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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
堕ちた勇者
152/236

キミの笑顔のために

 胸がキュンキュンキュンキュンした!



 心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。

 欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。


《あと三十九〜 おっけぇ?》


 と、内側から神様の声がした。



 いや、だって!

 これは萌えるというか!

 ドキドキものというか!


 なんで、着てないのぉぉぉ?

 裸の上に、マントだけを羽織るなんて!

 犯罪レベルよ!


 キューちゃんより、すごいわ!

 てか、キューちゃんはバブちゃんだったけど、こちらは大人なわけで……


 前がはだけてるから……


 つまり、その……


 アタシ、初めて……


 未知の領域を……


 も、もろに、見ちゃっ……


 ああああ、駄目! もうこれ以上は無理! 乙女として、正視できないわ!


 アタシは両手で、顔を覆った。


「ノーラさん、男になってたのか」

 てな、やけにのほほんとしたクロードの声。

「男性形の方が、身体能力が向上するんじゃないんですか? 堕天使との戦闘の為に、男になったのでは?」

 アランも、落ち着き払っている。

 なんで、そんなに冷静なのあんたたち! 裸マントの男がいるのに!


 そして……

《これは……》

 苦しそうな声がする。

《忌々しき光が……強引に押し入ってきた……忘れもしない、この不快な感覚は……》


《ジャンの時といっしょだろ?》

 イヒヒと笑い声が響く。

《ノーラ。あんたは、また、勇者の仲間に選ばれたってわけさ。ゆーちゃちゃまが自分の世界の魔王を倒すまで、その印は消えない。人間に悪さできない体になっちまったのさ。ま、当分、人間以外をエサにするんだね》


《ベティ……》

《せっかく忠告してやったのに。アタシのかわいい勇者に会うと、後悔するよって》

《貴様……知っていたな、この女がジャンと同じものだと。承知の上で、道を譲ったな?》

《おやおやおや。ノーラ、あんた、クサレ僧侶の印までくっつけてんのかい? また、あいつの下僕になったわけ? さっすが吸血鬼王さまは、一味違う、人間の味方、正義の魔族ってこった》

