囚われの仲間を救え
アタシたちは、牢獄に突入した。
襲い来る、獄卒たち。
ずももも〜とばかりに、ミノタウルスが現れたり。
ばば〜んと、カトちゃんぐらい大きな馬頭の獣人が出てきたり。
どど〜んとコマをぶち抜く感じに、巨大なケルベロスが姿を見せたり。
したんだけど……
登場、即、退場だった。
吸血鬼王に、引き裂かれて……。
実力の片鱗を見せる間もなくズタボロされて、ちょっとかわいそう。
《ふん。歯ごたえのかけらもない》
不満顔のわりに、他のものに譲る気はないようで。何かを見かけると、蝙蝠やら銀狼やらに変化して、すっとんで行ってしまう。
バトル・マニアだ。
幼馴染が、「さすが、ノーラさん! かっけぇ!」と感動してるのはいつもの事。
アランが、やけに熱心に見ているのが気になった。好敵手を見る目といおうか。吸血鬼王の戦いぶりに、戦士の血が刺激されてるっぽい。
ひたすら上を目指す。
最初は自分の足で走ってたんだけど、途中からヴァンに運んでもらってる。クロードとアランもこみで、空中浮遊結界に包んでもらって。
魔界の王がつくった牢獄が、不思議空間すぎるからだ。
階ごとに、つくりがガラッと変わり、広さや天井までの高さも階段の位置も、毎回異なる……のはいいとして。
階段あがったら、森やら砂漠やら氷河だったりするのも、まだいい。
けど、一面が炎、水中、星の世界になっちゃうと、もうアウト。
ほんと、魔族用の牢獄だわ。
普通の人間じゃ、とても生きていけない。
《……この階にも、汝の求める者たちは居らず。次の角を左、つきあたる前に右、緑のタイルを踏んで後、逆走せよ。階段が、手前の通路に五分のみ出現する》
「ありがとう!」
ダーモットは探知の魔法をかけ、その階にお師匠様たちは居ないか、上階への階段は何処か、毎回毎回調べてくれている。本当、助かる。ダーモットが居なかったら、遭難してるわ。
一方、他の魔族は獄卒と戦いながら、喧嘩してた。
《サリー! 邪魔立てする気か?》
《だぁ〜って、こぉんなかわいい小人さんだよ? コロしちゃ、イヤ〜》
《向かってくるものは切り裂く》
《だめだめだめ〜 あたしのお人形にするぅ! そっちのダークエルフちゃんも! きずつけないで〜》
《チッ! ならば、このオークは?》
《いいよ、コロして》
《あちらのベヒーモスは?》
《かわいくない。いらなーい。ノーラちゃんのすきにして〜》
かわいけりゃ、人形にする。魔眼でメロメロにしてから、誘拐。分身に、自分の城まで運ばせて、天使コスプレをさせる。
かわいくなきゃ、ガン無視。吸血鬼王にズタボロにされようが、放っとく。
……なにげにひどい、サリー。
鉄格子の牢が左右に並ぶ、牢獄らしい階。
その階についてじきに……
《何処へ行くつもりかしら? サリー、ノーラ、ダーモット? 薄汚い害虫を連れて……》
前方に、武器を持つ集団が現れた。
真ん中に居る女性だけが素手だ。
悪魔的な角に、蝙蝠の翼、そして尻尾。
泣きぼくろのあるなまめかしい顔。
たっぷんたっぷんの爆乳……というか、デカすぎる! 何なの、その胸! メロンも目じゃないわ! あんた、ぜったい自分の足元見えてないでしょ!
服装も凄い。きゅっとウエストを締めあげた黒のコルセット、布がほとんどない黒の下着、ガーターストッキングに、黒のピンヒール……エッチすぎ!
