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きゅんきゅんハニー  作者: 松宮星
鬼を狩るもの
117/236

帰れ! バカ!

「あらあらあら、まあまあまあ。おかえりなさい、賢者様、ジャンヌさん、お兄様、みなさま」

 メイドさん達を従えて、シャルロットさんが登場。


 そして、白い幽霊と、仲良しのオレンジ・クマのゴーレムが。

《おねーちゃん、おかえりなさい》

 飛びついてきたニコラを、抱きしめた。


「異世界での旅、お疲れ様でした。お茶の準備をさせますわね」


《ジパング界、どうだった? 仲間いっぱいできた? ね、リュカおにーちゃん、おねーちゃんを守ってくれた? あっちでは……》

 そこまででニコラも、雰囲気が変だと気づいたようだ。


 ちょ〜不機嫌顔で、煙草をスパスパやってる使徒様。半べそのクロード。にやにや笑ってるリュカ。


 声をひそめて尋ねてくる。

《ねえ……なんかあったの?》


 ありました。

 でも、なにがあったかは言えない。バラすと、使徒様がキレるし、アタシとしてもキモい使徒様は早く忘却の彼方へ追いやりたいの。


「たいしたことじゃないわ。それより、こっちはどうだった? アタシが次に赴くべき世界を、テオドールさんといっしょに考えてくれたんでしょ?」

《あ》

 ニコラが、真っ白な目を見開く。

《……うん。そう》

 それから、視線を泳がせ、目をきょときょと。

「天界に行きたくない理由、わかった?」

《……ううん》

 急に口数が減ったことといい、うつむいて床に目を落としたことといい……挙動不審。


「ねえ、ニコラ。テオドールさんと、」

《シャルロットおねーちゃん!》

 アタシからパッと離れ、ニコラはシャルロットさんのもとへ走って行ってしまった。

 ちょ!

 どーしたわけ?


「あらあらあら」

 ニコラに後ろから抱きつかれながら、シャルロットさんはニコニコ笑顔だ。


「間もなくルネさん達もいらっしゃいますわ。みなさま、それまでごゆるりとおくつろぎください。よろしければ、お茶をどうぞ」


 凶悪犯みたいな顔をした男にも声かけ。けれども、ジロリと睨まれれば笑顔で下がる。

 でもって、かたくるしいのが苦手なエドモンや、アタシの護衛を旨とするアランには、無理にはお茶をすすめない。

 甘いものが苦手な人用にサンドイッチも準備してあるし。

 シャルロットさん……気配りの人だわ。

「ジャンヌさん、クロードさん。美味しいエッグタルトがありますのよ。それとも、チョコレートの方がよろしいかしら? 疲れた時にもお心が寂しい時にも、甘いものが一番ですわ」


「シャルロットさん」

 美少女の後ろには、白い幽霊がぴったりとくっついている。アタシの方をチラチラ見てるけど、視線を合わせてくれない。

「テオドールさんは?」

「テオ兄さまは、おでかけ中です」

 あら。

「じきにお戻りになられますわ。ルネさんとセザール様とテオ兄さま。誰が一番最初にいらっしゃるかしら?」

 シャルロットさんは口元に手をそえて、コロコロと笑う。


 ジョゼ兄さまとジュネさんは、まだ北みたい……。


 ドロ様は、まだ旅行中?

 だけど、ドロ様を追っかけてったはずのマルタンはここに居るし……

 レヴリ団の宝を持ち去った犯人は、やっぱドロ様じゃなかったってことかしら?


……この話題、今、質問して大丈夫かなあ?

