表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
幻想の野ふたたび
176/236

欠けたる剣

 ドワーフの洞窟で、デ・ルドリウ様、ドワーフの王様、エルドグゥイン、それとカトちゃんと今後のことを話し合った。


 幻想世界の全種族には、デ・ルドリウ様を拘束したこと、アタシたちの世界のブラック女神が今回の黒幕だったこと、三日後に全種族会議を開催する案内を心話で連絡しているらしい。


「場所は、俺の洞窟の前の広場にした」


「栄えある花エルフ一族の王子たる私が、異世界勇者さまたちにご説明しましょう。緊急時に我々は、光の種族だけではなく闇の種族にも招集をかけ、種族会議を開きます。調和と秩序について話し合うのです」


《もっとも、全種族代表が集えるわけではない。遠い地に居るもの、陸に長くあることを好まぬ種族は心話にての出席になる。勇者殿、この世界にはそなた達の世界で言う『移動魔法』が存在せぬ。近き魔法は予の空間変替(コンバート)である。が、会議で弾劾されるべき予が、世界を飛翔し他種族を迎えに行くわけには行くまい》


「わふん!」

 真面目な顔の三人と違って、カトちゃんは笑顔だ。

 小狼サイズに縮んで、尻尾ふりふり、エドモンの膝に座ってる。撫でて、抱いてと、エドモンに媚びまくりだ。

 ま、カトちゃんの頭じゃ、この会話が理解できるわけない。

 遊んでても、いいんだけど。

 でも! でも! でも!

 さっきまでアタシの膝の上に居たくせに〜 この浮気者!


