27.変わっちゃったからです
ああああぁ……これはアレだ。青夏からの不意打ちでやってしまったに過ぎないんだ。
だから俺の気持ちも乗っかってないし、恐らく秋稲の気持ちも――
「――ん。うん……しちゃったね? ね、幸多くん」
秋稲は自分の唇を指先でなぞらえながら、俺をちらりと見て同意を求めている。
あ、あれ?
完全なるアクシデントでキスしちゃってるのに秋稲の気持ちは俺とは違う方に傾いてしまっているのか?
しかもされてしまったことに対し嫌がってないように見える。
「そ、そのようです」
「嫌だった……?」
「い、いや、そんなことは」
「そっか。それなら良かったのかな?」
……むむむ。
何の味も感触も無かったけど、確かにしちゃったんだよな。
……何だか俺だけ別の次元に飛んでしまった感覚。
「良かったね? お姉ちゃん」
「うん。後でせいちゃんにはたっぷりと説教だけど。でも、私も今から本気でいくって決められたのは良かった」
――などなど、姉に怒られるのが確定した青夏はすっかり怯えまくっている。
俺はというと、姉妹の様子を苦笑しながら見守るしか出来なかったわけで。
「あ~そうそう。幸多くん。店長さんが呼んでたよ。そろそろ戻った方がいいんじゃないの?」
「そ、そうだよな」
瞬間的に色々起きてしまって動揺は隠せないが、今は正真正銘バイト中だ。付き添い兼お客さんとして来てる秋稲とずっと話してるわけにはいかなかった。
「じゃあ、秋稲さん。俺は行かないと……」
「幸多さん。私、もう決めました。だから、幸多さんがきちんと気付いてくれるように頑張りますね! 学校でも負けないようにしないとなので……」
「決めた……? えっと?」
「お仕事頑張ってくださいね! 私たちは帰りますので」
何だかよく分からないものの、秋稲の表情はまるで憑き物が取れたかのように清々しくなっている。
「あ、あれ、お姉ちゃん……? わたしも?」
「そ。やる気なんてないんでしょ? だからこれ以上邪魔したら駄目。さ、帰るよ」
「えぇ!? そ、そんな~幸多くん、助けて! お姉ちゃんが――」
見ただけじゃ分からないが、青夏を引っ張る秋稲の力が半端なさそう。不意打ちで俺とキスをしてしまったことよりも、妹にしてやられたことに怒っている感じか。
そんな姉に引っ張られている妹に助けを求められているが、
「――あ、秋稲さん。青夏もバイトの試用なんじゃ……」
「ううん、この子は初めからそのつもりはなかったですよ。だから止めないでくださいね? それに、私、幸多さんと――の為に変わっちゃったからもう手遅れです」
後半部分は聞こえなかったが、何かが吹っ切れたかのような笑顔で口をキュッと強く噛み締めて俺を見つめてきた。
流石に強い意志が感じられたので俺からは何も言えず、
「……わ、分かりました」
……としか言えなかった。
「えええぇ!? わたし、本当に働くつもりで来てるのに~」
……などと、泣き叫ぶ青夏を引っ張って秋稲はいなくなってしまった。
不意打ちキスで俺は今でも動揺してるのに、秋稲の中ではスイッチか何かで気持ちが切り替わったということなんだろうか。
切り替わるも何も俺は今でも秋稲のことが好きなのに……。




