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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
幻想の野ふたたび
166/236

竜の咆哮

 タコ、タコ、タコ!

 イカ、イカ、イカ!

 ヘビ、ヘビ、ヘビ!


 崖下の海から、クラーケンに巨大イカにシーサーペントが現れる!


 うぉ!

 触手とか長い海蛇が、うにょうにょ、ずもももぉぉんと、こっちへ!


《おっと》

 ヴァンが、迫り来る触手と牙を避ける。

 アタシを抱っこしたまま上昇してゆくヴァンに代わり、

「俺のジャンヌに何をする!」

 兄さまが特攻!

 ワン・パンチで、襲撃者を海に沈めてゆく。


 すごい!

 クラーケンも巨大イカも一発だわッ!

 て……あれ?

 クラーケンって、タコだっけ? イカ……? もしかして、タコもイカもクラーケン?

……ま、いっか、なんでも。


 それより、兄さまが変。

 海中から現れた奴らのそばを飛び回ってる。

 兄さまが、空飛んでる????


《違うよ。飛んでるわけじゃあない》

 解説しながら、ヴァンがプッと吹き出す。

光精霊(しもべ)の力で、跳んでるんだ》

 む?

《ジャンプだよ、ジャンプ! 光速で移動できる光精霊の力を使ってさ! 右足がつく前に左足を、左足がつく前に右足を出して、宙に浮かんでるわけ!》

 ヴァンが、ゲラゲラと笑う。

《あったまわるぅ! 光精霊使って、これかよ! やだもう! オジョーチャンの兄さん、ほんとサイコー!》


 海面を蹴って、兄さまが上昇してくる……あれは、沈むよりも前にジャンプしたってこと?


 これが、北での修行の成果?

 格闘家というより、既に人間ですら……

 いやいやいやいや! 義妹でも、これ以上はダメ! 心の中ででも、思っちゃいけない!



 崖上は岩場だ。


 戻ると、こっちはこっちで凄いことになってた。


 小鬼(コボルト)、リザードマン、狼、ハーピー、スライム……。今にも飛びかかってきそうな形相のモンスターたちに、仲間たちは囲まれている。


 けれども……

「おさがり!」

 モンスターたちは、近寄れない。

 威厳あふれる声が響く度、じりじりと下がって行く。

「もっとよ。もっと遠くへ」

 有無を言わさぬ声と言おうか。凄味の利いた声に、空気まで振動する。


 ジュネさんだ。

 鞭を片手に、モンスターたちを睥睨する獣使い。

 風に靡く金の長髪、呪術化粧で彩った美しい顔。

 その威圧的なお姿は、女王様のようだ。


「のろまども! とっととおさがり!」

 右手の鞭がしなり、風を切る破裂音と、地面を叩く音が響く。

「このあたしの命令が聞けないって言うの?」


 そこへ。

「……ジュネ、もういい」

 近寄る男が一人。


「……みんなの殺意は消えた、と思う」

 ジュネさんと同じ呪術化粧。前髪で両目を隠し、左手に黄金弓を持った小柄な男。

 メインジョブが農夫で、サブジョブが狩人の人が一歩踏み出すだけで、周囲が色めきだつ。

 目は爛々、尻尾ふりふり、翼バサバサ。よだれを垂らし、中には泡を吹くものまで。

 テンションが高くなって、駆けて来るモンスターたち。

 みんな、エドモンへまっしぐらだ。


 その勢いを殺ぐように、ジュネさんが鋭く叫ぶ。

「伏せ!」

 モンスターたちが一斉に反応。

 ザザザーとスライディング土下座のように、ひれ伏してゆく。

 うわぁ。岩場で、それは痛いんじゃ……

 あ〜でも、ぜんぜん気にしてないな。

 どうにか頭をあげ、上目づかいにエドモンを見ようと必死だ。彼らの目は、まるで恋する乙女。ハートマークだ。


 すっごい人気だわ、エドモン……。


「なにがあったの?」

 ヴァンに抱っこされたままのアタシと、空を跳んでいた兄さまが、クロードのそばに着地。ヴァンはすぐに、アタシを地面にそっと降ろしてくれる。

「クロード?」

 反応がない。

 目を閉じ、杖頭のダイヤモンドを額にあて、クロードはブツブツと何かつぶやいている。呪文を唱えているようだ。


《モンスターがおそってきたんだ》

 白い幽霊のニコラが、アタシに背を向けたまま答える。

《それを、ジュネおにーちゃんが声で止めたんだよ》

 へー

 ざっと見ただけでも、二〜三十匹はいそうなのに。

 さすが、ジュネさん。スーパースター獣使い。

《エドモンおにーちゃんがいるから、ここの子たちはまともになったけど……》

 ん?


