33.一緒に頑張ろ?
「……幸多さん。もしかして何かあった?」
秋稲から昼の誘いを受け、一緒にカレーライスを食べていると、俺を心配するかのような言葉をかけられた。
自習後の休み時間から昼休み時間になるまで、特に教えてもいなかったはずなのに。
「え? 何で?」
「自習中抜け出して帰ってきてから……ううん、教室にいる幸多さんがずっと元気がないなぁって思ったの。違った?」
話しかけてこなくても分かるくらい、俺の様子がおかしくなってることがバレバレだったのか。
流石お隣さんだな。それか、仲がいい女子からそれっぽい話を聞いてる可能性もあるか。
「う、うん……何となく合ってる」
「何となくなんだ? でも、分かってるよ? 私が関係してるんだよね?」
「それも何となく……」
「大丈夫。私も女子たちのおかしな雰囲気だってこと、気付いてる。千冬ちゃんからメモもらってるから」
あぁ、やっぱり。
牧田とはあまり関わらなくなってるけど、秋稲の親友っぽいし俺が知らないだけでずっと連絡してるだろうしな。
「それって、あいつのことも?」
「……うん。まだ気を抜けないよねって話してたの。だから、寂しいけど幸多さんと教室で話すのは控えるようにしてるんだけど……」
……なるほど。だから以前より話しかけてこなくなったわけか。
今のところウワサレベルはまだまだ高くなさそうだけど、俺から話しかけるのはやめておくべきなんだろうな。
「えっと、寂しいって、俺と話せないことが?」
「もちろん! でもお隣さんだから学校で話せなくても大丈夫かなって」
「あー確かに。というか、その、秋稲は何か言われたりしてない?」
俺が何か言われてるのも、多分村尾の奴が自分がしたことを俺に置き換えて噂を広げてるっぽいし。
かと言って村尾に何か言うのも厄介すぎる。
「私は何を言われても気にしないから大丈夫だよ。でも、幸多さんは泣いちゃうんじゃないかなって」
くっ、身代わり土下座で泣いたのを本気にされてるとは。
「いやいや、そう簡単に泣かないから。それと、俺は秋稲に迷惑をかけるようなことはしないから、そこは安心してもらえると――」
「ううん、それは駄目! 迷惑とか思ってなくて、でもそういうの色々含めて、一緒に頑張ろ?」
「頑張る……ってのは、俺が今されてることとか状況とかを言ってる?」
「うん」
秋稲さんは全てお見通しってわけだ。俺だけでは解決出来る問題じゃないってことも感じてるんだろうな。
そうなるとまずは――
「――幸多さん。罠にハマってみません?」
「へ?」
秋稲は妹に負けず劣らずの大胆さがあるな。
「犯人というか犯人を手助けしてる人たちは確定していると思うんです。でも、今の問題ってクラスの女子たちだけに留めて噂を広めてるでしょ? だから、こっちから近づけばいいんです」
「つまり?」
「幸多さんが思い当たる女子に接近して、あの人のことを引き出せばいいんです。好意を持たれてる女子の一人や二人、いるよね?」
これ、絶対に特定してるだろ。好意かからかいなのかは不明だが、一人は俺の隣の彼女だろうな。
「ま、まぁ……いるようないないような」
「今回起きてる問題の問題主じゃなくて、その人をそそのかした女子に近づいて味方にしていけば噂とか自然に解決するんじゃないかなって思ってるの」
「……それって、好意を受け入れるって意味で?」
「一時的なら許します」
許し……って、俺と秋稲はただの友達のはずだよな?
秋稲の言い方だとまるで……
「そ、そういうことなら」
「頑張ろうね、幸多さん! それが解決したら……あ、そろそろ時間だね。作戦は後でもう一度話そっか!」
「お、おー」
昼休み時間が残り少なくなったところで、秋稲から先に席を離れて行ってしまった。
俺のバレバレな悩みだったのに、全てを知ってる秋稲の方が頼もしく思えたな。
「で? 笹倉は何て?」
教室に戻って席に着くと、何だかんだで心配してくれてるのか安原が俺と笹倉のことを訊いてきた。
昼休みに笹倉と一緒にいたのも知られているらしい。
「何だ、近くにいたのか?」
「いないけど、お前と笹倉って結構一緒にいることが多いからな。昼も一緒だったんだろ?」
「まぁな。でも、特に何か話したわけじゃない」
「そうなのか? 奴……村尾のことで何か対策するのかと思ってたけど、違うのか?」
「そのことなら、とりあえず様子見ってことで」
安原はイマイチ納得していない表情を見せたが。
「お前が言うならオレは何もしないけど、奴に直接いかずに周りから攻めていけばいんじゃね?」
……などと、密かに応援してくれるみたいだった。
そうと分かれば、まずは月田から情報を訊きだすか。
俺の風評被害的なことが解決したら、その時は秋稲にもう一度――。




