File.03【前編】:幻のロードマップと、UIとUXの致命的な不一致
「真琴さん、最近どうですか」
昼休み。美桜ちゃんがお弁当の蓋を開けながら、いつもの調子で聞いてくる。
「東京まで行ったよ」
「え、デートですか?」
「デートの予定だった」
「……予定、だった?」
「モスバーガーを一人で食べた」
美桜ちゃんが箸を止めた。
「羽田で?」
「羽田の近くのホテルの近くで」
「先輩……」
「横浜で優雅なランチのはずだったんだけどね」
美桜ちゃんが何か言いかけて、やめた。正しい判断だと思う。まず話を聞いてから反応した方がいい。これは、そういう案件だ。
§ 神UIとの遭遇
東京の人、というのは私の中でハードルになったことがない。以前、東京―福岡間で遠距離恋愛をしていたことがあるから、距離への耐性はある。
だから彼のプロフィールを見たとき、東京在住というのは特に引っかからなかった。
引っかかったのは、写真だった。
最近カットモデルをしたときの写真、と説明があった。爽やかで、整った顔立ちで、笑顔が自然だった。一気にテンションが上がった。正直に言う。見た目から入るタイプだ。
メッセージをいくつか交わして、写真を交換した。彼は私の容姿をタイプだと言ってくれた。そこから毎日LINEが続いた。
話していると、お互いに旅行が好きだとわかった。「箱根行きたいね」という話で盛り上がった。
仕事は日野市役所の職員。公務員。安定はしているけど、高収入というイメージではない。でも会話の端々に、それなりの余裕を感じさせるものがあった。投資? それともご実家が資産家? などと勝手に想像しながら、やり取りを続けた。
§ UIとUXの致命的な不一致
LINE交換から1ヶ月ほどたったころ、電話で話してみることになった。
「あれ?」
声を聞いた瞬間、なにかがずれた。
話し方、テンポ、声のトーン。写真から想像していた人物像と、全く合わなかった。ちょっと苦手かも、と直感が告げた。
がっかりした気持ちを抱えたまま、友人に相談した。
「話し方や声が苦手って思った人を、好きになれると思う?」
「実際に会って話してみたら気にならないかもしれないじゃん。会ってから判断してみたら?」
確かに、そうかもしれない。電話越しの声と、実際に目の前で話す印象は違うこともある。私はそのアドバイスを受け入れて、LINEを続けることにした。
今思えば、ここが分岐点だった。
§ 壮大な架空プロジェクトの立ち上がり
ちょうど1ヶ月後、東京へ行く予定ができた。日曜日に見たいイベントがあったので、その前日の土曜日に初デートをしましょうという話になった。
彼がプランを描き始めた。
新車に乗り換え予定があって、デートまでに納車される見込みだから、羽田まで迎えに来てくれると言った。そのまま横浜へ行って、ランチとディナーを一緒に選んで予約した。
「11月は箱根に行こう」
「クリスマスは福岡に行くから、有名ホテルでディナーしよう」
「年末年始、うちの実家くる?」
実家。
「え、紹介してくれるってこと?」と私は返した。
「そういうこと」と彼は返した。
テンションが上がった。初デートの前から、11月も、クリスマスも、年末年始も、すでに埋まっていた。ロードマップが描かれていた。まだ一度も会っていないのに。
でも、悪い気はしなかった。むしろ、本気だと思った。
(後編へ続く)