 ニコラが振り返り、アタシを見上げる。


 ぎょっとした。


 口をむっつりと閉ざし、眉をしかめた不機嫌顔。

 なのに、目にはなんの感情も浮かんでいない。

 じーっと、こっちを見る目が、なんか怖い。


 やだ。どーしちゃったの?

 アタシ、なんか悪いことした???


 ニコラが、チッと舌打ちをする。

《また、だ》

「また?」

《また吠えた!》


 ニコラがアタシに背を向け、遠くの空を指さす。

《あっちで、あいつが吠えてるんだよ》

 くやしそうに、ニコラが地団駄を踏む。

《だまれ、だまれ、だまれ! うるさいんだよぉぉ!》

「ニコラ、ちょっと、だいじょうぶ?」

《だまれよ! おまえのせいで、ピアさんも!》


「落ち着け、ニコラ」

 兄さまが、白い幽霊を抱きしめる。


 もしかして、吠えてるのはデ・ルドリウ様?


 アタシと目が合ったヴァンが、頷く。

《オジョーチャン。耳、貸そうか?》

「お願い」

 精霊の感覚は、人間よりも遥かに優秀だ。

 動態視力は抜群にいいし、遥か遠くの音も聞き分けられる。

 ヴァンはスッと沁みるようにアタシの内に入って来た。


 音が聞こえる……

 ごうごううなる風のように低いのに、時には笛の音のように高くなる音……

 これが、竜の咆哮?


 モンスターたちは、震えている。

 ものすごく甲高い音が響いた時には、あからさまにびくっと怯えるもの多数。

 けれども、その恐怖も、

「……だいじょうぶだ」

 エドモンの一言で吹き飛ばされる。

 モンスターたちは、絶対の信頼と愛情のこもった瞳をエドモンに向け、大人しくなる。


「……声は、来いと言っている」

 エドモンが、ぼそぼそっとつぶやく。

「……あらゆる獣よ、竜王のもとに集え、と」


「それから、王の敵を殺せ、ね」

 ジュネさんが、ふんと息を吐く。

「竜王に逆らうものを引き裂け、ですって。声に応えないものは、皆殺しってとこね。胸糞悪い命令してくれちゃって」


「なんて吠えてるか、わかるんですか?」

「……なんとなく」

「わかるわよ。獣使いですもの」


「さっきのタコやイカも、ここのトカゲ人間たちも、竜王に操られて俺達を襲ったってことか」と、兄さま。


「咆哮が聞こえる範囲に居るものすべてが、ターゲットよ。操られるか、正気を保ってるせいで命を狙われるわけ。しかも、この声……」

 ジュネさんが空を見上げる。

「動いているわね」


「……飛びながら、吠えている」

 エドモンが、ポツリとつぶやく。

「……おれも、あのひとの背に乗って、飛んだ……とても速かった」



 強い風を感じた。

 ニコラだ。

 兄さまの腕の中のニコラから、風が吹いている。

 よく見れば、その小さな体には黒い靄のようなものがまとわりついている。


「ニコラ?」

 もしかして、悪霊化しかけてる?