 さすがに、アタシでも慎重になるわ。


 ドロ様の養い子のリュカを、チラッと見た。

 勘のいいリュカが『何か用?』って顔で見つめ返してくる。


 むぅぅ……


……後にしよう。




「お兄様……ちょっと」

 お茶の席が整った後、可憐な美少女は麗しい貴公子に声をかけた。

 二人ともゴージャスな美形。頭も金髪でくりんくりんだ。

 そのまま無言で見つめ合う美形兄妹。

「魔法の素質にあふれるご兄妹です。心話でお話なさっているんでしょう」と、アランが説明してくれる。

 兄妹で内緒話をしてるのか。


 しばらくして、シャルル様が眉をかすかに曇らせた。

「……アンリエット様が」

 顎の下をしばらくさすってから、シャルル様は席を立って、お師匠様のもとへ向かった。

「申し訳ありません、私用で外出してもよろしいでしょうか?」

「どうした?」

「親族の一人に、お加減がよろしくない方がいらっしゃるのです。今日明日が山とのこと。今日中に、ご挨拶に伺っておきたいのです」

 あら。

「そうか。そのような事情ならば、早く顔を見せた方がいいな」


「こっちは大丈夫ですから」

 アタシも言い添えた。

「ご親族の方との時間を大切にしてください」


 視線をアタシに移し、シャルル様が微笑む。百万の宝石もかすんでしまいそうな、キラキラ笑顔だ……

「お心遣い、感謝いたします」

 シャルル様が胸に手をあて、優美に会釈……

「モン・アムール、お許しください。しばしお(いとま)いたします。けれども、私には移動魔法という翼があります。あなたの危機とあらば、地の果てにいても駆けつけてみせましょう」

 うはぁ!

 顔から火を噴いちゃう!

 あああ、素敵、素敵、素敵! 何もかもが格好いいわ、シャルル様!


「くどいてる暇あったら、とっとと行け。バーカ」と、リュカが毒づくのと、

「今日明日ではない、山は今日だ」

 使徒様がしゃべったのは、ほぼ同時だった。

「今日を乗り越えれば、メガネの母は生き延びる。まあ、十中八九、助かるだろう。ドレッドの呪い返しは、よく出来ていたからな」


 は?


「使徒様……」

 困惑顔のシャルロットさん。

 シャルル様の顔にも苦い笑みが浮かんでいる。


「お加減がよくない方って……テオのお母さま?」

 ふくよかで、笑顔が可愛い小母(おば)さまだった。

 顔立ちはテオに似てたけど、ほんわかしてて、占い好きで、子供みたいに無邪気で……

 あの方が……死にかけている……?


 ズキンと胸が痛んだ。


「おい、『ドレッド』って言ったな?」

 リュカが席を立つ。

「アレックスがなんか関わってんの?」


「言ったはずだ。呪い返しをしている。メガネの母を死なせぬために、な」

「だから、なんで? 学者のにーちゃんの母親を、どーして助けようとしてんだよ?」

「精神衛生のため、らしい」

 マルタンは肩をすくめた。

「見殺しは(しょう)に合わんのだそうだ。困った『人間好き』だ」

「けど、あいつが呪い返しとか、おかしいじゃん。そんなの呪術師(プロ)に任せろよ」

「プロといえば、あの男こそがプロ中のプロ。大昔、その道の大家(オーソリティ)だったのだ。そこらの呪術師風情とでは、格が違う」

 あらま。今は国一番の占い師、昔は大呪術師……だったの。

 リュカも、びっくり目。養い子だけど、ドロ様の過去は知らなかったみたいだ。


「なぜ、そのような事態になっているのだ?」

 お師匠様が、淡々と尋ねる。

「呪詛にも呪詛返しにも、相応の危険(リスク)が伴う。一歩間違えば、アレッサンドロの身に危険が及ぼう」


 リュカの顔色が変わる。


「マルタン。呪いであれば、おまえの出番のはず。なぜ、祓わぬ?」


「賢者殿・・残念ながら、俺にもできぬことがあるのだ」

 マルタンは紫煙を吐き出した。忌々しいと言いたそうな顔で。

「邪悪を粛清することこそが、俺の存在理由・・邪悪は邪悪。小悪たりとも、見逃す気はない。だが、やむをえず、嫌々ながら、仕方なしに、動かぬこともある。内なる俺の霊魂には逆らえん」


