vol.1 その街には、雨が降り注いでいた。
その街には、雨が降り注いでいた。
とはいっても、いかんせん本物だとは限らないのだが。
『あのさぁ、ボク、長い事アンドロイドに従事してきたけど…』
ネオンサインが煌めく街に、一人の男が歩いていた。ラインの入ったパーカーのフードを深く被り、そのポケットから彼はZIPPOを取り出す。
男がなんだよ、と口にすると同時に
ジュボ、と音が鳴った。
『初めて見たよ。煙草なんか吸うアンドロイド。それって今使う人いるんだ。インサイドの古代遺物じゃないの?』
「吸ってるのは、ただのシステムエラーだ。雨のせいでせっかくの煙草がくたばってないと幸いなんだがな。」
彼が吐き出した煙草の煙が空に渦巻く。暗闇に溶けだし、それは塵となり何処かへ消えていってしまう。
丸い球体の形をしたロボットは、眼球のような形をしていて、その目をぎょろりと輝かせている。その物体は宙に浮いており、ふわふわと男の周りを浮遊している。
そのロボットには、まるで土星の環のようなものを持っており、それは45度に傾いたものが2本。丸の中心でクロスしている。
彼が歩く度に、ぴちゃぴちゃと水滴が撥ねる。
彼のパーカーも不思議なことに、全ての水滴を撥ねていた。
夜も深い。街にはチラホラと人影が見える。
いや、人影というのは間違いかもしれない。
そして、なお町はキラキラと輝いている。電飾によるものだが、これもなかなかいけるんじゃないかと彼は密かに思っていた。
その中でも一際目立つ高い建物があった。
あの研究棟は、彼の家であった。
彼の名前はゼロ。プロトタイプのアンドロイドである。彼は、研究棟の上層階で生まれた…いや、作られたロボットなのである。
ゼロはタバコを押し付けてじゅっと消した。
「ほら、ルックス、さっさと行くぞ。」
『はいはい、全く。さっきからどこに向かってるのよ。』
「ただ煙草吸いに外でただけだ。」
『フロウ様に叱られても知らないからね。人口肺は今頃すすだらけだろうからすぐバレるよーだ。』
「別にバレても構わないよ。なんでもありだ。なぜなら__」
なぜならここは
(アウトサイド)
外側の世界であるのだから____