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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
神の掌の上で
128/236

神の供物

《女神ちゃまがお戻りになられるまで、おくつろぎになって、お待ちくらちゃい〜》

 天使のキュウちゃんがそう言うや、足元の雲の一部がすぅっと持ち上がり、ふかふかのソファーになった。


《お食事とお飲み物もご用意ちまちた〜》

 テーブルも現れ、その上には……見るからに美味しそうな料理がずら〜っと!


 出来たてなのか、ほっかほかの湯気があがってる!

 盛りつけが綺麗! 器もテーブルクロスも絢爛豪華!

 お肉も魚貝類もパンも野菜も、これでもかってぐらいいっぱいあって!


 仲間たちも、歓声をあげる。


「オランジュ邸のお食事も素晴らしかったですが……それ以上ですね」と、アラン。


 そうよね!

 でも、豪華すぎ! 食べきれないわ! もったいない!


「うわ〜 すっげぇぇ! シュークリームタワーだ♪」

 クロードがすっとんきょうな声をあげて、テーブルに走り寄る。

 え? どこどこ?

 お! あった、シュークリームとフルーツの盛り合わせ! チョコレートをかけて、生クリームもたっぷり! はふぅぅ、美味しそう!

「すっげぇぇ! チョコフォンデュ・タワーだ! ほらほら、ジャンヌ、チョコレートが泉みたいにあふれてる!」

 どこどこどこ?

 おぉ! あった、あった! 溶けたチョコレートがタワーから流れてる! やぁん、魔法みたい! なめてみたい!

「わ〜 わ〜 わ〜 タルトにエクレアにミルフィーユにフラン! プリンにゼリーにマカロン! アイスも! テーブルにいっぱいだ! どれから食べようか悩んじゃうね!」

 あれ?……いつの間にか、宝石のようなスイーツたちがテーブルの上にいっぱい並んでいる……。

 さっきまでは、こんなになかったような……


 これってもしかして……


 お師匠様を見ると、静かに頷きを返された。

「天界ではあらゆるものに、見る者のイメージが反映される。天界の食事こそ至高のものとイメージすれば、その人間が考えうる至高の食事が出現するだろう」


 なんと!


「じゃ、味も?」

「至高を望めば、至高の味となる。むろん、その者の経験に基づく、想像の産物ではあるが」


 おおおお!


「『天界には、ありとあらゆる幸福が満ち溢れている』と、二十四代目勇者フランシスが書き残した所以だ。神への信仰心が高く、神よりもたらされる幸福を心から信じている者ほど幸福となれる……天界はそういう場所だ」

「なるほど……」


 よぉし、幸福になっちゃおう!


 天界の神さま……アタシを幸福にしてください……


 いでよ、究極の一品!


………


 やったぁ! 出た!


 テーブルの上に、魅惑のスープ皿が!


 うわぁぁ! ヤバイぐらいに、美味しいぃぃぃ!


 甘くて、濃厚で、クリィーミィ! 絶品だわ、コーンポタージュぅぅぅ!



《天界の食事にはー 長寿、健康アップ、魔力・霊力増強、美容効果などなどが、ありまちゅ〜 遠慮なく、どんどんお召しあがりくだしゃい〜》

 食べれば食べるほど、美しく、強く、長生きになる! しかも、美味! いいことづくめね!

 まさに、天国だわ♪



 聞けば、み〜んな違うメニュー。


 クロードは、当然、スイーツ三昧。テーブルの上は、お菓子ばっかなのだそうだ。

 アランは、がっつりとお肉料理を食べてるみたい。

 シャルル様は、『普段口にしているものとあまり変わりません』っておっしゃってたから、たぶん貴族風の料理ね。

 エドモンも、お(うち)の食事と同じ感じ。野菜づくしのようだ。『……だが、季節感がない』そうで。アスパラとレタスとカボチャ、苺とリンゴと栗が同じテーブルにあると、首を傾げている。

 エドモンには三女神さまも、くっついている。亀と猫と蛇の女神さまは、自分の世界の料理だ酒だ、と次々に出しては恋しい人(エドモン)に勧めている。媚び媚びだわ。


 ああ……

 牛フィレ肉のステーキ……鴨のマリネ……貝のワイン蒸し……ホタテのグラタン……

 どれもこれも、素晴らしすぎ! 舌がとろけそう!

