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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
堕ちた勇者
147/236

◆QnQnハニー/トラブルは舞い降りた◆

「あらあらあら、まあまあまあ。可憐で素敵な方ね。はじめまして、ボワエルデュー侯爵家三女シャルロットですわ」


 うわぁ!

 美人!

 金の縦ロールに、華麗で上品なドレス! どこをどう見ても、お姫さまだわ!


 背後から、軽く背をたたかれる。

 リュカくんだ。

 そ、そうね、ご挨拶しなきゃ。


「は、はじめ、まして。アネモーネ、です」

 やだ、声が震えてる……。


「アネモーネさん、そんなに緊張なさらなくとも大丈夫です。我が妹は、あなたがルネさんの愛娘であることを承知しています」

 すかさずシャルルさまが、フォローしてくださる。

「オランジュ邸に置く便宜上、シャルロットのメイドという形をとっていただくだけのこと。メイド奉公させる気などありませんので」


「そうですわ、もっとお楽になさって」

 侯爵家令嬢が、口元に手をそえてコロコロと笑う。

「年の近いお友達ができて、(わたくし)、とても嬉しいのよ。アネモーネさん、仲良くしましょうね」


「ありがとうございます」


 すごい! すごい! すごい!

 二人とも、キンキラだわ!

 美男美女のゴージャス兄妹!


 シャルルさまとリュカくんに連れられ、オランジュ伯爵さまのお屋敷に来た。

 ボワエルデュー侯爵家ご令嬢の下で行儀見習いするんじゃなかったの?

 なんで、オランジュ邸?

 よくわからないけど、このお屋敷で、勇者さまの手伝い(サポート)をしているシャルロットさまにお仕えすればいいみたい。

 ニコラくんって子の遊び相手も頼まれた。


 何がなんだか、もう……


 でも!


 ここがふんばりどころ!


 ボワエルデュー侯爵家はすっごいお金持ちだって、おじい様は言ってたわ。

 このお二人は、金づる!

……もとい、極上のスポンサー!

 わたしがお二人に気に入られれば、お父さまの未来はますます明るくなるわ! 頑張らなくっちゃ!


「わたしお仕えするからには、誠心誠意ボワエルデュー侯爵家のために働きます! お裁縫もお料理もお掃除もお洗濯も、一通りのことはできます! なんでも命じてください!」

「あらあらあら。頼もしいこと」

「読み書きも計算もできます! お父さまの発明品の試供販売を手伝ったこともあります! ちょっとした故障なら直せます! 発明品のことでご不明な点がございましたら、お申し付けください!」


「ほう。機械の修理もできるのですか?」と、シャルルさま。

「はい! 小破ぐらいまでなら! お父さまからのプレゼント、いつも自分で整備してますもの! 修理道具も、バッチリです!」


 美形兄妹が、顔を合わせる。

「これは、これは……。アネモーネさんは、期待以上の拾い物だったかもしれないな」

「お兄様。アネモーネさんに、私の仕事を手伝っていただいてよろしいのですわよね?」

「ああ。どの程度のことを頼むのかは、おまえの判断に任せる。それから、くれぐれも一人には」

「もちろんですわ、お兄様」

 侯爵令嬢が微笑む。大輪の薔薇のように艶やかな笑顔だ。

「ルネさんの大事なお嬢さんに、不埒な輩を絶対に近づけさせません。私がお守りしますわ」


「侯爵令嬢さまがメイドを守るんですか?……それって逆なんじゃ?」

 首をかしげたわたしに、シャルルさまがフッと笑いかける。

「ボワエルデュー侯爵家は代々魔法騎士を輩出してきた家柄。我が妹シャルロットも、魔法の才にあふれています。若輩ながら、魔術師協会でも有数の実力者なのですよ」

 へー

「嫌ですわ、私などまだまだですわ。お兄様こそ、百年に一人現れるか現れないかの逸材と、協会長からお褒めの言葉をいただいていらっしゃったくせに」

 へー へー へー

「いやいや。純粋な魔力だけ見れば、おまえの方が……」

 美しいだけじゃなくって、魔法の天才で、しかもお金持ち。完璧な兄妹ね。


「チッ。自慢しあいやがって、胸糞悪い兄妹」

……背後から、なんか声がした……。

 もしもし、リュカくん? 声が大きいわよ?



