◆大魔術師の大冒険◆
かっけぇ人は、いっぱい居る。
ファーストかっけぇぇは、ジョゼだった。
お隣のおじさんが再婚して、ジョゼはジャンヌのお義兄ちゃんになった。いっつもムスッとしてて、おっかなそうで。知り合ったばかりの頃、ボクはジョゼから逃げ回ってた。
なのに! ジョゼは助けてくれたんだ! ボクが近所のイジメっ子たちに囲まれた時に! 自分より大きい子も居たのに、バッタバッタとあっという間に百人倒したんだ!
ジョゼは『そんなには居なかった。せいぜい八人だ』とボクが記憶違いをしていると譲らない。
でも、あの日から、ジョゼはボクのスーパー・ヒーローになった。ケンカが強くて、小さい子に優しくって、誰も知らないことをいっぱい知ってて……夕方鳥が大群で飛ぶ理由とか、怪我をしないで相手を殴る方法とか……聞けば、ジョゼは何でも答えてくれた。
ファーストかっけぇぇな女の子は、ジャンヌだ。
ベルナおばさんが有名な格闘家だって知ってたけど、大人は強くてあたりまえ。ジョゼより強いってわかっても、『かっけぇぇ』とは思えなかった。
ジャンヌはボクより小さいのに、どんどん男前になってって。
ジョゼの影響なんだろうけど。
『クロードは、アタシがまもるわ! なかせたヤツには、ばいがえしよ!』
弱っちいボクを守ろうと頑張る姿が、けなげで可愛くって……
ボクはジャンヌが大好きだった。
だから……
ジャンヌが賢者の館に連れてかれた日、誓ったんだ。
『がんばるジャンヌを助ける。強くなって、いっしょに戦うよ』って。
ベルナおばさんが居た頃は、ジョゼといっしょに鍛えてもらった。まあ……ジョゼと違って、ボクはぜんぜんダメダメだったけど!
ベルナおばさんが亡くなって、ジョゼがオランジュ家に引き取られてからは、剣や格闘の道場に通ってみた。
でも、パッとしなかった。
ボクは、戦いには向いてないらしい。剣の師匠にはっきりと言われた。鍛錬を続けても『運動』にしかならない、他の道を進んだ方がいいって。
んで、聖教会の修道院学校一般クラスに通ってみた!
戦いに向かないんなら、違う方向からジャンヌを助けよう! 戦うジャンヌを癒す僧侶、これだよね! って思ったんだ。
授業にはついていけた。
僧侶たちにも気に入られて『君のように素直な子は聖職者に向いている』って専門クラスへの転籍を勧められた。
でも、どんなに頑張っても、初級の治癒魔法や強化魔法までしか使えなくって。魔法をまったく使えない僧侶も多い、気に病む必要はないって僧侶たちはおっしゃったけど……
普通の僧侶じゃ、ダメなんだ。
スーパーグレイトな僧侶でなきゃ、魔王と戦うジャンヌを助けられない。
どうすればスーパーグレイト僧侶になれるのか、使徒様に尋ねてみた。
使徒様は、たま〜に臨時講座で教鞭をふるっていた。
けど、何故か講座は不人気で。
居眠りをしたら殺されるって噂があったし、
他にも、講義内容が難解すぎるとか、合図を察して拍手をしなきゃいけないのが面倒だとか、講義の途中で『聖戦に赴く』って昼寝しちゃうのが許せないとか……つまんないこと言う奴ばかりで。
もったいない!
ま! おかげで、ボクはいつも最前列で受講できたけど!
それで、使徒様に顔を覚えてもらえたし! みどころがあるって誉めてもらえたし! 私的な相談まで聞いてもらえる間柄になっていた!