《くそぉ! 殺してやる、あいつ! あいつのせいで、ピアさんが!》

「ニコラ、殺しちゃ駄目だ」

 暴れるニコラを腕に抱きながら、兄さまが叫ぶ。

「ピアさんの本当の主人は、竜王だ。竜王が死ねば、ピアさんも死んでしまうぞ」

「そうよ! それに、デ・ルドリウ様も操られてるかもしれないのよ!」


《じゃあ、はん殺しだ! 口をひきさいてやる! のどもつぶす! つばさも、もいでやるんだ!》

 白い涙をこぼし、めちゃくちゃに両腕を振るうニコラを兄さまが強く抱きしめる。

「それも、駄目だ。ニコラ」

《なんでさ? あいつのせいで、ピアさんもここの子たちもおかしくなってるんだよ? あいつさえいなければ!》

「駄目だ、ニコラ」

 兄さまが、強い口調で言う。

「竜王は止める。だが、力づくとなっても、俺がやる。おまえは、手を出すな」

《どうしてさ!》

「今のおまえには、怒りしかない。そんな気持ちのまま竜王に暴力を振るっては、駄目だ。おまえの(おとこ)がすたる」

《え?》

「相手のことを思いやらず一方的に暴力を振るえば、このまえの俺のようになってしまう。学者を……テオドールをしめあげた時の俺は最低だったろ? おまえはああなるな」

 は?

 なんのこと? 兄さまがテオをしめあげた? それ、いつのこと?

《ジョゼおにーちゃん……》

「おまえの魂がすこやかであることを、俺もアンヌおばあ様もピアさんも願っている。今のおまえが戦っても、ピアさんは喜ばないだろう。だから、やめておけ」


 黒い靄のようなものが薄れ、消えゆく。


 うつむくニコラを、兄さまは、ただ抱きしめる。

 ただ……抱きしめる。



 ごにょごにょと何かを唱えていたクロードが、動き出す。

 両手で握りしめた杖で、勢いよく地面を突き、叫んだのだ。

「大魔法使いダーモットさん。絆石を通じてお願いします。幻想世界の生き物たちのために、お力を!」


 杖底から、なんか赤い光が広がったような……?


《目も貸すよ》

 ヴァンの声が聞こえた途端、今まで見えなかったものが見えるようになった。


 クロードが杖をついた場所に、クロードと重なるように、巨大リッチが佇んでいる。

 二階建ての建物くらい大きい。

 ボロボロのローブをまとった、角つきの杖を持つ魔法使い。

 ローブから覗く顔は、髑髏だ。眼球すらない虚ろな目、肉も血もない白い骨。

 突如出現したダーモットに、怯えるモンスターたち。けど、エドモンの「……だいじょうぶだ」の一言で大人しくなる。


 ついでに言うと、周囲がぜんぶ変!

 現実に重なるように、八色の小さな玉が浮かんでいるのだ。

《魔素さ》と、ヴァン。

《幻想世界は、大気にまで魔力の源があふれている。魔法的な力を振るうと、空気中の魔素が呼応し、威力が増すって聞いたろう?》

 これが、そうなのか!

 それこそ、敷き詰めた砂のようにびっしりと、魔素ってのがある! ぶつかっても痛くないし、動くのの邪魔にはならないけど! 呼吸したら、鼻や口から入ってきそう。

《吸っても、へーき。害はない》

 ホッ。

《むしろ、いいことづくめ。若さや健康が保てて、美肌になるぜ》

 あらま!

 いいこと聞いた!

 スーハー! スーハー!



 リッチが、ゆっくりと杖持つ右手を動かす。

 と、同時にクロードも動く。巨大リッチとまったく同じように。


 同調(シンクロ)してるんだ。


 クロードの杖頭とリッチのそれが、前方を指し……


 それだけで、魔法が発動する。


 リッチの杖の先端から光が炸裂し、生まれ出た光に空気中の魔素が反応する。

 炎の色、水の色、風の色、土の色、氷の色、雷の色、闇の色。

 光系を除く七種の魔素が術に吸われてゆき、魔法の輝きをより鮮やかにしてゆく。

 杖の先端から生まれた光が、ジグザグに走る。広がりゆくそれが、呪模様を描いているのだと気づいた時には、複雑な魔法陣が幾つも完成していた。空気中、地面、地面の中、海中……あらゆる場所の様子を、ヴァンが見せてくれる。