「その呪いは看過せよ、浄化はするなと、神様が望んでおられるのだな……」

 お師匠様の表情にも声にも、感情はこもっていない。

 だけれども、何となく怒っているような……そんな気がした。

「託宣に関わる大事だというのに……アレッサンドロが欠けては、全てが終わってしまう」


「欠けるって……死ぬってことか?」と、リュカ。

「・・さあな」

 マルタンが次の煙草に火を点ける。

「だが、どう転ぼうが、あの男の思惑通りと言える。あの男は、メガネの母に自らを売り込みに行き、頼まれてもおらんのに呪い返しをしている」


「はぁ? 勝手にやってるわけ?」

 リュカが髪を掻き、チッと舌を打つ。

「また、悪い病気を出しやがったな!」


「悪い病気?」

 尋ねたアタシを、リュカはジロリと睨みつける。

「ピンチが大好きなんだよ。バカを挑発したり! てめえの命を賭けに使ったり! 胃が焼けるような安酒、ガバガバ飲みやがったり! ニヤニヤ笑って、ヤバイことばっかしやがんだ! あんの、死にたがりのM野郎!」

 え?

 ドロ様って……そうだったの?



 てか、そもそも……

「テオドールさんのお母さま、どうして呪われたの?」


「万死に値する罪を犯したからだ」

 む?

「『絵の部屋』と言えば、きさまにもわかろう? あれは、亡くなった娘をこの世に呼び寄せる為の部屋。死者の復活を願い、あの部屋を築いたがゆえに、メガネの母は呪われたのだ」


 テオの家に行った時に、『絵の部屋』に通された。

 テオの肖像画が年齢ごとにあって、亡くなった妹さんの絵も同じ数だけ飾られていた。

 死後の彼女の絵は、小母さまお抱えの占い師が、スピリチュアルな力で描いたって触れ込みだった。絵の中で、妹さんは成長していた……

 あの絵が呪いの為のものだったなんて。


「死者の復活を願うのは、禁忌中の禁忌。しかも、邪法にまで手を出したのだ。もはや救いようもない。メガネの母はその罪ゆえに、神の御許に旅立てぬ身と成り果てたのだ」



 部屋の中が、しぃんと静まる。



「償えぬ罪を背負われたのだとしても、大切な親族です」

 穏やかな声がした。

「お別れの前にはご挨拶しておきたい。本日は、これにて失礼いたします」


「シャルル殿。お身内のもとへ向かわれるがいい。ひきとめる形になって、すまなかった」


「いいえ。こちらこそ事情を明かさずにいた事を、お詫びいたします」

 シャルル様が優美に頭を下げる。

「ジャンヌさんは、アンリエット様と面識がおありだ。魔王討伐の最中にお心を煩わせてしまっては申し訳ない……話してくれるなと、テオがシャルロットに伝言していたのです」


「ごめんなさい、(わたくし)、嘘をつきましたの。テオ兄さまは、今、ご実家です。二日前から、おば様につきそっていらっしゃいますの」

 お母さんが死にそうなら、当然だわ。


 パパとベルナ・ママの顔が脳裏をよぎり、チクッと胸が痛んだ。


「アレッサンドロさんは、絵の部屋に籠もっていらっしゃいます。何人も入れない結界を張られているそうですわ」


《あのね、おねーちゃん……おねーちゃんにないしょにしてねって、ぼくもたのまれてたんだ。だから、その……。ごめんなさい》


「呪いの件は、後日、テオと共にご報告するつもりでした。しかし、使徒様のお口から真実が漏れてしまった……天意と考えるべきでしょうね」


「シャルル様……」

 テオのお母さまの笑顔が心に甦る……。

 こんな時、なんと言えばいいんだろう……

「伯爵夫人が、お元気になられることをお祈りしてます。それから……テオドールさんも元気づけてあげてください」


「ありがとう、ジャンヌさん。あなたの真心は、お二人にお伝えしましょう」






 て、シャルル様はおっしゃってたのに!

 移動魔法でボーヴォワール伯爵邸に渡ってすぐに、とんぼ返りで戻って来られたのだ。

 バカを連れて!


