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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
幻想の野ふたたび
164/236

◆三つの夜◆

「え? まったくなんにも、飲み食いできないんですか?」


 茫然とした顔のジュネに、じいちゃんが頷いてみせる。

「うむ。機械化部分はエネルギーパックを燃料として動いておる。生体部位も定期的に有機栄養剤を注入をしてもらっておるのだ。わしゃ、サイボーグになったのでの」

 じいちゃんが、カカカと笑う。


 じいちゃんは生まれ変わった。

 呪われた箇所を切り離すついでに、全身さいぼーぐになったのだ。

 首から下は、ツルツルのテカテカ。メカの体だ。

 首から上は、一見、変わってない。だが、皮膚も目も骨も、髪の毛や髭にいたるまで、ぜんぶ作り物だ。人工有機物と言うのだそうだ。


 今のじいちゃんは、片手で岩をも砕ける。

 腕は換装式で、銃や剣になったりする。

 めちゃくちゃカッコイイ。


 さすが、じいちゃんだ。



「すみません。そんなこととは知らず、あたしったら一人で浮かれて……」

 シャンパンのボトルを手にしたジュネが、しゅんとうなだれる。


 賢者が敵方に寝返った今、祝い事なんかできるわけがない。

 でも、呪いを祓えたことを祝いたい。内々に、三人だけで祝杯でも……

 そんなジュネの心の内は、じいちゃんにはしっかり伝わっている。

「乾杯といこう、ジュネ。わしの分は、のんべの愚孫に飲ませる」

「おじいさま……」

「すまぬの。いろいろと心配をかけた。じゃが、このとおり元気になった。ひ孫が産まれるまで、わしゃ、何が何でも生き抜くぞ」


「おじいさま!」


 ジュネが、じいちゃんにひしっと抱き着く。


「あ〜ん、エドモンのベイビーが産まれるまでだなんて! そんなことおっしゃらず! ずっとずっとず〜っと、お元気にお過ごしください! 十年でも百年でも!」


「わしは、もうすぐ六十じゃぞ。百年は無理じゃな」


 ガキのころ、ジュネはおれの家に住んでいた。おれの家から、学校に通っていたんだ。

 今も、家族ぐるみのつきあいをしている。

 じいちゃんのことも、本物のじいちゃんみたいに思ってるようだ。


「今のところ、エスエフ界から持ち込んだもので命をつないでおる。が、ゆくゆくは、ルネ殿が魔法炉のエネルギーを燃料に変換するシステムを開発してくれる事になっていての。じじいの身ながら、まだまだ何十年も生きられそうじゃ」


「よかった、おじいさま〜」


「ほれほれ。泣かんでいい。別嬪な顔が台無しじゃぞ」


「ううう。おじいさまったら、お上手なんだからぁ。別嬪だなんて……」


「わしは、性的マイノリティーを差別せん。美しいものは美しいと認めるぞ」


「ああ、素敵! さすが、おじいさま!」


……長くなりそうだ。


 ボトルを、よけとくか。

 ジュネのことだ。

 じいちゃんの為に奮発して、かなりいい(もの)を持って来たはず。

 割れたら、もったいない。




 美しい琥珀色。

 豊かな泡。

 苦味を押さえた、スッキリとした味わい。

 いいシャンパンだ。


「……うまい」

 としか言いようがない。


 口元がゆるむ……



「祝杯をありがとう、ジュネ。目で楽しませてもらったわい。わしは部屋に帰る。エドモンともしばらくぶりじゃろ? じっくり話をするがいい」


「……じいちゃん。おれ、今夜は、」

 じいちゃんと居たい。


 普通の顔をしているが……

 賢者が敵方に回って、平気なはずがない。


 勇者カンタンと冒険した昔を、じいちゃんはよく懐かしんでいた。

 しかし、共に旅した仲間エルマンはブラック女神の器となり、

 賢者もまた同じ道を歩んでしまった。


 辛いはずだ。


 せめて、今夜くらい……


「エドモン」

 じいちゃんが、おれの鼻先に指をつきつける。

「わしのことはいい。わしに構っている暇があったら、未来に目を向けよ」


 む?


