◆三つの夜◆
「え? まったくなんにも、飲み食いできないんですか?」
茫然とした顔のジュネに、じいちゃんが頷いてみせる。
「うむ。機械化部分はエネルギーパックを燃料として動いておる。生体部位も定期的に有機栄養剤を注入をしてもらっておるのだ。わしゃ、サイボーグになったのでの」
じいちゃんが、カカカと笑う。
じいちゃんは生まれ変わった。
呪われた箇所を切り離すついでに、全身さいぼーぐになったのだ。
首から下は、ツルツルのテカテカ。メカの体だ。
首から上は、一見、変わってない。だが、皮膚も目も骨も、髪の毛や髭にいたるまで、ぜんぶ作り物だ。人工有機物と言うのだそうだ。
今のじいちゃんは、片手で岩をも砕ける。
腕は換装式で、銃や剣になったりする。
めちゃくちゃカッコイイ。
さすが、じいちゃんだ。
「すみません。そんなこととは知らず、あたしったら一人で浮かれて……」
シャンパンのボトルを手にしたジュネが、しゅんとうなだれる。
賢者が敵方に寝返った今、祝い事なんかできるわけがない。
でも、呪いを祓えたことを祝いたい。内々に、三人だけで祝杯でも……
そんなジュネの心の内は、じいちゃんにはしっかり伝わっている。
「乾杯といこう、ジュネ。わしの分は、のんべの愚孫に飲ませる」
「おじいさま……」
「すまぬの。いろいろと心配をかけた。じゃが、このとおり元気になった。ひ孫が産まれるまで、わしゃ、何が何でも生き抜くぞ」
「おじいさま!」
ジュネが、じいちゃんにひしっと抱き着く。
「あ〜ん、エドモンのベイビーが産まれるまでだなんて! そんなことおっしゃらず! ずっとずっとず〜っと、お元気にお過ごしください! 十年でも百年でも!」
「わしは、もうすぐ六十じゃぞ。百年は無理じゃな」
ガキのころ、ジュネはおれの家に住んでいた。おれの家から、学校に通っていたんだ。
今も、家族ぐるみのつきあいをしている。
じいちゃんのことも、本物のじいちゃんみたいに思ってるようだ。
「今のところ、エスエフ界から持ち込んだもので命をつないでおる。が、ゆくゆくは、ルネ殿が魔法炉のエネルギーを燃料に変換するシステムを開発してくれる事になっていての。じじいの身ながら、まだまだ何十年も生きられそうじゃ」
「よかった、おじいさま〜」
「ほれほれ。泣かんでいい。別嬪な顔が台無しじゃぞ」
「ううう。おじいさまったら、お上手なんだからぁ。別嬪だなんて……」
「わしは、性的マイノリティーを差別せん。美しいものは美しいと認めるぞ」
「ああ、素敵! さすが、おじいさま!」
……長くなりそうだ。
ボトルを、よけとくか。
ジュネのことだ。
じいちゃんの為に奮発して、かなりいい酒を持って来たはず。
割れたら、もったいない。
美しい琥珀色。
豊かな泡。
苦味を押さえた、スッキリとした味わい。
いいシャンパンだ。
「……うまい」
としか言いようがない。
口元がゆるむ……
「祝杯をありがとう、ジュネ。目で楽しませてもらったわい。わしは部屋に帰る。エドモンともしばらくぶりじゃろ? じっくり話をするがいい」
「……じいちゃん。おれ、今夜は、」
じいちゃんと居たい。
普通の顔をしているが……
賢者が敵方に回って、平気なはずがない。
勇者カンタンと冒険した昔を、じいちゃんはよく懐かしんでいた。
しかし、共に旅した仲間エルマンはブラック女神の器となり、
賢者もまた同じ道を歩んでしまった。
辛いはずだ。
せめて、今夜くらい……
「エドモン」
じいちゃんが、おれの鼻先に指をつきつける。
「わしのことはいい。わしに構っている暇があったら、未来に目を向けよ」
む?
