◆QnQnハニー/再会、父よ……◆
魔法絹布の前で、ニコラにゲームを教えた。
下町で流行りの、サイコロ・ゲームだ。
三つのサイコロを振って出目に得点つけて競うだけ。
酒場じゃ飲み代かけて遊ぶもんだが、ここじゃ、クッキーをコイン代わりにして遊んでる。
学者のにーちゃんは、テーブルで書き物中。
たまにこっちを見る。
けど、何も言わない。
おかたいにーちゃんなら、『そんな下品な賭け遊びを、ニコラ君に教えないでください』とかギャンギャンわめきそうなもんだが。
《6、2、1! 2と1はそのまま! 6のだけ振りなおすね♪》
ニコラが笑顔だから、大目に見てるんだろうな。
このとこ、ニコラ暗かったからなあ。僧侶エルマンのことで悩んでたし。勇者のねーちゃんが、行方不明ってなってから特にな。
こういう時には、バカになるのが一番。
すぐやれて、すぐやめられる。ルールもシンプル。暇つぶしには、もってこいのゲームだ。
《うわ! ピアさん、1、1、1! またゾロ目!》
「おい、クマ公! てめえ、イカサマやってんだろ?」
そんなことないよーっと、クマ・ゴーレムがデカイ頭を横に振る。
「つーか、ふつー ニコラに花もたせるだろ? 本気モードできやがって」
《本気モードでいいよ。手をぬかれて勝ってもつまんないよ》
ニコラが、ビシッ! とゴーレムを指さす。
《つぎはまけないからね!》
ドンとこいとばかりに、オレンジのクマが胸を叩く。
三人でわいわいやってると……
「リュカくん、いま暇?」
メイド姿のねーちゃんが現れた。
黒いドレスに、フリフリの白いエプロンとキャップ。
オランジュ家のメイドたちとは、微妙に違うデザインだ。ボワエルデュー侯爵家メイド衣装ってヤツか。
「シャルロットさまから、午後いっぱいお休みをいただいたの! 外に行きましょ!」
先日プレゼントした発明品の説明をするとか、言いやがる。
「お父さまの発明品は、とっても便利よ! 魔王戦までに、使用法をしっかりマスターしなくっちゃね!」
また善意の押しつけだ。
うぜぇ。
「見てわかんねえ? オレ、今、ニコラと遊んでるの」
「なら、ニコラくんもいっしょに、どう? リュカくんと『ニュー かっとび君』に乗ってみたら? 超高速で楽しいわよ」
《え? ぼく?》
ニコラが、オレと、魔法絹布と、クマ・ゴーレム、それに机の学者のにーちゃんをチラチラと見る。
《ぼくはいいよ……ふたりで行ってきて》
「あら、どうして?」
《……行けないから》
そこで、ねーちゃんがハッと目を見開く。
「あ! わかった! 幽霊だからなのね?」
無神経な女が、無遠慮な質問をする。
「日の光を浴びたら、もしかして、死んじゃうの?」
幽霊が死ぬかよ、バーカ。
《それは、平気だけど……でも、ぼく、ここにいたいから……》
「行ってらっしゃい、ニコラ君」
書き物の手を止めて、学者の兄ちゃんが立ち上がる。
「勇者様がお戻りになられても、私がきちんとお迎えしますし、すぐにあなたのもとへ誰かを知らせに行かせます」