「あいつが、賢者様達をさらったサキュバスです」
アランが叫ぶのと、ほぼ同時に。
《ラモーナ!》
怒声をあげ、吸血鬼王ノーラが飛ぶ。
速く鋭く。
さながら弾丸のように、淫魔へと迫る。
けれども……
淫魔のそばに居たものたちが、吸血鬼王の間に割って入ってきたのだ。
《チッ!》
舌を打ち、吸血鬼王は凄まじい勢いで後退した。振り上げていた右腕を下げ、忌々しそうに淫魔を睨んで。
《うふふ。ありがと。これからも、かよわいあたくしを守ってね》
盾となった男たちに、サキュバスが妖しく微笑みかける。
それだけで、男たちの顔がしまりのないものになる。頬を撫でられた男なんか、完全な興奮状態だ。鼻息も荒く、よだれをたらし、ブルブルと身を震わせている。魅了されてる……。
配下をねぎらってから、サキュバスはノーラへと視線を向け、ふふんと笑った。
《ぶざまなものね、ノーラ。人間を前に体をすくませちゃって、なぁんにもできない。勇者の呪いって、ほぉんといやらしい……》
む。
呪いとは、失敬な。
キュンキュンしただけよ。
まあ……本人の意向無視の仲間枠入りは、された側には呪いかもだけど。
《覚えていてよ。勇者ジャンに『伴侶』とされた魔族は、人間族に対して無力化したわ。勇者が魔王を倒すまで、人間を殺すことはおろか、吸精すらできなくなる。人間に襲われても、逃げることしかできなくなる……》
サキュバスのオレンジの髪が、ゆらゆらと揺れる。
《その女……》
サキュバスが、アタシを指さす。
《ジャンと同じものなんですって?》
睨まれてしまった。
《そんな女を連れまわして……偉大なる王に『勇者の伴侶』の呪いをかける気? 許しませんことよ》
《ふん。帰って欲しくば、私の獲物を返せ》
《あの三人は、王の客人です》
サキュバスが、ツーンとそっぽを向く。
《招いたものをどうなさるかは、王のお心次第。口出しは控えなさい》
《ラモーナ。何ゆえ、王の秘書たる汝がここに?》
ダーモットの問いに、ラモーナは腰に手をあて胸を張った。ただでさえ大きな胸を、ぶるんぶるん揺らして。
《あなたがたが牢獄を襲うって、密告があったのよ》
《密告?》
《プアレナの『扉』が奪われ、呪い女が偉大なる王のもとに現れたらたいへんですもの。危険な芽は、ここで潰しておくわ》
《そういえば、貴様も『扉』を持っていたな》
ノーラの髪もゆらっと揺れる。
《まだるっこしい探索などやめだ。貴様を倒し、僧侶のもとまで案内させる》
《あ〜ら。あいかわらず、おバカさんだこと。『勇者の伴侶』が、このあたくしに勝てると思って?》
華やかに笑ってから、サキュバスはノーラを指さした。
《殺っておしまいなさい》と。
ボーッとしてた男たちが、いきなり殺気だつ。
呪文の詠唱を始める者、武器を手に走り出す者。
吸血鬼王は、襲いかかってくる敵を微動だにせずただ眺め……飲まれる寸前で姿を消した。
何か風が吹いた!
と、思った時には、アタシのすぐ側に吸血鬼王は戻っていた。
《おのれ……ラモーナめ》
中性的な美貌の主は、怒っていた。襟の高い黒マントを体に巻きつけ、赤い眼をギラギラと光らせて、殺気をまき散らして。
ダーモットが杖を持ちあげ、杖底でタン!と足元を突く。
その動作で、結界が生まれ、ダーモットを中心に風の渦が発生。襲って来た奴等が、押し戻されてゆく。
敵を切り裂く殺傷能力などない、ただの強風。それでも、充分、敵の進撃を食い止めてくれた。
《降伏なさい。自ら下るのなら、偉大なる王に寛大なご処分をお願いしてあげる。永久氷獄に投獄、刑期千年でどうかしら?》
どこが、寛大な処分よ!
