vol.2 内側に生きる少女は何を想う
「…であるからして___」
私は前から4番目の非常に日当たりのよい席で必死に板書をしていた。あの日のことを思い出すと自然に筆圧が強くなった。
「えー、2095年、突如として現れた侵略者、インベーダーに私たちの住む地球は奪われたのであります。」
ガリガリと書き写していくうちに眉間にシワが寄っているのを自分でも感じとった。
「そして世界は、高度な地形変革システムにより、二つの世界に分けられたのです。私たちが生きているこの安全な世界、インサイド。もうひとつは、インベーダーが蔓延る地獄のようなアウトサイド。フロイド社の調査によると、アウトサイドの動植物は絶滅し、一面火の海になっているそうです。教科書のここの写真を見てください。これが外の世界です。」
私の…私のお母さんは、アウトサイドに取り残された。
お母さんは優秀な研究員だった。でもある日、システムにより引き離されてしまった。
あれは、何年前だったか。
世界は炎に包まれていた。
『お母さん!やだ!行かないで!』
「ごめんね、ルナ。こうするしかないの。お母さんはあなたを愛してるわ。」
『やだ!やだ!!!やだ!』
伸ばす手も虚しく、紺色の制服を着た大人に抑えられる。
白い布を纏った母は、大きな大きなエレベーターに、仲間と一緒に乗り込む。
『お母さん!お母さん!!!お母さん!!』
チン、と微かな音が響き、扉が開いた。
「 」
母の口が動く。
喉がひっと鳴った。
同時に扉が閉まる。
母はついに上に行ってしまったのだ。
娘を置いて、アウトサイドに。
『ひどいよ…お母さん…』
あの時の言葉はあまりよく分からない。
幼い私には全く理解できない単語であったためだ。
「現在、フロイド社では、高性能殺戮アンドロイドが開発され、今も尚インベーダーとアンドロイドの戦争が続いていると言います。」
お母さんは、大丈夫なのだろうか。生きていて欲しい。お母さんに会いたい。
そんなことを思い詰めていると、シャープペンシルの芯が折れた。
同時にチャイムが鳴って、6限目が終わった。
私はいつも上の空だった。常にお母さんを想っていた。それに私はいつも、独りだった。