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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
堕ちた勇者
153/236

囚われの仲間を救え

 アタシたちは、牢獄に突入した。


 襲い来る、獄卒たち。


 ずももも〜とばかりに、ミノタウルスが現れたり。


 ばば〜んと、カトちゃんぐらい大きな馬頭の獣人が出てきたり。


 どど〜んとコマをぶち抜く感じに、巨大なケルベロスが姿を見せたり。


 したんだけど……


 登場、即、退場だった。

 吸血鬼王に、引き裂かれて……。

 実力の片鱗を見せる間もなくズタボロされて、ちょっとかわいそう。


《ふん。歯ごたえのかけらもない》

 不満顔のわりに、他のものに譲る気はないようで。何かを見かけると、蝙蝠やら銀狼やらに変化して、すっとんで行ってしまう。


 バトル・マニアだ。

 幼馴染が、「さすが、ノーラさん! かっけぇ!」と感動してるのはいつもの事。

 アランが、やけに熱心に見ているのが気になった。好敵手を見る目といおうか。吸血鬼王の戦いぶりに、戦士の血が刺激されてるっぽい。




 ひたすら上を目指す。

 最初は自分の足で走ってたんだけど、途中からヴァンに運んでもらってる。クロードとアランもこみで、空中浮遊結界に包んでもらって。


 魔界の王がつくった牢獄が、不思議空間すぎるからだ。


 階ごとに、つくりがガラッと変わり、広さや天井までの高さも階段の位置も、毎回異なる……のはいいとして。

 階段あがったら、森やら砂漠やら氷河だったりするのも、まだいい。

 けど、一面が炎、水中、星の世界になっちゃうと、もうアウト。


 ほんと、魔族用の牢獄だわ。

 普通の人間じゃ、とても生きていけない。


《……この階にも、汝の求める者たちは居らず。次の角を左、つきあたる前に右、緑のタイルを踏んで後、逆走せよ。階段が、手前の通路に五分のみ出現する》

「ありがとう!」

 ダーモットは探知の魔法をかけ、その階にお師匠様たちは居ないか、上階への階段は何処か、毎回毎回調べてくれている。本当、助かる。ダーモットが居なかったら、遭難してるわ。


 一方、他の魔族(ふたり)は獄卒と戦いながら、喧嘩してた。


《サリー! 邪魔立てする気か?》

《だぁ〜って、こぉんなかわいい小人さんだよ? コロしちゃ、イヤ〜》

《向かってくるものは切り裂く》

《だめだめだめ〜 あたしのお人形にするぅ! そっちのダークエルフちゃんも! きずつけないで〜》

《チッ! ならば、このオークは?》

《いいよ、コロして》

《あちらのベヒーモスは?》

《かわいくない。いらなーい。ノーラちゃんのすきにして〜》


 かわいけりゃ、人形にする。魔眼でメロメロにしてから、誘拐。分身に、自分の城まで運ばせて、天使コスプレをさせる。

 かわいくなきゃ、ガン無視。吸血鬼王にズタボロにされようが、放っとく。

……なにげにひどい、サリー。




 鉄格子の牢が左右に並ぶ、牢獄らしい階。


 その階についてじきに……


《何処へ行くつもりかしら? サリー、ノーラ、ダーモット? 薄汚い害虫を連れて……》


 前方に、武器を持つ集団が現れた。


 真ん中に居る女性だけが素手だ。


 悪魔的な角に、蝙蝠の翼、そして尻尾。

 泣きぼくろのあるなまめかしい顔。

 たっぷんたっぷんの爆乳……というか、デカすぎる! 何なの、その胸! メロンも目じゃないわ! あんた、ぜったい自分の足元見えてないでしょ!

 服装も凄い。きゅっとウエストを締めあげた黒のコルセット、布がほとんどない黒の下着、ガーターストッキングに、黒のピンヒール……エッチすぎ!