『イチゴ頭。きさま、幼馴染を助けるために強くなりたいのだったな? もしも、神が幼馴染を殺せとおっしゃったらどうする?』
できません!って答えた。
使徒様は、ふ〜やれやれって感じに頭を振った。
『きさまは絶対にどうあっても逆立ちしようとも、俺のレベルまで到達できん。何故かわかるか?』
わかりません!って答えると、使徒様はスパーンと言い切った。
『神の言葉は絶対だ。神が殺せと命じたら誰であろうが殺す。それが、神の使徒・・超一流の僧侶だ。きさまには、信仰心が欠けている。きさまは神より、幼馴染が大事なのであろう? そんな人間が真の僧侶になれるものか』
頭をハンマーでぶったたかれたような衝撃を受けた。
神様の命令なら使徒様は誰でも殺すんですかって聞いたら、『内なる俺の霊魂が命じるのなら、マッハでなすべきことをなす』と、使徒様は迷いなくおっしゃった。
しつこく、聞いてみた。もしも神様のが間違ってても、それでも殺すんですか? って。そしたら、使徒様は『神の御心は、人の身では測りきれぬ。今までも、すっきりせぬお言葉はあった。だが、しかし、それでも。邪悪の敵対者であるという、神の絶対的な存在には揺るぎはない。ゆえに、俺は信仰に生きている』との答え。
ボクは、かっけぇ使徒様みたいにはなれない。
そう痛感した。
そんな時に出会ったのが、アレッサンドロさんだった。
『君には……素晴らしい才がある……得がたき光……神秘的で……凄まじく、激しい……魅惑的な力。……魔法……そうだ、魔法だ。君には魔術の才がある。クロードくん、幼馴染を助けたいのなら、魔術師になれ。君の魔法が幼馴染を助けるだろう』
国一番の占い師アレッサンドロさんは、進むべき道を示してくれた。
しかも、『君の頑張りを応援するぜ』って、
『勇気を高める』メノウのブローチとか、
『最後までやり抜く力をくれる』イエローフローライトの置物とか、
『戦いを勝利に導く』ルビーの帯留めとか、
ちょ〜格安で、お守りグッズを山のように譲ってくださったんだ。……おかげでコツコツと溜めてたお小遣い貯金が全部なくなっちゃったけど!
でも、すっげぇ優しくって、気前がよくって! アレッサンドロさんは、ほ〜んとかっけぇよ!
アレッサンドロさんの導きに従って、魔術師学校に入った。
僧侶がダメなら、魔術師だよね!
そう思ったんだけど……
初級魔法ファイアすら使えないまま、ジャンヌの仲間になっちゃって……
ダーモットさんと出会った時、ボクは魔法を使えない魔術師だった。
* * * * * *
幻想世界一の魔法使いダーモットさん。
ボロボロのローブをまとった、リッチだ。
血も肉もないその姿を最初に見た時、ボクは悲鳴をあげて……すっごく失礼な態度をとっちゃった。
だけど、ダーモットさんはぜんぜん怒らなかった。ボクみたいな人間には慣れてるって、からからと笑うだけだった。
で、ボクが魔法を使えない理由を調べてくれた。探知とか過去見とか魔力感知とかいろんな魔法を使って。
《五才の秋、汝は汝の基盤を揺るがす大いなるものに遭遇している。しかし、その記憶には欠損がある。おそらくは、忘却の魔法……何ものかが汝の記憶を改竄した痕跡のみ感じられる》
今では、わかってる。
昔、ボクが出会ったのは、ブラック女神の器だった僧侶エルマン。
出会いの記憶を封じたのは、エルマンなのか、あの時駆けつけてくださった使徒様なのかはわからないけど。
ともかくも。
ジャンヌを守ろうとして守れず、雷魔法をいたずらに使いまくったせいでジャンヌに怖がられ……そのショックでボクは自分で自分の魔力を封印したらしい。
雷がきっかけになって封印が解けるかもしれない……てな、ダーモットさんの助言があったから、ボクは雷界で頑張れたわけで……
ダーモットさんは、ボクの恩人だ。
魔法の師匠でもある。
魔法を使えないボクを弟子と呼んでくれ、いろんなことを教えてくれ、絆石を通してピンチに駆けつけてくれた。
魔族だろうがリッチだろうが、どうでもいい。
ダーモットさんは、優しくって、強くって、頭が良くって、強大な魔法使いで。
彷徨える不死者を哀れに思って庇護していた、立派な屍王だった。
すっげぇかっけぇぇヒトだ。
だから、もしも。
ダーモットさんがピンチになってるなら助けたいって思ったんだ。
絆石の呼びかけにまったく返事が無いなんて、変。
優しいダーモットさんなら、どんなに忙しくても、《是》とか《否》とか《しばし待て》ぐらい返信してくれるはずだもん。
返事ができないとしか思えなかったから……森の王さま――とっても綺麗な妖精さんに会った時、お願いしたんだ。
ダーモットさんに会いたい、捕まってるなら助けたい、助けられるだけの力が欲しいって。
森の王さまが、ピカッと光って、それで……
* * * * * *
気がついたら、ボクは転移していた。
どこまでもどこまでも何もない景色が続く、さびしい場所に。月光に照らされる、荒野だった。
頭上には満月。
何で? って思ったら、
ウォォォォって、恐ろしげな声がして。
ビリビリビリと空気が震えて。
声のする方に顔を向けたら、
ズンズンと。
すっごい勢いで駆けて来る、巨大な蒼毛の生き物が見えた。
《主人よ! 備えられよ!》
ローブのポケットから、紫がかった灰猫――トネールさんが飛び出し、ボクの前に雷の障壁を張る。
遠くに居たはずの生き物は、あっという間にボクのすぐそばまで迫り……
そして、その鋭く尖った牙で、
トネールさんの魔力の壁を砕いたのだった!