「アネモーネさんに、ご紹介しておきましょうね」

 侯爵令嬢が手招きすると、部屋の隅の白い雲の置物がふよふよと動き出す。……ロボ?

「こちらは、ゲボクさん。神の使徒さまからお預かりしているゴーレムさんですわ」

 ゴーレムって、魔術師の使い魔だったっけか。

「魔法生物なんですか? 初めて見ました」

 シャルロットさまの横に、かしこまるゴーレム。ベッドぐらい大きなそれは、どう見ても白い雲。

 ふわふわな綿菓子みたい。

「こんにちは」

 挨拶すると、白い雲の先端が少しだけ下を向き、それから上向きとなった。

「まあまあまあ。ゲボクさんもご挨拶してますわ。かわいらしいこと」

「言語機能は無いんですか?」

「ええ。でも、いっしょにいると、なんとなく感情はわかりましてよ。子犬や子猫みたいなものよ」

 にしては、でっかいけど。

「オランジュ邸には、あともう一体ゴーレムがおりますの。ニコラくんのお友だちのピアさん。とても可愛らしい方なのよ。後ほど、ご挨拶に伺いましょうね」

 ニコラくん……か。



「さて……後はシャルロットとリュカ君に任せ、私はそろそろお暇しましょう」

 シャルルさまが、わたしの前にやって来て……

 うわ、片膝をついて、跪いた!

 右手をとった!

「今、ここでお別れするのは、とても辛い。空気のない世界に追いやられるような……そんな寂しさに苛まれています。もしも、私を哀れにお思いでしたら……」

 手の甲にチュッ!!!!!

「今宵、あなたのもとを訪れるのをお許しください。アネモーネさん、夢でお逢いしましょう……」


 はわわわ!


 な、な、な、なに、これ!


 なんて、お返事すれば?????


「ケッ! 女とみりゃ、すぐこれだ! ちったぁ控えろよ、スケベ貴族!」

 だから、聞こえるわよ、リュカくん!


「まあまあまあ、お兄様ったら、おマヌケさん。アネモーネさんは、このお屋敷に滞在なさるのよ。就寝までの間に、お顔を合わせたらどうなさいますの? 口説き文句が台無しになりましてよ」


「もっともだな」

 ハハハと爽やかに笑って、シャルルさまが立ち上がる。

「アネモーネさん。不自由な点がありましたら、シャルロットかリュカ君に伝えてください。善処しましょう」

「……ありがとうございます」

「約束します。ルネとの面会の場も、速やかにもうけましょう。それでは、また……」

 胸元に手をあてて、シャルルさまが優美に一礼する。


 そして、数歩歩いたところで……


 お屋敷が、ズゥゥンと揺れたのだった。




 リュカくんの後を追って駆けつけた部屋では……


「答えろ! どういうことだ!」

 浮浪者みたいな大男が、学者さんのネクタイを締めあげていた。

「なぜ、すぐに知らせなかった! 賢者ならできたはずだ! 俺はジャンヌの危機も知らず、今まで」


「ちょ! にーちゃん、落ち着け!」

 リュカくんが、大男のもとへ走ってゆく。

「気持ちはわかる! けど、ちょいと頭を冷やせよ! そんなにしめあげたら、メガネのにーちゃん、しゃべれないぜ!」

 ごわついたボーボーの黒髪に、汚れた衣服。無精髭。

 大男が、おっかない顔でリュカくんを睨みつける。


「盗賊の小僧! おまえもグルか?」


 どう見ても、ごろつきだわ、こいつ!


 こういう時には、これね!


 わたしは胸元から、頼もしい発明品を取り出した。

『ドラゴンころ〜り君』!

 一見、筆! だけど、ほんとーは銃! スイッチポンで長く伸び、もひとつポンで弾を射出! ドラゴンすら倒せちゃう(であろう)すぐれもの!

 麻酔弾、催眠弾、煙幕といろいろ出せる!

 ここは、麻酔弾で!


 て!


 よけるし!


 秒速1000mの弾を、よけた????

 ううん。きっと、偶然ね!

 今度こそ!

 催眠弾を発射!


 嘘ぉ!


 またよけた! ちょっと頭を動かしただけで!


 人間じゃないわ、こいつ!