《テオおにーちゃん……》
「離れていても、大丈夫です。たまには、外で気分転換していらっしゃい」
だよなー くら〜い部屋ん中で、ばーさんが暇にならねーかなとか、勇者のねーちゃん還って来ないかなあと、悶々としてるよか、よっぽど健康的。
《だけど……》
「ニコラ君。あなたはもっともっと笑顔で過ごしていいのですよ」
学者のにーちゃんが、ニコラに微笑みかける。
「苦境にいらっしゃる方を思いやるあまり、自らの楽しみを否定してはいけません。あなたが笑顔でいる方が、勇者様もお喜びになるはずです」
うひぃ。
なんか……日に日に、まぶしくなってるぞ、学者のにーちゃん。
イカレ僧侶より、よっぽど聖人ぽいつーか。
そのうち、後光が差しそう。
オレンジ・クマが、ニコラの手をとり、『行こう』とひっぱる。
ゴーレムは、しゃべれねーし、表情もない。
けど、元気づけようって気持ちだけは伝わってくる。
ニコラは、オレらを見回し、はにかんだような笑みを浮かべ、頷いた。
芝生の上を、『ニュー かっとび君』でつっぱしる。
こんなん、コツさえつかみゃ簡単だ。
棒のハンドルを握って、プレートの上でバランスとるだけ。
アクセルもブレーキもグリップ操作。
後ろ向きには走れねえ。
そんだけわかってりゃ充分だ。
停止すると、ねーちゃんとニコラ、ついでにオレンジ・クマの拍手に包まれた。
「リュカくん、すっごい! 一発で『ニュー かっとび君』を乗りこなすなんて! 天才ね!」
ったりめえだろ、バーカ。神速のリュカさまを舐めるなよ。
「バランス感覚、抜群だわ! もしかして、乗馬が得意?」
「なわけねーだろ。お貴族様や軍人じゃあるまいし、乗馬なんざするかよ」
壁昇りや、屋根歩き、塀越えなら、お手の物だけどな。
《つぎ、ぼく!》
ニコラが、目をキラキラと輝かせてる。
《乗せてくれるんだよね、おねーちゃん?》
「ええ。二人乗り・モードに切り替えるわね」
《え〜 やだ。ぼく、ひとりで乗りたい! ハンドルにぎりたい! 風になってつっぱしりたい!》
「……そんなに乗りたい?」
《うん! だって、かっこいいもん!》
「かっこいい……」
《こういうの『全開バリバリだぜ!』って言うんだよね? ジョゼおにーちゃんの精霊が、叫んでた》
「そうね」
《ぼくね、ずっとまえ、ポニーになら乗ったよ! きっと『かっとび君』にも乗れるよ!》
「うふふ」
ねーちゃんはニコニコ笑顔で、ニコラの頭を撫でた、
「じゃ、ニコラくん、乗ってみようか」
《いいの?》
「ええ。ただし、スピードに制限かけるわよ。上手にバランスがとれるようになるまで、全開バリバリは禁止で」
《え〜》
「文句、言わない。さ、まずプレートに乗って。棒の高さを調節してあげるから」
……ご機嫌だなあ、ねーちゃん。
親父の発明品を褒められたからかな?
《全開バリバリだぜ〜》
ニコラは、大はしゃぎだ。
キャーキャー悲鳴をあげながら、芝生の上をかっとんでる。
バリバリバリバリ! ごぉおんごぉおん! どっきゅぅぅん!