「枯れ木も山のにぎわいじゃ。おまえでも、居ないよりはマシなはず。幻想世界で、ジャンヌ様をしっかり支えるのじゃぞ」
「それは……もちろん」
「どうやったらあの方を助けられるか、知恵をしぼっておけ。ジュネとも相談するがいい」
「……うん」
「昔っからおまえは、理由もなく動物に好かれた。弓の才に恵まれながらも、狩人となる道を断念したおまえ。残念に思うていたが……それも、全てこの時の為だったのやもしれぬ」
じいちゃんの右手がおれの肩をつかむ。
機械でできた手だ。
「エドモン。竜王をしっかりたらしこめ。おまえにならできる。わしは信じているぞ」
……じいちゃん。
無茶言わんでくれ。
相手は、ドラゴンだぞ。
「じゃーん! 赤もあるのよ! おつまみも♪」
むぅぅ……
濃い赤。
時間をかけて醸造された、いいワインだ。
グラスから立ち昇る果実香も、素晴らしい。
濃厚な味。舌に滑らかで、上品なコクと甘みがある。
うまい。
うますぎる。
つまみもいい。
特に、この塩漬けのオリーブ。オリーブそのものの旨みをひきだす、シンプルな味付けがいい。
その上、香ばしいライ麦パンに、チーズに、いちじくのドライフルーツまで用意されては……
いくらでも、杯が進んでしまう。
明日は、異世界なのに。
「あら? これぐらい、エドモンにはジュースみたいなものでしょ? さ、飲んで、飲んで♪」
じいちゃんが出てった後、ジュネと酒盛りになっている。しかも、
「いいの、いいの。あたし、お酒、あんま強くないから」
ほとんど、おれが飲んでいる。
「うふふ。いいお酒を飲んでる時のエドモン、ほ〜んとかわいい♪ 抱きしめたくなっちゃう♪」
いつものことだが……こいつは目がおかしい。腐っている。
「……あっちで、トマじいさんに会えたのか?」
話題を振ると、とたんにジュネは無口になる。
「まあね」
「……どうだった?」
「あいかわらずだったわ」
ジュネが、フンと荒い息を吐く。
「魔王戦よりも前には、北から出るって。ま、そのうち顔を見せるでしょ」
ジュネは、実の祖父と仲が悪い。
じいちゃんを慕うのは、その反動なのかもしれない。
「エドモンこそ、何かあったんでしょ?」
美女にしか見えない幼馴染が、ジーッとおれを見る。
「やつれたもの。すっごく嫌なことがあったんじゃない?」
「……べつに」
「うふふ。嘘ばっか」
ジュネがニッと笑う。
「隠し事はやめて。お酒が不味くなるわよ」
……なぜ、こいつにはわかってしまうのか。
獣使いのこいつは、獣といっしょ。おれの心が読めるのかもしれない。
ため息をついて、このところ頭を悩ませていることを話してみた。
「は? 生き物を殺そうとしてる?」
「……うん、だが、」
重苦しい気持ちを息にして、吐き出した。
「……できない」
「そりゃそうでしょ。好き好き好きオーラの獣どもを、エドモンが殺せるもんですか」
む。
「できれば、とっくのとうに、おじいさまの跡を継いでるものねえ」
ぐ。
「なんで、そんな気になったわけ?」
「……ジパング界で」
イバラギという奴に、賭けをもちかけられた。
だが、おれは……敵であろうとも殺したくなかった。
誰かを殺すぐらいなら、自分が死んだ方がマシだと……勝負から逃げてしまったのだ。
あれは、幻術だったから、問題なかった。
しかし、また、同じような状況になったら?
