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神話を覆せ!考古学者と魔法技師の異世界ダンジョン探索〜星を創り変えた古代魔法科学の真実をライブ配信します〜  作者: 黒崎隼人


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第5話「深淵を繋ぐ光の架け橋」

 青い光を放つ隠し部屋を後にして、レオンとアイラは果てしなく続く下り階段を進んでいた。

 段差は均等で歩きやすいものの、降りるたびに周囲の温度が明確に下がっていくのを感じる。

 空気は冷たさを通り越して痛みを伴い始め、吐き出す息は濃い白煙となって暗闇の中に吸い込まれていく。

 足裏に伝わる石の感触は氷のように冷え切っており、魔力灯の光が届く範囲は徐々に狭まっていた。


***


 どれほどの深さまで潜ったのか見当もつかなくなった頃、前方を塞いでいた壁が不意に途切れ、視界が唐突に開けた。

 レオンは階段の最後の段で足を止め、目の前に広がる圧倒的な虚無の空間を見下ろした。


「これは、道が完全に途絶えているな」


 彼が低くつぶやくと、横に並んだアイラが息を呑む音が静寂な空間に響いた。

 二人の目の前には、巨大な地底の裂け目が口を開けていた。

 対岸までは数十メートルは離れており、魔力灯の光を限界まで強めても、奥の壁面がぼんやりと霞んで見えるだけだ。

 足元の縁から下を覗き込んでも、底は完全な暗黒に塗り潰されており、ただ冷たい上昇気流が絶え間なく吹き上げてきて、レオンの外套の裾を激しく煽っている。

 かつてはこの裂け目を繋ぐための巨大な石橋が架かっていたようだが、長い年月の間に中央部分が完全に崩落してしまったらしい。

 足元の縁には、鋭く削り取られたような石の断面と、太い柱の残骸だけが虚しく残されていた。

 崩れ落ちた橋の破片が、裂け目の空間のあちこちに重力制御の影響で静止し、無重力の海を漂う岩礁のように浮かんでいる。


『どうやって対岸へ渡る気だ』

『引き返すしかない、これ以上の探索は物理的に不可能だ』

『飛行魔法が使える魔導師を王都から派遣するまで待つべきだ』


 通信機の投影窓には、王都の学者たちからの悲観的な文字が次々と表示されていた。

 確かに、現代の魔法技術において、これほど広大な空間を安全に飛行して渡ることは極めて困難である。

 しかし、レオンの眼差しには諦めの色は微塵もなかった。

 彼は足元の崩れた石の断面にしゃがみ込み、素手でその表面を丁寧になぞり始めた。

 断面はただ自然に風化したのではなく、巨大な力によってねじ切られたような凄惨な痕跡を残している。

 だが、レオンの指先は、その荒々しい断面の奥に、規則的に並んだ微細な魔力の線がまだ生きていることを感じ取っていた。


「アイラ」


 レオンは立ち上がり、静かな声で相棒を呼んだ。


「先ほどの部屋で引き出した、物質の結合と重力制御の基礎術式を覚えているか」


 アイラは彼の言葉の意図を瞬時に理解し、目を大きく見開いた。


「まさか、この空中に浮かんでいる破片を集めて、橋を架け直そうというの」


 彼女は裂け目の空間に散らばる大小さまざまな石の塊を見渡し、信じられないというように首を横に振った。


「理論上は可能かもしれないけれど、あれだけの質量の物体を同時に動かして、さらに断面を完全に結合させるなんて、私の魔力容量じゃ到底足りないわ」


 レオンは真っすぐに彼女の目を見つめ、少しの迷いもない声で言った。


「君の魔力だけでやる必要はない」


 彼は通信機の中央にある大きな魔石を指差した。


「この通信機は、王都との接続を維持するために、周囲の空間から微量な魔力を絶えず吸収して変換しているはずだ。その増幅機能の制限を解除し、遺跡全体の魔力回路から力を借りることは出来ないか」


 アイラは数秒間沈黙し、頭の中で複雑な魔力計算を猛烈な速度で走らせた。

 古代の遺跡の魔力を現代の装置で制御するという、極めて危険で前例のない試みだ。

 少しでも計算を誤れば、通信機が爆発するだけでなく、二人の身体そのものが魔力の奔流に飲み込まれて消滅してしまう。


「やってみるわ」


 彼女の返答は短く、しかし技術者としての強い矜持に満ちていた。

 アイラは通信機の保護カバーを外し、内部の繊細な真鍮の歯車と魔力回路を直接操作し始めた。

 彼女の指先が血が滲むほどの力で回路の接続を組み替え、制限装置を一つずつ物理的に解除していく。

 通信機の魔石が、これまでにないほど激しく赤黒い光を放ち始め、周囲の空間が不快な高周波の音を立てて歪み始めた。


「レオン、術式の展開位置の指示をお願い」


 アイラが額に脂汗を浮かべながら叫ぶと、レオンは裂け目の縁に立ち、両手を高く掲げた。


「まずは中央の最も巨大な残骸だ。重力制御を反転させ、こちらへ引き寄せろ」


 レオンの的確な指示に従い、アイラが通信機を通して巨大な魔力の波を裂け目の空間へと放つ。

 空気を震わせる重低音が響き渡り、空中に静止していた家屋ほどの大きさの岩塊が、目に見えない巨大な手に掴まれたかのようにゆっくりと動き始めた。

 岩塊は回転しながらレオンたちのいる縁へと近づき、空中に見えない足場を作り出す。


「次は右上の破片と、左下の柱の残骸だ。断面の魔力線を合わせろ」


 レオンの脳内では、崩落する前の橋の完全な姿が立体的かつ精密に描かれていた。

 彼の指示は寸分の狂いもなく、アイラはその指示を完璧な魔力操作へと変換していく。

 大小無数の石の破片が青白い光に包まれながら空を舞い、巨大なパズルが組み合わさるように次々と空中で衝突していく。

 石と石が削れ合い、火花を散らしながら完全に接合していく重厚な音が、地底の裂け目に幾度も反響した。

 結合術式によって断面の原子そのものが結びつき、単なる接着ではなく、元の一枚の岩盤としての強度を取り戻していく。


『信じられない、失われた魔法が目の前で再現されている』

『これが人間のなせる業か』


 投影窓の文字が驚愕で埋め尽くされる中、ついに最後の一つの破片が対岸の縁へと音を立ててはめ込まれた。

 空中に、青白い魔力の光脈が走る一本の巨大な石橋が完成した瞬間だった。

 荒い息を吐きながら膝をついたアイラに駆け寄り、レオンは彼女の小さな肩を強く抱き寄せた。


「見事だ、アイラ。君の技術がなければ不可能だった」


 レオンの素直な称賛に、アイラは疲れ切った顔に満面の笑みを浮かべた。


「レオンの頭の中の設計図が完璧だったからよ」


 二人は立ち上がり、青く発光する継ぎ目を持つ巨大な石橋へと歩み寄った。

 レオンが先に橋の表面へ足を乗せ、自身の体重をゆっくりとかけていく。

 足裏から伝わるのは、数千年の時を越えて再び繋ぎ止められた、盤石な大地の感触だった。

 下から吹き上げる冷たい風に煽られながらも、二人は互いの存在を確かな支えとし、歴史の深淵に架けられた光の橋を、一歩ずつ確実に踏みしめて渡っていった。

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