牙で魔力障壁を破るなんて!
そんなバカな! と思うボクに牙が迫る!
くわっと開いた巨大な赤い口がボクを飲み込む寸前! ボクの体が動き出す!
再び大口が、
爪が、
ボクに襲いかかる。
だけど、ぎりぎりのところで届かない。
攻撃が空振りになる。
紫雲に変化したトネールさんが、危機一髪のところでボクを乗せて運んでくれたのだ。
ボクと同化中の光精霊は、《クロード様になにをするんだ》って、敵の眼を狙って紫外線を直射してくれていて……
ありがと、二人とも!
主人がふぬけてちゃダメだよね!
すっげぇおっかなかったけど、敵をよく見た。
蒼毛の巨大狼だ。クマみたいにデカイ。
「あれ?」
その姿には、見覚えがあった。
「カトヴァド君?」
だよね?
「狼王のカトヴァド君でしょ? ボク、ジャンヌの仲間のクロードだよ」
話しかけてみたけど、返事が返らない。
巨大狼はひたすら突進してくる。金の眼をぎらぎらと光らせ、大きな口から泡をふきながら、ボクを目指している……。
《この狼、魔法防御が高すぎる。表層意識しか読めぬ。『おまえ、ナカマ、ちがう。殺す』……心の中でそう叫んでいる》と、トネールさん。
竜王の洗脳魔法のせいで正気を失ってるのか!
ダーモットさんの絆石を意識した。
幻想世界に来てすぐ、絆石を通じてダーモットさんに助けを求めた。竜王の魅了の声を聞こえなくして、中にいるものを元気にする結界を張ってもらった。
ダーモットさんに頼めば、カトヴァド君は正気に戻せるかも。
だけど、返事もできない状態のダーモットさんに魔法を使わせ続けて大丈夫なのか……正直、不安だった。
アレは、探知、空間形成、結界魔法、回復魔法、強化魔法を組み合わせた複合魔法……大魔法使いダーモットさんだから使えた魔法だ。
ボク程度の魔術師が御せる魔法じゃない。
でも、あの時、ボクはダーモットさんを呼び出して同期してた。呪文も必要な所作も、ぜんぶいっしょにやった。覚えてる……
あの規模のものは無理だけど、空気中の魔素を使用すれば、う〜んと小さい結界ならつくれるかもしれない。カトヴァド君を包み込む結界ぐらいなら……
深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、精神集中をしてみた。
シャルル様の優しい励ましを思い出した、『キミは雷特化型魔術師。複合魔法の制御などまず無理だね。だが、まあ……向上心のある人間は嫌いではないよ。ジャンヌさんの為に、知識を増やしておきたまえ』。
譲っていただいた『新編 応用魔法総合』は、穴があくほど読んだ! トネールさんや、クマクマ8のみんなから、複合魔法のやり方は教わった!
できる!
きっと、できる!
そう信じる!
ボクは幻想世界一の魔法使いの弟子! これぐらいできなくて、どうする!
カトヴァド君を正気に戻すんだ! でなきゃ、食べられちゃう!
《主人よ、我が目、我が耳、我が感覚をお貸しする》
《クロード様! 体の中の魔力の流れ、ぜんぶお教えします! ぼくの熱を感じて!》
トネールさんとユーヴェちゃんが協力してくれる……
魔素を吸収して……
ボクの魔力と混ぜて……
ユーヴェちゃんの教えてくれた通りに一カ所に集めて……
こねて……
呪文で道をつくって……
放つ。
カトヴァド君はすぐ側に居るんだ。魔法の道筋はつくりやすい。
できる!
ぜったいできる!
そう信じて、呪文を詠唱して……
カトヴァド君の全身を包み込む形で、ボクの結界は出来上がった!
カトヴァド君が、スピードダッシュをやめる。
しばらくは、石みたいに固まって……
大きな金の眼をぎょろっと剥いて、きょときょとと落ち着きなく頭を振って。不審そうに、くんかくんかと鼻も動かし出す。
それに合わせて、ボクが張った結界も動く。カトヴァド君の動きにぴったり合っている。
結界は、いびつで、薄くって、小さくて……ギリギリ、カトヴァド君をカバーしてるだけ。
けど……
それでも……
ボクは……
《主人よ、成功だ。今、主人は複数の魔法を制御しておられる》
やったぁぁぁ!
