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神話を覆せ!考古学者と魔法技師の異世界ダンジョン探索〜星を創り変えた古代魔法科学の真実をライブ配信します〜  作者: 黒崎隼人


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第12話「命を燃やす停止術式」

 迫り来る真紅の魔力波を前に、アイラは通信機の装置を自身の胸に強く抱きかかえ、台座の黒曜石へと両手を深く押し当てた。

 「接続開始」

 彼女のかすれた声とともに、通信機に残された最後の真鍮の歯車が悲鳴のような高い金属音を立てて回転を始める。

 アイラの全身の毛細血管が青白く浮かび上がり、彼女の生体魔力と機械の演算機能が完全に一体化していく凄絶な過程が、レオンの目にもはっきりと見て取れた。

 彼女の身体が激しく痙攣し、口元から一筋の血が流れ落ちる。

 強烈な痛みに耐えかねて漏れそうになる悲鳴を、彼女は血の味がするほど唇を噛み締めて必死に押し殺していた。


「一番の回路、波長は水、暗号配列は逆相の螺旋だ。二番、波長は土、配列は断層の直角」


 レオンは彼女の耳元に顔を寄せ、極限の集中状態を保ったまま、解読したばかりの複雑なコードを淀みなく、かつ正確な発音で読み上げていく。

 彼の声は轟音の中でも決して揺らがず、アイラの意識を現実に繋ぎ止めるための確かな命綱として機能していた。

 アイラは目をきつく閉じ、レオンの声を自身の魔力波長へと瞬時に変換していく。

 石碑の表面に流れていた文字の群れが、彼女の流し込む魔力に反応して激しく乱れ、赤色から徐々に青い停止色へと塗り替わっていく。

 一番、二番、三番。

 回路が一つ停止するたびに、巨大な炉の表面を覆っていた炎の舌が微かに勢いを失い、重厚な脈動のテンポが遅くなっていくのが分かった。

 だが、創世の炉もただ沈黙を受け入れるわけではなかった。

 自己防衛機能が最終段階へと移行し、炉の中心から凝縮された極小の重力弾が幾つも撃ち出されたのだ。

 目に見えない重力の塊が空気を歪めながら台座へと降り注ぎ、着弾した瞬間に硬い黒曜石の床をすり鉢状に粉砕して吹き飛ばす。


「アイラ、動くな」


 レオンは暗号を読み上げ続けながら、自身の身体を盾にするようにしてアイラの上に覆い被さった。

 直後、二人のすぐ背後で重力弾が炸裂した。

 空間がひしゃげるような異様な音とともに、砕け散った石の鋭い破片が散弾となってレオンの背中を容赦なく打ち据える。

 防砂外套が容易く引き裂かれ、厚い布地を貫通した破片が彼の背中の皮膚と筋肉を浅く削り取った。

 鋭利な痛みが背筋を駆け抜け、レオンの口から短い苦悶の息が漏れる。

 しかし、彼はアイラを守る腕の力を決して緩めず、血を流しながらも次のコードの詠唱を止めなかった。


「八番、波長は風、配列は収束する空白だ。九番、波長は火、配列は凍結の十字」


 彼の背中から滴る温かい血が、アイラの肩口にポタリと落ちた。

 その感触に、極限状態にあったアイラの意識がわずかに揺らぐ。

 彼女は目を開け、自分を庇って背中を血に染めているレオンの姿を下から見上げた。


「レオン」


「私にかまうな、術式に集中しろ」


 レオンは痛みを完全に顔から消し去り、漆黒の瞳で彼女を強く射抜いた。

 その揺るぎない眼差しに、アイラは再び目を閉じ、自身の奥底に残っていた生命力そのものを魔力に変換して装置へと流し込んだ。

 十番、十一番。

 残る回路はあと一つ。

 しかし、ここでアイラの身体が限界を迎えようとしていた。

 通信機からの過剰な情報の逆流に脳が耐えきれず、彼女の鼻からも赤い血が滴り落ちる。

 台座に押し当てられた両手は激しく震え、指先から放出されていた青い魔力の光が、ろうそくの火が消えるように明滅を始めたのだ。

 このままでは、最後のコードを打ち込む前に魔力の接続が途切れてしまう。


「アイラ」


 レオンは躊躇することなく、彼女の震える両手の上に自身の大きな両手を重ねて強く握りしめた。

 彼は魔法使いではないが、人間が本来持っている微量な生命エネルギーの波長を、物理的な接触を通して彼女の回路へと直接流し込もうとしたのだ。


「私の力も使え。最後まで、君と共にいる」


 レオンの手から伝わる熱と、魂を削るような強い意志が、冷え切っていたアイラの血管に新たな熱を送り込んだ。

 二人の手が重なり合った部分から、これまでで最も眩い純白の魔力の光が立ち昇る。

 二人の呼吸が完全に重なり合い、鼓動が同じリズムを刻み始めた。


「最後だ。十二番、波長は無、配列は完全なる円環」


 レオンの言葉が終わると同時、アイラが白く輝く魔力の奔流を黒曜石の台座の深部へと一気に叩き込んだ。

 石碑に刻まれたすべての文字が、一瞬にして完全な青色に染まり上がる。

 空洞全体を支配していた耳を劈くような轟音が、ピタリと止んだ。

 巨大な創世の炉の表面で荒れ狂っていたプラズマの炎が、まるで時間が逆行したかのように炉の内部へと急速に吸い込まれていく。

 空気を歪ませていた猛烈な熱量も、荒れ狂っていた魔力の竜巻も、すべてが嘘のように消え去った。

 炉は本来の穏やかな赤黒い明滅を取り戻し、沈黙の世界へと戻っていった。

 圧倒的な静寂が、二人の周囲に降り注ぐ。

 アイラの体から力が完全に抜け落ち、彼女は崩れ落ちるようにレオンの胸の中へと倒れ込んだ。

 レオンは背中の痛みに顔をしかめながらも、彼女の小さな身体をしっかりと抱きとめ、乱れた呼吸をゆっくりと整えていく。

 地下の最深部で荒れ狂っていた星の心臓は、二人の命を懸けた意志によって、ついにその暴走を止めたのだ。


「出来たわね、私たち」


 アイラがレオンの胸に顔を埋めたまま、掠れた声で微かに笑った。


「ああ、世界は救われた。私たちの手でな」


 レオンは彼女の汗ばんだ髪を優しく撫でながら、静寂を取り戻した巨大な炉を見上げた。

 人類の歴史が神の御業ではなく、人間の意志による環境改造であったという真実。

 そして、その真実の遺産を、現代を生きる二人の絆によって守り抜いたという事実。

 レオンの胸中には、恐怖も痛みも完全に消え去り、ただ知的好奇心を満たした充足感と、相棒に対する底知れぬ愛おしさだけが静かに満ちていた。

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