 そんなカトちゃんを、ニコラはジーッと見てる。

 ちっちゃな、ちっちゃな、カトちゃん。柔らかそうな蒼毛。まん丸おめめ、黒ボタンみたいなラブリーなお鼻。どう見ても、ぬいぐるみ……

 抱っこしたい! ってニコラの顔は言っていた。

 でも、カトちゃん、アタシとエドモンにしか抱っこ許さないのよねえ。


 デ・ルドリウ様は、ゴーレムたちや獣への精神支配を解いた。

 ピアさんやゲボクも、自我を取り戻しているはず。

 そうと教えてもらってから、ニコラはとても明るい。屈託のない笑顔を見せたりして。

 ほんと良かった……。


「移動魔法が無いのは、何故でしょう?」

 クロードの質問に、エルドグゥインが答える。

「この世界の(ことわり)は、神が定められました。自らの足、翼、鰭で動かぬものを、調和神は善しとされなかったのでしょう」

 クロードが首を傾げる。

「でも、たしかダーモットさんは使えましたよ?」

「あれは偉大なるエルフ一族より離れ、魔に堕ちた痴れ者。世界への敬意に欠けていてもおかしくはありますまい。異世界魔法でも習得したのでしょう」

 なんかひっかかる言い方……。


「そんなことは、どうでもいい」

 ドワーフの王様は、隻眼の竜王へと顔を向ける。

「今はこやつへの罰を共に考えてはくれまいか? これほど大っぴらに暴れてしまったのだ。異世界の女神に踊らされましたと言い訳するだけでは、皆も納得できまいて」

 全種族会議を前に、『ご迷惑をおかけしてすみません。これだけ罰を負いますから許してね』と言えるようにしたいのだそうだ。


《復旧の為にゴーレムを提供する。賠償金も可能な限り払う。予の城には金銀財宝の蓄えがある》


「賠償も必要だが、民衆の不満を、あ、いや、他種族の不満を緩和する為に、目に見える形で竜王に『罰』を負っていただくのはどうだろうか?」

 そう言い出したのは、意外なことにジョゼ兄さまで。

「ほうほう。勇者の義兄だったな。目に見える罰とは何だ?」

「俺の祖母の領地では、軽犯罪を犯した者には公開刑が課される。主に、広場での鞭打ち、罪状を記した札を下げさせての晒し刑だが」

「それを我が友にせよと?」

「いや、ただの例だ。王たる者には、それにふさわしい罰がある。同じことをしろなどとは言わない」

「うむうむ」

「しかし、見せしめ刑には、不満解消の効果もある。目に見える形で竜王が『罰』を負えば、溜飲を下げる者もいるだろう。竜王への怨みが少し和らぐかもしれない」

「なるほど。なるほど」


 むぅぅ……兄さま、家庭教師からちゃんと領地経営も学んでたのね。頭良さそうに見えるわ。


「武装解除なんかどうです?」

 お美しい獣使い様が、笑みを浮かべる。

「竜王は幻想世界最強の生き物なのでしょ? その爪、牙、使用魔法……何でもいいです。その一部を他者に封じてもらって弱体化すれば、充分『罰』となります」

 ジュネさんが、うふふと笑う。

「永遠に、ではありません。封じるのは、数か月か、長くても数年でいいでしょう。その間、竜王の座を他の者に譲ってもいいかも。不祥事を起こしたから責任を取って辞任は、わかりやすい『反省の形』ですから」


《一部とはいえ能力を封じれば、予は弱体化する。最強の座が他竜に移るのは、当然であろうな。しかし、能力封印か……》

 気が進まないのだろう。デ・ルドリウ様は渋い顔だ。


「あたしの村では、悪さをした奴は獣を没収されます。獣使いにとって、獣は武器であり防具、労働力、移動・連絡手段。貴重な財産です。失ったらそいつにとって大痛手になるものを奪わなきゃ、罰にはならないんですよ」

《わかった》

「もっとも、魔王戦の日に弱体化されてては困りますけど。その日は特別に解除してもらって、最強の竜王として戦いに臨んでください。ジャンヌちゃんが困っちゃいますから」


「空間交替(コンバート)を封じるべきでしょう」

 エルフの王子エルドグゥインが、冷めた美貌で微笑む。

「竜王は巨大なあまり、卑小なるものへの配慮がいささか欠けておられる。あなた様の大ざっぱな移動のせいで、どれほどの草木がその形を散らせたことか……。空間交替(コンバート)を失ったとて、その背に立派な翼があるのです。移動に困ることはありますまい」

《しかし、竜には多層に干渉せねばならぬ時もある》

「必要な時に封印主に解呪を求めれば問題ないでしょう。封印主は……三種族ほどが妥当でしょうか。誉れ高き花エルフの一族がその一翼を担うのは当然として、あとは空と海を代表する種族に依頼すべきでしょう」


 なんかもう、空間交替(コンバート)封印で、話まとめたがってるし!


 てゆうか……

「今回の騒動は、お師匠様の……いえ、ブラック女神のせいです。デ・ルドリウ様も被害者のお一人。デ・ルドリウ様お一人に責を負わせるのは間違ってます」

 アタシは立ち上がって発言した。

「明日には帰還しなきゃいけないアタシたちですが、できる償いもあるかと思います。そちらからアタシたちに求めたいことってありますか?」


「ほほう。協力してくれるか有難い。ならば……」

 ドワーフの王様、デ・ルドリウ様、エルドグゥイン。

 三人の視線が、いっせいにカトちゃんへ、というかカトちゃんを抱っこしてる人へと向く。


 見られた方は、鼻白む。

 無口な彼は特に発言しようともせず、スリスリしてくるカトちゃんを撫でてただけだから、何ごと? と思ったんだろう。

 呪術化粧こそまだ消えてないけど、前髪をおろし、服を着てるし。半透明な翼竜も、デ・ルドリウ様が正気に戻った後、何時のまにやら消えちゃったし。

 農夫の人は、すっかりいつも通りだ。ボヤーッというか、ヌボーッというか、平和的な雰囲気を漂わせている。


「女勇者殿たちは、還られて構わぬ。その男だけ、残してはくれまいか」


「は?」


「へ?」


「……え?」


 アタシも、仲間たちも、エドモンも、目をぱちくりさせる。


「……どういうことでしょう?」

 おそるおそる聞いてみた。


「なぁにたいしたことではない」

 ドワーフの王様が、カカカと笑う。

「こたびのことで、竜王は各種族のもとへ償いの旅に出る事になろう。女勇者殿の世界の者にも同道いただければと思ったまでのこと。竜王と共に、被害者たちに頭を下げてもらいたいのだ」

