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母の言葉に、思わず素で返事をしてしまったアリア。しかし幸い母はそれに気づいていないようだった。
(うそでしょう!?どうして第二王子直々に来るのよ!?来ないでよ、わざわざ病弱設定にした意味がないじゃん!会うことになっちゃうじゃん!)
内心で絶望しながらも、表情にはおくびにも出さず微笑んで、
「まあ、それはありがたいですわ……!」
と言っておくアリアだった。
遂にデビュタント当日。今日、デビュタント終了後に第二王子がやってくる。しかも不幸なことに、欠席者はアリアだけなのだ。そのため対面時間は短いとは言えず、真っ先にご対面というわけである。
そのアリアはというと……。
(え?え?え?え?うそでしょ最悪なんですけど死ぬの?私処刑エンドまっしぐら?――いや無理ーーっ!死にたくない死にたくない死にたくない!!!!!!!)
絶望していた。しかし、これは決定事項。対面後に婚約が決まらないことを願うくらいしか、アリアにはできないのだった。
「アリア。第二王子殿下がいらっしゃった。あとは、二人で話すといい。くれぐれも、無理はしないようにな」
粗相のないように、ではなく、自分の娘の体調を気遣ってくれる父に感激しつつも、
(……え?私、第二王子と二人きりなの?)
と、聞いていない情報に目をぱちくりさせた。
「君が、アリア・クランテスト嬢だね?」
「………………はい、そうでございますわ」
(ああ、ついにご対面だ。私大丈夫かな、死なないかな。婚約が決まりませんように)
まだ使用人がいる。少ししたら部屋から出て行ってしまうだろうが、二人きりではないことがアリアの死んだ魚のような瞳にかすかな光を宿らせた。
言った後に、こほっ、とせきをして見せる。
(ちょっとわざとらしいかな)
そんなことを思いつつ、さりげなく第二王子の顔をうかがう。
「……本当に体が弱いんだね。私はカイザー・フォン・ヴォルヘルム。よろしくね」
(ふー、よかった、だませた!それにしても、ゲームとセリフが少し違うような……。私がゲームと違う行動をとっているからかな?)
「はい、よろしくお願いいたしますわ……けほっ」
と、その時遂に、使用人が出て行ってしまった。
(ああああ、使用人さん!いかないで、おいていかないでええええ!!!!!!!)
内心の絶叫もむなしく、とうとう二人きりになってしまった。
「――――――それで?君はどうして病弱なふりをしているのかな?」
「……」
(バレてたーっっっ!うそでしょ、最悪最悪最悪!なんでバレてるの?意味わかんないんだけど、何この王子?)
「ええっと、何のことで……」
「ああ、誤魔化さなくても良いよ。その怯え用、大方俺との婚約を結びたくないといったところだろう?」
(えええ、私そんなにおびえてた!?ていうかさっきまで一人称「私」だったよね?急に変わるとか怖すぎでしょ!)
「でもごめんね。たった今、俺は君と婚約を結ぶことにしたから」
「はあ??」
カイザーの言葉にまたもや素で反応してしまったアリア。
(いやこれは不可抗力だから仕方ないとして。何言ってんのこの人)
「はは、それが素かな?もうこれは決定事項だからあきらめて?」
カイザーの言葉にイラっと来たアリアは、つい言い返してしまった。
「国王陛下にもお伝えしていませんわよね?それなのに、第二王子ごときの一存で婚約が決められるのでしょうか?」
言ってからアリアは後悔する。「あれ、これ不敬罪で処刑されるんじゃない?」と。
「はは、その通りかもね。でもね、アリア嬢。俺は父上に婚約者は身分が釣り合っていれば自分で決めてもいいと言われているんだよ」
(……マジかー!マジで婚約なの!?いやいや、死にたくない!)
「では、今すぐに解消していただけます?……私は死にたくないんだよ」
「私は死にたくないんだよ」を小声で言いつつ、にっこりとほほ笑むアリアに、カイザーは
「死にたくないって聞こえたけど、アリアには未来が見えるのかな?面白いね、ますますほしくなった」
(ほしくならなくていいよ!でも不敬罪になってないっぽい、よかった)
「さあ、どうでしょうね?あと、呼び捨てにするのはやめていただけます?」
「いいじゃないか、アリアも俺のことはカイザーと」
「お断りいたしますわ」
(なんなんだ、この王子。婚約決まっちゃったよ。どうしよう。新しい策を考えないとかな)
死んだ魚のような眼をしたアリアと、そんな彼女を笑って見つめるカイザー。
かくして二人の婚約は、それぞれの思いが交差しているこの場で決定事項となったのだった――。