「あいつが、賢者様達をさらったサキュバスです」

 アランが叫ぶのと、ほぼ同時に。


《ラモーナ!》

 怒声をあげ、吸血鬼王ノーラが飛ぶ。

 速く鋭く。

 さながら弾丸のように、淫魔へと迫る。


 けれども……


 淫魔のそばに居たものたちが、吸血鬼王の間に割って入ってきたのだ。


《チッ!》

 舌を打ち、吸血鬼王は凄まじい勢いで後退した。振り上げていた右腕を下げ、忌々しそうに淫魔を睨んで。


《うふふ。ありがと。これからも、かよわいあたくしを守ってね》

 盾となった男たちに、サキュバスが妖しく微笑みかける。

 それだけで、男たちの顔がしまりのないものになる。頬を撫でられた男なんか、完全な興奮状態だ。鼻息も荒く、よだれをたらし、ブルブルと身を震わせている。魅了されてる……。


 配下をねぎらってから、サキュバスはノーラへと視線を向け、ふふんと笑った。

《ぶざまなものね、ノーラ。人間を前に体をすくませちゃって、なぁんにもできない。勇者の呪いって、ほぉんといやらしい……》


 む。

 呪いとは、失敬な。

 キュンキュンしただけよ。


 まあ……本人の意向無視の仲間枠入りは、された側には呪いかもだけど。


《覚えていてよ。勇者ジャンに『伴侶』とされた魔族は、人間族に対して無力化したわ。勇者が魔王(ライバル)を倒すまで、人間を殺すことはおろか、吸精すらできなくなる。人間に襲われても、逃げることしかできなくなる……》

 サキュバスのオレンジの髪が、ゆらゆらと揺れる。

《その女……》

 サキュバスが、アタシを指さす。

《ジャンと同じもの(・・・・)なんですって?》

 睨まれてしまった。

《そんな女を連れまわして……偉大なる王に『勇者の伴侶』の呪いをかける気? 許しませんことよ》


《ふん。帰って欲しくば、私の獲物を返せ》

《あの三人は、王の客人(もの)です》

 サキュバスが、ツーンとそっぽを向く。

《招いたものをどうなさるかは、王のお心次第。口出しは控えなさい》


《ラモーナ。何ゆえ、王の秘書たる汝がここに?》

 ダーモットの問いに、ラモーナは腰に手をあて胸を張った。ただでさえ大きな胸を、ぶるんぶるん揺らして。

《あなたがたが牢獄を襲うって、密告があったのよ》

《密告?》

《プアレナの『扉』が奪われ、呪い女が偉大なる王のもとに現れたらたいへんですもの。危険な芽は、ここで潰しておくわ》


《そういえば、貴様も『扉』を持っていたな》

 ノーラの髪もゆらっと揺れる。

《まだるっこしい探索などやめだ。貴様を倒し、僧侶のもとまで案内させる》


《あ〜ら。あいかわらず、おバカさんだこと。『勇者の伴侶』が、このあたくしに勝てると思って?》

 華やかに笑ってから、サキュバスはノーラを指さした。

()っておしまいなさい》と。


 ボーッとしてた男たちが、いきなり殺気だつ。

 呪文の詠唱を始める者、武器を手に走り出す者。


 吸血鬼王は、襲いかかってくる敵を微動だにせずただ眺め……飲まれる寸前で姿を消した。


 何か風が吹いた!

 と、思った時には、アタシのすぐ側に吸血鬼王は戻っていた。

《おのれ……ラモーナめ》

 中性的な美貌の主は、怒っていた。襟の高い黒マントを体に巻きつけ、赤い眼をギラギラと光らせて、殺気をまき散らして。


 ダーモットが杖を持ちあげ、杖底でタン!と足元を突く。

 その動作で、結界が生まれ、ダーモットを中心に風の渦が発生。襲って来た奴等が、押し戻されてゆく。

 敵を切り裂く殺傷能力などない、ただの強風。それでも、充分、敵の進撃を食い止めてくれた。


《降伏なさい。自ら下るのなら、偉大なる王に寛大なご処分をお願いしてあげる。永久氷獄に投獄、刑期千年でどうかしら?》

 どこが、寛大な処分よ!