 そういうことか……。

「でも、なんでエドモンにその役を?」


「勇者さまがご多忙であられるからです」と、エルフの王子。

「本来であれば、世界の代表であり、賢者シメオンの弟子であるあなたが我々に謝罪すべきです」

「……おっしゃる通りです」

「しかし、魔王戦は三十八日後。四つの世界へ転移し、三十六人も仲間を増やさねばならないあなたに、我々の為に割ける時間などあるはずもない」

「……申し訳ありません。非礼は承知してます。でも、アタシ、自分の世界を救わないと」

 わかっていますって感じに、エルフの王子が軽く右手をあげる。

「なので、あなたの代役をお供の方に頼みたいのです。『獣の王』こそが適任と、賢き花エルフの私は提言します」


「勇者殿の代役は誰でもいい。が、獣の王であれば尚いい。デ・ルドリウにメリットがある」

 ドワーフ王は、エドモンの膝の上のカトちゃんを指さした。

 エドモンの膝の上で、カトちゃんはお腹をみせてコロンと転がってる。撫でて撫でてとばかりに、クネクネ転がってる……

「獣の王にかかれば、獰猛なワーウルフとてかようになる。是非、そのタラシ能力で獣人どもを懐柔して欲しい。デ・ルドリウの謝罪の旅も多少は楽になるであろうて」

 ドワーフの王様がニカッと笑い、バッチンとウインクをしてくる。意外とお茶目な表情。


 ガタンと椅子を鳴らし、ジュネさんが立ち上がる。

「冗談じゃないわ! エドモンを、飢えた獣の群れに放り込む気?」

 綺麗な顔を怒りで歪め、小刻みに体を揺らしながら。

「エドモンは、獣どもから猛烈に愛されちゃう人よ。牡牝の垣根なくアタックされるの。謝罪する側だなんて……そんな弱い立場で獣人どもに近寄ったりしたら……あ〜 いや! いや! 絶対だめよ!」


「杞憂です。勇者さまの世界の獣使いよ」

 フフッともったいつけて、エルドグゥインが笑う。

(さか)りの季節は過ぎています。次の秋がくるまで畜生どもとて発情することなど、」


「あたしは嫌だって言ってるのよ!」

 ジュネさんが、バーン! とテーブルに両手をつく。

 あれ?

 今、ミシッて言わなかった? これ、岩のテーブルなのに……

「獣どもが、エドモンにすり寄って舐めまわして甘噛みするとか……そんなのいや〜! あたしだってできないのに!」

「落ち着け、ジュネ。まずは落ち着くんだ」

 兄さまが、ジュネさんを押さえ……られなかった! 兄さまが弾き飛ばされた!

 そして、テーブルはやっぱりミシミシミシって!

 アタシの土精霊が《直しておきます、女王さま》と動いてくれたら、テーブルがパカーンすることはなかったけど……ジュネさん、どれだけ怪力????

 アタシの風精霊が内緒話をしてくる。《ま、もともと怪力だった上に、今は『獣の王』と呪術化粧で結ばれてるからな。常時、パワーアップ状態なんだよ》。……そうなのか。


 大暴れだったジュネさんも、

「……少し黙れ、ジュネ」

 エドモンがそう言ったら、ピタッと口を閉ざして大人しくなった。


「……おれは、ずっと……じいちゃんが受けた恩を……返したいと、思っていた」

 農夫の人が、アタシへと顔を向ける。

「……おれが役に立つのなら……」


「もちろん、大助かりよ! 」

 ほんとなら、アタシが謝罪の旅に行くのが筋なんだもん!

「エドモンが、アタシの代役をしてくれたら、すっごく助かるわ!」


 あ。


……笑った。


 いつも下唇をとがらせて、むっつりとしてるのに。

 その唇がほころんで、この上ないというほど幸せそうに笑みを形づくって……


 なんか……その笑顔、可愛い。


 胸がキュンキュンした……


「なら……残る。戦闘では役立たずなおれでも……働けるのなら……嬉しい。じいちゃんも喜ぶ……と、思う」


《勇者殿。エドモンを預かる。敬意をもって接し、魔王戦よりも前に空間交替(コンバート)にてそなたの世界へ送り届けることを約束しよう》

「お願いします」


《我がもとに居ればおそらくは……》

 デ・ルドリウ様の視線は、エドモンが壁に立てかけた黄金弓へと向く。

《御祖の孤独も癒されよう。竜の生きる世界に、しばし滞在するがよい》


 嘘みたいな話なんだけど……

 デ・ルドリウ様が言うには、エドモンはドラゴンの子孫なのだそうだ。

 黄金弓は、エドモンのご先祖さま――大昔に滅びてしまった翼竜――の骨で出来ていて、自分の子孫だけに翼竜は力を貸す(弓の使用を許している)のだとか。

 エドモンが動物に異様に好かれるのも、目が赤いのも、先祖返りのせい。

 たまたま、翼竜の血を濃く受け継いで生まれてしまったからみたい。


 ドラゴンは、あらゆる獣の頂点に立つもの。

『獣の王』。

 血塗られた自分は恐れられるばかりだが、獣を殺せぬエドモンは獣たちより愛される。あらゆる獣を愛するその魂はマルヴィナによく似ている……デ・ルドリウ様は、そうとも言っていた。