ラモーナは、男たちを背に従え、向かい風に大きな胸を張っている。
来られるものならここまでいらっしゃいってな感じだ。
部下の男たちも、無理に近づいてはこない。半分魂の抜けたような顔で、武器を構えながら、こっちを見ている。
右目にハート眼帯の堕天使が、ポリポリと頬を掻く。
《あの子たち、どする?》
《ふむ。困った。今の我等は、人間を攻撃できぬ》
麻痺・眠りなどの行動阻害系の魔法も駄目。風で近づけさせぬようにするのが精一杯だと、不死の魔法使いは言う。
吸血鬼王が、ジロリとアタシを睨む。
わかってるわ。
アタシだって、ここで足踏みはご免よ。
「ルーチェさん。あの男たちを、寝かせちゃって」
て、頼んだんだけど。
白いドレスを着た虹クマさんは、動かない。
前を見たまま、ぷるぷる震えている。
「ルーチェさん?」
《すみません……勇者ジャンヌ》
虹クマさんが、ふらっとよろめき、床に前足をつく。
「どうしたの、ルーチェさん!」
《神聖補正効果を期待して、このダサイ白い服を着続けましたが……駄目でした》
「駄目ってなにが?」
ルーチェさんの右手が、前方を指さす。
《私達……夢魔に敵対行動がとれません》
そこには……
窓にかぶりつく子供のように、結界ぎりぎりに陣取っている奴等が……
《ホホホ。なかなかのボインちゃんじゃ。ナウなヤングはイチコロじゃのうクマー》
《だめですよ、氷の御大。かなりNGワードが混じってます》
《ピロおじーちゃん、あれこそがG(神)の上をいくサイズ! 目測、Jカップ! 男のロマン、爆乳だよ!》
《ニャー ニャー ニャー》
《ニャー ニャー ニャー》
「……ユーヴェちゃん、『爆乳』は爆発したりしないから。トネールさん、『爆乳』と『超乳』の垣根なんて、ボク、知りません……」
うちの精霊たちと、クロードとクロードの精霊……
「なにやってんの、あんたたち?」
「う!」
ギクっと体を揺らし、半べその幼馴染が振り返る。
「体が勝手に吸い寄せられるんだ……見たいわけじゃないんだよ、ほんとだよ、ジャンヌ!」
鼻の頭が真っ赤、ソルみたいに息が乱れてる。
「あああ! でもでもでも! ラモーナ様が、すっげぇ綺麗に見える! 側に行きたい! 仕えたい! 褒めてもらいたい!」
『様』づけしてるし……
……趣味悪ぅ。
《ラモーナに誘惑されているのだ》と、骸骨の魔法使い。
《あれは、『男』を捕食するサキュバス。その姿は『男』の理想の異性像であり、その存在は『男』の理性を奪い、誘惑されし『男』を骨抜きとする。成人女性に異性愛を抱く『男』は、自らラモーナの軍門に下ることになろう》
男?
「精霊も混じってるけど?」
《セーレーも、はんぶん、男みたいなもんだから》と、チビッ子天使。
《ラモーナちゃんのユーワクは、あたしのミリョウとおんなじくらいつよいもん。マゾクだってユーワクしちゃうんだよ?》
《少し距離が開いておるゆえ、皆にまだ理性が残っているが》
結界の外に出て、更にラモーナに近づいたら、アウトなわけか。
《……光の精霊であるこの私が、魔族にときめいている》
白ドレスの虹クマさんは、うずくまって床を見つめている。
《しかも、よりにもよって、あんな下品な……》
ほんとうに悔しそうだ。
《ただの、黒一色! 遊び心も冒険心もない、無難なコーデなだけなのに! あああ、あんなダサイ姿が、素敵に見えてしまうなんて!》
こだわるの、そこ???
しかし……
ノーラたちは、人間と戦えない。
クロードと精霊たちは、ラモーナに近寄ると誘惑されてしまう。
と、なれば……
「『女』のアタシが戦うしかないわね!」
《だいじょーぶ?》
「平気よ」
男たちは、十人ぐらい居る。
けど、アタシだって、ジパング界や天界で修行をつんだ身。
『オニキリ』や『不死鳥の剣』も持ってる!
ただの一般人が相手なら、アタシだって!