「枯れ木も山のにぎわいじゃ。おまえでも、居ないよりはマシなはず。幻想世界で、ジャンヌ様をしっかり支えるのじゃぞ」


「それは……もちろん」


「どうやったらあの方を助けられるか、知恵をしぼっておけ。ジュネとも相談するがいい」


「……うん」


「昔っからおまえは、理由(わけ)もなく動物に好かれた。弓の才に恵まれながらも、狩人となる道を断念したおまえ。残念に思うていたが……それも、全てこの時の為だったのやもしれぬ」

 じいちゃんの右手がおれの肩をつかむ。

 機械でできた手だ。

「エドモン。竜王をしっかりたらしこめ。おまえにならできる。わしは信じているぞ」


……じいちゃん。

 無茶言わんでくれ。

 相手は、ドラゴンだぞ。




「じゃーん! 赤もあるのよ! おつまみも♪」


 むぅぅ……


 濃い赤。

 時間をかけて醸造された、いいワインだ。

 グラスから立ち昇る果実香も、素晴らしい。

 濃厚な味。舌に滑らかで、上品なコクと甘みがある。


 うまい。


 うますぎる。


 つまみもいい。

 特に、この塩漬けのオリーブ。オリーブそのものの旨みをひきだす、シンプルな味付けがいい。

 その上、香ばしいライ麦パンに、チーズに、いちじくのドライフルーツまで用意されては……


 いくらでも、杯が進んでしまう。


 明日は、異世界なのに。


「あら? これぐらい、エドモンにはジュースみたいなものでしょ? さ、飲んで、飲んで♪」

 じいちゃんが出てった後、ジュネと酒盛りになっている。しかも、

「いいの、いいの。あたし、お酒、あんま強くないから」

 ほとんど、おれが飲んでいる。

「うふふ。いいお酒を飲んでる時のエドモン、ほ〜んとかわいい♪ 抱きしめたくなっちゃう♪」

 いつものことだが……こいつは目がおかしい。腐っている。



「……あっちで、トマじいさんに会えたのか?」

 話題を振ると、とたんにジュネは無口になる。

「まあね」

「……どうだった?」

「あいかわらずだったわ」

 ジュネが、フンと荒い息を吐く。

「魔王戦よりも前には、北から出るって。ま、そのうち顔を見せるでしょ」

 ジュネは、実の祖父と仲が悪い。

 じいちゃんを慕うのは、その反動なのかもしれない。


「エドモンこそ、何かあったんでしょ?」

 美女にしか見えない幼馴染が、ジーッとおれを見る。

「やつれたもの。すっごく嫌なことがあったんじゃない?」


「……べつに」


「うふふ。嘘ばっか」

 ジュネがニッと笑う。

「隠し事はやめて。お酒が不味くなるわよ」


……なぜ、こいつにはわかってしまうのか。

 獣使いのこいつは、獣といっしょ。おれの心が読めるのかもしれない。


 ため息をついて、このところ頭を悩ませていることを話してみた。



「は? 生き物を殺そうとしてる?」

「……うん、だが、」

 重苦しい気持ちを息にして、吐き出した。

「……できない」


「そりゃそうでしょ。好き好き好きオーラの獣どもを、エドモンが殺せるもんですか」

 む。

「できれば、とっくのとうに、おじいさまの跡を継いでるものねえ」

 ぐ。

「なんで、そんな気になったわけ?」


「……ジパング界で」

 イバラギという奴に、賭けをもちかけられた。

 だが、おれは……敵であろうとも殺したくなかった。

 誰かを殺すぐらいなら、自分が死んだ方がマシだと……勝負から逃げてしまったのだ。

 あれは、幻術だったから、問題なかった。

 しかし、また、同じような状況になったら?