 幼馴染(ジュネさん)をチラっと見てから、エドモンがドワーフの王様に聞く。

「……勇者の代役は……一人でなくとも……いいか?」

「と、いうと?」

「……おれは、口がうまくない。だが、こいつは……」

 エドモンはジュネさんを指さして、ぼそぼそと言葉を続ける。

「……口が達者で……頭がいい。機転が利く……。いれば、竜王の役に立つ……と、思う。それに……」


 とっても小さな声だけど……エドモンは、はっきりと言った。


「……おれの相棒だ。いっしょに……残らせてくれ」


「エドモン……今の言葉……ほんと? あたしを相棒だなんて……?」

 目を見張り、ジュネさんが身を震わせる。

 これは夢? 夢? とつぶやきながら。


「……おまえが……助けてくれたから、竜王を封じる矢を、放てた……一人では無理だった。おまえが、そばに居てくれると、助かる」

 それに、とエドモンは笑う。

「……おれだけ残ったら……心配し過ぎて……おまえ、倒れかねない……そばに居た方がいい」


「エドモン!」

 きゃーっと黄色い声をあげ、お美しい獣使い様が農夫の人をハグする。

「んもう! 好き好き好き! 大好き!」

 エドモンに頬ずりするジュネさんは、幸せいっぱいって感じ。とろけそうな笑顔だ。

「……触るな」

「無理よ! 内なるあたしの魂が、あなたを抱きしめろと言ってるんですもの!」

「……僧侶の真似はやめろ」


 男同士の抱擁シーンを、周囲があたたかな目で見守る。

 慣れっこなアタシたちはともかく。

 幻想世界の人たちが、受け入れてくれてるのがありがたい。この世界的には、アリなのかしら?


 ああ……アリス先輩が見たら大喜びしそうなシーン。目に焼き付けておこう……。






「それでは、私はこれで。勇者さま、三十八日後の魔王戦でお会いしましょう」

 左胸に右手をあてて、エルドグゥインが一礼する。こういう貴族的な所作をすると、確かにシャルル様に似てるわね。美形だし。


「全種族会議に出席しないんですか?」

 質問したら、エルフの王子はフフッと笑った。

「会議には、継嗣たる弟が出席します」

 あらま。弟が継嗣ということは……エルドグゥインは非嫡出子? それとも花エルフ一族は末子相続なのかしら?


「私は森に帰ります。暗く湿ったドワーフの洞窟なぞに長く留まりたくはないので」

「おう。帰れ帰れ。わしの王国に、高慢ちきなエルフなぞ要らんわ。のっぽの王子、親父殿によろしくな」

 ドワーフの王様が豪快に笑い、エルドグゥインはそちらにも頭を下げてから長弓を手に取った。


「このものを森に植え、亡くなった大樹(とも)『穏やかなる陽光』の遺志を継いでもらおうと思っています」


「その長弓、デ・ルドリウ様の咆哮を消す音楽を奏でましたよね。ものものしい外見に似ず、平和的な弓なんですね」


「気高き花エルフが持つ弓です。私の心に応え、常時は自然を愛でる力を広めます。しかし、警急時には、武器とする事もできるのです」

 エルドグゥインは静かな笑みを浮かべた。顔立ちが整いすぎているせいか、その笑みはひどく冷たいものに見える……

「この長弓、たった一矢だけ、あらゆる敵を滅せる力を放てるのです……私の命を矢として」

 え?

「その弓を攻撃に使ったらエルドグゥイン様が死んじゃうんですか?」

 エルドグゥインが、鷹揚に頷く。

 ちょ!

 なに、それ!

 アタシの究極魔法みたいなもの?

 そんな物を贈るなんて、森の王も性格が悪いんじゃ!