 英雄世界で食べた手毬寿司おいしかったなあって思い出せば、テーブルにパッと出てくるし! 食べても食べても、料理は無くならないし! ほ〜んと、幸せ♪


「お師匠様はどんなお食事なんです?」

 ほくほく笑顔で聞くと、

「ワインとパンだ」

 との答え。

 待てども待てども、その後に言葉は続かない。

 ってことは……

「それだけですか?」

 お師匠様は無表情のまま、頷きを返した。

「聖教会の聖書にもあろう? 神からほどこされるものは、神の血肉、ワインとパンだ」

 いや、それはそうなんだけど……

「でも、何でも食べられるんですよ。せっかくなんだから、好きな食べ物を想像したらいいのに」

「好きな食べ物か……特にないな」


……そうだっけ?


 ちょっとびっくりした。


 賢者の館では、毎食毎食、美味しいものを食べさせてもらった。

 夕食は、前菜とメインにデザートがちゃんとあったし。

 好き嫌いは駄目だ、立派な勇者になれないって、ニンジンやセロリも、いろいろ工夫して料理に入れてくれ……。


 あんなにお料理上手なのに、好物がないの? たしかに、これが好きだあれが嫌いだなんて話、したことなかったけど……。


「アタシ、お師匠様のコーンポタージュ、大好きなんですよ! 鶏肉のグリルも! 白身魚のクリーム煮も! クリームを包んだクレープも! プリンも!」

「……そうだったな」

「そういうの想像しません? ワインとパンもいいけど、美味しい食事を食べればもっともっと元気になれますよ」

 アタシはそうだもん!

「オランジュ邸の料理でも、英雄世界のフリフリ先輩たちのご馳走でも、何でも! お師匠様が今まで食べた中で、一番おいしかったものを想像してみたら?」


「一番おいしかったものか……」

 お師匠様が、微かに眉を寄せる。

「だが、しょせんは、記憶の回想だ。二度と経験できぬものを思い出したところで……」


 へ?


「お師匠様?」


 すみれ色の瞳が、静かにアタシを見つめる。

「気を使わせてしまったようだな。すまぬ。私のことは気にするな。天界の食事を楽しむがいい」


 むぅぅ。


 そろそろデザートにいこうかと思ったんだけど……


 気になってチラチラ見てしまった。

 お師匠様は、ほとんど食事をしていない。

 テーブルにつき、食事をしているアタシたちやその周りを飛んでいるキューちゃんを見ているだけだ。


 なんか、ちょっと……悲しい。

 よけいなお世話かもしれないけど、でも……


 エドモンがお師匠様の横へと移動し、皿をそっと出した。

「……どうぞ」

 載っているのは、動物の女神さま達から貢がれた色彩豊かな果実と、パンとライス・ボール。菜食主義のエドモン用なので、肉や魚は無いけどなかなかに豪勢。

「エドモン。それは、おまえが贈られた物であろう?」

「……食いきれないので」

《そなたのみすぼらしき食事を気にしておられるのだ。ほんに我が(きみ)は、お優しい……》と、亀女神さま。

《エドモンくんが、いいんなら、いいんだ。分けたげるー》と、猫女神さま。

《天界のものには劣るけんども、神の食事や。麿らの食事にも祝福がこめられとるで》と、蛇女神さま。


 見た事もない果実があるなあ……そう思って見てたら、エドモンが別の皿に載っていた同じ果実を幾つか手に取り、アタシに差し出してきた。

「くれるの?」

「……うん」

「ありがとう」

 エドモンと動物女神さま達に、お礼を言って受け取った。


 クロードや、アラン、シャルル様にも、エドモンはおすそわけをする。


 それで、ようやくお師匠様も、エドモンや動物女神さまたちにお礼を言ってから、お皿に手をつけてくれた。


 ホッとした。


 アタシがもらった果実は、亀女神さまの世界のもの。

 天界産じゃないんで、見た目も味も固有のもの。赤い皮を剥くと、白くてプルンとした身が出てきた。ちょっと癖があるけど、甘くてジューシー。未体験の味だ。

「これ、持って帰ってもいいですか?」

 お土産にしたら、喜ばれそう!