百一代目の彼女が死んだら、おれらの世界は滅びてしまう。
『綺麗ごとをぬかす暇があったら、とっとと戦え。己が手を血に染める覚悟なき者には、何も救えぬわ』
奴の言葉が、頭から離れない。
『腑抜けが、勇者の側にいては迷惑じゃ。主人を守りたくば、ためらいは捨てよ。敵を殺すべき時には、殺せ。貴様の為ではない。勇者の命の為だ』
「……いろいろあって……天界でも、」
弱点克服の修行をした。
仮装敵と戦闘をしたのだ。
狼、猪、熊。それに、人間と対戦してみた。
だが、おれは向かって来る敵に一矢も放てず……一方的に蹂躙された。
やむなく、おれそっくりな敵を出してみた。
他人を射れなくとも、自分ならあるいは……そう思ったんだが、放った矢がおれそっくりなものに刺さった瞬間、気が遠くなり……胃の中のものもぶちまけ、倒れてしまった。
なんどやっても駄目だった……慣れなかった……おれは、まともに弓を使えなかった。
「……いろいろあった。百一代目の彼女を守りたい。だが……できないんだ」
「……そう。たいへんだったのね」
なぜ、今の説明でわかる?
「ジャンヌちゃんの為に、信念を曲げたのか。ちょっと妬けるわね」
……なぜ、わかってくれるんだ?
「でも、護衛の仕方も十人十色よ。無理に敵を殺さなくてもいいんじゃない? エドモンはエドモンなりのやり方で、ジャンヌちゃんを守ればいいと思うわ」
「……しかし……」
後の言葉を続けようと思ったが、できない。
『おれは強いようだ。ジパング界に行ったメンバーの中では、戦闘力も潜在能力も飛びぬけているらしい。イバラギがそう言っていた』とはさすがに言えない……恥ずかしくて。
戦えぬ弓使いが言っていい言葉じゃない。
「……おれは、戦いたいんだ」
「……ねえ、エドモン」
澄みきったグレーの瞳が、おれをまっすぐに見つめる。
「あたしに、体を預けてみない?」
ん?
「……なぜ?」
ジュネの美しい口元が、妖しく笑みを形作る。
「あたしなら、あなたの望みを叶えられる。今のあなたのままで、無敵の『獣の王』にしてあげましょうか?」
「……どういう意味だ?」
「言った通りよ」
ジュネが悪戯っぽく笑う。
「あたしたち二人が力を合わせれば、無敵よ。竜王にも負けないと思うわ」
「……ほんとに?」
ジュネが大きく頷く。
「ほんと、ほんと。あたしに、ま〜かせて♪」
「……酔ってるのか?」
「ま〜さか。あたしは、素面でーす」
と、言ってケラケラと笑う。
……酔ってるだろ?
「竜王を正気に戻せたら、大手柄でしょ? あなたは戦えて、万々歳。ジャンヌちゃんも、おじいさまも、大喜び。いいことづくめよ」
確かに。
「……それで……どうすれば、いいんだ?」
「そうねぇ……とりあえず」
ジュネが、おれを上から下まで見つめる。
「脱いでくれる? 下着まで、ぜんぶ」
ぉい。
おまえ、本当は酔っぱらってるだろ?
* * * * * *
薄緑色のゼリーの中に、オレンジ色のぬいぐるみが居る。
ピアさんと呼ばれているゴーレムだ。
『森のクマさん』シリーズのピアさんを真似て、ジョゼフがこの形にしたのだと聞いている。
昔……
在りし日のニコラは、ぬいぐるみのピアさんを大切にしていた。
今のこの子より、少しだけ大きかったような……
可愛らしいリボンで飾りたて、子供用のドレスも着せていた。
とても愛していたのだ。
《アンヌ。寝ないの?》
ニコラは、床に座っている。
《もう遅いよ? 寝ないと、倒れちゃうよ?》
ゼリーの中のゴーレムを見つめたまま、ニコラが私に聞く。
「もう少しだけ、ここに居るわ」
白いその肩に、そっと触れた。
「ニコラといっしょに居たいの」
《アンヌ……》
「明日から、ニコラも異世界に行くのでしょ?」
《うん、げんそうセカイに行くんだ》
「気をつけてね」
《うん》
「毎日、神様にお祈りするわね」
《ありがとう》
幻想世界は、それほど危険な世界ではない。
そう言ったのは、勇者ジャンヌだった。
あの時は、勇者の側に賢者様が居た。
『幻想世界へは、あなたの御友人は伴いません』
ニコラを再び失うのではないかと不安におののく私に、あの方はそう告げた。
優しい方だった。