 ゲヒヒヒと、笑い声がますます下品になる。


《黙れ、腐肉! 殺すぞ!》


《できるもんなら、やってみせな。単細胞》


 なんか……戦闘音がする……


《あ〜あ。また体が駄目になっちまった。そこそこ気に入ってたのにねえ》


《逃げるな、『首』! 真っ二つにしてくれる!》


《ウヒヒ。待てと言われて、待つバカはいないよ。じゃあな、サリー、ゆーちゃちゃま。またくるよ》

《ベティちゃん、バイバーイ》

《待て、ベティ!》

《ゆーちゃちゃま、助けが必要になったら、あたしの名を呼びな。愛しいあんたのためなら、いつでも駆けつけてあげるよ》

 笑い声が遠退く……。


 薄目をあけて、指の間から見てみた。

 見えるのは、吸血鬼王の後ろ姿。

 廊下に、羽毛が飛び散ってて、サリーの分身たちがせっせとモップを動かしている。ベティさんのボディだったもの――血と肉片を片づけているのだ。


 チッと舌打ちを漏らし、吸血鬼王がこちらを向く。バッと勢いよくマントを広げた後、体に巻きつけて。

 青白い肌、切れ長の赤い瞳、赤い唇……ハッとするぐらいの美形だ。体が隠れると、男にも女にも見える。

 中性的な美形が目を細め、アタシのそばのエルフに話しかける。


《屍王殿か? お目にかかるのは、数十年ぶりであろうな》


《話は戦士より聞いた。吸血鬼王、我も勇者に同道する》


《ほほう? 王と一戦を交えることになるやもしれぬが、構わぬのか?》


《承知している》


《フッ。ならばいい。ついて来い》


 吸血鬼の赤い目が、アタシを捉える。

 切れ長で、綺麗な瞳。だけど、冷ややかで、神経質そうな目つきだ。

《すぐに発つぞ。支度をしろ、勇者》


「ちょっとだけ待って。一つ試したいことがあるの」

 胸ポケットの『歴代勇者のサイン帳』に右手をあて、アタシは願った。

 マルタン、来て! と。


 けれども……

 何も起きない。

 衝撃も、熱も、痛みも、何も訪れない。


 使徒降臨は、なされなかったのだ。


 あいつに駆けつける余裕がないのか、呪縛されて動けないのか……。


 ったく。

『俺が迎えに行く』って言い切ったくせに、さらわれやがって……ほんと、口だけ男なんだから。


 助けに行かなきゃ……。


 マルタン、ドロ様、お師匠様……。


 無事でいて。



* * * * * *



 ボクらは、『眼帯』こと死神サリーちゃんの馬車で旅することとなった。


 白い翼と輪っかつき。

 天使をイメージさせる外観のそれは、メリーゴーランドの馬車みたいだ。可愛くてきらびやか。それでいて、すっごく大きい。

 箱馬車の中もゴージャス。

 白とピンクを基調にしたサロンコーナーがあり、キッチンにベッド、トイレ・シャワールームまであったりして。

 最大十二人の『お人形』が快適に旅できるよう設計されているのだとか。


 でもって、空を飛ぶのだ。

 馬無しで走る馬車(あれ? 馬に牽かれてないのに、馬車でいいのかな?……いいのか、サリーちゃんが、そう言ってるから……うん)は宙に浮かび上がり、どんどん高みを目指す。

 綺麗なお城はあっという間に小さくなって、遠のいて行った。


 もうすっげぇ! の一言しかない!


 車窓の眺望も、すごい。

 何もかもが小さい。

 枯れ山も荒野も、箱庭の風景のようだ。

 鳥になった気分。


 ものすご〜く速く飛んでいるんだけど……


「三日?」

 馬車の中に、ジャンヌの声が響き渡った。


 ハート型眼帯をつけた死神天使が、大きく頷いた。

《うん。あたしのおうちからー 王さまのとこまで、マホウの馬車でも三日かかるんだー》


 三日か……


 さらわれた賢者様、使徒様、アレッサンドロさん。

 拘束即処刑だったら、到着した時には完全に手遅れだ……。


 けど、それより速く行くのは……

 無理……なのかな?


 ボクはノーラさんの方を、チラッと見た。

 他のみんなは、サロンコーナーに座ってるのに、ノーラさんは立っている。瞼も口も閉ざして、静かに。死神王の城へ飛んで行った時みたいに、ボクらを食べて飛んでくれる気はないようだ。

 体に黒マントを巻きつけて立ってる姿は、なんとなくミノムシを思わせた。も、もちろん、そんなこと、口が裂けても言えないけど! ボクだって、命が惜しいもん!


《汝ら人間を連れ、魔界を旅するのであれば、死神王のこの馬車こそが最適にして最速且つ安全。焦るべからず》

 ダーモットさんは、リッチに戻っている。幻想世界で出会った時の姿だ。さっきは魔法道具(マジック・アイテム)の影響でエルフに見えてただけで、こっちが本当の姿だそうだ。

《又、王と戦となるやもしれぬ状況。我らの消耗を押さえた上での、移動手段をとる》


 そういうことか……

 ノーラさんが、馬車の中で大人しくしてるのも力の温存なのか。

 バテバテになったら、王さまと戦闘(バトル)できないもんなあ。


 チビッ子堕天使が、ボクらの顔を見渡して、にぱっと明るく笑う。

《えへへ。だーいじょーぶ。すぐにはコロされないからー 三日ぐらいは、生きてるよ、きっと》


「どうして、そう思うんです?」


《だって、マッハくんだよ? 神の使徒だよ。魔族とタイトーにたたかえるニンゲンなんて、めったにいないもん。すぐにコロしたら、もったいないじゃん》


……つまり……

「使徒様がすっげぇから、三日やそこらじゃ、絶対に()られないってことですか?」

 質問したら、《うん。そー》って元気な返事が返ってきた。

 おおお!