 ラモーナは、男たちを背に従え、向かい風に大きな胸を張っている。

 来られるものならここまでいらっしゃいってな感じだ。

 部下の男たちも、無理に近づいてはこない。半分魂の抜けたような顔で、武器を構えながら、こっちを見ている。



 右目にハート眼帯の堕天使が、ポリポリと頬を掻く。

《あの子たち、どする?》


《ふむ。困った。今の我等は、人間を攻撃できぬ》

 麻痺・眠りなどの行動阻害系の魔法も駄目。風で近づけさせぬようにするのが精一杯だと、不死の魔法使いは言う。


 吸血鬼王が、ジロリとアタシを睨む。

 わかってるわ。

 アタシだって、ここで足踏みはご免よ。


「ルーチェさん。あの男たちを、寝かせちゃって」

 て、頼んだんだけど。

 白いドレスを着た虹クマさんは、動かない。

 前を見たまま、ぷるぷる震えている。

「ルーチェさん?」


《すみません……勇者ジャンヌ》

 虹クマさんが、ふらっとよろめき、床に前足をつく。

「どうしたの、ルーチェさん!」

《神聖補正効果を期待して、このダサイ白い服を着続けましたが……駄目でした》

「駄目ってなにが?」

 ルーチェさんの右手が、前方を指さす。

《私達……夢魔に敵対行動がとれません》


 そこには……

 窓にかぶりつく子供のように、結界ぎりぎりに陣取っている奴等が……

《ホホホ。なかなかのボインちゃんじゃ。ナウなヤングはイチコロじゃのうクマー》

《だめですよ、氷の御大。かなりNGワードが混じってます》

《ピロおじーちゃん、あれこそがG(神)の上をいくサイズ! 目測、Jカップ! 男のロマン、爆乳だよ!》

《ニャー ニャー ニャー》

《ニャー ニャー ニャー》

「……ユーヴェちゃん、『爆乳』は爆発したりしないから。トネールさん、『爆乳』と『超乳』の垣根なんて、ボク、知りません……」


 うちの精霊()たちと、クロードとクロードの精霊……

「なにやってんの、あんたたち?」


「う!」

 ギクっと体を揺らし、半べその幼馴染が振り返る。

「体が勝手に吸い寄せられるんだ……見たいわけじゃないんだよ、ほんとだよ、ジャンヌ!」

 鼻の頭が真っ赤、ソルみたいに息が乱れてる。

「あああ! でもでもでも! ラモーナ様が、すっげぇ綺麗に見える! 側に行きたい! 仕えたい! 褒めてもらいたい!」

『様』づけしてるし……

……趣味悪ぅ。


《ラモーナに誘惑されているのだ》と、骸骨の魔法使い。

《あれは、『男』を捕食するサキュバス。その姿は『男』の理想の異性像であり、その存在は『男』の理性を奪い、誘惑されし『男』を骨抜きとする。成人女性に異性愛を抱く『男』は、自らラモーナの軍門に下ることになろう》


 男?


「精霊も混じってるけど?」


《セーレーも、はんぶん、男みたいなもんだから》と、チビッ子天使。

《ラモーナちゃんのユーワクは、あたしのミリョウとおんなじくらいつよいもん。マゾクだってユーワクしちゃうんだよ?》


《少し距離が開いておるゆえ、皆にまだ理性が残っているが》

 結界の外に出て、更にラモーナに近づいたら、アウトなわけか。


《……光の精霊であるこの私が、魔族にときめいている》

 白ドレスの虹クマさんは、うずくまって床を見つめている。

《しかも、よりにもよって、あんな下品な……》

 ほんとうに悔しそうだ。

《ただの、黒一色! 遊び心も冒険心もない、無難なコーデなだけなのに! あああ、あんなダサイ姿(ファッション)が、素敵に見えてしまうなんて!》

 こだわるの、そこ???



 しかし……

 ノーラたちは、人間と戦えない。

 クロードと精霊たちは、ラモーナに近寄ると誘惑されてしまう。


 と、なれば……

「『女』のアタシが戦うしかないわね!」


《だいじょーぶ?》

「平気よ」

 男たちは、十人ぐらい居る。

 けど、アタシだって、ジパング界や天界で修行をつんだ身。

『オニキリ』や『不死鳥の剣』も持ってる!

 ただの一般人が相手なら、アタシだって!


《ほんとに、だいじょーぶ? てきの子たち、シンセーブキ(神聖武器)とかシンセーボーグ(神聖防具)もってるよ》


 え?