私にとってのただ一人の血縁――ジョゼフが家族を失ったことを知らせてくださったのも、あの方だ。
オランジュ家に馴染めぬジョゼフのことも、気にかけてくだすった。
でありながら、情を殺した態度を貫き、理を説いてばかりおられ……ジョゼフに怨まれていた。
……不器用な方だったのだ。
あの方が、王国に弓を引いたとは信じ難いが……
私はオランジュ伯爵。
王国とオランジュ領の為に生きると誓った私に、迷いはない。
王国の秩序を乱す者は、取り除くのみ。
それが、臣民の義務なのだ。
《アンヌがいそがしいのは、知ってるんだ。アンヌは、はくしゃくさまだもの》
ニコラがもじもじと体を動かす。
《だけど……ほんのちょっとでいいんだ。毎日、ピアさんに会ってくれる?》
真っ白なニコラが、私を見つめる。
髪も顔も服も、何もかも真っ白なニコラ。
八才で逝った、私の許婚。
《この部屋で、ピアさんがひとりぼっちだったら、かわいそうだから……》
五十二年も私を待って彷徨ってしまった、かわいそうな人……
「もちろんよ、ニコラ」
笑顔で、ニコラに頷いた。
「私もピアさん、大好きだもの。毎日ここに来て、お話して、絵本を読んであげるわ」
ニコラの顔が、華やぐ。
《ありがとう、アンヌ。だいすき》
「私もよ、ニコラ」
《ごめんね、アンヌはいそがしいのに》
「ううん。私こそごめんなさいね。あなたの側にあまり居られなくて」
賊に襲われ、あなたが逝った日から……
王国の秩序を乱す者を憎んできた。
領地を豊かとし、領民を保護し、治安を良くし、ひいては国を富ませる……
貴族の義務を果たす為だけに生きてきた。
「愛しているわ、ニコラ」
貴族であるのも、魔王戦までにしたい。
私の為に惑い、十三人も殺し、悪霊となってしまったニコラ。
私は……もう二度とあなたを一人にしたくない。
私が逝っても困らぬよう、体制固めは進めている。
ジョゼフは、人格は悪くない。
シャルロット様とのご縁がなれば、ボワエルデュー侯爵家からの援助も期待できる。
周囲さえしっかりしていれば、オランジュ家当主に据えても問題はあるまい。
私が守ってきたものは、守られるだろう。
魔王が目覚めるのは、四十日後。
その後に逝くあなたと一緒に、私も……
そう、心を決めている。
* * * * * *
お師匠様……
アタシは、愛されているようです。
凄いのは、やはりシャルル様からの愛だ。
会議が終わってすぐ。アタシの部屋に、ゴージャスなバラの花束が届けられたのだ。
真っ赤なバラには、『あなたの笑顔のために』というメッセージ・カードが添えられていた。
びっくりしたけど、それは始まりにすぎなかった。
それから一時間ごとに、メイドさんが一輪のバラの花を届けに来る。
リボンだけでシンプルに飾ったものあれば、指輪ボックスの中にバラとか、ワイングラスにバラとか、毎回趣向が違う。
でもって、添えられているメッセージも変わる。『モン・アムール。いつもあなたと共に』、『夢、叶うことを祈って』、『薔薇の花言葉はご存じですか?』……しかも、直筆。香水付き。
マメだわ! さすがシャルル様! 結界の強化でお忙しいはずなのに、この心づかい!
フェミニストな紳士は、やることが一味も二味も違う!
アタシを力づけに、シャルロットさんやアンヌおばあさんも来訪してくれた。
用もないのに部屋の前をうろうろしてた不審者は、招き入れていっしょにお茶した。
北での汚れを落とした後、兄さまも部屋に来た。『我慢しなくていいんだぞ』と抱きしめられたけれども、アタシは泣けなかった。
廊下ですれちがいざまにリュカは、『ま、なんかあったら声かけてよ』と背中を叩いていった。
ほんとに……アタシは愛されている……。
アンヌおばあさんのはからいで、客室に移った。
アタシ用の部屋には、ピアさんを飲み込んだポチと、ニコラが居る。
眠ることのないニコラは、一晩中、ピアさんと別れを惜しむだろう。
アタシとしても邪魔したくないんで、部屋を変えることに応じたのだ。決して、シャルル様のバラ攻撃から逃げる為じゃないわ! 『シャルル様から薔薇でーす』で、考え事が何度も何度も邪魔されちゃったけど! うざいだなんて……思ってないから!