 ふっと声が聞こえなくなる。

 恐ろしげに聞こえていたドラゴンの声が、まったく聞こえなくなったのだ。


「大魔法使いダーモットさん。絆石を通じて、この地の守護をお願いします!」


 巨大リッチの姿が薄れ、空に飲まれるように消えてゆく。


 クロードの体から、かくんと力が抜ける。

 アタシが慌てて駆け寄った時には、幼馴染は杖を支えに地面にへたりこんでいた。

「大丈夫、クロード?」

「へーき、へーき」

 ほにゃ〜とした笑顔は、いつも通り。だけど、顔色が悪い。

「ピクさん、治療してあげて」

 闇精霊を呼び出し、クロードの治癒を頼んだ。


「今の魔法なぁに?」

「結界をつくったんだ。竜王の魅了の声を聞こえなくして、中にいるものを元気にする結界だよ」

「へー」

「絆石の指輪を地面に埋めて、それを核にして、結界をつくったんだ。指輪が壊されない限り、結界は解けないよ」

《ま、ざっと100平方kmぐらいが結界の中だね》と、ヴァン。

 へー

「すっごいじゃない、クロード」

 幼馴染が、弱々しくかぶりを振る。

「すごくないよ……ダーモットさんのお力を借りても、これ以上大きなものはボクにはつくれなかったんだ。この世界のほとんどの場所は、デ・ルドリウ様の声の脅威にさらされたままなんだよ」


「ダーモットとは連絡ついたの?」

 それに対しても、クロードは弱々しく頭を横に振るだけだ。

「魔力を貸してくださったから、ご無事なのは確かなんだけど……呼びかけても、ずーっと返事が無いんだ」

 しょんぼりするクロード。その肩を、大丈夫だと叩いてあげた。



「……だから、ちがう。おれじゃない」

 平伏するモンスターたちに、エドモンがどもりながら説明をする。

「……竜王の、声を、退けたのは、あそこの、ピンク頭の魔術師だ……おれは、なにも、してない」

 けれども、モンスターたちは、エドモンにひたすら頭を下げ続ける。まるで臣下のように。


「ま、『獣の王』と同じパーティの奴がやったことですもの。こいつらにとっちゃ、新たな王が示してくださった慈悲も同然。甘んじて、崇拝を受け止めときなさい」

 ジュネさんにそう言われ、エドモンは下唇をつきだした不機嫌顔で黙る。


 一応、このパーティ、『勇者一行』なんですが……いつの間にやら『獣の王パーティ』に。

 獣たちには、エドモンが一番偉い人に見えるのか。

 次はジュネさん?

 その次はクロード? 兄さま?

 アタシ、きっと下っ端扱いなんだろうなあ……。



「勇者! あんた、異世界の勇者だよね?」

 お?

 モンスターたちの中に、頭をあげてるものが。

 蒼の剛毛で覆われた逞しい体の狼……


 やけに懐かしい姿……


 あ?


 あれ?


 もしかして?


 もしかすると?


「カトちゃん?」

 狼王のカトちゃんでしょ?


 笑顔で聞いたら、はぁ? って顔をされてしまった。

 誰それ、って感じに。

 ひとちがい……いや、狼ちがいしちゃった?


 狼が、エドモンの方を見る。

 エドモンが頷いたので、狼がアタシへと向き直り、大きな口を開いた。


「あたしは、キーラー。狼王カトヴァドの姉よ」

 カトちゃんのおねーさん?

「あんた、カトヴァドに会ってない?」

 へ?

 アタシはかぶりを振った。

「このまえ別れたっきりよ」

「そうか……わかった」


 カトちゃんと出会った日の記憶が、いきなり鮮明になる。ヴァンが、アタシの記憶を活性化してくれたのだ。


 結界の中にこもるアタシたちの周りを、大狼バージョンのカトちゃんがうろうろ。

 で、アタシが目にした途端、恋におちて(後で、それは誤解だったってわかるんだけど!)理性を失って襲いかかってきたのだ。

 巨大狼が、結界を、氷柱(つらら)みたいにとんがった牙でガブガブ、丸太みたいにぶっとい腕と爪でバンバン!

 ほんと、喰われるかと思ったわ!

 カトちゃんを止めてくれたのが……カトちゃんのおねーさん、キーラーさんだった。


 思い出した!

 その節はお世話になりました、おねーさん!