「不在にしており、申し訳ございませんでした。ジパング界からのご無事な帰還、何よりです、賢者様、勇者様、みなさま」


 あいた口がふさがらないわ。


「シャルルから聞きました、ご託宣があったそうですね。我々が『上位者と』呼んでいた、勇者様の敵についての情報がもたらされたとか。その場に立ち会えず、たいへん申し訳ありませんでした。『ブラック女神』の名を冠する神については存じませんが、古の宗教体系をまとめた古文書に『主神の影』なる神に関しての記述があり、」


 思いっきり怒鳴ってやった。

「帰れ! バカ!」

 なんで、あんたが来るわけ?

 お母さんの側を離れて!


「シャルル様! なんで、このバカを連れてきちゃったんです? もと居た所に、置いて来てください!」


「あああ、ジャンヌさん。お許しください、それは残念ながらできません」

 シャルル様が物憂げな表情で、笑みをつくる。

「私は貴婦人のおねだりには弱いのです」

 は?

「テオをあなたのもとへ連れ来たのは、病身のアンリエット様の望みゆえ……。この私にはお断りできません」

 え?


「誤解があるようですね。無断で戻って来たわけではありません。母の許可をとって、お側を離れて来ました」

 メガネのフレームを押し上げながら、テオが冷静な声で言う。

「もともと、勇者様がジパング界から戻られた時にはオランジュ邸に帰ると伝えてありました。セリアの影響で、母も歴代勇者様のファンになっています。勇者様の為に働きたいと願った私を、快く送り出してくれましたよ」

「だけど、お母さまのご容態は?」

 テオはほんの少しだけ、間をおいた。

「正直に言えば、病状はよろしくありません。しかし、意識はしっかりしています。早く勇者様のもとへ行けと、逆にせかされましたよ」


「今日一日は、おそばについてさしあげて……」

 もしかしたら、お母さまがお亡くなりになるかもしれないんでしょ?

 ドロ様が守ってるから、たぶん大丈夫だって話だけど……呪殺されるかもしれないって。


 弱っている時に息子が側に居てくれたら、すごく嬉しいはず。

「テオドールさんがずっと手を握ってあげたら、それだけで心が元気になると思う。呪いに対抗できるんじゃないかしら?」


 テオが静かにかぶりを振る。

「母は変わった方ですので……病身の母を置いて勇者様のもとへ戻る私を、むしろ喜んでいました。『最愛の勇者さまをお救いする為に、涙をのんで母のもとを去る息子』というドラマを頭の中で組み立てて、うっとりしてましたよ。誤解も甚だしい……困った方です」

 そう言った時、テオの口元には冷めた笑みが浮かんでいた。

 だけど、顔色は悪いし、目の下にははっきりと隈があるし……お母さまが心配で、ほとんど眠ってなさそう……。


 アタシの胸は、きゅんきゅんした……


「アンリエット様のお側には、私が付き添います」と、シャルル様。

「ご容態が急変した時には、移動魔法にて私が再従兄(またいとこ)殿を迎えに参りましょう。どうぞ、ご心配なさらず……」



 再び移動魔法でシャルル様が消えた後、テオはリュカのそばへと行った。


「なんだよ」

 椅子に座ったまま睨みつけてくる少年に、テオは感情を廃した声で話しかける。

「私の憶測は正しかった。『ランベールの日記』の写本とブローチを持ち出したのは、やはり占い師アレッサンドロでした」

 しかし、とテオは言葉を続ける。

「使徒様から教えていただきました、その二つをあの男は母の呪いを解く為に使用したのだそうです。……あの男の思惑は知りません。善行ではないと思います。人助けによって、あの男自身も何らかの益を得るのでしょう。けれども……私利の為だけに盗みを働いたわけでもなかった……」


「え?」


 テオが頭を下げた!

 ほんの、ほんの、ちょっとだけ、微かに頭を傾けただけではあるんだけど!

「謝罪します」

 お貴族様のテオが、『社会の底辺の子供』と見下していたリュカに謝るなんて!