 さすが使徒様! 魔界でも、一目も二目もおかれてるんだ!


「使徒様はご無事として……賢者様やアレッサンドロ殿も同様とみてよろしいのでしょうか?」


 アランさんの問いに答えたのは、ノーラさんだ。

《知らん。だが、まあ……大侯爵殿は無事であろうな。あの体が消えても、別の姿で現れるだけだ》

「大侯爵?」

 いぶかしげなジャンヌに、教えてあげた。

「アレッサンドロさんのことだよ。ノーラさんは、そう呼ぶんだ」

「アレッサンドロ殿は、吸血鬼王と既知の間柄だったようです」と、ボクの説明不足をアランさんが補ってくれる。

「へー でも、なんで『大侯爵』なの?」

「それは……」

 なんでだろ?

 ノーラさんは口を閉ざしている。どう見ても、答える気はゼロだよね。

「……アレッサンドロさんの昔のあだ名だよ」

 ノーラさんは、アレッサンドロさんの前世を知ってるんだと思う。アレッサンドロさんに向かって、『あわれな人間となりし者よ』とか『肉の殻に閉じ込められ、神の掌で遊ばされておいでか』とか言ってたしね。

 アレッサンドロさんは、もともとは人間じゃなかったのかも。

 でも、今は……国一番の占い師で、ジャンヌの仲間。すっげぇ頼りになって、カッコよくって、優しい人だ。昔のことなんか、ボクはどうでもいい。


《また、賢者も不死。殺されることはない》

「そうね……」

 ノーラさんがジャンヌを横目で見て、酷薄な顔で笑う。

《しかし、王の不興を買えば、死よりも辛い目にあおう》

「え?」

《どのような目に合おうとも、死なぬのだ。いっそ死ねればと、我が身を呪うであろう》

「どういうこと?」

《教えてやろう、勇者。魔界で罪人となった不死者は、公開処刑場に送られる。死ねぬ身に、永久の責苦を負わされるのだ。血が乾く間もなく、肉体を破壊され続けるのだ》


 ジャンヌの顔が、サーッと青ざめる。


《『光のもの』である賢者は、ことさら刑吏たちに愛でられよう。あの男、不死ではあったが、治癒速度自体は遅かった。どれほどの間、正気を保てることやら……。処刑にも、何億通りの方法があるが、人型の場合、》


《汝、口を閉ざせ、吸血鬼王》

 ダーモットさんの鋭い声が響く。

《いたずらに、勇者の不安を煽るな。汝は眷属を放ち、情報を集め続けよ。我も魔法にて、情報収集に努める》


《そだね。マッハくんたちが、どこで、どんなふーにつかまってるか、しらべなきゃねー》


《ふん。囚われしものの行き先など限られている。王の城か、牢獄か、拷問場か、公開処刑場か……五体満足であるかどうか》

 ノーラさんが、くつくつと笑う。


「ジャンヌ」

 隣に座るジャンヌ。

 その青ざめた顔、震える肩、ぎゅっと握られた両の拳が痛々しい……

「だいじょーぶだよ」

 根拠は無い。けど、ここは、男として言い切るべき。

「ぜったい、大丈夫」

 不安に揺れる瞳が、ボクを見る。

 ああ……こんな弱々しい顔のジャンヌ、初めて見るかも。ちっちゃな子猫みたい……キュンキュンしちゃう。こういう顔も、可愛いや。

 だけど、ジャンヌに似合うのは、やっぱ笑顔だ。安心させてあげなきゃ。

 ボクは、ぐっと拳を握りしめた。

「使徒様がいっしょなんだもん! どんな敵でも、使徒様の敵じゃない! 聖霊光(オーラ)一発で昇天さ!」


 あ?


 あれぇ?


 ジト目ぇ?

 ジャンヌ、なんで、そんな冷たい目でボクを見るの?

 ここは、『そうね! 使徒様が一緒ですものね! 安心したわ!』と力づけられる場面(シーン)なんでは……?





