File.05【後編】:ロードマップの不一致と、美しいプロジェクト終了
§ 核心を突く質問
ドライブデートの数日前。
いつものようにLINEでやり取りをしていた。他愛ない話をしながら、ふと思った。聞いておいた方がいい気がした。
「一度離婚を経験すると、結婚願望ってなくなるもの?」
何気なく、でも確かに核心を突く質問だった。
返信が来た。
「彼女は欲しいけど、結婚はもういいかな」
そうか。
私はスマホを置いた。
その日のやり取りは、自然にそこで終わった。
§ 翌日のモヤモヤ
翌朝、目が覚めたら、昨夜より気持ちが重くなっていた。
彼への不満は、何もない。バグもない。一緒にいて心地よい。次のデートも楽しみにしていた。でも、昨夜の一言が、頭の中でずっとループしていた。
「結婚はもういいかな」
結婚願望がないとはっきり言っている人と付き合って、この先どうなるのか。私は結婚したいと思っている。それなりに、ちゃんと。このまま時間をかけて関係を深めて、ある日「やっぱり結婚はしたくない」と言われたら。その時の消耗を想像したら、今より何倍もしんどいことはわかりきっていた。
考えた。考えて、考えて。
結局、答えは一つだった。
§ 誠実な終了処理
彼に正直に伝えた。
結婚願望がないとはっきり言っている人と、この先進んでいくことが自分にはできない。一緒にいて居心地がいいし、次のデートも楽しみにしていた。でも、最終的に目指すところが違うなら、今のうちに正直に話した方がお互いのためだと思う、と。
彼は「1日考えさせてください」と言った。
翌日、返信が来た。
「やっぱり、結婚に対する考えは今は変わらないです。真琴さんの気持ちはわかります。ごめんなさい」
怒りはなかった。落胆もそれほどなかった。ただ、そうか、と思った。
「正直に話してくれてありがとうございます。私も、こちらこそごめんなさい」
そのやり取りで、終わった。
2回目のデートの、前日だった。
§ 再びランチタイムへ
美桜ちゃんが、お弁当に手をつけないまま私を見ていた。
「……もったいない気もしますけど、真琴さんらしい決断ですね」
「そう?」
「だって、居心地がいいって言ってたじゃないですか。もう少し続けてみようとは思わなかったんですか」
「思わなかったわけじゃないよ」と私は言った。「でも、相手の気持ちを変えようとするのって、無理なカスタマイズを要求するのと同じじゃない。バグの元でしかない」
「……真琴さん、仕事の話してる時と同じ顔してますよ」
「そう?」
「はい。すごく冷静で、でもちょっと寂しそう」
私は少し黙った。
寂しくないといえば、嘘になる。バグのない人と出会えたと思ったのに、という気持ちが全くなかったわけじゃない。でも、仕様が合わないシステムに時間と感情を投資し続ければ、いずれもっと大きなエラーになる。それはCSマネージャーとしてではなく、私自身の経験として、わかっていた。
「最初から要件が合う人を探す方が、健全なんだよ」
美桜ちゃんがゆっくり頷いた。
「真琴さん、5人分の経験値、すごいですね」
「すごくないよ。ただの全件エラーよ」
「でも、なんか真琴さんのこと見てると、ちゃんと自分を持ってるなって思います」
「……褒めてくれてありがとう」
素直にそう言った。
窓の外に、冬の光が差し込んでいた。大分から始まって、猫になった帰国子女、モスバーガーの虚無、メルチャリで博多港へ消えた消防士、そしてバグのない彼。5人分のエラーログが、今の私を作っている。
そう思ったら、全部無駄じゃなかった気がした。
私はスマホを取り出した。
アプリを開いて、右にスワイプした。
私の恋人探しは、まだ終わらない。
〔File.05:仕様不一致。次のマッチングへ〕




