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神話を覆せ!考古学者と魔法技師の異世界ダンジョン探索〜星を創り変えた古代魔法科学の真実をライブ配信します〜  作者: 黒崎隼人


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第8話「宙を舞う星の記憶」

 黄金の扉を抜けた先には、レオンの想像を遥かに超える巨大なドーム状の空間が広がっていた。

 天井の高さは王都の巨大な城壁すら収まってしまうほどであり、その丸みを帯びた壁面全体が、淡い黄金色の光を放つ未知の素材で覆われている。

 床には一面に澄み切った水が薄く張られており、歩を進めるたびに水面が微かに波立ち、同心円状の美しい波紋を広げていく。

 しかし、ブーツの底から水が染み込んでくる冷たい感覚はなく、それは液体というよりも、極めて密度の高い魔力が液状化したかのような不思議な質感を持っていた。

 空間は完全な静寂に支配されており、二人の足音が立てる水音だけが、どこまでも透明に反響しては消えていく。


「信じられない」


 アイラが周囲を見渡し、その瞳に黄金の光を反射させながら深い感嘆の息を漏らした。

 彼女の背負う魔導通信機から展開された投影窓には、王都の学者たちからの光の文字がかつてないほどの勢いで飛び交っていた。


『これは何だ、空間そのものが一つの巨大な魔導具なのか』

『水面に反射している光の屈折率が異常だ、重力だけでなく光学的な法則まで制御されている』

『中心を見てくれ、あれは一体何なんだ』


 学者たちの指摘に促されるまでもなく、レオンの視線はすでに空間の中央に固定されていた。

 ドームのちょうど中心にあたる場所には、直径が十メートルほどもある巨大な球体が、何の支えもなく空中に浮かんでいたのだ。

 球体は半透明の結晶体で構成されており、その内部では無数の光の粒子が渦を巻き、まるで生命の鼓動のようにゆっくりと明滅を繰り返している。

 さらに、その巨大な球体の周囲を囲むようにして、無数の小さな菱形のデータ結晶が衛星のように一定の軌道を描いて飛び交っていた。


「あれが、この遺跡の記憶の中枢か」


 レオンは水面を滑るように歩き出し、空中に浮かぶ巨大な球体へと真っすぐに近づいていった。

 球体に近づくにつれて、空気が微かに帯電しているのが肌を通して伝わってくる。

 髪の毛がふわりと逆立ち、指先には心地よい刺激を伴う微弱な魔力の流れが感じられた。

 彼は球体のすぐ下までたどり着くと、頭上を見上げてその壮大な構造を視界いっぱいに収めた。

 半透明の結晶の表面には、現代のどの国家の地図とも一致しない、未知の大陸や海洋の形状が精緻な浮き彫りとして刻まれている。


「アイラ、通信機の情報収集機能を最大出力にしてくれ。この空間にあるすべてのデータを、一欠片も漏らさずに王都へ送るんだ」


 レオンの声には、考古学者としての抑えきれない歓喜と、これから明らかになる真実への強い畏敬の念が入り混じっていた。

 アイラは急いで通信機の操作盤に向かい、いくつもの真鍮のダイヤルを回転させて魔力波長の同調を試みた。


「周囲のデータ結晶の数が多すぎるわ。それに、この中央の球体から発せられている情報量が桁違いよ」


 彼女の指先が目にも留まらぬ速さで動き、通信機から伸びる青い光の糸が、空中に浮かぶ菱形の結晶へと次々に接続されていく。


「でも、出来る。私が作ったこの通信機なら、古代の記憶をすべて受け止めてみせるわ」


 アイラの強い意志に呼応するように、通信機の中央にある魔石が眩い光を放ち始めた。

 その瞬間、ドーム全体の黄金色の光がふっと消え去り、空間が完全な暗闇に包まれた。

 王都の学者たちからの文字も一時的に途切れ、レオンの心臓が緊張で大きく跳ねる。

 しかし、暗闇はほんの数秒しか続かなかった。

 空間の中央に浮かんでいた巨大な球体が、内側から激しい赤黒い光を放ち始めたのだ。


 光は球体を突き抜け、ドームの空間全体に巨大な立体映像を投影し始めた。

 それは単なる光の絵ではなく、熱気や匂い、そして圧倒的な質感を伴う過去の記憶の完全な再現だった。

 レオンとアイラの周囲に、荒れ狂う炎とマグマの海が突如として現れた。

 足元の水面は消え失せ、ひび割れた黒い大地が広がり、空からは絶え間なく隕石が降り注ぎ、分厚い灰色の雲が渦を巻いている。

 熱風がレオンの外套を激しく煽り、焦げた硫黄の匂いが鼻腔を強烈に刺激する。


「これが、この星の元の姿だというのか」


 レオンは熱気から顔を庇うように腕をかざしながら、眼前に広がる圧倒的な混沌の風景に息を呑んだ。

 投影された映像であると頭では理解していても、肌を刺す熱や、大地を揺るがす轟音は本物そのものだった。

 現代の豊かな自然環境からは到底想像もつかない、生命が存在することすら許されない過酷な死の世界。

 これが、古代人たちが直面していた最初の現実だったのだ。

 投影窓には、再び文字が滝のように流れ始めた。


『映像の臨場感が異常だ、サロンの気温まで上がっているような錯覚を覚えるぞ』

『これが我々の住む世界の原始の姿だというのか』

『地獄そのものじゃないか』


 映像は猛烈な速度で時間を早送りするかのように変化していく。

 荒れ狂うマグマの海の上空に、幾つもの巨大な飛行物体が現れた。

 それは無機質な金属の塊でありながら、青白い魔力の光脈を放ち、天空から大地へ向かって巨大な光の柱を打ち下ろしている。

 光の柱が突き刺さった場所から、大地の熱が急速に奪われ、マグマが黒い岩盤へと固まっていく。

 それは自然の摂理を暴力的なまでの魔法技術でねじ伏せる、人間による星の征服の始まりだった。

 レオンはその壮絶な光景に釘付けになり、自身の信じてきた歴史が完全に書き換えられていく音を、魂の奥底で聞いていた。

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