トネールさん手伝ってくれて、ありがとう!
《すごいです! クロード様! もうもうもう感動です! できなかったのに! さっきまでできなかったのに! 頑張ったら成長するんですね! 精霊よりずっとずっとず〜っと卑小な人間でも、やれば出来るんだ……》
ユーヴェちゃんも、ありがとう!……それから、あんま褒めないで。ちょっと恥ずかしい。
カトヴァド君が、「わふん!」と明るい声をあげる。
完全に正気に戻った感じ!
「あのね、カトヴァド君、ボクは、」
そこまで言った時、カトヴァド君がジャンプした。
一瞬で距離を詰めてきて……
その大口をあけ……
ボクをパクリと……。
食われた?
ボクは、あたたかな闇のなかに包まれてゆき……
すぐに、ペッ! された。
「ヨメ、ない。エドモン、ない。おまえ、だれ?」
* * * * * *
ジャンヌとエドモンさんの匂いが、ボクの服に残ってたらしい……。
ま! 頭から丸呑みされたっていっても、遊びに夢中になったわんこがボールをパクンした感じだし! 歯は立てられなかったし! 顔や髪の毛がベトベトのぬらぬらになったけで、済んだし! おっけぇだよね!
「ボクはクロード。ジャンヌとエドモンさんの仲間だよ。まえに会ったよ。覚えてる?」
カトヴァド君は、ボクの顔、それからローブに鼻を近づけてクンクン。ボクの匂いは思い出せないらしい。でも、ローブに鼻先を埋めてうっとり顔になった。うなるのは、やめてくれた。
「ヨメの、群れ。みうち。オレさま、王。ナカマ、だいじにする」
「カトヴァド君、無事でよかったー キーラーおねえさんが心配してたよ」って言っても、きょとんとするだけ。
カトヴァド君は体は大きいけど、中身は二才。
自分が何処で何をしてたのかすらわかってない様子。
なので、覚えたての探知の魔法で辺りを探ってみた。
それで、ここが見た目通りの場所でないとわかった。
空も月も大地も全て幻……
荒野ではなく、密閉空間。それも、あまり広くない。左端に行くと右端に転移しちゃう不思議空間だからカトヴァド君と追いかけっこできただけで、広さは庭を含めたボクん家ぐらい? そんなものだ。
部屋の中央部に小さな魔法結晶……骨の形をしたそれは……ピアさんやゲボクさんとほぼ同じ魔力を発している……闇と炎が濃い……。
《主人よ、記憶を読ませていただいた。ここは、おそらくは竜王の城だ。竜王は岩山の頂に棲み、客人が訪れた時のみ岩山の中に魔力で城を……宿泊部屋を生み出す。この空間は客人用の部屋の一つ、この場を管理しているのはあの中央の骨――ゴーレムであろう》
ボクの心を読んだトネールさん助言をくれる。
デ・ルドリウ様は、客人たちにゴーレムの素を貸し、客人の世話および宿泊部屋の管理は接待用ゴーレムに任せてた。
ボクはミー・ゴーレムをつくって、ミレーヌおばあちゃん家そっくりな部屋をつくってもらった。あの部屋には、いなくなった子も死んじゃった子もぜ〜んぶ居た。幻だけど、元気に部屋を駆け回ってったっけ……。
竜王の城には、ゴーレムがつくった空間がいっぱいある。
ピーンときた!
森の王に送られてここに来たってことは……ここのどっかにダーモットさんが居るんだ。
きっと、そう。
なので、カトヴァド君に聞いてみた。
「大魔法使いダーモットさんを探してるんだ。何処にいるか知らない?」
カトヴァド君は、「しらない」って答えた。
ま、それは予想通り。
なんだけど!
「よそ、いくか?」
って言って、いきなりくわっと大口を開けて、地面をガブッ!
ボコッと開けてくれた穴をのぞきこむと……ネコがいっぱいいた! シピもカラメルもゾエもリルもミヌも! みんな生きて走り回ってる! 前回、ボクがつくった部屋っぽい!
《主人よ、次元通路だ》と、トネールさん。
噛んで、次元通路を開けちゃったわけ?
