオの頑張り次第?

 テオと顔を合わせたけど。

 どうすればいいかわかるはずもなく。


 ドロ様は、テーブルの上の水晶を左の掌で撫でている。

「占いってのは、けっこう曖昧なものでね……俺は、水晶の中に映し出されるものをただ読み取るだけだ。そこから伝わるイメージを、依頼者の性格や言動、置かれている状況も加味した上で解釈し、未来を推測するしかない。確実なことは何も言えない。俺から言えることは……」

 一呼吸おいてから、ドロ様は言葉を続けた。


「今夜、絵の部屋に居なきゃ、お嬢ちゃんの未来は闇に閉ざされる……」


 げ。


「託宣を叶える道は、まだ他にもある……だが、旨くない。……まあ、これはこれで愛とも言えなくもない……? いや……ないな。ひどい。ひどすぎる……」

 クックックとドロ様が楽しそうに笑う。

……いったい何が見えてるの?


「……絵の部屋へ行こう。それが最善の道だ」

 わかったわ!


「けど、それには一つ問題があってね」

 水晶から手を離し、ドロ様が肩をすくめる。

「あの部屋は、今、封印されてるんだ。使徒さまに、ね」


 封印?


 椅子にふんぞりかえって座ってる男に、みんなの視線が集まる。


 マルタンが、フンと荒い息を吐く。

「呪われしものを封じているだけだ。しごく、まっとうに、この上ないほど正しいことだと思うが?」


「使徒さま、さっき勇者さまの堕落疑惑も晴れたわけですし。慈悲の心を示してくださいませんかねえ?」

「同じことを繰り返しお願いして申し訳ありません。しかし、勇者様の未来の為、ひいてはこの世界の未来の為なのです。今宵だけ、あの部屋の封印を解いてください。お願いいたします」

「どうか、私達凡俗のお力となってくださいまし、使徒様」


 ドロ様やテオそれにシャルロットさんにお願いされても、マルタンはむすっとした顔のまま。返事すらしない。

 どころか、イライラって感じに貧乏ゆすりまで始めるし。


「封印を解いたら、何かマズイの?」って聞いても、やっぱり何も言わない。

 マルタンの左手が、ゆっくり動く。左の掌を結び、それからゆっくりと開く。それだけを繰り返す。

……こいつが時々やってる手癖だ。


「ちっちゃな悪も見逃さない。邪悪は、ぜぇんぶ皆殺し。それが、あんたのスタンスなのにさ。あの部屋に関しちゃ、消極的だよねー 封印して、とってあるなんてさ」

 生意気盗賊が、揶揄するようにマルタンに笑いかける。

「内なるあんたの霊魂は、アレで勇者に協力しろって言ってるんじゃないの?」


 ギン! とマルタンが、リュカを睨みつける。

 その眼力に、さすがのリュカもちょっとだけのけぞった。けど、口はひるまない。

「図星? 内なる霊魂に逆らっちゃマズイんじゃねーの、僧侶のにーちゃん?」


「チィィッ!」

 特大の舌打ちをして。

 ちょ〜不機嫌顔のマルタンが、アタシへと視線を向ける。


「女。『どうしても、何がなんでも、何としても、お助けくださいまし、慈悲深き使徒様』と言え」


 ぐ。


「『どうしても、何がなんでも、何としても、お助けくださいまし、慈悲深き使徒様』!」

 鸚鵡返ししといた!


 やれやれって風に、頭を振り……

「二つ言っておきたいことがある・・」

 使徒様が、まず人さし指を立てる。

「封印は解く。だが、それだけだ。俺はあの部屋に入らん」


「え?」

 って声をあげたのは、テオだった。部屋に入った後、どんな展開になるかわからない。どう転んでも(邪悪に対しては)役に立つマルタンに、ついて来てもらいたかったんだろう。


「俺はあの部屋に入らない。いいな、メガネ?」

「……はい。承知しました」


「二つ目」

 中指が立つ。

「部屋に入る者には、漏れなく俺の聖痕を与える」


「え?」

 って声をあげたのは、ドロ様だった。

 マルタンはドロ様を横目で見て、「きさまだけは特例だ。聖痕を免除してやる」とか偉そうに。

 ドロ様は何故だか苦笑している。


「三つ目」

 薬指が立つ。

 ほ〜ら言った。『三つ言う』と言ったら『四つ』は少なくとも、『四つ言う』って言ったら『五つ』以上言う奴よね、あんた!


「『使徒様』と称えることはこれまで通り許す。だが、しかし、けれども」

 神の使徒は、顔をますます凶悪にして、

「あの呪われし部屋から出て、清らかなる俺のもとに戻るまで・・俺の名前を口にすることを禁じる。命が惜しくば、『マルタン』の御名を忘れるのだ。いいな?」


……また、わけわからない設定つくって。

 これだから厨二病は……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=291028039&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