22.ふとした優しさと気持ち
結局昼休み時間は、安原と青夏を出会わせたような感じで終わった。俺と青夏の関係がどうなるかは気にしても仕方がないので、気にしないことにした。
……といっても、そう簡単には吹っ切れないんだよな。
「はぁ~……」
「おや? そこでため息をついてるのって、栗城君じゃないっすか?」
「……ん?」
分かりやすい落ち込みだったのか、廊下を歩いていたら月田に声をかけられた。月田は普段村尾とつるんでるから、俺に話しかけてくる時は村尾もいる場合が多い。
だけど、あいつは近くにいないみたいだ。
「こんなところでどうしたんすか?」
「ん~……」
「いや、言わなくてもいいっす! 分かってますよ? 人気メニューが売り切れで好きなものが食べられなかったんすよね?」
「そ、そんなとこ」
こういう時、月田との何気ない会話で救われるな。
「そういえば村尾は? 昼はいつも一緒にいるんじゃなかった?」
最近のあいつの行動は読めないんだよな。戦友で親友と言いながらもほとんど遊ばないし。
「それなんすよね。栗城君の言うように村尾君といつも同じ時間に昼ご飯を食べてるんすけど、今日は日課があるとか言って途中でいなくなっちゃったんすよ。それでこうして歩き回っているんすが……」
あいつに日課?
学校でやる日課って部活――はしてないはずだし、他に何があるんだか。まだ時間があるし気分転換に村尾探しでも手伝ってみようかな。
「それなら俺も探すよ」
あいつが何か変なことをしてたら注意しとかないと。
「いいんすか? 栗城君って確か彼女がいるんじゃ……?」
「えっ?」
「いやぁ、彼女が教室で待ってるんじゃないかなぁと」
あれ、月田にそんなこと言ったっけ?
でも教室とか言うってことは、多分聞き間違いだろうな。たとえ彼女がいたとしても教室で待ってるとかあり得ない話だし。
「そんなのはいないよ。とにかく、奴を探そう!」
「そ、そっすね」
村尾の奴が適当に吹聴してそうだけど今は本人を探すのが優先だ。あいつがいるところなんて全く思い当たらないけど、昼休みに行けるところなんて限られているから多分見つけられるはず。
「まずは昇降口から探そう」
俺の提案に月田は力強く頷いて、黙って俺についてくる。昼休みの残り時間は残り僅かだが急げば何とかなるはずだ。
そうして月田と二人であっさりと昇降口に着いた――までは良かった。
「村尾君がいたっす!」
「……靴箱の前だけど、何でこの時間に?」
「分かんないすけど、見つかったんで声を――いや、村尾君の隣にも誰か見えるっすね……」
どう見ても女子と村尾がいて、しかも何か不穏な動きを見せている。
しかもあいつは野上?
何で村尾と一緒にいて、しかも靴箱の前にいるんだ?
「あそこは確か笹倉さんの靴箱前じゃないっすか?」
「……本当だ。あいつら何してんだ? まさか……」
あいつが笹倉を苦しめてる犯人とかじゃないよな?
「女子と一緒に靴箱前にいるってことはアレっすね。好きな女子の靴箱に手紙を入れるのを手伝ってもらってるとしか思いつかないっすね」
「好きな女子……それが笹倉?」
「村尾君は笹倉さんのことを気にしてるっすからね~。あ、これは内緒っすよ?」
「……言わないよ」
あの野上と一緒にいるってのがきな臭い。あいつらがいなくなってから確かめるしかないか。
「あっ、離れるみたいっす。っていうか、そろそろ昼休みが終わりっすね」
「そうだね。じゃあ彼らがいなくなってから戻ろう」
「それがいいっすね」
午後の授業が始まるまでに確かめておきたいものの、月田が一緒だと流石になので、トイレに行ってから教室に戻ると伝えて俺だけ靴箱のところに戻ってきた。
そして笹倉の靴箱を開けてみると――そこには特におかしな点や物は無かった。無くて良かったと思いつつ、俺は急いで教室に戻ることに。
……野上といたのに何もしてなかったのか?
とにかく全力で教室に戻ったことで力尽き、席についた途端に俺は机に突っ伏していた。
「……スースー」
静かに寝息をたて始めた直後、
「あたしの授業で居眠りするとはいい度胸だな、栗城ーー!!」
何やら固い物が頭の上に置かれたかと思ったら、意表を突いてそれではなく大きい声が耳元に響いた。
「いっ――つつつ……な、永井先生? え? な、何ですか?」
「ふ、ふふふ……栗城。後で指導室な!」
「……はい。すみません」
ああ、やってしまった。
今まで居眠りなんてしたことなかったのに、昼を食べてからの全力疾走で眠気に襲われるとは不覚すぎる。
思わず頭を抱えながら机に両肘をついていると、僅かな腕の隙間からスッと小さな包みのようなものが置かれた。
その包みはチューイングキャンディだった。ふと隣を見ると、気のせいじゃないくらいの神々しい微笑みが俺に向けられていた。
……笹倉の微笑みはあの頃よりも輝きを増しているんだな。
青夏にフラれ、永井先生に呼び出された俺に、そっと優しさを運んでくれた笹倉秋稲。彼女には感謝しかなかった。
青夏との関係は元々花本からの逃れによるものだし、そんなにショックを受ける必要は無いんだよな。
要するに、俺は一途に想い続けなければ駄目ってことだ!
笹倉への想いを再決意をした時間の放課後――俺は永井先生にかなり厳しいお言葉を受けた。
「ったく、栗城はもう少し真面目な奴だと思っていたんだがなぁ。そんなことじゃ、妹はやれないぞ?」
「はっ?」
「……おおっと、何でもない。気にすんな! あはははっ。おっと、もう帰っていいからな! 今度から気を付けるように!」
永井先生から不吉なセリフを聞いたものの、夕方になってようやく解放された。もう流石に誰も残っていないであろう教室に戻るとそこにいたのは――。
「幸多くん、大丈夫だった?」
笹倉秋稲だった。
まさかずっと待っててくれた?