《ほんとに、だいじょーぶ? てきの子たち、シンセーブキ(神聖武器)とかシンセーボーグ(神聖防具)もってるよ》
え?
《ラスボスまえのサイシューソウビ(最終装備)ってかんじ? マオウでもコロせそう。ラモーナちゃん、どっかのセカイからユーシャ・パーティでもさらってきたのかなあ》
勇者PT?
嘘!
勇者PTと戦うわけぇ? アタシがたった一人で????
「お供します」
そう言って一歩前に出たのは、裸戦士の人で……。
「異世界の勇者パーティと対戦とは……わくわくしますね」
両腕を体の前で交差させ、脇の下でカッポンカッポンと音を立ててる。やる気満々。
てか、どうして?
「ラモーナと戦えるの?」
「可能です」
きっぱり答えるし。
そういえば、アランだけ、クロードたちのグループに混じってなかったような。
死神王、吸血鬼王、屍王の視線も、裸戦士に集まる。
《戦士。汝、魅了されておらぬのか?》
「はい。平常心を保てています」
なんで?
『男』は、みんな魅了されちゃうんじゃなかったの?
《あ〜 そっか》
サリーが、ポンと手をたたく。
《おとこがすきなんだね♪》
え?
《ボンキュッボーンに、キョーミがないんだぁ》
しぃぃんと……辺りが静まりかえった。
ヴァンたちもおしゃべりをやめている。
聞こえるのは、風の音だけだった。
《なるほど。同性愛者か。ならば、ラモーナの誘惑になびくはずもなし》
いやいやいやいやいや!
「誤解です、俺はどんな敵が相手でも平常心を保てますが、それは訓練の賜物であって! 決して性嗜好からのことではなく、」
「そーよ、違うわ! アランはね、」
アタシは言い切った。
「ちっちゃな女の子が好きなだけよ!」
再び、しぃぃんと……辺りが静まりかえった。
《なるほど。幼児愛好者か。ならば、ラモーナの誘惑になびくはずもなし》
「ち、違います!」
裸の人が、妙にうろたえる。
「勇者様! 俺は、父祖に尽くし、兄姉に慎み深くあり、弟妹を庇い、隣人に誠実であれという家訓を守って、年少者の庇護を心掛けているだけで、」
潔くないなあ。
女神さまや天使を、五〜六才の幼児にあてはめてたくせに。
馬車の中でも、サリー相手に笑顔みせまくりだったし。
チビッ子時代のアタシにも、やたら親切だった。
スッパリ認めたら?
子供が好きです、って。
「勇者様! その目は完全に誤解してますね? 俺は年少者に歪んだ愛情を抱いたことなどただの一度も、」
《……いつまでくだらぬ話を続ける気だ?》
吸血鬼王が、派手に舌を打つ。
《勇者でも戦士でもいい。ラモーナの前の壁を、とっとと払え》
赤い眼が、ますますギラつく。
《ラモーナは、私が倒す》
《んじゃ、あたしは、ユーシャちゃんのボディガードしよっかなー》
「ふたりとも、大丈夫? ラモーナに誘惑されない?」
ノーラは男、サリーは両性具有でしょ?
《戯言を……》
水色の髪と白い翼が、ぶわっと宙に広がった。
サリーは変化した。チビッ子堕天使から、六枚の翼を持つ天使へと。二枚で顔を覆い、二枚で体を隠し、二枚で下半身を隠している。
《魔眼を持つ私が、淫魔の誘惑などに屈するとでも?》
声も口調もがらりと変わった。けど、しゃべってるのは死神サリーだ。意外と深みのある、澄んだ声。背筋に、ゾクゾクくる……。
ちなみに、吸血鬼王の方は、
《私の超好みは、引き締まった体の、太い首の男だ》
なので、ぜったいに魅了されないと断言した。
うわぁ……
本物が居たぁ!
アリス先輩、ここにホンモノが!