無茶苦茶だ……
幻想世界の生き物は、魔法的な生物だと聞いてはいた。
空間交替を使えるデ・ルドリウ様みたいに、狼王のカトヴァド君もとんでもない力が使えるようだ。
カトヴァド君に連れられて、いろんな空間に行った。
ミレーヌおばあちゃん家から、青空と一面の畑へ、それから夕方の河川敷へと。
「道、ある、いける。道、ない、いけない」
次元通路は好き勝手には開けられないみたいで、カトヴァド君は鼻をふんふん動かして、しばらくその空間を探索してから穴を開ける。
《おそらくは、竜王の通った道を辿っているのだ》と、トネールさん。
デ・ルドリウ様が使用した次元通路を再利用してるってことなのかな?
ゴーレムがうじゃうじゃ居る部屋にも行った。
いきなり襲いかかってきた奴らを、カトヴァド君はあっという間に蹴散らした。
ぶん殴り、爪でえぐり、バリバリと音をたてて噛み砕いて。
岩より硬いゴーレムを、ぺっしゃんこに!
「さすが、狼王! すっげぇ、かっけぇぇ!」って叫んだら、カトヴァド君は胸を大きくそらせた。
「オレさま、狼王。強い、あたりまえ。ほめて、いいぞ」
てなリクエストだったんで!
思ったことをそのまんまぜーんぶ口にした!
カトヴァド君は、ぐふぐふ嬉しそうに笑った。
見た目はおっかないけど、頼りになって、カッコよくって、でもって可愛いなあ。
カトヴァド君が次元扉を開け続けてくれて、
ついに! 目的の場所に行き着いた!
穴が開いた途端、まばゆい光が噴出してきて……
緊急対応で、トネールさんが結界を張ってくれなきゃ、
カトヴァド君が、その頑丈な体で盾になってくれなきゃ、
ボクは、たぶん死んでた。
次元穴の向こうで、異常に濃い魔素が吹き荒れているのを感じた。
目で見たら視神経が焼けてしまいそうなんで、探知の魔法で穴の先を探った。
魔素が暴走している……
重力異常。
絶え間ない、光の圧縮と爆発。
攻撃は空間の中央へと向かっている。
さっき漏れてきた光なんか、ほんの余波だ。
中央への攻撃は、さっきのより何十倍も凄まじい。
部屋の中央にあるのは……小さな木片だ。木の杖の一部のような。
光の爆発をかろうじて防いでいるソレから、弱々しいけど、たしかに間違いなく……ダーモットさんを感じた。
リッチは、リッチとなった時に魂を他のものに移す。あれが、ダーモットさんの魂がこもっている物なんだろう。
ダーモットさんに襲いかかる光は、全ての魔素を含んでいる。つまり、神聖魔法相当の光系の魔素も浴び続けているわけで……
幻想世界一の魔法使いとはいえ、魔族のダーモットさんには地味に辛い攻撃のはずだ。じわじわと体力を削られているんだろう。
穴から噴き出してくる光を、カトヴァド君が食べてくれる。
狼王の強力な胃袋は、暴走魔素すら食べられるようだ。
けど、物理的限界の無い生き物はいない。
次元穴の先の空間が広すぎる。ぜんぶを食べてもらうのは、無理だ。無茶をさせすぎたら、カトヴァド君の命に関わる。
「……ごめんなさい、ダーモットさん」
あの空間を無力化するなんて、ボクには不可能だ。
だけど、大魔法使いダーモットさんなら……
本体は囚われていても、外からなら……
呪縛を払えるかもしれない。
「カトヴァド君! そのまま! こぼれてくる奴を食べ続けてて!」
精神を集中し、呪文の詠唱を始めた。
神様、森の王さま、ジャンヌ、使徒様、ジョゼ、アレッサンドロさん、シャルル様! ボクに勇気と力をください!
トネールさん、ユーヴェちゃん、力を貸して!
ダーモットさん、囚われて弱ってるのに、本当にごめんなさい! でも、ダーモットさんじゃなきゃ、この状況を打破できないんです!
「大魔法使いダーモットさん。絆石を通じてお願いします。吹き荒れる魔素を、どうかお鎮めください!」
ボクと重なるように、ボロボロのローブをまとった角つきの杖を持つ魔法使いが現れ……
そして……
《救出感謝する、我が弟子クロード。いや、勇者世界の大魔術師よ》
持ち上げすぎです、ダーモットさん……
そう思ったけど、口に出す気力がなくって……
ボクはそのまま意識を失った……。
目覚めた時、ボクの全身は凄いことになってた。
ベタベタのぬらぬらのテカテカ。
疲れきったボクを、カトヴァド君が癒してくれたのだ。
舌で舐めて……
すっごく有難いんだけど! ウォーターで洗ったぐらいじゃ、獣臭さは消えなかった……。