アタシのそばには、物理強化が得意なソルと、癒しの魔法が使えるピクさんがつきっきり。
ヴァンは結界強化の手伝いをし、
ピオさんは魔法絹布を中心にオランジュ邸の監視を、
ピロおじーちゃんはお師匠様の部屋を調べている。
勇者のアタシは……
ただ寝るだけにしてはやけに豪華な客間で、お師匠様の『備忘録』を読んでいる。
お師匠様が旅の間ずっと持ち歩き、何かと書き留めていた日記帳のようなものだ。
ドアがノックされ、ドキッとした。
またバラのお届け便かしら?
と思ったら、テオだった。
学者を始めとする知識人を招ける運びとなった、と報告に来てくれたのだ。
「明日から、魔法陣反転の法の研究を進めます。幻想世界を旅する為の荷の準備も整っています」
「ありがとう」
「それで……勇者様」
テオがアタシの手の中の備忘録へと視線を向ける。
「何かわかりましたか?」
アタシは頭を横に振った。
「なんにも……」
勇者が敗れた未来をなぜ見たいのか、お師匠様がどんな気持ちでアタシと旅していたのか、読めばわかるかもしれないと思った。
けれども、読めば読むほど、混乱しちゃう。
お師匠様のことが、ますますわからなくなる……。
- * - * - * - * - * - * - * - * - * -
最終ページには、こう書かれている。
○月×日
馬車の旅、続く。
朝食 チーズ、パン。水(アレッサンドロの精霊が生み出したもの)。
その前日……
○月×日
馬車の旅、続く。
朝食 チーズ、パン。水(アレッサンドロの精霊が生み出したもの)。
昼食 なし。
夕食 干し肉、パン。ミカンの缶詰。水(アレッサンドロの精霊が生み出したもの)。
最初のページ……
○月×日
午後、百一代目勇者ジャンヌを引き取る。
朝食 パン。カフェ・オ・レ。
昼食 なし。
夕食 前菜 生ハム。ラディッシュのサラダ。
メイン キノコのクリーム煮
デザート ヨーグルト
でもって、その次のページ……
○月×日
ジャンヌは、ニンジンと魚が苦手なようだ。
プリンと鶏肉とタルトは、よく食べた。好物だろうか。
朝食 パン。カフェ・オ・レ。蜂蜜。バター。すもも。
昼食 前菜 アスパラガスのサラダ。
メイン 魚のフライ。芋のフライ。豆の煮込み。
デザート プリン。
夕食 前菜 魚のパテ。青野菜のサラダ。
メイン 鶏肉のグリル。ニンジンとインゲンのソテー。
デザート ベリータルト
……全ページ、こんな感じなのだ。
毎日更新じゃなくって、日はとびとびなんだけど!
- * - * - * - * - * - * - * - * - * -
主婦の献立ノートかよ!
お師匠様が何を考えてたかなんて……ほんと、もう……ぜんぜんわかんない……。
「備忘録、私がお預かりしてもよろしいでしょうか?」
「え? でも……」
「一見、ただの献立ノートですが、何らかの暗号で書かれたものかもしれません。暗号解読は得意です。お任せいただけますか?」
……暗号なのかなあ、これ。
「だけど、テオドールさん、魔法陣研究で明日から大忙しなんでしょ? 大丈夫? ちゃんと眠れる? 今日ぐらい、ちゃんと休んだ方がよくない?」
「大丈夫です。私は勇者様の学者ですから」
テオが穏やかに笑う。
「知識をもってご助力することは、喜びです。苦になど思うはずがありません」
「無茶しないでよ」
アタシは備忘録を見つめた。
表紙の題字も中の文字も、やや右下がりになる癖のある筆跡……お師匠様の手跡だ。
備忘録を一度腕の中に抱きしめてから、アタシはそれをテオに手渡した。