「あたしも群れのみんなも、あの声に惑わされていた。カトヴァドに代わり、王の姉が勇者たちに感謝する」


 いや、いいわよ、感謝なんて!


「あの声は、竜王のものだとおまえたちは言っていた。それは、ほんとうか?」


 アタシは、エドモンとジュネさんを見た。そうだ、と二人が頷く。


「デ・ルドリウ様の咆哮で、間違いないみたい」


「わかった」

 狼がすくっと立ち上がる。人間みたいに、後ろ足だけで立ってる。兄さまよりも、ずっと背が高い。けど、記憶の中のカトちゃん大狼バージョンよりは小さいような……。

「なら、狼王カトヴァドの群れは、竜王と敵対する。あたしたちを辱めた報復をする」


「ワーウルフ。キサマラ、ドラゴン陛下ニ、タテツク気カ? ドラゴンハ、神ダゾ」

 と、叫んだのはリザードマン。

「なら、あんたたちは、ドラゴンの手下になればいい。自分をなくし、殺し合うだけのものになど、あたしはなりたくない!」

「ムゥゥ……。ワレラハ、鱗持ツモノ。ドラゴン陛下ニハ、逆エヌ。シカシ、狂戦士ニナルコトモ、望マヌ」


 ぎゃはははと笑ってから、「コロセ、コロセ♪」と歌い始めたのはハーピー。


 スライムも、もぞもぞしてる。


「イダイなるダイオウさま! おタスけください!」と、エドモンに土下座を続ける小鬼。


 騒ぎ始めたモンスターたちを、

「お黙り!」

 獣使い様が鞭を一閃。地面を叩いて黙らせる。


「あんたたちは、このまま結界の中にいなさい! 外に出たら、またドラゴンにあやつられるわよ!」


「だが、ワーウルフは仲間を見捨てない」

 ジュネさんから目をそらし耳を伏せながらも、キーラーは言うべきことを口にする。

「……弟は……カトヴァドは、昨日から竜王のもとだ……あたしは、助けに行く」


 カトちゃんが、デ・ルドリウ様のところに?


「カトヴァドは、毎日、竜王の支配領域(テリトリー)に行っていた」

 カトちゃんのおねえさんが、アタシを見る。

「『ヨメと、エドモン、今日こそきっと来る!』って叫んで……毎日毎日……竜王のもとに通っていた」


 アタシとエドモンを待ってた?


「それで、毎日、しょんぼりと尻尾をたらして、帰って来てたんだ……」


 いつ来るかわかんないアタシたちを待ち続け、デ・ルドリウ様のもとへ通ってたなんて……

 知らなかった。

 アタシの胸は、きゅぅぅんとなった……


「カトヴァドは狼王だ。群れのために、失うわけにはいかない……だけど、そうじゃなくても」

 キーラーがうつむく。

「だいじな弟だ。父さんも母さんも兄さんも、もういない。流行病で死んだ。あたしは、カトヴァドまで失いたくない」


「大丈夫!」

 両の拳を握りしめたクロードが、すっごい勢いで立ち上がる。

「カトヴァドくんは、ボクらが助けるよ!」

 黒クマさんを頭にのっけたまま、クロードが叫ぶ。

「ボクら、これからデ・ルドリウ様に会いに行くから! カトヴァドくんが捕まってたら、助ける! 洗脳されてたら、もとに戻す! ぜったい大丈夫!」

 クロードが、掌でエドモンをさす。

「こっちには、獣の王、かっけぇエドモンさんが居るから!」


「そうよ。あたしたちに任せなさい。あんた、群れのサブリーダーなんでしょ? 狼王がいない今、あんたは群れを率いるべきだわ」

 獣使い様も、きっぱりと言う。

「竜王は、エドモンとあたしに任せなさい。あたしたちが、きついお灸をすえて反省させるから、それで良しとしてちょうだい」


「……みんな、ここにいてくれ。頼む」


 キーラーたちはエドモンを見つめて、うっとりとした表情で頷く。


 なんとなく……サキュバスに魅了された男たちを思い出した。

 魂を奪われるって点では、どっちもどっちのような……。

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