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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
幻想の野ふたたび
172/236

邪悪あるところに光あり・・

 ゴーレムは、幻想世界では、わりとポピュラーな使い魔。


 デ・ルドリウ様は巨大な自分では小さきものの世話はできないと、アタシたち一人一人にゴーレムを貸してくれた。

 デ・ルドリウ様の魔力のこもった小石から、アタシはクロさんをつくった。

 兄さまは、ピアさん。

 クロードは、黒猫のミー。

 エドモンは、キャベツ。

 マルタンは、白い雲のゲボクを、それぞれ作ったのだけれども。

 

 クロさんは、アタシが子供のころ、お気に入りだったぬいぐるみがモデル。

 何処からともなく現れて、悪漢を倒しては、鉄下駄を鳴らして去ってゆく格好いいヒーロー『番長』――白学ランの黒ウサギだ。

 後ろ足で立ってもアタシの膝までしかない、ラブリーな大きさなのに。

 一流のメイドさんみたいに、ホスピタリティあふれるお世話をしてくれて。

 アタシのピンチの時には、体を張って守ってくれた。巨大なカトちゃんにも立ち向かってくれたっけ。


 ぬいぐるみ型ゴーレムのクロさんには、表情がない。しゃべることもできない。

 けど、まっすぐにアタシを見つめるつぶらな瞳も、アタシの後をカラコロついてきてくれる姿も、とても愛らしくって……

 アタシは、クロさんが大好きだった。


 でも、今は……

 敵なのだ。


 小石に『クロさん』の名前を与え、形と魂を吹き込んだのはアタシでも、

 その小石に魔力を与えたのは、デ・ルドリウ様。


 真の創造主デ・ルドリウ様に、ゴーレムは逆らえない。


 ピアさんがアタシを殺そうとしたように、クロさんも……




「敵襲!」

 悲鳴にも近い叫びが、周囲からあがる。


 あちこちで、土煙があがっている。

 凄まじい勢いでなにかが飛んで来て、大地や倒木にめりこんでいる。

 さながら、黒い弾丸か、隕石だ。


 エルフたちは、魔法障壁で防いではいるけれども。


 飛来してきたものは、さまざまな形だ。

 四足のもの。二足歩行のもの。翼あるもの。

 どれも小さく、大きいものでも人間の子供ぐらいしかない。

 そして、そのほとんどが……いびつな形をしている。手足が長すぎたり、逆に短すぎたり、頭が大きすぎたり。


 敵は、魔力によって生まれ、魔力によって生かされる魔法生物――ゴーレムだ。


「またゴーレムか!」

「おのれ、竜王め! 動物や鳥では我等に勝てぬとみて、魔法生物を寄越したか!」

「進ませるな! 森の王の座所を守れ!」

「魔法障壁を張れ」

「ハニー・ビーたちは下げろ。ゴーレムに、蜂たちの針は効かない」

「浄化魔法を」


 エルフの浄化魔法で、数体が消え失せる。けれども、仕留める数より、押し寄せる数の方が多く……


 そして……

 ズシンと地が揺れる。

 山のように大きなゴーレムが動き出したのだ。

 ピロおじーちゃんがかけた氷の拘束は、すべて溶けてしまっている……。


