俺と彼女のプロローグ
彼女、と出会ったのは二年前。ちょうど、就活をしているときだ。会社の面接会場で、一人座っているのを見かけて声をかけた。
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「あの、はじめまして。君も、ここの会社を…?」
彼女はきょとんとしたまま、俺をじっと見つめている。くりっとしたぱっちり二重に幼さが僅かに残る顔立ち、就活生らしく黒のスーツを着ている彼女に、少しだけ胸がどきっとした。
「……自信、はあんまないけど、この会社のゲームが好きで私も作りたいなって」
彼女はそう口を開くと微笑んだ。柔らかい笑みに俺もつられて微笑む。
「…実は俺も君と同じなんだ」
「え?」
「自信なんてないけど、この会社で働きたくて。ああでも、君の真似をしたとかじゃなくて…っ」
「ふふふっ」
「?」
「おもしろいひと」
彼女はそう言って、ふふっと笑った。
「ええっと、その…」
「?」
「いきなりで何だけどよかったら、メール…とかしませんか?」
「え?あたしと?」
「だめ…かな?」
「…あたしでよければ////」
こうして、俺と彼女はメル友になった。
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それからほぼ毎日のメールの日々が始まった。お互い就職活動をする傍ら、家族のこと、ゲームのこと、すきなこと、もの……いろんなことを話した。そんなある日、俺は彼女とデートをする約束を取り付けた。
女の子とデートなんて初めての経験だから、うまくふるまえるかわからない。だけど、彼女に会える。それだけで嬉しい思いでいっぱいだった。
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いよいよ迎えたデート当日。待ち合わせ場所に着くと、彼女が待っているのが見え、声をかけた。
「ごめん、遅くなった!」
「ううん、私もさっき来たところ。…えっと…今日は…楽しもう…ね?」
「////…行こうか?」
「うんっ////」
お互い頷いて、隣同士で歩き出した。
「あの…こうして男の人と出かけるの初めてで…っ…えっと…」
彼女はしどろもどろしながらそう口を開いた。
「…そんなに緊張しなくてもいいよ?」
「え?」
「なにも気のきいたこと言えなくてごめん。でも今日君と楽しみたいから…」
「ううん、ありがとう。…あ!」
視線の先を見つめると遊園地がひろがっていた。彼女は走って遊園地の中へ入って行った。まるで子供のように。
慌てて後を追いかけると彼女は観覧車の前に立ち、嬉しそうな表情で観覧車を見つめていた。大人びた横顔に胸がどきりとした。
「あ…えっと…その…観覧車、好きなの?」
「うん。見てるのも、乗るのも、好き。いつか大好きな人とこれに乗るのが夢なの。…って子供っぽいよね?ごめんね」
くるっと振り返り、少し悲しそうに笑う。
彼女の笑顔は見れても、どこか悲しそうに笑う顔しか見たことがなかった俺は、彼女をほんとうに笑顔にしたかった。悲しそうな笑顔じゃなく、彼女らしい、笑顔。だからこのとき、もう自分で決めてたんだと思う。彼女を、守るって。
「…あのさ」
「ん?」
「観覧車、乗ろう?」
「…うん、いいよ////」
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観覧車に乗ると沈黙の空気が続く。お互い話そうとしてハモってしまい、黙る。そんな繰り返しだった。
「あのさ…大事な話があるんだ」
「?」
「俺と…付き合ってくれませんか?」
彼女は驚いた表情で瞬きをしたあと、下を向いた。
「私なんかで、いいの?」
「…なんで?」
「だって、私じゃなくても可愛い子はたくさんいる。貴方に、相応しい人は他に…いるわ
」
「…君がいいんだよ。」
「え?」
「君じゃなきゃ、だめなんだ。俺は君が好きだ。隣にいてほしい…」
彼女は驚いた顔をしたあと、うつむいた。初デートでこんなことを言うなんて困らせてしまっただろうか。いきなり言ってしまったことを申し訳なく思いながらも、再びきいてみた。
「…返事はすぐじゃなくてもいい。けど君を好きな気持ちは変わらないし本気なんだ。だから…」
「…たしなんかで…」
「え?」
「わ…わたしなんかでよければ…////」
「ほんとに…?」
「はい…よろしくおねがいします////」
このときから彼女…水姫祈織と俺…朝緋奈遥の付き合いは始まったのだった。けど俺は彼女のことをこのときもっと知っておけば…と後に後悔した。