 空気をびりびりと震わせるような大声が響く。

「すっこんでろ、女! 俺はこの男に、用があるんだ!」

 恐ろしげな顔……まるで悪魔みたい。




「……我が魔力が、願わくば、あの愚かなる男の縛めとならんことを。不滅の呪縛」


 大男の動きが、ぴたっと止まる。

 学者さんをしめあげ、止めようとしたリュカくんまで振り払いの大暴れだったのに。


 リュカくんが、大男から学者さんを引き離す。


「まったく……」

 振り返ると、シャルルさまが扉のあたりに立っていた。

「ジョゼフ君……君には、愛想がつきてしまいそうだよ。アンヌ様の孫でなければ、ジャンヌさんの義兄でなければ……攻撃魔法を叩き込んでいたところだ」


 床に座り込んで咳き込んでいた学者さんのもとへ、シャルロットさまが急ぐ。その後を、尾を振り振り白い雲が続く。

「テオ兄さま」

 今、ぽわっと光った!……治癒魔法?

「すみません、シャルロット……」

 ゼーゼーと息を整える学者さん。

「学者のにーちゃん、これ……」

 そう言ってリュカくんが差し出したのは、学者帽と歪んだメガネだった。踏んづけちゃったのか、レンズは割れている。


「ふん」

 シャルルさまは大男の前に立ち、両腕を組んで薄く笑っていた。

「悔しくてたまらないって顔だね、ジョゼフ君。しかし、今は動くことも、話すことも出来ないよ。君が闘気というやっかいなものを使うことは知っている。しかし、我が魔力をもって、私の編み出した強力な魔法で呪縛したのだ。我が魔力が尽きぬ限り、君の呪縛は解けない」


 こんな顔もするんだ……

 びっくりするほど冷たい顔で、シャルルさまが大男を睨みつける。

「君が理性を取り戻せたら、呪縛を解いてあげよう。それまではそのまま、我々の会話を聞いていたまえ」


 シャルルさまが、学者さんへと視線を向ける。

「テオ。何があったのか、教えてもらえるか?」


 頭を振り振り、学者さんが立ち上がる。

「移動魔法で現れたジョゼフ様に、問いただされていただけです」

「移動魔法? ジョゼフ君が、そんな高等な魔法を?」

「しもべ精霊の魔法です。ジョゼフ様は炎精霊とスピード狂の光精霊をお持ちです。精霊であれば、自分が行ったことのある場所に瞬時に飛べる……失念していました」


「なるほど。それで、思いの外、早いお帰りだったのか。帰還までの間に、頭を冷やして欲しかったのだがね」


「ジュネさんやエドモン君は一緒ではありませんでした。戻られたのは、ジョゼフ様おひとりでした」


「つまり、カッとなって、一人だけ帰って来たわけか。二人を北に置き去りにして……。貴族にあるまじき、直情的な男だ」


「問題はないでしょう。帰りが一瞬なら、迎えに行くのも一瞬。まあ、それも精霊を使ってこそ。ジョゼフ様に冷静になっていただいてからの話ですが」

 学者さんが、曲がったメガネを手にため息をつく。

「シャルロット。すみませんが、オランジュ家の方に、お騒がせして申し訳ないと伝えてくれませんか? あの音は……発明家の発明品が爆発したせい。そういうことにしておきましょう」

「よろしくってよ、テオ兄さま。その理由でしたら、みなさま納得なさいますものね」

 あら……。お父さまの発明品、もしかして爆発しまくってるのかしら?


「男同士の話がしたい。シャルロット、おまえは席を外してくれ」


「わかりました、お兄様。退出いたしますわね」

 にこやかに微笑んでから、侯爵令嬢は大男に対してお辞儀をした。

「ご無事のお戻り、嬉しいですわ。後ほどお話しましょうね」


 シャルロットさまの後についてお部屋を出ようとした時、学者さんの声が聞こえた。

「ジョゼフ様。いろいろとお話ししたいことがあります。その上で、私たちを糾弾なさりたいのでしたら甘んじて受けましょう。しかし、一つだけ、あなたにも謝罪していただきたい」

 とても、穏やかな声だ。

「仲間の言い分も聞かず、一方的に暴力を振るう。果たしてそれは、(おとこ)にふさわしい行動でしょうか?」


 足を止め、肩ごしに振り返った。


「あなたを慕い、手本としている少年も居るのです。ニコラ君を失望させる振る舞いだけは、どうかおやめください。お願いします」


 その優しい声は、ルカ神父さまによく似ていた。


「ニコラ君?」

 学者さんが目を細め、キョロキョロと辺りを見渡す。

「こちらに来てくれませんか? 私、メガネがないと、ほとんどものが見えなくて」


 学者さんのそばに、白いものがスッと現れる。


 びっくりした!