「露払いをします!」
アランが走る。
ダーモットの風魔法の気流にのって、鈍色の両刃剣を槍のように構え、まっすぐに。
結界から飛び出した彼に、敵の魔法が飛来する。
その全てを、アランは叩き斬った。彼の剣は、魔力すら斬れるのだ。
敵の中に飛び込み、槍をかわし、剣を避け、アランの剣を盾で受けようとした戦士を弾き飛ばし、次の瞬間にはその横に居た者を薙ぎ払い……と、凄まじい戦いぶりだ。
吸血鬼王も、ほぼ同時に敵に突っ込んでいる。蝙蝠、銀狼、人型と、次々に変身し、複数の敵の注意を自分に引きつけて。
けど、攻撃は出来ないんで、ひたすらいなし。
で、時々、アランへと放たれた魔法を、口から放つ怪音波で霧散させている。
素晴らしいチームプレイ。《共闘? ふざけるな。人間なぞと馴れ合えるか》と言ってたわりには、協力的だ。
それも、肉盾を排除して、ラモーナと戦う為なんだろうけど。
アランは、ともかく強い。
異世界の勇者PTのみなさまが、まるで雑魚のよう。
次々にアランにふっとばされてゆく。
けれども、倒れても倒れても、彼等は立ち上がる。
装備がいいせいか、身代わりアイテムを持ってるのか、復活の呪文を使ってるんだか……
きりがない。
《戦士! 防具の無い箇所を狙え! 首を落とせば、復活すまい!》
「駄目です。彼等は異世界の救い手かもしれない。殺せません」
《チッ! 甘いことを……》
戦いが膠着しかけたところで、勇者のアタシと死神サリーが介入!
アタシは、サリーから渡されたアイテムを手に、敵からちょっと離れた所にスタンバイ!
サリーが敵を一体ひっかけてきて、アタシのもとまで誘導!
そこで!
サリーが顔を覆っていた二枚の翼を開く!
すると!
超絶美形の素顔が露わになって!
敵がみとれるので、アタシは託されたアイテムを使用!
敵をぐるぐる巻きにして、床に転がす!
縄で縛るだけの簡単なお仕事をしている……。
勇者なのに……
彼等と武器でやりあって勝てるのか? って聞かれると、自信ないけど……でも、こう、ほら……勇者VS勇者とか、それっぽい活躍があっても……。
サリーが敵を連行しに行っちゃったので、とことん暇。
捕まえた敵を見張りつつ、あくびをかみ殺した。
しかし……
みんな面白いぐらい硬直する。
ちょっとびっくり。
大人版サリーは、犯罪レベルの美形。あの美しさは、夢魔の誘惑をも破るということか。
と、そこで、足元から声が聞こえた。
《ちゃうがな。右眼つかっとるやん、あいつ》
「右眼?」
《せや。左隠して、右さらす。眼帯、逆にしとったやろ?》
「そうなの?」
《見てないのん、勇者はん?》
「ええ。見ちゃ駄目って、サリーが。あんたたちを縛る時もサリーの方は見ないようにしてたわ」
《サリーの左は魔眼、右が癒しの目なんや。右眼で相手を見て、ラモーナはんの魅了を払おうとしたわけや》
へー そうだったのか。
《人間に悪さできんサリーでも、癒すことはできるさかい。魅了と治癒の間で硬直した奴を縛らせるとか、ほんま、いちいちえげつない奴っちゃ》
ん?
《その縄もなー お人形とのプレイ用なんやで。一度絡めとられたら神獣さえ逃げられん、むっちゃくちゃな強度の、特殊なプレイ用のやっちゃ。ほんま好きもんやわ、あの堕天使》
特殊なプレイって、なに????
じゃなくって!
この声……
てっきり、転がってる勇者PTの誰かかと。
けど、みんな、魂が抜けたようなまぬけ顔のまま。
話ができる状態じゃ……。
「誰?」
《誰でもええやん》
声がクスクスと笑う。
《暇なんや。ちょいと、つきあってくれへん?》
足元から、ぼわんと、ピンク色の煙が生まれる。
強烈な甘い香りが広がり……
アタシの視界は、真っピンクになった。
《あそぼ》
すぅぅっと意識が遠退いていって……