「先日アレッサンドロを貶める発言をしたこと及び、あなたを共犯者として疑ったことをお詫びします」


 リュカは目をぱちくりとさせ、それから、フンと鼻で笑った。

「あ、そ」

「後日、アレッサンドロに対しても、謝罪します。あの男が生還できれば、ですが」

 リュカが、キッ! と学者様を睨みつける。

「くたばらねえよ。自分の命をかけて遊ぶバカな野郎だけどさ、あいつはズル賢いんだ。勝てる勝負しかしねえよ」

 リュカはしばらくテオを見つめ、それからヒラヒラと手を振った。

「ま、いいや。その話は、また今度な。あんたも、今はいろいろとたいへんみたいだし……。母ちゃん、助かるといいな」

「……ありがとう」

 今度はお礼! 明日は、赤い雨が降りそう! 



 

「まだルネたちが来てはいないが、テオドールは何時までオランジュ邸に留まれるかわからぬ。マルタン、クロード。ブラック女神に関して知っていることを、今、話してはくれまいか?」


 部屋中の視線が、二人へと向かう。


 あがり症の幼馴染は、鼻の頭をどんどん赤くしてゆく。

「あ、あの、でも……ボク、話しぇと言われちぇも、何を話しぇばいいのか……」

 ガチガチだわ。噛んでるし。


「賢者殿。イチゴ頭にいきなり問うても、駄目だ。神は、記憶の蓋を一部開いただけ。何をどう思い出せたのかは、順をおって記憶を辿らせてやらねば、わからぬだろう」

 面倒くさそうに、マルタンが溜息をつく。

「時は十二年前・・百代目が魔王を討伐してから、半月ほどのことだったか・・舞台は王都近くの森・・登場人物は、イチゴ頭と勇者認定される前のその女」


「あ」


 十二年前、森でアタシとクロードが二人っきり。


 それって……

 もしかして……


 クロードの表情が、ひきしまる。

 気づいたのだ、自分が魔法の力を封じた時の話だって。


「あとは、緋色の聖職衣をまとったジジイ。森で遊ぶきさまらの前に、好々爺然としたジジイが現れたろう?」


「赤い聖職衣のおじいさん……」

 クロードが、眉間に皺を寄せ、目を細める。

 必死に思い出そうとしているのだ。


「あのジジイ、名乗ったろう? しょっちゅう自慢していたものな。『わしが名乗れば、子供は目をキラキラと輝かせてすり寄って来る。たわいもない』などと」


「……なんて名前?」


「エルマン」


 エルマン……?

 う〜ん……

 覚えがあるような、ないような……


「当時は、この世界一悪霊祓いのうまい男だった・・。枢機卿の一人でもあったが、あのジジイが有名だったのは若い頃の功績ゆえ」

 ククク・・と、マルタンが笑う。

「九十八代目カンタンの仲間だったエルマン……そう名乗ったはず」


「エルマン?」

 お師匠様が、紫の瞳を微かに細め、

「僧侶のエルマン……ですか」

 テオやエドモンも思い出したのか、反応を示す。


 九十八代目カンタン先輩は、お師匠様の二番目の弟子。

 五十八歳というご高齢で勇者となり、五人の仲間と共に戦った方だ。


 五人は……

 魔術師が二人と学者が一人。

 僧侶も居た。名前まで覚えてないけど。エルマンって名前だったっけ……?

 あとの一人は……


「エルマンがどうかしたのです?」

 扉の前には、セザールおじーちゃんが居た。

「いやはや遅くなりまして、申し訳ありません」てなルネさんと一緒に。


 狩人っぽい羽根つき帽子に、日焼けした肌、白い髭。

 首から上は以前と変わらないけれど、上半身はツルツルのメタリックボディ。

 エスエフ界でサイボーグになったおじーちゃんが、不思議そうに首を傾げている。


 狩人セザール……四十年前、勇者カンタンと共に魔王と戦ったその人の前で、マルタンはもと仲間――エルマンについて語り始めた。

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