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異世界印の眷属様  作者: 和乃 ツヅリ
プロローグ
1/3

1.ぐらっときたら いち

ぐらっと視界が揺れたとき、ああ帰れると思った。なのに……。



「ここは……」


 わたしが想像していたのは、ブロック塀に囲まれた普通の日本家屋であって、こんな声を出したら反響しそうな大きな広間ではない。だからこんなお約束な第一声が出たっておかしくないでしょ。

 しかも遠巻きにしている人たちの装束は、ここが何かのイベント会場でなければ有りえないような格好をしているし。それにモンゴロイドには見えない容姿と体型を擁している。けれど向こうさまにもどうやら予想外のことだったらしく、わたしを見て呆然としていた。ただし、見覚えのある一人だけがわたしの声を聞くや、満面の笑みをたたえると、集団から抜け出しこちらにやって来た。

 途中「陛下、危険です」とか、「お待ちください、陛下」とか聞こえて、頭の中で“へいか”が“陛下”に変換、確定となるのは気のせいだと思いたい。


 その“へいか”がわたしの前に来るなり、


「やっと、会えたな…チセ」


 と、ぎゅっと抱きしめたのも気のせい……なわけがなく、おまけに怒りも込み上げてきて、


「イシュト…もしかしてあなたが呼んだ…の?」


 念の為確認をしてみた。


「そうだ」


 さらに強く抱きしめられた。


 その言葉が浸透するや、バタバタとイシュトの腕から抜けようともがくが、体格の差もあって抜けられず、ならば、と拘束しているイシュトの足めがけて踵でこう、グイッと踏みつけた。


「チセ、何をする…」


 無駄に整った顔を少し歪めこちらを見下ろす。


「何する、はこっちのセリフよ! よくもわたしの了解なしに呼んだわね~っ、おかげで今までの苦労がパアよ、パア! どうしてくれるの! それに、そもそも召喚なんてできないはずじゃなかった?」


 イシュトの胸あたりをつかんで揺さぶりながら怒りをぶつける。


「チセが言っていただろう、『百日(もうで)』という祈願方法があると。それを試してみたのだ。そして今日が満願の日。よもや、と思っていたが…」


「神なんか信じないって言っていたじゃない!」


「あらゆる手段の一つであっただけのこと。期待はしていなかったが…後で相応の礼をせねばな」


 そう言って正面にある祭壇を見るので、つられてわたしもそちらに顔を向けたら、視界の隅に何やら動くものを捉えた。


 動物、鳥だ。ただ、ここにそぐわない鳥なので、見たことをないことにしたいくらいだけど。




 だって、




 どピンクのフラミンゴなのよ! 電飾まんまのピンフラ!!



 でも、こちらを満足そうにうかがっていることからして、アレがそもそもの元凶に違いない! その細首締め上げてでも、帰り方を吐かせてやる~っ!


 わたしはイシュトを振り切り、素早くピンフラの所へ移動して、決意通り優美で長い首の真ん中を両腕でぎゅっと絞め、


「この疫病神~、早くわたしを元の場所に戻しなさいよっ」


 言葉を発するたびにギリギリと力を入れていたらしく、バタバタと抵抗していたはずが、パタパタになり、パタっとなったところで、慌てて力を緩めた。


「ちょっと、死ぬのならわたしを帰してからにしなさいよ! もしくは送還できるだれか呼んでから!!」


 冗談ではない、わたしはのんびり異世界満喫生活を送っている暇などないのだ。早く戻らないと……。


 焦るわたしにイシュトが尋ねてきた。


「チセ、先程から何をしている? どうやら何か握っているようだが…われには見えぬ」


「見えない? こんなに派手な蛍光ピンクが? ねぇ、聞こえてるんでしょ、疫病神。イシュトたちにも見えるようにしなさいよ、見えない相手と交渉だなんて間抜けにみえるじゃないっ。さもないと…」


 脅しは本気だと分からせるためにまた力を込めると、鳥はビクッと震えるや、片翼を広げ、ひと鳴きした。


「「「おおっ」」」


 どうやら見えるようになったらしい。


「翼神…」


 イシュトがそうつぶやいたのを聞き逃すはずがなく、


「あんた、やっぱり神様なのね。…じゃあ、翼の神様とやら、即刻わたしを戻してくれるわよねぇ、できないとは言わせないわよ。あんたが見境もなく願いをきいたおかげで、こっちはとっても迷惑してんのよ、さあ、さあ、さあ」


「で、でき…ない」


 ピンフラもとい、翼神はかすれ声で、それでも聞き取れるくらいにははっきり、否、と言ったのだ。


「い゛、い゛ぜが…ゴホッ、ゴホン、異世界の娘、お前は今までこの男と夢で(つな)がっていた、そうだな。わたしはそれを媒介にして、こちらに呼び込んだのだ。夢のリンクはそのままであっても、お前がこちらに居るのであれば、向こうへの帰還方法には使えん。よって…グェェ」


「この、大馬鹿ー!! 鳥は神でも鳥頭しか持ち合わせてないようねっ! 帰す算段もつけてから呼ぶのが常識ってもんでしょうが。じゃあ、わたしの都合はどう責任を取ってくれるのよっ」


 左薬指内側にある、鍵に蔓草絡む模様の(あざ)を見せた。


 あとちょっとで忌々しいこの痣を消せたのに。それを、こいつのせいでっ。


「そ、それは…」


 人ならば顔が蒼白になるところなのだろうが、馬鹿神は全身の羽の色を薄桃色にまで退色させた。目に優しいからそのままでいればいいのに、永遠に。


「分かった? そう、話が早くていいわ。わたし、向こうの神様と訳あって契約履行中だったの。もうすぐ満了で解除されたはずなのに、な、の、に、横から邪魔してくれちゃったわけ。どうしてくれるのかしら、ねえ?」


「ど、どおりで繋げやすいと思ったのだ。界をまたぐなど、夢であっても難しいはずなのだ。神域ならば…」


「ご託はいいのよ。責任をとって、と言ってるの」


「……」


「無理なわけ、ね」


 そもそもこれに責任を取らせようとしたのが間違いよね。祭壇を見るに、ここの神様も幾柱かいるみたいだし、同じ世界の神の不始末、取ってもらいましょうか!


読んでいただきありがとうございます。誤字・脱字等ありましたら、ご報告ください。


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