 そんなこんなで……

 死神王の空飛ぶ馬車で、魔界の王の支配領域を目指すことになった。


 とりあえずの行先は、王立の牢獄。

《危険重要人物や王の裁定を待つ被疑者は、()の地に送られる。賢者たちが居る可能性は高し》

《マッハくんたちのいばしょがわかったら、いきさきヘンコー(変更)! わかんなかったら、ローゴクおそおうね♪》

《其処に居れば良し。居らずとも、彼の牢獄の長は、混沌の黄昏プアレナ。王の側近なり。側近は、魔界の王の自室に繋がる通路を私有している。奪えば、たやすく王城に侵入できる》

《ふん。プアレナは私が倒す》

……そういう作戦らしい、

 けっこう、アバウトだ。


 ちなみに、王の側近は八人。


 裁きの手   ボリス。

 深淵なるもの レイラ。

 終焉の光   バルド。

 絶望の闇   ブライク。

 混沌の黄昏  プアレナ。

 虚無の智慧  ツアツルク。

 戦慄の邪眼  レイバン。

 破滅の夢   ラモーナ。


 宰相・親衛隊長・私刑執行人・秘書などの側仕え(?)組と、

 牢獄・魔界図書館・魔族合体殿・魔界工房のような重要施設の責任者組。

 いかにもいかにもな名前ばっか! 手ごわそう! て言ったら、

《ふざけるな、小僧。殺すぞ。『小物の集まり』だ》と怒られてしまった。

《側近は、虎の威を借る狐、魔界の王から与えられた特殊能力にすがるだけの弱者だ。私の敵ではない》

 おおお!

 さすがノーラさん、かっけぇ!




 飛行馬車の旅は、快適そのもの。

 まったく揺れないし。

 眠くなったら、ベッドもあるし。

 サリーちゃんが、わざわざ分身して、ボクら一人一人のメイドさん(?)になってくれるし。

 食事もそれぞれ違うのには、びっくりした! 魔界風オムレツとか、死神風ホワイトババロアとか、絶品だった……。

 いい魔族(ヒト)だなあ、サリーちゃん。

 シャワー室までついて来て、《おせなかながしてあげる〜》って言われた時には、困ったけど! もちろん、断ったけど!


 ノーラさんは、しょっちゅうみのむしになっている……じゃない、マントを体に巻きつけて、たたずんでいる。心話で眷属に指示を出したり、操れるものを支配下に置いたりしている……らしい。ダーモットさんが教えてくれた。


 ダーモットさんも、魔法で情報収集とかしてるみたい。


 けど、ボクは今のところやれることがないので……


 ほとんどの時間を、魔法の勉強に費やしている。

 魔王戦まで、四十日ちょっと。もうあまり時間は無い。

 どんな魔法を使うのが効果的とか、大魔法制御のコツとか、魔力増強法とか。

 知っておいた方がいいことは、いっぱいある。

 せっかく、大魔法使いダーモットさんに会えたんだ、助言をもらわなきゃ損だ。


 アランさんは、箱庭『運動場』で魔族相手に鍛錬だ。

 サロンコーナーのテーブルにのっかる箱庭に、縮小魔法をかけてもらって侵入、思う存分体を鍛えている。主にサリーちゃんを、たまにノーラさんを相手にして。


 ジャンヌは、クマさんズ――ピオさん、ヴァンさん、ピロおじーちゃん、ルーチェさん――によく囲まれてる。

 四散した精霊たちが復活してないか呼びかけたり(残念ながら、まだ誰も応えないみたいだけど)、

『勇者のサイン帳』を使って使徒様を呼んでみたり(残念ながら、使徒様は来ないけど……ピンチを乗り越え、ここぞって時に、華麗に、盛大に、景気良く! 使徒様は現れる! ボクは信じている!)、