 エルフたちの浄化魔法は、あの巨大ゴーレムには効かない。

 あいつは、並はずれて魔法防御が高い。小石からではなく、大きな岩――つまり、術師の魔力が大量に注がれたもの――からつくられたに違いないって、精霊たちは言っていた。


 樹木の残骸を踏み、新たな木を踏み倒し、巨大ゴーレムはのろのろと進む。

 エルフたちの魔法障壁すら、その巨大な足で踏み破って。


 防御の壁を失った彼らに、小型のゴーレムたちが襲いかかる。



 そんな戦況を、アタシはただ眺めていた。


 動くに動けないというか……

 三方から攻撃されているためだ。


 一匹は、たれ耳の愛らしい黒ウサギ。

 跳躍しては斬りかかってくる。


 別の方向からは、爪と牙で攻撃してくるものが。

 他の方向からは、丸い体で体当たりしてくるものが。


 黒猫のミーとキャベツ、それにクロさん。

 三方からの攻撃を、ピオさんの炎の壁が弾き返しているものの。

 炎の防御の壁は揺れに揺れ、術師のピオさんは時々うめいている。

 防戦だけで手一杯。進むに進めず、アタシたちは立ち往生していた。


《駄目だ、跳べねえ》

 アタシの内から、ピクさんの泣きそうな声がする。

《おらの力が霧散しちまう。移動魔法が使えねえ》


《ここら一帯……空間が妙に歪んでるんだよ。たぶん……竜王が、邪魔をしてるんだ……》

 攻撃をくらう度、炎結界が揺らぐ。

 特に、クロさんの木刀もどきをが痛いようだ。あれは、ただの武器ではなく、デ・ルドリウ様の体の一部らしい。

《けど、短距離の移動なら……できるはずだ。空気中の魔素を食え。強大になりゃ、跳べる》

《う、うん。わがっだ》

《ゴーレムたちに取られるまえに、おまえが食え。で、跳べそうになったら……いつでもいい。跳べ。東に向かって、とにかく進め。ジャンヌたちを、決戦の地に連れてくんだ》


 黙々と、攻撃をしかけてくる三体のゴーレム。

 アタシの伴侶となってくれた三体が、今、アタシの進路を邪魔している。


 そして、あの巨大なゴーレムは森を破壊し、森の王の座所を目指している。


 こんな状況だというのに……

 アタシには何もできない。

 見ているしかできない……。


 精霊たちに呼びかけてはみた。

 エドモンといっしょにいるヴァン、ジュネさんの下で動いているソル。二体に、こちらの状態を知らせたかったのだ。

 けれども、まったく返事が返ってこない。空間が歪んでいるせいなのかも。


 四散中のラルムやレイからも、当然のように返事はなく……


 いざとなったら戦えるよう、『オニキリ』を抜けるようにはしている。

 けど、勇者の馬鹿力(バカぢから)になったところで、身体能力が向上するだけ。


 アタシでは、クロさんたちにすら勝てるかどうか。

 ましてや、あの巨人ゴーレムを倒すなんて……無理だ。


 ゴーレムを消滅させるには、創造主が『無に帰す』ことを望むか、浄化魔法で清めるか、魔力を奪うかだけど……

 あの巨大なゴーレムは、並はずれて魔法防御が高い。

 普通の浄化魔法じゃ効かない。


 でも、普通じゃなければ(・・・・・・・・)