《う〜む……まあ、よかろう》

 テーブルの上の亀、じゃなかった亀女神さまはひょこひょこと首を動かしている。

《しかし、聖域から離れれば、果実の神聖さは減じてゆく。帰還後、三日もすれば、朽ちるであろう》

「賞味期限三日ですね! 了解です!」


 これも持ってけあれも持ってけと、動物女神さまたちがいろいろプレゼントしてくれる。

 みなさん、気前がいいなあ♪

 荷物入れやポケットに、あれこれ詰め込んだ。




 食事を終えた後、キューちゃんや動物女神さまたちを交えて仲間たちとおしゃべりをした。


《そもじ、天界で修行したいそうやな》

「はい」

《確かに、天界には人間にも使える修行場がある。天界勇者となった人間たちは、明けても暮れても己を鍛えておる。相手には事欠かぬであろう》

《でもさ、修行なんて、かったるいよ。もっとお手軽にいこうよ。強い神を信奉したら、そんだけで、神の加護で能力アップだよ〜》

 自分(あたし)を信奉しない? と、猫女神さまがにゃんにゃん笑う。


「勇者のアタシが、よその世界の神さまを信仰してもいいんですか?」


《そりゃーありだよ。神は人間の心の中までは、支配できないもん》

 にゃははと、猫女神さまが笑う。


「神に誓いを立てる事で、人は人を超える力を許される。マルタンが、そうだ。だが、神のものとなれば、その神の望まぬ行為はできぬこととなる。行動に制約が課されるのだ」

 お師匠様が、淡々と言う。

「唯一神しか認めぬ方と契約を結べば、他神は信奉できぬ事になる。また、神々の争いに巻き込まれ、他神を敵に回すこととてありうる。神との契約には、デメリットもあるのだ。よく考えた上で、信奉神を決めた方がいい」

「わかりました」


《やだなあ。あたし、やっかいな神じゃないよ。多産と豊穣の女神だもん。他の奴とも争ってないし》

 猫女神さまが、明るく笑ってアタシにすり寄って来る。

《あたしと契約結ぶと、お得だよ〜 制限もデメリットも、何もなし!》

 でもって、小声で話しかけてくる。

《ね、ね、ね! ほんの一時間でいいんだ。勇者(リーダー)権限でさ、あたしとエドモンくんを二人っきりにして! したら、何でもあげる! 神聖武器も防具も! 長寿も多産も! 死ににくい体にも作りかえられるよ! ぜったい病気にかかんない体なんかどう?》


