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――はずであった。
「おぎゃああああああああああああ」
「あらあら、かわいい女の子ですこと!」
(………………ん?????)
「おぎゃああああああああ!?(なんで私赤ちゃんになっているの!?)」
死んだはずの瀬奈。目を開けるとどういうわけか見覚えのないところにいた。
しかも、瀬奈の目の前にいる女性なドレスを着ている。その奥に見える室内も、煌びやかでとても日本とは言い難い。
(あれ、もしかして私、異世界転生しちゃった?)
そして瀬奈は、衝撃で意識を失った。
(う………………)
目が覚めると、そこはどこかのお金持ちの部屋か、というくらい豪華な部屋であった。
「ああ、アリア!目が覚めたのね!」
(……アリア??)
どこかで聞いたことがある名前だなあとぼんやりしている頭で思いつつも、アリアという名前が今世の名前だということを認識した瀬奈。
「かわいいかわいいわたくしの子!」
徐々に意識がはっきりしてくると、瀬奈――もといアリアは違和感を抱いた。
(あれ、アリアって《マリアの幸せ》のアリアじゃない?いや、世界にアリアはたくさんいるかもしれないけど!)
この母親らしき人物が、まさにアリアの親のそれなのだ。
(うそでしょ、最悪……!じゃあ私将来的に国外追放という名の処刑エンド迎えるってこと!?)
生まれて早々終わった、と絶望するアリア。
だが、そんな本人の思いなど知る由もなく、アリアの両親は飛び上がって喜び続けている。
しかしアリアは、まだ希望はある、と策を考えていた。
(何とかして第二王子との接触を避けないと……!婚約なんて絶対ダメ!そのためには絶対にあわない理由を考えないと。何かないかな……)
そこまで考えて、アリアはぱっとひらめいた。
(そうじゃん、病弱だって設定にすればいいんだ!)
幸いアリアは生まれたばかりで健康状態は知られていない。さらに、夜会やデビュタントなども「病弱だから」「体調が悪いから」という理由であれば避けられるはずだ。万が一第二王子に出会ってしまって婚約などという話が出てきたとしても、病弱だから妃にはなれませんと断れるはずである。
(私天才かもしれない。それに本当に病弱かもしれないし)
先ほどまで飛び上がって喜んでいた両親はアリアを見ると、
「ああ、アリア。どうか元気に育っておくれ」
といった。
(ごめんなさい、お父様、お母様。私は病弱設定で生きていきます!)
若干の罪悪感を抱きつつも、気づかないふりをして――
――十三年の時がたった。
結局、アリアは実際に病弱だったのか、というと……。病弱とは程遠い、健全すぎるのであった。
(うーん、これまでは何とか病弱設定でやってこれたけれど……。もうすぐデビュタントがあるんだよね……。行かなくて済んで、あわよくば第二王子にあわないといいなぁ……)
十三歳になったアリアは、これまで病弱なふりをして様々な人を欺いてきた。そのたびに罪悪感はあったものの、生きていくためだと自分に言い聞かせてきた。
(お母様たちに打診してみるか)
「お母様……」
そばにいた母を呼ぶ。
勿論、病弱な女の子らしくか弱い声で。病弱令嬢らしい行動もなかなか板についてきたようだ。
「どうしたの、アリア?」
「その、もうすぐデビュタント、ですわよね……?わたくし、とてもいけるような体調では……」
ケホッ、とせき込むふりをしてみれば、母はすぐにこういった。
「ああ、それならもうお断りの状を出してあるわ。デビュタントに出られなかったものは、同年代の第二王子殿下が直々に各邸に来てくださるそうよ」
「は?」