 百一代目の彼女が死んだら、おれらの世界は滅びてしまう。


『綺麗ごとをぬかす暇があったら、とっとと戦え。己が手を血に染める覚悟なき者には、何も救えぬわ』

 奴の言葉が、頭から離れない。

『腑抜けが、勇者の側にいては迷惑じゃ。主人(ゆうしゃ)を守りたくば、ためらいは捨てよ。敵を殺すべき時には、殺せ。貴様の為ではない。勇者の命の為だ』


「……いろいろあって……天界でも、」

 弱点克服の修行をした。

 仮装敵と戦闘をしたのだ。

 狼、猪、熊。それに、人間と対戦してみた。

 だが、おれは向かって来る敵に一矢も放てず……一方的に蹂躙された。

 やむなく、おれそっくりな敵を出してみた。

 他人を射れなくとも、自分ならあるいは……そう思ったんだが、放った矢がおれそっくりなものに刺さった瞬間、気が遠くなり……胃の中のものもぶちまけ、倒れてしまった。

 なんどやっても駄目だった……慣れなかった……おれは、まともに弓を使えなかった。

「……いろいろあった。百一代目の彼女を守りたい。だが……できないんだ」


「……そう。たいへんだったのね」

 なぜ、今の説明でわかる?

「ジャンヌちゃんの為に、信念を曲げたのか。ちょっと妬けるわね」

……なぜ、わかってくれるんだ?


「でも、護衛の仕方も十人十色よ。無理に敵を殺さなくてもいいんじゃない? エドモンはエドモンなりのやり方で、ジャンヌちゃんを守ればいいと思うわ」


「……しかし……」

 後の言葉を続けようと思ったが、できない。

『おれは強いようだ。ジパング界に行ったメンバーの中では、戦闘力も潜在能力も飛びぬけているらしい。イバラギがそう言っていた』とはさすがに言えない……恥ずかしくて。

 戦えぬ弓使いが言っていい言葉(セリフ)じゃない。

「……おれは、戦いたいんだ」


「……ねえ、エドモン」

 澄みきったグレーの瞳が、おれをまっすぐに見つめる。

「あたしに、体を預けてみない?」


 ん?


「……なぜ?」


 ジュネの美しい口元が、妖しく笑みを形作る。

「あたしなら、あなたの望みを叶えられる。今のあなたのままで、無敵の『獣の王』にしてあげましょうか?」


「……どういう意味だ?」


「言った通りよ」

 ジュネが悪戯っぽく笑う。

「あたしたち二人が力を合わせれば、無敵よ。竜王にも負けないと思うわ」


「……ほんとに?」


 ジュネが大きく頷く。

「ほんと、ほんと。あたしに、ま〜かせて♪」


「……酔ってるのか?」


「ま〜さか。あたしは、素面でーす」

 と、言ってケラケラと笑う。

……酔ってるだろ?


「竜王を正気に戻せたら、大手柄でしょ? あなたは戦えて、万々歳。ジャンヌちゃんも、おじいさまも、大喜び。いいことづくめよ」


 確かに。


「……それで……どうすれば、いいんだ?」


「そうねぇ……とりあえず」

 ジュネが、おれを上から下まで見つめる。

「脱いでくれる? 下着まで、ぜんぶ」


 ぉい。


 おまえ、本当は酔っぱらってるだろ?