 昇天を望まぬ魂すらも清めてしまう、規格外の浄化の力ならもしかすれば……



 胸元へと、左手をのばそうとして。

 その手を、ぐっと握られる。

《おねーちゃん……ぼく……》

 ニコラが、握りしめてきたのだ。

《ぼくも戦いたい》


「戦う?」


《ぼく、風をつくれるんだ》


「それは……」

 知ってる。

 デュラフォア園で、ニコラは風で兄さまをズタズタにした。エスエフ界でも、岩よりも硬いロボを斬り裂いていた。


《このままじゃ、ピオさんが……》

 白い幽霊は、泣きそうな顔で赤クマさんを見つめている。

 アタシたちの周囲を覆う炎の結界は、さっきより縮んでいる。ゴーレムたちの攻撃をくらう度、赤クマさんは苦しそうにうめいているのだ。

《空気の中のキラキラを使えば、竜巻だってつくれるよ。ゴーレムたちを弾き飛ばせるし、あのデッカイ奴だって足止めできると思うんだ》


 できるかもしれない……ニコラは霊格が高いって、まえにマルタンも言ってたし。


 戦えば強いのかもしれない。


 だけど……

 風を操る時、ニコラはいつも黒い気をまとっていた。

 誰かを傷つける度、悪霊の性質が強くなってゆくような……そんな気がするのだ。


 ニコラを戦わせちゃいけない……ジョゼ兄さまだって言ってた、戦いになってもニコラにはさせない、自分が戦うって。


「ニコラ、竜巻はやめた方がいいわ。エルフさんたちも巻き込んでしまうもの」


《でも、このままじゃ》


「大丈夫」

 アタシは白い手をぎゅっと握り返した。

「アタシが戦うから」

《え?》

「ニコラは、ピクさんを助けてあげて」


《助ける?》


「ニコラには、不思議な力があるわ。『いたいのいたいのとんでけ〜』で、セザールおじーちゃんの痛みを取り除いてあげたわよね?」

《う、うん》

「あんな感じに、ピクさんを応援できない?」

《おうえん?》

「ピクさんの力が強くなれば、移動魔法が使えるもの。ね、力を貸してあげて」

《……でも、》

「ピクさんを助けたいってニコラが本気で思えば、うまくいくと思うの。ニコラは、一刻も早く決戦の地に行くべきよ。ニコラが貰った祝福……あれがすっごく大事なキーだと思うの」

 ニコラが左の掌を上に向けると、白い花の幻が現れる。

 あの幻になんの意味があるのかわからないけれども。森の王は、ピアさんを救いたいってニコラの思いに応えて、あの祝福を贈ってくれたのだ。だから……

「どう使えばいいのかは、その時がくればきっとわかるわ。先にいってて、ニコラ。ピアさんのために、デ・ルドリウ様も助けて。アタシも後から追いつくから」


《ちょっ! ジャンヌ! おい!》

 アタシの思考を読んだピオさんが、止めようとする。

 けど……

「なんとかできるかもしれないんだもん。賭けてみてもいいでしょ?」


『勇者のサイン帳』を通して、マルタンを降ろす。

 神の使徒を、ゴーレムたちにぶつけてやるわ。


 マルタンなら、巨大ゴーレムにも勝てる……はず。

 体を貸すのはものすご〜く嫌だけど! 特別に貸してあげるわ!

 勝ってみせて!


「ピクさんは、同化をといて。ニコラにくっついて」


《だども、ジャンヌ》


「アタシは平気だから」

 使徒様には、空気中の魔素を使って、神聖魔法うってもらう。

 けど、このまんまアタシに同化してたら、ピクさんまで魔力としてあいつに吸収されかねないから。

「ピクさん、アタシの内から早く出てって。ニコラを連れてできるだけ遠くへ行って」


《無茶言うなよ! この黒ウサギどもはどうすんだよ!》

 怒鳴るピオさんに、

「それも、大丈夫!」とすかさず答えた。

 マルタンの神聖魔法は、生あるものに対しては、綺麗さっぱり、まったく、完璧に役立たず。毛ほども効かない。

 けど、神の理の下にないものには、ものすごく有効。邪悪だけではなく、魔法生物も祓えるのだ。

 更に言えば、勇者の仲間枠に入る(イコール)神の庇護下に入るで、神聖魔法では殺しきれないモノになるとか何とかまえにあいつは言ってた。つまり! クロさんたちを消滅させることなく、邪悪な意志だけ祓えるわけで!


 あとは神の使徒様に、お任せして問題はない……はず!


「ピクさん、今すぐアタシの内から出てって」

 精霊支配者(アタシ)に命じられれば、しもべは逆らえない。

 アタシの内から抜け出たピクさん。親指サイズの黒クマさんが、ニコラの白い髪の上にちょこんとのっかる。その黒い瞳を、うるうるとうるませながら。


《ジャンヌ。無茶しねえでけろ》


「うん、そうする」

……と、答えた時だった。


《ジャンヌ!》

 ピオさんの鋭い声が響いたのは。


 ガツンガツンと。速攻でぶつかってくる黒ネコとキャベツ。

 そして……番長黒ウサギが溜めに入っているのが見えた。

 黒い木刀(もどき)を、肩に背負うように構えている。

 切っ先は自分の目の高さ。

 どっしりとした腰つき(ウサギだからだけど!)も、やけにさまになっている。

 まるで剣の達人――ヨリミツ君のようだ。


 黒の武器に、炎とも闇ともつかぬものがまとわりついている。

 それが徐々に大きくなり……

 巨大な火柱となった。


《ダメだ、まだ跳べねえ》

 ピクさんの泣きそうな声。

《逃げらんねえ》


 赤黒く燃える刀を抱えて、クロさんが跳ね出す。

 カラコロと鳴る鉄下駄。

 白い学生服を着たクロさんは、やがて炎に包まれ……

 炎と一体化して駆けて来る。


 まさか、あれは……

 番長奥義『炎の友情 夜露死苦』なんじゃ?