発明品の機械音がけたたましいのに、ニコラの声は不思議とよく聞こえる。口じゃなく、別の方法でしゃべってるのかも。
《ふぉぅぅぅ! いくぜ、レッドゾーン!》
スピード狂め。
ま、いいか。楽しそうだから。
しばらく乗り回した後、ニコラは相棒をひっぱりに来た。
《ピアさんも、乗ろうよ。面白いよ》
え〜 そんなの無理〜 って感じに、オレンジのぬいぐまゴーレムがモジモジする。
《おねーちゃん。これ、二人乗りできるんだよね?》
「ええ、もちろん」
ねーちゃんが、ガッツポーズをとる。
「二人乗りがしたい? こんな時には、これよ! 変形モード! プレートが三段階まで伸びて、補助輪がプラス! タンデムし放題よ!」
「はっはっは! その説明では、まだまだだな、アネモーネ」
オレらの背後から声がした。
「ゴーレムとタンデムしたい? 困ったなーという時にはこれですぞ! 『ニュー かっとび君』究極進化モード! 牛より重い『迷子くん』の運搬すら可能な超馬力! 更に! ビジュアル(体長)! スピード! サウンド(排気音)! すべて体験したことのない驚きの世界! 安全安心充実のタンデムドライブ……ご家族でいかがですかな?」
てっきりロボットアーマーが居るもんだと思ったら、
振り返ったら、甘いマスクの中年オヤジと、スケベ貴族が居た。
スケベ貴族の方は、まあ、いいんだけど。
おっさんが、まともな格好してやがる。
瀟洒な上着に、フリルのついた白いシャツ。
ポマードで撫で付けたオールバックの髪も、念入りに整えた口髭も、気合い入りまくりっていうか。
結婚詐欺師か、ジゴロみてえ。
「お父さま……」
「はっはっは! アネモーネ! 会いたかったぞ!」
両手を広げて、おっさんが娘にハグしようとする。
ねーちゃんは、あわわわと取り乱し、それから、
「いやぁぁぁ!」
踵を返し、走り去って行った。
どっぎゅーんと。
人間とは思えないスピードで。
両手をあげたまま、今度はおっさんがあわあわする。
「アネモーネ! 突然どうしたんだ? おまえの愛するお父さんだよ!」
いや、突然あんたが現れたから逃げたんだろ、あいつ。
けど、なんでだ?
おっさんに会って、『おめでとう』とか『幸せになってね』とか言うんじゃなかったのかよ?
「そうか」
はたと気づいたように、おっさんがポンと手を叩く。
「鬼ごっこがしたい? 困ったなーという時にはこれですぞ! 『ロケットブーツくん』! 小型ロケットブースター内蔵の車輪つきの靴! お父さんの最高傑作のひとつを、お父さんだと思って履いていてくれたんだね、アネモーネ!」
……どうかなあ?
「ああ、しかし! お父さんは、今日は『迷子くん』を装着してないんだよ! 最高瞬間秒速50mを誇る『ロケットブーツくん』にはついていけないんだ!」
きりっとした表情をつくり、おっさんがニコラから『ニュー かっとび君』を取り上げる。
「すまないね、ニコラ君。親子のスキンシップの為だ、ちょっと借りるよ」
《あ、うん》
そんまま、おっさんもバビューンと走り去って行く。
けたたましい親子だぜ。
「ハハハ。久々に会った父親に戸惑い、恥じらって逃げるとは……実に奥ゆかしい。アネモーネさんは、あどけない妖精のような方だ」
出たな、脳内虫わき男。
スケベ貴族を睨みつけてやった。
「あの二人、ほっといていいのかよ。親子の面会には、侯爵家嫡男さまが立ち会うんじゃなかったっけか?」
ねーちゃんのじいさんと、ンな約束してたろ?
「私も同じ敷地内に居る。問題はないさ」
ケッ!
「てか、なんで今日親子対面なわけ?」
予告して心の準備させときゃ逃げなかったんじゃねーの、ねーちゃん。
「ああ。それは、」
お貴族様が、ふぁさっと髪をかきあげる。
「今日になったのは、ルネの努力の賜物なのだよ」
ん?
「あの男に、既存の発明品の改良及び新アイテムの企画案の提出を命じていてね。成功報酬に娘との面会の場を提示したところ、実に精力的に働いたのだよ。ほんの五日で、ここまで出来るとは……感服した。父の愛は海よりも深き、だね」
ふーん。
「気分屋で役に立たぬ男だとテオはこぼしていたが、ま、上に立つもの次第ってことかな」
ケッ! 結局、自分自慢かよ!
「ルネには、違う報酬も払ってやろうかと思っている。資材、人材……。才ある者を後援するのは、貴族の嗜みだからね」
あー そーですか。
「ニコラ、どうする? 部屋に帰るか?」
ねーちゃん、どっか行っちまったし。
《うん……》
「『ニュー かっとび君』、オレがもらったもんだからさ。また貸してやるよ」
《うん。ありがとう、リュカおにーちゃん》
「おや?」
《あれ?》
お貴族様とニコラが、同時に宙を見上げる。
二人とも、屋敷の方を見てるような?