* * * * * *



 薄緑色のゼリーの中に、オレンジ色のぬいぐるみが居る。


 ピアさんと呼ばれているゴーレムだ。

『森のクマさん』シリーズのピアさんを真似て、ジョゼフがこの形にしたのだと聞いている。


 昔……

 在りし日のニコラは、ぬいぐるみのピアさんを大切にしていた。

 今のこの子より、少しだけ大きかったような……

 可愛らしいリボンで飾りたて、子供用のドレスも着せていた。


 とても愛していたのだ。




《アンヌ。寝ないの?》

 ニコラは、床に座っている。

《もう遅いよ? 寝ないと、倒れちゃうよ?》

 ゼリーの中のゴーレムを見つめたまま、ニコラが私に聞く。


「もう少しだけ、ここに居るわ」

 白いその肩に、そっと触れた。

「ニコラといっしょに居たいの」


《アンヌ……》


「明日から、ニコラも異世界に行くのでしょ?」


《うん、げんそうセカイに行くんだ》


「気をつけてね」


《うん》


「毎日、神様にお祈りするわね」


《ありがとう》



 幻想世界は、それほど危険な世界ではない。

 そう言ったのは、勇者ジャンヌだった。


 あの時は、勇者の側に賢者様が居た。

『幻想世界へは、あなたの御友人は伴いません』

 ニコラを再び失うのではないかと不安におののく私に、あの方はそう告げた。


 優しい方だった。


 私にとってのただ一人の血縁――ジョゼフが家族を失ったことを知らせてくださったのも、あの方だ。

 オランジュ家に馴染めぬジョゼフのことも、気にかけてくだすった。


 でありながら、情を殺した態度を貫き、理を説いてばかりおられ……ジョゼフに怨まれていた。


……不器用な方だったのだ。



 あの方が、王国に弓を引いたとは信じ難いが……


 私はオランジュ伯爵。

 王国とオランジュ領の為に生きると誓った私に、迷いはない。


 王国の秩序を乱す者は、取り除くのみ。

 それが、臣民の義務なのだ。



《アンヌがいそがしいのは、知ってるんだ。アンヌは、はくしゃくさまだもの》

 ニコラがもじもじと体を動かす。

《だけど……ほんのちょっとでいいんだ。毎日、ピアさんに会ってくれる?》

 真っ白なニコラが、私を見つめる。

 髪も顔も服も、何もかも真っ白なニコラ。

 八才で逝った、私の許婚。

《この部屋で、ピアさんがひとりぼっちだったら、かわいそうだから……》

 五十二年も私を待って彷徨ってしまった、かわいそうな人……


「もちろんよ、ニコラ」

 笑顔で、ニコラに頷いた。

「私もピアさん、大好きだもの。毎日ここに来て、お話して、絵本を読んであげるわ」


 ニコラの顔が、華やぐ。

《ありがとう、アンヌ。だいすき》

「私もよ、ニコラ」

《ごめんね、アンヌはいそがしいのに》

「ううん。私こそごめんなさいね。あなたの側にあまり居られなくて」



 賊に襲われ、あなたが逝った日から……

 王国の秩序を乱す者を憎んできた。


 領地を豊かとし、領民を保護し、治安を良くし、ひいては国を富ませる……


 貴族の義務を果たす為だけに生きてきた。



「愛しているわ、ニコラ」



 貴族であるのも、魔王戦までにしたい。


 私の為に惑い、十三人も殺し、悪霊となってしまったニコラ。


 私は……もう二度とあなたを一人にしたくない。



 私が逝っても困らぬよう、体制固めは進めている。


 ジョゼフは、人格は悪くない。

 シャルロット様とのご縁がなれば、ボワエルデュー侯爵家からの援助も期待できる。

 周囲さえしっかりしていれば、オランジュ家当主に据えても問題はあるまい。


 私が守ってきたものは、守られるだろう。



 魔王が目覚めるのは、四十日後。



 その後に逝くあなたと一緒に、私も……


 そう、心を決めている。



* * * * * *



 お師匠様……

 アタシは、愛されているようです。



 凄いのは、やはりシャルル様からの愛だ。


 会議が終わってすぐ。アタシの部屋に、ゴージャスなバラの花束が届けられたのだ。

 真っ赤なバラには、『あなたの笑顔のために』というメッセージ・カードが添えられていた。

 びっくりしたけど、それは始まりにすぎなかった。

 それから一時間ごとに、メイドさんが一輪のバラの花を届けに来る。

 リボンだけでシンプルに飾ったものあれば、指輪ボックスの中にバラとか、ワイングラスにバラとか、毎回趣向が違う。

 でもって、添えられているメッセージも変わる。『モン・アムール。いつもあなたと共に』、『夢、叶うことを祈って』、『薔薇の花言葉はご存じですか?』……しかも、直筆。香水付き。

 マメだわ! さすがシャルル様! 結界の強化でお忙しいはずなのに、この心づかい!

 フェミニストな紳士は、やることが一味も二味も違う!



 アタシを力づけに、シャルロットさんやアンヌおばあさんも来訪してくれた。


 用もないのに部屋の前をうろうろしてた不審者(クロード)は、招き入れていっしょにお茶した。


 北での汚れを落とした後、兄さまも部屋に来た。『我慢しなくていいんだぞ』と抱きしめられたけれども、アタシは泣けなかった。


 廊下ですれちがいざまにリュカは、『ま、なんかあったら声かけてよ』と背中を叩いていった。


 ほんとに……アタシは愛されている……。



 アンヌおばあさんのはからいで、客室に移った。

 アタシ用の部屋には、ピアさんを飲み込んだポチと、ニコラが居る。

 眠ることのないニコラは、一晩中、ピアさんと別れを惜しむだろう。

 アタシとしても邪魔したくないんで、部屋を変えることに応じたのだ。決して、シャルル様のバラ攻撃から逃げる為じゃないわ! 『シャルル様から薔薇でーす』で、考え事が何度も何度も邪魔されちゃったけど! うざいだなんて……思ってないから!