 ヤバイ! ヤバイ! これは、明らかにヤバイ!


 アタシは胸元の『歴代勇者のサイン帳』に左手をあてた。


 マルタン、来て! と、心の中で叫びながら。



* * * * * *



 使徒降臨。


 それは、落雷のようだった。


 ずどぉぉんと、頭から足の先までが貫かれたかのような衝撃。

 その後、全身に激しい痺れが広まった。


 体中が熱くて、燃えそうだ。


 目まいを感じながら、アタシは……


 やたら大声で、

 肩を大きく揺すり、

「ふはははははは!」と大口を開けて笑っていた。


 笑ってないで、クロさん止めて〜 と思ったんだけど。


 見れば……

 番長黒ウサギも、黒ネコも、キャベツも。

 それどころか、赤クマさんも、黒クマさんも、ニコラまでも側に居らず。

 みんな、ちょっと離れた所に転がっていた(クロさんは、まだ燃えてる)。

 使徒降臨の衝撃で、弾き飛ばされたっぽい。


「邪悪あるところに光あり・・・」

 恥ずかしいぐらいの高笑いをやめ、アタシがババッといろんなポーズをとる。

「光の中に生まれ、光を広める。それが俺の定めなのだ」


 番長黒ウサギ、黒ネコ、キャベツが立ち上がったところで、

儚キ夢幻(ミラージュ・)ヨリ舞イ堕リシ(レクイエム・)天獄陣(ジェイル)!」

 アタシの内なる奴が、足止め魔法を唱える。

 上空から無数の光の矢がシャワーとなって辺りに降り注ぎ、ゴーレムたちを貫いた。

 クロさんたちだけじゃなく、他のゴーレムも……

 て。

 ちょっ! ニコラまで、矢に刺さってるわよ!

 頭から地面まで貫かれている様は、実に痛そうだけれども……光り輝く矢は現実のものではない。(よこし)まなものだけを封じる、魔法矢なのだ。


 アタシは……アタシの内の使徒様は、またバカ笑いを始めた。

「素晴らしい、どこもかしこも嘆きの声に満ちている! しかも、ここは幻想世界! 空気中にまで、魔力の源があふれている! 内なる俺の霊魂が、神聖魔法を撃てと、マッハで俺に告げている!」


《ちょっ! 笑ってねーで動けよ、神の使徒!》

 アタシの代わりに、ピオさんが突っ込んでくれる。

《とりあえず、ニコラの矢を抜いてくれ! それから、ゴーレムどもを止めてくれ! このまんまじゃ、森の王の座所も、巨大ゴーレムに踏み潰されるぜ!》


 アタシに降りて来たものが、フッと鼻に抜けるように笑う。

「・・言いたいことは、それだけか?」

 でもって、チッチッチッと指を振る。

「既に、さっさと、とっくに、足止め魔法をうった。神の使徒たるこの俺の魔法をくらったのだ。この近辺に、動ける邪悪はもはやただの一体も、」


 と、使徒様が言いかけた時だった。


 ちょっと遠くから、悲鳴が響いてきたのは。


 使徒様が、そちらを向く。

 そこには……山よりもデカい巨人ゴーレムの姿があった。

 その体には無数の矢が刺さってはいるものの……

 巨大ゴーレムは、歩き続けていた。

 ぜんぜん足止めになってない。

 不格好な泥人形みたいなゴーレムは、森の樹木をなぎ倒し、踏み潰し、エルフたちを追い立てながら、尚も進んでいる。


《あれ、まだ動いているけど?》

 てな、ピオさんのツッコミに、


「・・・・・・・・」

 さすがの使徒様も、一瞬黙った。けど、

「ククク・・こうでなくてはな。歯ごたえのない敵ばかりでは、物足りないと思っていたのだ」

 すぐに取り繕った。

 てか、腰をくねっとひねった変なポーズ、やめてくんない? 顔の半分を左手で隠してるのも、恥ずかしいわ。今、あんた、アタシに憑依してんのよ。


「褒美だ、そこのデカブツ。きさまに、俺の本気を見せてやろう・・・」

 え?