「ジャンヌさんの部屋に魔力の乱れが……」
《ジャンヌおねーちゃんだ! おねえちゃんが、かえってきたんだ!》
わかるのかよ、おまえら!
「全員、無事帰還か?」
「いや、そこまではわからない。あの部屋で大きな魔法が使われたことしか感知できなかった……おそらく、異世界からの帰還魔法……」
《おねーちゃんがいる! おねーちゃん、かえってきた!》
ニコラが万歳すると、オレンジ・クマもまねっこして両手をあげる。
「天才魔術師より、ニコラのがすげぇじゃん」
ぐっと喉をつまらせてから、お貴族様がフッと笑う。
「ジャンヌさんがご帰還なさったのなら、何より……。ニコラ君、リュカ君、ピアさん。私の移動魔法で、運んであげよう。もう少し、近くに寄ってくれたまえ」
《おねーちゃんの部屋までひとっとび?》
「いや、私の部屋までだ」
「はあ? なんで、おまえの部屋? 直接ねーちゃんの部屋行きゃいいじゃん」
「あそこへは飛べないのだよ」
やれやれって感じに、お貴族様が頭を軽く振る。
「アンヌ様とご相談の上、テオとオランジュ邸本宅を改造中でね……現段階でも、ジャンヌさんのお部屋付近への千里眼・移動魔法・物質転送は不可能になっている」
「へー 改造?」
工事してるようには見えなかったけど?
「オオエ山の結界を参考に、魔法道具や魔法陣を配置することで、常時魔法結界が発動する仕掛けをつくっているのだよ」
「ふーん」
「ゆくゆくは、魔法が使用可能な部屋を完全に限定するつもりだ。このまえ、ジャンヌさんのお部屋に移動魔法でジョゼフ君が現れたろう? 敵に同じことをされたらと、想像するだけでゾッとする……。オオエ山ほど大規模なものは作れないが、この私にかかれば、」
《はやく行こうよ!》
長くなりそうな話を、ニコラが遮る。
《はやく!》
「すまない、ニコラ君」
もったいつけた仕草で頭をさげてから、お貴族様が呪文の詠唱を始める。
こいつの部屋……たしか、四階だったよな。勇者のねーちゃんの部屋は三階で……。
まあ、このまんま庭つっ切って屋敷に行くよか早いか。
勇者のねーちゃん、生きてたのなら良かったけど……
どこまで無事なのか……魔族がいっぱいの魔界に居たんだもんな。
アレックスも……他の奴らも、無事だといいが。
* * * * * *
捕まえた!
捕まえた!
捕まえた!
よぉし!
『ロケットブーツくん』のスイッチ・オフ!
これでもう逃げられないぞ!
「はっはっは! アネモーネ! 落ち込むことはないぞ! 『ニュー かっとび君』は『ロケットブーツくん』よりパワーがある! 鬼ごっこなら、ぜったいに負けないさ!」
私の最高傑作――アネモーネが、しょんぼりと顔をそむける。
せっかくの再会なのだ、おまえの笑顔が見たい。
ほらほらほら、お父さんだよ。
『迷子くん』姿はおまえには不評だから、ちゃーんと脱いで来たんだよ。
こっちを向いておくれ、アネモーネ!
「それにしても、いきなり駆け出してびっくりしたよ! もしかして、まだ怒っているのかい? 面会日をすっぽかしたことは、何百回、何千回だって謝るよ! お願いだから、許しておくれ!」
「お父さま……あのね……」
上目づかいに、アネモーネが私を見る。
おおお! ラブリー! さすがアネモーネ、私の最高傑作! 私のハートはキュンキュンだよ!
「わたし……もう十五歳ですもの。立派な大人よ。お母さまも、今のわたしの年齢にはお父さまと婚約してたんだし」
む?