《ラスボスまえのサイシューソウビ(最終装備)ってかんじ? マオウでもコロせそう。ラモーナちゃん、どっかのセカイからユーシャ・パーティでもさらってきたのかなあ》

 勇者PT(パーティ)

 嘘!

 勇者PTと戦うわけぇ? アタシがたった一人で????


「お供します」

 そう言って一歩前に出たのは、裸戦士の人で……。

「異世界の勇者パーティと対戦とは……わくわくしますね」

 両腕を体の前で交差させ、脇の下でカッポンカッポンと音を立ててる。やる気満々。


 てか、どうして?


「ラモーナと戦えるの?」

「可能です」

 きっぱり答えるし。


 そういえば、アランだけ、クロードたちのグループに混じってなかったような。


 死神王、吸血鬼王、屍王の視線も、裸戦士に集まる。


《戦士。汝、魅了されておらぬのか?》


「はい。平常心を保てています」


 なんで?

『男』は、みんな魅了されちゃうんじゃなかったの?


《あ〜 そっか》

 サリーが、ポンと手をたたく。

《おとこがすきなんだね♪》


 え?


《ボンキュッボーンに、キョーミがないんだぁ》


 しぃぃんと……辺りが静まりかえった。

 ヴァンたちもおしゃべりをやめている。

 聞こえるのは、風の音だけだった。


《なるほど。同性愛者か。ならば、ラモーナの誘惑になびくはずもなし》


 いやいやいやいやいや!


「誤解です、俺はどんな敵が相手でも平常心を保てますが、それは訓練の賜物であって! 決して性嗜好からのことではなく、」


「そーよ、違うわ! アランはね、」

 アタシは言い切った。

「ちっちゃな女の子が好きなだけよ!」


 再び、しぃぃんと……辺りが静まりかえった。


《なるほど。幼児愛好者か。ならば、ラモーナの誘惑になびくはずもなし》


「ち、違います!」

 裸の人が、妙にうろたえる。

「勇者様! 俺は、父祖に尽くし、兄姉に慎み深くあり、弟妹を庇い、隣人に誠実であれという家訓を守って、年少者の庇護を心掛けているだけで、」


 潔くないなあ。

 女神さまや天使を、五〜六才の幼児にあてはめてたくせに。

 馬車の中でも、サリー相手に笑顔みせまくりだったし。

 チビッ子時代のアタシにも、やたら親切だった。

 スッパリ認めたら?

 子供が好きです、って。


「勇者様! その目は完全に誤解してますね? 俺は年少者に歪んだ愛情を抱いたことなどただの一度も、」



《……いつまでくだらぬ話を続ける気だ?》

 吸血鬼王が、派手に舌を打つ。

《勇者でも戦士でもいい。ラモーナの前の壁を、とっとと払え》

 赤い眼が、ますますギラつく。

《ラモーナは、私が倒す》


《んじゃ、あたしは、ユーシャちゃんのボディガードしよっかなー》


「ふたりとも、大丈夫? ラモーナに誘惑されない?」

 ノーラは男、サリーは両性具有でしょ?


戯言(ざれごと)を……》

 水色の髪と白い翼が、ぶわっと宙に広がった。

 サリーは変化した。チビッ子堕天使から、六枚の翼を持つ天使へと。二枚で顔を覆い、二枚で体を隠し、二枚で下半身を隠している。

《魔眼を持つ私が、淫魔の誘惑などに屈するとでも?》

 声も口調もがらりと変わった。けど、しゃべってるのは死神サリーだ。意外と深みのある、澄んだ声。背筋に、ゾクゾクくる……。


 ちなみに、吸血鬼王の方は、

《私の超好み(ストライク)は、引き締まった体の、太い首の男だ》

 なので、ぜったいに魅了されないと断言した。


 うわぁ……

 本物が居たぁ!

 アリス先輩、ここにホンモノが!