 真っ白だわ!

 髪も、顔も、体も、全部が白くて半透明!

……幽霊?


「ニコラ君。驚かせてしまい、すみませんでした。ですが、先程のジョゼフ様は、いつものジョゼフ様ではない。激情に駆られ、一時、冷静な判断を失っただけです。落ち着かれればいつものジョゼフ様に戻られるはずです」

《……うん》

「シャルル。ジョゼフ様の呪縛を解いてください」

「しかし、テオ」

「大丈夫です。ジョゼフ様は漢ですから。守るべき者の前で、己に恥じる行動をなさるはずがありません」

「学者のにーちゃん……あんた、このまえから変だぜ。どっかで頭ぶつけたんじゃ……?」

「失敬な。私は勇者様の学者として、仁に基づき行動しているだけです」


「テオ兄さま、全てを丸くおさめたのね。さすが、名教師ですわ」

 うわ!

 びっくりした!

 侯爵令嬢はニコニコ笑っている。

「アネモーネさん、立ち止まっていてはダメよ。さ、参りましょう」

「あ、はい。すみません」


 シャルロットさまとゴーレムを追って、廊下に飛び出した。


「……我が魔力が、願わくば、薔薇の騎士たるこの私とその伴の盾とならんことを。光輝なる(とばり)

 その声を最後に、部屋の中からの音がまったく漏れ聞こえなくなる。


「あらあらあら。結界まで張って、内緒話。最近のお兄様ったら、ほぉんと秘密主義さん」


 騒ぎを聞きつけて集まってきた屋敷の者たちに、侯爵令嬢が『ルネさんの発明品が、また爆発しましたのよ』と、おっとりと説明する。

 みんな、『なぁ〜んだ、いつものことか』って顔で引き返して行く……。すっごく納得いかないんだけど……。



「それにしても、アネモーネさん、足がお速いのねえ。驚きましたわ」

 部屋に帰る途中、侯爵令嬢がそうおっしゃったので、裾をめくり靴をお見せした。

「これのおかげです! 『ロケットブーツくん』!」

 胸をはって、ご説明した。

「小型ロケットブースター内蔵、車輪つきの靴です! 『ニュー かっとび君』ほどのパワーはありませんが、それでも最高瞬間秒速50m! 履き慣れるまでちょっとというかだいぶ訓練が必要ですが、慣れちゃえばこっちのもの! あっという間に、ストーカーから逃げられますよ! お一ついかがですか?」

「まあまあまあ。面白いですわねえ」

 よし! 好感触! 売り込めそう!


「アネモーネさんが遊んでくだされば、きっとニコラ君も大喜びですわね」


 ニコラくん……


「て、さっきの真っ白な子ですよね?」

「ええ」

「幽霊なんですか?」

「ええ」


 あっさり認めた!


 シャルロットさんが足を止めて、後ろのわたしを振り返る。白い雲のゲボクを間に挟んだ分だけ、わたしたちは離れている。

「あの子が、怖い?」


 首を傾げた。

 三白眼で怨みがましく睨みつけられたらゾゾっとしちゃうけど……怖い感じはしなかったなあ。しょんぼりとしてて、おとなしそうだったし。

 わたしがかぶりを振ると、侯爵令嬢は「よかったわ」と朗らかに微笑んだ。


「あの子より、さっきの大男さんの方が怖かったです」


「あらあらあら、まあまあまあ」

 侯爵令嬢は、口元に手をそえて楽しそうに笑った。

「ジョゼフ様は、私の婚約者。オランジュ伯爵家の継嗣ですのよ」


「え?」

 あの浮浪者みたいな人が?

 シャルロットさまの婚約者? でもって、貴族?

「え〜〜〜〜〜!」

 嘘!