いやいやいやいや。
婚約も結婚も、まだ早い。早すぎるぞ、アネモーネ。
まだまだず〜っと、いやいや一生でも、お父さんのアネモーネでいてくれていいんだぞ!
「だから、もう……子供っぽいことを言うのはやめるわ」
顔をあげ、アネモーネが微笑む。とても華やかに愛らしく。
「お父さまは、勇者さまの発明家。オランジュ伯爵さま、ボワエルデュー侯爵家のご嫡男、ボーヴォワール伯爵さまのご子息がスポンサーについて、未来も安泰なのよね?」
「まあ、そうだね!」
三スポンサー様方は、魔王戦の為に援助してくださっているのだが!
「……お父さま」
アネモーネが、ぐっと口をへの字にして、目をうるうるさせる。
どーしたんだい、泣きそうじゃないか!
「……お幸せになってね」
「おおお! もちろんだとも!」
魔王戦では、サイボーグ・セザール様を始め、私の発明品が大活躍するだろう。
ルネ工房は『もと勇者の仲間』というブランドをゲット!
となれば、魔王戦を区切りに三スポンサーに援助を切られても大丈夫! きっと、スポンサーも鈴なりとなる!
工房は大繁盛だ!
生活が安定したら……
その時こそ、おまえとお母さんを迎えに行くぞ。
また三人で楽しく暮らそう、アネモーネ!
「……わたし、このまえジュネさんに会ったわ」
は?
ジュネ殿?
なぜ、そんな?
いやはいや、突然の話題転換。若者の頭は、旧世代の私とは違いすぎる。だが、アネモーネ、お父さんは負けないよ。しっかりと、おまえについていくぞ!
「ジュネ殿と、どこで?」
「……このお屋敷で。オランジュ家のジョゼフさまのご紹介で……」
「ほうほう」
「遠い北から一時的にお戻りになってたとかで、ほんの少し顔を合わせただけなんだけど」
「なるほど、なるほど」
「……あの方、獣ショーの花形スターで……」
「うん、そうだね」
「……お父さまのスポンサーのおひとりだったのね」
へ?
ジュネ殿が、スポンサー……?
むぅぅぅ〜?
………
お!
おおお!
「そうだよ! ジュネ殿に出資してもらったこともある!」
セザール殿の右手開発の時に!
セザール殿の自腹だけでは足りなくて!
「お父さまのおうちで会った時……ヒラヒラなレースエプロンつけて、ダーリンとか言ってた。なのに……」
あああ……どうしたんだい、アネモーネ!
愛らしい目に、じんわりと涙が……
「男だったなんて……」
泣くほど、ショックだったのかい?
「男、男、男……ああ……お父さまが、男と……」
アネモーネが頭を抱える。
そうか!
ジェンダーな存在は、無垢な乙女には刺激的すぎたか!
「見た目はああでも、ジュネ殿は気風がよく、金払いもいい……あ、いやいや、義に厚い方だ。勇者様からも、信頼されている。私の家に彼が来た時も、」
「やめて!」
アネモーネが声をはりあげる。
「……詳細は聞きたくないの」
なんだかわからないが。
「すまない」と、謝っておこう。
「……まだ、頭の中はぐちゃぐちゃよ……でも、」
アネモーネが笑う。
むりやりつくった笑顔で。
「お父さまには、魔王戦でがんばってもらいたいから……許せないけど……許してあげるわ」
おおお!
「ありがとう、アネモーネ!」
愛しい娘に抱きついた。
「おまえに嫌われたんじゃないかって、毎日毎日、不安でたまらなかったんだ! ほんとうに、嬉しい! これで、心置きなく発明に没頭できる!」
「お父さま……」
ふぇ〜んと、かわいくアネモーネが泣く。
ううう……
お父さんも、もらい泣きしてしまいそうだよ。
そこで。
私たちの感動の抱擁を邪魔だてする音が響いた。
オランジュ邸からだ。
屋敷の一部が壊れたかのような、轟音。
……私の発明品のどれかが、不慮の事故で爆発でもしたのだろうか?