「いつかまた魔王が現れるやもしれません。よからぬ未来に備え、この長弓を森の護りとしておきたい。勇者さま、こたびはあなたと獣の王殿のおかげで私は長らえました。命を救っていただいたご恩をお返しすべきではありますが、かような事情にて魔王戦でこの長弓を使うことはご容赦いただきたく、」

 いやいやいやいや!

「いいです、使わなくて!」

 使われたら、寝覚めが悪いわ!


「エルドグゥイン様、これを……」

 アタシは、荷物の中からエルドグゥイン宛の手紙と小袋を取り出した。

「アタシの師がブラック女神の器になる前に書いた手紙、それとあなたに贈ろうと用意した種です。このまえアタシをドワーフの洞窟まで送ってくれたことへの、師からの返礼です」

 エルドグゥインが、微かに目を細める。

「お師匠様がなぜ敵方に回ったのかはわかりません。ただ、森の王にお会いして……お師匠様が深い悲しみの中にあったことはわかりました。賢者であることも辛かったのだと思います。だからって、幻想世界にご迷惑をかけた言い訳にはなりません。けれど、でも、それでも……」

 アタシは、きっぱりと言い切った。

「アタシはお師匠様も助けたい。そう思っています」


 エルフはしばらく(じっ)と、アタシを見つめ……

「あなたならできるかもしれませんね」

 ふわっと笑ったのだ。珍しく、とてもやわらかな感じに……。


 胸がキュンキュンした……


「魔王となりかけた竜王ですら救うと意固地に言い続け、言葉通りに動かれたあなた……。あなたの友人(とも)であることを、私は誇りに思います」


 エルドグゥインは、手紙と種入りの小袋を受け取ってくれた。

「ごきげんよう、勇者さま。あなたの旅に光があらんことを」




 ドワーフの王様にも、お師匠様からの手紙と小袋をお渡ししたんだけど。

 赤毛赤髭の王様が、腕を組み、不機嫌そのものの顔となってしまった。


「勇者殿。そなたの武器だが……実は、まだ完成しておらん」


 あら。


「形はできておる。使えなくもない。だが、しかし。何かが足りぬ。あらゆる技術、あらゆる知恵、あらゆる魔法をもって足りなき物を補おうとしてみた。が、どれもこれもしっくりこないのだ」


 はあ。


「そなたの剣は、『この世界にないもの』を必要としておる……そう思い、デ・ルドリウに頼み、空間交替(コンバート)にて異世界への旅にも連れて行ってもらったのだが、何がどう足りないのか、それすらもわからぬ始末」

 ドワーフの王様は、大きくため息をついた。

「わしでは、欠けたるものを補えぬ。それができるのは、持ち手であるそなただけ……悔しいが、そう結論づけざるをえまい」


 ドワーフの王様が、パンパンと手を叩く。

 扉が開き、ドワーフの侍従が現れる。二人がかりで、華麗な装飾のついた収納箱を抱えている。

「ここにそなたが現れたのも、剣の導き……。そうとも解釈できる。未完成品を渡すのは、甚だ不本意ではある。が、わしにできることはもうない。持って行け。それがそなたの武器だ」



 収納箱から現れたのは、

 ため息が出るほど綺麗な剣だった……


 柄頭はドラゴンの頭。不思議な光沢を放つ鞘には豪華な宝石や模様が散りばめられている。儀式用の剣のように、華美だ。


 だけど、何というか……

 骨董品みたい。

 鞘も柄も何もかもが、くすんでいる。


「手に取ってみられよ」


 軽い。

 不死鳥の剣よりも、もっと軽いかも。

 振りやすそう。


「抜いてみよ」


 鞘から、すらりとした細身の剣が現れる。


 けれども、剣身までくすんでいて……

 刃は鈍い光を放つだけ。

 切れないように刃が潰された、練習用の剣みたいだ。


「切れ味は悪くないぞ。不死鳥の剣よりも遥かに優れた硬度を持っておる。しかし、」

 ドワーフの王様が、大きくため息をつく。

「そなたは、魔王に1億ダメを与えられる剣を望んだ。そこまではゆかずとも、そなたが一番大ダメージが出せる武器をつくるはずが……まことに済まぬ。この剣は、このままでは真の力を発揮できぬ。そなたは魔王に、百万のダメージすら与えられぬやもしれん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=291028039&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