 あんた、今まで手ぇ抜いてたの?


「ほんの10%ほどの本気だがな・・」

 ぉい! 本気なら、100%出せよ!


聖気(オーラ)10%解放!」

 ぐぅぅぅんと。

 アタシのまとう光が、猛烈に膨れ上がる。

 なんか……凄い勢いでいろんなものがアタシの中に流れこんできてるような……。


「ククク・・きさまの命は、もはや風前の灯火。真の光の前では、魔王すら赤子も同然。マッハで消え去るのみなのだ・・」

 ポーズとってねえで、働けよ!

 巨大ゴーレム、あんたをガン無視して進んでるわよ!


《おい、ニコラを》

 ピオさんを横目で見てから、使徒様が左の掌を白い幽霊へと向ける。

 パリィィンと音をたて、ニコラを貫いていた矢が全て砕け散る。

 へたっと、その場に崩れ落ちるニコラ。

 ピクさんが、慌てて治癒魔法をかける。


「その悪霊を連れて失せろ」

 一呼吸置いてから、使徒様が言葉を続ける。

「邪魔だ」


 使徒様がパチンと指を鳴らすと、今度は大量の水が。降ってきた水が、番長黒ウサギの全身を包んでいた火を消し去る。

 クロさん、ミー、キャベツは矢に刺さったままだ。手足をジタバタさせてるけど動けないみたい。矢が外れる気配はない。


「ここからは聖戦の時間だ・・俺が真の姿となる前に立ち去れ、俗物ども」


 へ?


《ピオ、い、今なら、おら、跳べるかも》

《いや、でも。ジャンヌをこのまま放っては……》

《おねーちゃん……》


 戸惑う三人と対面したまま、マルタンが両手を胸の前で交差(クロス)させる。


「今こそ解き放つぞ! 見よ、内なる俺の霊魂の輝きを!」

《え? 見るんだか? 立ち去るんじゃなくって?》

 てなピクさんの質問は、無視。

 使徒様は、交差させた両手を徐々に上へと向け……

「疼いてきた・・疼いてきたぞ。うぉぉぉぉぉぉぉ!」

 なんだか叫んで。


 腕が額にさしかかった時。

 ズドォォンンと、衝撃が!

 デコピンの何十倍も痛いっていうか!


「開け、秘められし魔眼!」

 は?


 交差させていた手を降ろし、使徒様がニヤリと笑う。それは、もう嬉しそうに、口元をゆるませて……。

第三の眼(ザ・サード・アイ)! 開・眼!」


 ちょっ!

 アタシの額に、目が生えた?

 アタシ、今、三つ目になってんの?


「ククク・・まだ、だ。俺の力はこんなものではないぞ。ここは、幻想世界。空気中の魔素を使えば、神聖魔法使い放題、変身し放題だッ!」

 なんですとぉ?


 めりめりめり、と背中のあたりから音がする……


 いや、そんなに痛くはないんだけど……


 だけど……

 だけど……


 やめて、マルタン!

 アタシの体で、変なことしないでぇぇ!

 やるんなら、自分の体でやってぇぇ!


 あああ……ピオさん、ピクさん、ニコラがこっち見てる……


「爆ぜろ、無限を超越し闇の炎よ」

 なんか背中から、バサッと出て来たぁぁ!


「覚醒せよ、暁を統べる至高神の翼」

 更に、デッカイものがバサァァっと!


「光と闇・・ 両方をそなえしものこそが最強・・それが宇宙の黄金律! 自ずと自明だ!」

 にやついた顔で叫ぶな、この厨二病!


 アタシ、三つ目どころか、背中に光と闇の翼も生やしちゃって……る??????


 いやぁぁぁ――ッ!


《ピオ、行こう……おらたちがいると、ジャンヌも、その、困るだろうし……》

《あ……うん》

 ありがとう、ピクさん、心づかいが嬉しい!

《おねーちゃん……カッコイイ》

 いやぁぁ、違うのよ! これはアタシではなく! アタシの中のアレな奴が、暴走してるだけなのぉぉ! 見ないでぇぇ!