「そんな! シャルロットさまみたいな綺麗な方が、あんな野獣と!」


 侯爵令嬢が、コロコロと笑う。

「ジョゼフ様は、お優しい方よ。とても硬派なのに、女子供の気持ちを大切にしてくださいますもの。私、あの方が大好きなのよ」

「はぁ」

「あんな面白い殿方、他にはいらっしゃいませんもの。あなたも、そう思うでしょう?」

「はぁ」

……あんなおっかなそうな人のどこが? さっぱりわからないわ。


「うふふ。アネモーネさんには、こっそり教えてさしあげようかしら」

 こっちにいらっしゃいと、侯爵令嬢が手招きをする。

 近寄ると、耳打ちをされた。

「実はね、私、お兄様が大好きなの」

 はぁ。

「お兄様が好きすぎて、他の殿方なんてずっと視界の隅にも入りませんでしたのよ」

 はぁ。

「でも、ジョゼフ様は別。ほんとに変わっていらして……とっても魅力的。お兄様に代わる玩具……いえ、飽きずに生涯を共にできそうな方だと、私、確信しておりますのよ」

 はぁ。


「そのお兄さまというのは……シャルルさまのことですよね?」

「あら?」

「さっきの学者さんは?」

「ああ。テオ兄さま? テオ兄さまは、またいとこよ。ボワエルデュー侯爵家と親しいボーヴォワール伯爵家の次男です」

 ボーヴォワール伯爵家! そこのご子息ってことは! たしか、お父さまのスポンサーのおひとりよね?

 あの優しそうな学者さんが、スポンサー!

 上客になりそう!

 しっかりご機嫌とっておこう!


 シャルロットさまが、わたしをジーッとご覧になっている……。

「あ、あの……?」


「うふふ。正直におっしゃい。あなた、お兄様のこと、どう思ってらっしゃるの?」

 正直に?

 お父さまの金づる……では、正直すぎよね。

「お父さまのスポンサー。大事にしなきゃいけない方だと思っています」


 伯爵令嬢が、とても明るく笑う。

「あなたも、素敵ね。オランジュ邸には、ほんと、面白い方ばかり」

 楽しそうなシャルロットさまの後について、シャルロットさまのお部屋に戻り……




 その三時間後……シャルロットさまのお部屋に、ジョゼフさま来訪。



「……先程はお見苦しい姿をお見せして申し訳ありませんでした」

 婚約者に対し、胸に手をあてて頭を下げるジョゼフさま。

 これ誰? ってぐらい別人だわ!

 金髪のくるんくるんの頭だし! もしかして、カツラ?

 でも、貴族的所作がしっくりくるというか……上絹の衣装をきっちり着こなしているというか……よく見ればハンサム。シャルロットさまと並んでも、どうにか許せるレベル?


「淑女であるあなたを怯えさせたことを、お詫びいたします」

「お気遣いありがとうございます、ジョゼフ様。お顔を拝見できて、嬉しいですわ」

「……いえ」

「ニコラ君と仲直りできまして?」

「……はい」

「北方での修行はいかがでしたの? どんな成果が?」

「……まあ、そこそこ」

 すっごい不機嫌顔。

 答えも、ぶっきらぼうだし。

 シャルロットさまと目を合わせようとしない……。


「申し訳ありませんが、そろそろ退出します。まだ北でやり残したことがありまして……こちらで休息をとった後、あちらに戻ろうかと思っているのです」


「あらあらあら。そうですの。残念ですけれど、それでは仕方がありませんわねえ」


 ん?


 あれ?


 ジョゼフさまが、こっちを見てるような?


「シャルロットさま。そちらが、発明家ルネの娘ですか?」

「ええ。アネモーネさんよ」

「はじめまして」

 次期伯爵に、ご挨拶をした。


 オランジュ家継嗣は、興味なさそうにわたしを見ている……。

「ジュネがその娘に会いたがっていました。今度、時間をつくってやってください」


 は?

 ジュネ?

 誰?


「まあ、ジュネさんも、戻ってらっしゃいましたの?」

「はい。ですが、俺といっしょに、あいつも北方にとんぼ返りします」

「お会いしたいわ。今、ご挨拶に伺おうかしら」

「今ですか……?」

 ジョゼフさまの顔が渋いものになる。

「あいつは、今、シャルル様と話していますので……」

「あらあらあら。お兄様と? それではお部屋に入れてもらえませんわね。男同士の大切なお話の最中ですものね」

「……顔を出せるようなら、こちらに寄るようにジュネに伝えておきます。それでは」


 頭を下げ、ジョゼフさまはさっさと部屋を出て行ってしまった。婚約者の義務で、顔を見せただけって感じ。


 しかし……

 ジュネ……?

 誰だろ? なんで、わたしに会いたがってるの?


 わかんないなあ。

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