……そういうことか。

 動物女神さまたちは、さっきから何度となくエドモンに二人っきりになろうアピールをしてる。

 彼が頷いてくれないので、アタシを懐柔する策に出たわけね。


「せっかくのお申し出ですが、お断りしておきます」

 小声で付け加えた。

「アタシ、勇者なんです。仲間は売れません」

《ケチ〜〜〜〜》

「エドモン本人を説得してください。彼がいいって言ったら、反対はしませんから」

《ケチ! ケチ! ケチ!》

 尻尾でパシン! と叩かれてしまった。


 むぅぅ。しょうがないでしょ。


 動物女神さま達はエドモンにじゃれつき、シャルル様はさりげなく三女神さまを讃え続け、素直なクロードは『すっげぇぇ』と感心しまくり……

 なんやかんやで時間は流れ……


《やっほー ジャンヌちゃん。おっまたせ〜》

 明るい声と共に、慈悲深き女神さまが現れた。

 アタシの目には、マルタンLOVEのハッピを着たサラサラなストレート・ヘアーの美人さんに見える。


《約束通り、キミを天界一の修行場に連れて行こう》

「ありがとうございます」

 アタシも仲間たちも立ち上がり、女神さまに敬礼した。


 ま、ま、ま、押さえて押さえてって感じに手を振ってから、女神様はニッと笑った。

《では、旅立ちの前に! 現在、修行場で対戦中の六神についてのデータをあげよう! 他の神を蹴落として残った強者ぞろいだ!》


 パンパカパ〜ンとファンファーレが鳴り響く。


《ゼッケンナンバー1! とある世界の主神! 転移神を呼び寄せちゃその力を吸収していった、能力持ち! 使用可能な技の数は、天界随一だ!》

 パンパカパ〜ン。

《ゼッケンナンバー2! とある世界の武神! ともかく何でも斬り裂くぞ! 刃のような神だ!》

 パンパカパ〜ン。

《ゼッケンナンバー3! とある世界の機械神! なに言ってるんだかさっぱりわかんないけど、ハイテク機械でどっか〜んだ!》

 パンパカパ〜ン。

《ゼッケンナンバー4! とある世界の長老神! いつもニコニコ、酔いどれ神! 酔っぱらってるだけなのに、なんだかんだで敵が倒れてくのが、ちょ〜不思議》

 パンパカパ〜ン。

《ゼッケンナンバー5! とある世界の創造神! 精神生命体の世界の王! 常に孤高! 常に徹底的! 非情さも半端ないぞ! そしてそして最後は》

 パンパカパ〜ン。

《ゼッケンナンバー6! 天界の首領(ドン)、天界神さまが、面子をかけて登場だ! 神々の世界の(トップ)なだけに、最強の座は譲れないそうだ!》


 ヒュ〜ドンドンドンと笛太鼓の音までし、パ〜っと派手に紙吹雪が舞う。

……使用魔法までそっくり。

 この女神さま、うちの世界の神さまの兄妹なのかも。


 あ。


 そんなこと考えたせいか、女神さまが変身した。

 お師匠様によく似てる……お師匠様が女性化したら、こんな感じかなあって姿だ。賢者の白銀のローブの上に、マルタンLOVEのハッピを着てるのはかなりナニだけど。

 お師匠様に憑依した神さまを見てきたからだろう、神さま(イコール)にこやかなお師匠様のイメージが強い。決して、神さま(イコール)にこやかなマルタン、じゃないわ!


《六神は、バトル・ロイヤル形式で戦っている》

 自分以外すべて敵、最後に立っている者が勝者になるって、アレか……。

《けど、まあ、残ってる神々は、実力伯仲というか、ここまできちゃうとさほど大差ないというか、なんだよねえ。こっから何時間、何日かけて戦っても、優勝者は決まんないかも。下手すりゃ、千日戦争なわけで》

 げ。

《なので!》

 女神さまが明るく笑う。

《キミが誰かにキュンキュンしたら、バトル・ロイヤル終了ってことにした! おっけぇ?》

「おっけぇです」


《た・だ・し! 神々にも都合があるぞ! 世界(おくに)の都合や他神との約束などなどで、勝手に試合(あそび)途中抜け(リタイア)するかもしれない! 誰にしよ〜かなって迷い過ぎてると、気づいた時には試合会場から誰もいなくなっていた……な〜んて事態(こと)もありうるわけだ。おっけぇ?》

「おっけぇです! できるだけ、ソッコー・キュンキュンします!」

《そそそ。ぶっちゃけ、キミが誰を選んでも大差ない。萌えられるもんなら、全員いっぺんに萌えちゃってもいいよ〜》

 女神さまがキャピキャピ笑う。

《キミの世界のフランシス君も書き残してるんだろう? 天界の者は、み〜んな美しい、地上の美男美女など霞んでしまうほどにって》

 ん?

「ええ、そうです」

《つ・ま・り! 今、戦ってる六神はちょ〜美形なんだ! なんてったって、神なんだから! 最高水準の美を意識して、戦いを観戦したまえ おっけぇ?》

「おっけぇです!」


《あ〜 そうそう。大事なこと言うの、忘れてた。この六神が神々の中の最強ベスト・シックス……ってわけでもない。そこんとこ注意ね。たまたま天界に居て、たまたま暇してて、たまたまバトルに参加した中での最強クラスってだけだそ、おっけぇ?》

「おっけぇです」

 アタシは拳を握りしめた。

「今回出逢う機会の無かった神々も、みなさま、お強くて、お美しくって、素晴らしいんですよね。なんてったって、神さまなんだから!」

《そのとーり》

 わかってるじゃないかと、女神さまがにんまり笑う。


《んじゃ、飛ぶよ〜 賢者くんもジャンヌちゃんの仲間たちもいっしょに運ぶね〜》

 女神さまの足元から明るい色が広がり、アタシたちが立ってるあたりまでが鮮やかに染まってゆく。

《わかりやすいように目印をつけた。足元の華やかな光が、女神の力の及ぶ範囲……つまりは、結界だ》


 足元の雲が、ピンク色に染まっている。

 なんだか美味しそうに見えるけど、雲の中でもピンクに染まった所が結界の範囲内ってことか。


《ここが、キミらの観客席だ。必ず、こん中に居るように。出たら、バトルに巻き込まれるから〜》

 う!

《移動時も、中にちゃんと籠もってること! 天界の構造は複雑だ。人間の目には見えぬものがいっぱいあるし、空間はねじれてる。場所ごとに禁忌が設定されてたりもするしね。女神やキュービーちゃんがいっしょならまあ大丈夫だけど、無防備な人間が不用意に動き回ると、思いもかけぬ場所に飛ばされたり、命を無くすかもしれない。常に女神といっしょに居ること。おっけぇ?》

「おっけぇです」


《んじゃ、行くよ〜ん♪》

 女神さまが神々しく輝き……

 その光は、アタシや仲間たち、キューちゃんや動物女神さまたちまでも包み込み……


 そして……

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