 三人が移動魔法で消える。


 そして。


「行くぞ、デカブツ!」

 高らかに宣言してから、アタシの体がふわりと宙に舞い上がる。


 ぐんぐん巨大ゴーレムを目指しているのはいいとして……


 背中の翼が……まったく羽ばたいていない。


 もしかして、今、空中浮遊の魔法で飛んでるの?


 んじゃ、背中の翼って、意味ないんじゃ!

 白黒で二対も生えてるのに!

 ただのファッション????

 もしかして、第三の眼も、格好だけ???

 いや、眼からビームとかされても困るけど!


 だけど! だけど! だけど!


 くぅぅぅぅぅ。


 自分の顔がニヤケてるのがムカつく!


 アタシは……アタシの中のマルタンは、高みからびしぃっと前方を指さす。

 巨大ゴーレムを指さしているようだ。


「邪悪に踊らされし、哀れなる傀儡よ。怨むなら、きさまに破壊を命じた創造主を怨め。内なる俺の霊魂が、マッハで、きさまの罪を言い渡す」

 一瞬の溜めの後、アタシが叫ぶ。


「有罪! 浄霊する!」


 アタシの中に、ギラギラ光る大きなものが生まれている。

 マルタンのグッバイの魔法の聖霊光だ。

 このまえは、これを作り出す為に、アタシの中のいろんなものが吸われた。生命力とか、アタシと同化していた雷精霊(レイ)とか。


 けれども、今、アタシの体に負担はかかっていない。

 空気中の魔素――魔力の源を吸収することで、マルタンは神聖魔法を撃とうとしているのだ。


 アタシが……いや、マルタンがニヤリと笑う。


「その死をもって、己が大罪を償え・・・真・終焉ノ(グッバイ・)滅ビヲ(イービル・)迎エシ神覇ノ(ファイナル・)贖焔(バーン)!」


 内なる光が一気にふくれ上がり、どデカい白光の玉と化してアタシの肌をつきぬけてゆく。


「ククク・・・滅べ」

 神の使徒が呟くと同時に、浄化魔法が爆発的に周囲に広がっていく。

 アタシを中心にして、四方へと広がっていったのだ。


 その光に、魔法生物たちは、形を崩していった。石像から、ただの岩の塊へと。あるべき姿に戻り、溶けるように大地と一体化していく。

 巨人ゴーレムも例外ではなかった。

 山のように大きなゴーレムも崩れ落ち、そして……






 エルフたちが残った。


 残ってしまった……


「ククク・・・光の使徒たるこの俺様の道を塞ぐとは、まったくもって、ただひたすら、どこまでも憐れな奴等だ」

 などとアレな言葉を吐いて宙に浮かんでいるアタシを、エルフたちは尊敬の眼差しで見つめているのだ……。


「ありがとうございます、花エルフの友よ」

「卑劣な森の破壊者めを滅して下すったこと、赫々たる我が一族は感謝します」

「誇り高き我が一族は、受けた恩を決して忘れません。エルフの友の聖なる姿を、語り継ぐことをお約束します」

「栄えある我が一族が、永遠にあなたの偉業を称え続けましょう。白と黒の翼を持つ三つ目の女勇者よ!」


 語り継がんでいい!

 忘れて!

 今のアタシの姿は、忘却の彼方に追いやってぇぇ〜


 まあまあまあ抑えて抑えてって感じに、アタシの内の奴が軽く手を振る……けど、口元はにやけまくってるのよね。


 マルタンが、東へと顔を向ける。

「何処かで誰かが、俺の助けを待っている。神の奇跡を起こすのが、俺の存在理由。行かずば、なるまい・・」

 言いたいことだけを言って、使徒様が方向転換をする。

 けれども、すぐに空中移動を一時停止。

「俺としたことが・・言い忘れていた・・」

 背中の白黒のデカい翼を見せつけながら、軽く左手をあげる。


「きさまらに、神のご加護があらんことを。あばよ・・・」


 とっとと旅立て、キモ男!


 ていうか!

 エルフさんたち、声援なんか送んないでください! この男、どんどん図にのりますから!

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