 アタシのそばには、物理強化が得意なソルと、癒しの魔法が使えるピクさんがつきっきり。

 ヴァンは結界強化の手伝いをし、

 ピオさんは魔法絹布を中心にオランジュ邸の監視を、

 ピロおじーちゃんはお師匠様の部屋を調べている。


 勇者のアタシは……

 ただ寝るだけにしてはやけに豪華な客間で、お師匠様の『備忘録』を読んでいる。

 お師匠様が旅の間ずっと持ち歩き、何かと書き留めていた日記帳のようなものだ。



 ドアがノックされ、ドキッとした。

 またバラのお届け便かしら?


 と思ったら、テオだった。

 学者を始めとする知識人を招ける運びとなった、と報告に来てくれたのだ。

「明日から、魔法陣反転の法の研究を進めます。幻想世界を旅する為の荷の準備も整っています」

「ありがとう」


「それで……勇者様」

 テオがアタシの手の中の備忘録へと視線を向ける。

「何かわかりましたか?」

 アタシは頭を横に振った。

「なんにも……」


 勇者が敗れた未来をなぜ見たいのか、お師匠様がどんな気持ちでアタシと旅していたのか、読めばわかるかもしれないと思った。


 けれども、読めば読むほど、混乱しちゃう。


 お師匠様のことが、ますますわからなくなる……。



 - * - * - * - * - * - * - * - * - * -



 最終ページには、こう書かれている。


○月×日

 馬車の旅、続く。

 朝食 チーズ、パン。水(アレッサンドロの精霊が生み出したもの)。



 その前日……


○月×日

 馬車の旅、続く。

 朝食 チーズ、パン。水(アレッサンドロの精霊が生み出したもの)。

 昼食 なし。

 夕食 干し肉、パン。ミカンの缶詰。水(アレッサンドロの精霊が生み出したもの)。



 最初のページ……


○月×日

 午後、百一代目勇者ジャンヌを引き取る。

 朝食 パン。カフェ・オ・レ。

 昼食 なし。

 夕食 前菜 生ハム。ラディッシュのサラダ。

    メイン キノコのクリーム煮

    デザート ヨーグルト



 でもって、その次のページ……


○月×日

 ジャンヌは、ニンジンと魚が苦手なようだ。

 プリンと鶏肉とタルトは、よく食べた。好物だろうか。

 朝食 パン。カフェ・オ・レ。蜂蜜。バター。すもも。

 昼食 前菜 アスパラガスのサラダ。

    メイン 魚のフライ。芋のフライ。豆の煮込み。

    デザート プリン。

 夕食 前菜 魚のパテ。青野菜のサラダ。

    メイン 鶏肉のグリル。ニンジンとインゲンのソテー。

    デザート ベリータルト



……全ページ、こんな感じなのだ。

 毎日更新じゃなくって、日はとびとびなんだけど!



 - * - * - * - * - * - * - * - * - * -



 主婦の献立ノートかよ!


 お師匠様が何を考えてたかなんて……ほんと、もう……ぜんぜんわかんない……。



「備忘録、私がお預かりしてもよろしいでしょうか?」


「え? でも……」


「一見、ただの献立ノートですが、何らかの暗号で書かれたものかもしれません。暗号解読は得意です。お任せいただけますか?」

……暗号なのかなあ、これ。


「だけど、テオドールさん、魔法陣研究で明日から大忙しなんでしょ? 大丈夫? ちゃんと眠れる? 今日ぐらい、ちゃんと休んだ方がよくない?」


「大丈夫です。私は勇者様の学者ですから」

 テオが穏やかに笑う。

「知識をもってご助力することは、喜びです。苦になど思うはずがありません」


「無茶しないでよ」


 アタシは備忘録を見つめた。


 表紙の題字も中の文字も、やや右下がりになる癖のある筆跡……お師匠様の手跡だ。


 備忘録を一度腕の中に抱きしめてから、アタシはそれをテオに手渡した。

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