「露払いをします!」

 アランが走る。

 ダーモットの風魔法の気流にのって、鈍色(にびいろ)の両刃剣を槍のように構え、まっすぐに。


 結界から飛び出した彼に、敵の魔法が飛来する。


 その全てを、アランは叩き斬った。彼の剣は、魔力すら斬れるのだ。

 敵の中に飛び込み、槍をかわし、剣を避け、アランの剣を盾で受けようとした戦士を弾き飛ばし、次の瞬間にはその横に居た者を薙ぎ払い……と、凄まじい戦いぶりだ。


 吸血鬼王も、ほぼ同時に敵に突っ込んでいる。蝙蝠、銀狼、人型と、次々に変身し、複数の敵の注意を自分に引きつけて。

 けど、攻撃は出来ないんで、ひたすらいなし。

 で、時々、アランへと放たれた魔法を、口から放つ怪音波で霧散させている。

 素晴らしいチームプレイ。《共闘? ふざけるな。人間なぞと馴れ合えるか》と言ってたわりには、協力的だ。

 それも、肉盾を排除して、ラモーナと戦う為なんだろうけど。


 アランは、ともかく強い。

 異世界の勇者PTのみなさまが、まるで雑魚のよう。

 次々にアランにふっとばされてゆく。


 けれども、倒れても倒れても、彼等は立ち上がる。

 装備がいいせいか、身代わりアイテムを持ってるのか、復活の呪文を使ってるんだか……


 きりがない。


《戦士! 防具の無い箇所を狙え! 首を落とせば、復活すまい!》

「駄目です。彼等は異世界の救い手かもしれない。殺せません」

《チッ! 甘いことを……》



 戦いが膠着しかけたところで、勇者のアタシと死神サリーが介入!


 アタシは、サリーから渡されたアイテムを手に、敵からちょっと離れた所にスタンバイ!

 サリーが敵を一体ひっかけてきて、アタシのもとまで誘導!

 そこで!

 サリーが顔を覆っていた二枚の翼を開く!

 すると!

 超絶美形の素顔が露わになって!

 敵がみとれるので、アタシは託されたアイテムを使用!

 敵をぐるぐる巻きにして、床に転がす!


 縄で縛るだけの簡単なお仕事をしている……。


 勇者なのに……

 彼等と武器でやりあって勝てるのか? って聞かれると、自信ないけど……でも、こう、ほら……勇者VS勇者とか、それっぽい活躍があっても……。


 サリーが敵を連行(ナンパ)しに行っちゃったので、とことん暇。

 捕まえた敵を見張りつつ、あくびをかみ殺した。


 しかし……

 みんな面白いぐらい硬直する。

 ちょっとびっくり。

 大人版サリーは、犯罪レベルの美形。あの美しさは、夢魔の誘惑をも破るということか。


 と、そこで、足元から声が聞こえた。


《ちゃうがな。右眼つかっとるやん、あいつ》

「右眼?」

《せや。左隠して、右さらす。眼帯、逆にしとったやろ?》

「そうなの?」

《見てないのん、勇者はん?》

「ええ。見ちゃ駄目って、サリーが。あんたたちを縛る時もサリーの方は見ないようにしてたわ」

《サリーの左は魔眼、右が癒しの目なんや。右眼で相手を見て、ラモーナはんの魅了を払おうとしたわけや》

 へー そうだったのか。

《人間に悪さできんサリーでも、癒すことはできるさかい。魅了と治癒の(はざま)で硬直した奴を縛らせるとか、ほんま、いちいちえげつない奴っちゃ》


 ん?


《その縄もなー お人形とのプレイ用なんやで。一度絡めとられたら神獣さえ逃げられん、むっちゃくちゃな強度の、特殊なプレイ用のやっちゃ。ほんま好きもんやわ、あの堕天使》


 特殊なプレイって、なに????


 じゃなくって!


 この声……


 てっきり、転がってる勇者PTの誰かかと。

 けど、みんな、魂が抜けたようなまぬけ顔のまま。

 話ができる状態じゃ……。


「誰?」


《誰でもええやん》

 声がクスクスと笑う。


《暇なんや。ちょいと、つきあってくれへん?》




 足元から、ぼわんと、ピンク色の煙が生まれる。


 強烈な甘い香りが広がり……


 アタシの視界は、真っピンクになった。


《あそぼ》


 すぅぅっと意識が遠退いていって……

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