 賢者様から習ったことを復習したり、

 魔界での出来事を『勇者の書』に記したりしてジャンヌは過ごしている。


 賢者様の教えを記した(エスエフ界で、アリスさんが代筆した)手帳を、見せてもらった。

 異世界への転移・帰還魔法の呪文や魔法陣の仕組み。

『勇者の書』で転移可能な、六十六の異世界。そこで出遭い、仲間にできるであろう職業。

 魔王戦当日のこと。魔王城への行き方や、異世界に居る伴侶達を召喚・帰還させる魔法の呪文やその原理。

 ジャンヌが勇者として覚えておかなきゃいけないことは、いっぱいあるようだ。


 どんなことを『勇者の書』に記しているのかも聞いた。

 魔界に堕ちたわけも、ジャンヌをかばって四精霊が四散したことも、死霊王に殺されかけたことも、サリーちゃんとダーモットさんが仲間になったことも、真実の鏡を使ったことも聞いた。

 けど、真実の鏡で何を見たのかは、はっきりとは教えてくれない。

「今は言いたくない」って言って。


 時々、ジャンヌは外をぼんやりと見ている。

 飛行馬車なんで、窓から見えるのは濁った空と雲ばっかだ。

 下を覗いたって、針の山、炎の河、氷の谷、骨の森、血の池、ゼリーみたいにぶよぶよな海、腐敗しきった街等々……暗〜い気分になるものしかないだろうに。


 そのやるせなさそうな顔を目にすると、とっても悲しい気持ちになる。


「大丈夫だよ、賢者様も使徒様もアレッサンドロさんもぜったいに無事だよ! 使徒様がいるもん!」

 って励ませば、

「あんた、そればっかよね」

 と、笑ってくれる。


 でも、弱々しい微笑み方なんだ。


「大丈夫だよ、ぜったい大丈夫」

 ボクにできるのは、同じセリフを繰り返すことだけ。


 ほんと、情けない……


 力が欲しい。


 ジャンヌを支え、守れるだけの力が……


 ボクの心が波立つと、ボクの精霊たちが慰めてくれる。

 いつも冷静なトネールさん。

 光界から戻って来たユーヴェちゃん。

 大好きな猫になってくれる優しい精霊(ふたり)


 精霊を抱きあげながら、ジャンヌを見つめた。


 ジャンヌは、とても寂しそうだ。


 賢者様じゃなきゃ、ジャンヌに本当の笑顔はあげられないのかな。

 そう思うと、ちょっとだけ胸がズキンと痛んだ。






 ダーモットさんたちががんばってくれたけど、結局、使徒様たちの居場所はわからず……


 ぼくらは、牢獄にやって来た。


 まあ、公開処刑ショーに出てなかったのは、わかったし! それがはっきりしただけでも、大収穫ってことで!


 飛行馬車を降り、ぼくらは牢獄を見上げた。


 荒野の中にある、堅牢な建物は、ひたすら高い。

 上の方は靄がかかっていて、屋根が見えない。

 山のようだ。

 なんとなく、聖教会の聖書――創世記の章で語られている『先が天に届くほどの塔』を思い出した。ここは地上じゃなくって、魔界だけどね!


《牢獄は、魔界の王が築き、プアレナに預けたもの。我が隠身の魔法も、牢獄内では無効とされる。潜入は不可能だ》

《まほーぼーぎょがかかってるからー いりぐちからしか入れないんだよねー めんどくさいけど、いっかいからコーリャク(攻略)だぁ》

《ふん。道を塞ぐものが居れば、切り裂くだけだ。目指すは最上階、プアレナの首は私がとる》てなノーラさんには、

「殺さないでください。ここに賢者様たちが居られなかったら、側近を脅して王のもとへ案内させるんでしたよね?」と、アランさんが突っ込みをいれていた。


 この牢獄に、使徒様たちが居るのだろうか?

 狭くて暗〜い石づくりの牢屋のイメージが浮かぶ。

 けど……そんな寂しいところ、使徒様には似合わない!

 アレッサンドロさんにも!

 賢者様にも!


 はやく迎えに行かなきゃ!


 ぐっと拳を握りしめると、ジャンヌと目が合った。


 拳を見せ合い、頷き合った。

 がんばろう、ジャンヌ。

 ぜったい、みんなを助けようね!

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