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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
動き出す状況と月面基地 西暦3147年10月前半
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月面基地へ出発?

 十月十日の十四時半。本来ならば月面基地に向けて移動中の筈なのに、予定を一時間半もオーバーして未だにツクヨミにいる。

 出発時に佐藤大佐が床に正座して、松永大佐と飯島大佐から説教を受けるような事を宣ったからだ。

「よっし、書類仕事が楽になる!」

「なる訳ないでしょう!」「なる訳ねぇだろう、このド阿呆!」

 この発言をしてから佐藤大佐は一時間半も、ずっと床に正座していた。見送りに来てくれた神崎少佐に耳を塞がれているので、何を言っているのかは聞き取れん。ちなみに神崎少佐は『護身用に持って行きなさい』とスタンスティック(長さ三十センチの電気ショック警棒)をくれた。必要とする状況にならない事を祈ろう。

 佐藤大佐は諦め悪く、あれこれと言い訳をしているが、説教する二人には通じていない。一時間半も説教を受けているのに、反省しない佐藤大佐も中々に良い性格をしている。と言うかね。何時になったら終わるんです?

「あら、支部長」

 ふいに、やっと耳が解放されたと思ったら、支部長がやって来た模様。出発時刻を一時間半も超過して、未だに出発の気配すら無ければ支部長の耳にも入るか。

 支部長は神崎少佐から事の顛末を聞き、天井を仰いでから大佐トリオに歩み寄った。支部長が割って入り、佐藤大佐を叱り飛ばして、漸く出発となった。

「全く、冗談の通じん奴らだ」

「冗談なら冗談だと、主張すれば良かったのでは?」

「何度主張しても通用しなかった」

「……日頃の行いの結果ですね」

 気の抜けるやり取りを行いつつ、佐藤大佐と一緒に乗艦した。今回はガーベラ(緊急時の実戦装備込み)以外にも改修したナスタチウムを何機か運ぶ為、支部長が専用の艦を一隻用意した形だ。だからこそ、出発が遅れても搭乗員以外に迷惑が掛からない。

 予定時刻を二時間近くも遅れての、幸先の悪い出発となった。



 飛び級卒業した自分の乗艦経験は少なく、本来ならば卒業生全員が訓練学校で受ける乗艦時の訓練も、受けていない項目が幾つか存在する。自分は中等部の三年生だったが、七月までしかいなかった。しかも、六月の中旬から一ヶ月近くも訓練学校にいなかったし、七月の夏休みまでの残りの授業は全て一般教養を含む座学のみしか受けていない。実質二年二ヶ月半の時間で、全てを学び終えていない状況だ。

 それでも、チームを組んで演習に一年生の頃から参加していた事が幸いし、乗艦時の緊急事態への対処訓練は受けていた。これは演習時であっても何が起きるか分からない為、真っ先に訓練を受けた。月面基地においても、同様の訓練を受けている。逆を言うと、緊急性の低い訓練は受けていない。飛び級卒業が正式に決まったあとに、松永大佐から受ける予定だった。本当ならば、九月後半に行う予定だったらしいが、演習参加を優先したが為に延期になった。

 だが、演習参加は月面基地でも行うので、行く途中に『教官志望』の佐藤大佐から訓練を受ける流れになった。

 乗艦する艦の、パイプの似合う艦長――六月に支部長からの指示でガーベラを運んで来た艦とその艦長と搭乗員だった。支部長の指示で稀に機密品を運ぶ機会が在るからか、皆口が堅い。恐ろしい事に、艦長以下全搭乗員が諜報部の所属だった――に挨拶と出発が遅れた事を謝罪をする。そして、事前に飯島大佐から聞いていた通りに教え下手の佐藤大佐から、月面基地に到着するまでの間に受けられなかった訓練を受ける。

 手書きでメモを取りつつ、解らないところは質問する。松永大佐からレポートの提出を求められているので、メモを忘れるとあとで大変な事になる。

 艦の搭乗員には『佐藤大佐の教官練習』と説明済みである。怪訝そうな顔をする人には『教え下手の人に教官役が務まるのか、支部長が知りたいと言い出した』と、簡単な経緯を教えれば『支部長が言い出したのなら仕方が無い』と皆納得した。誰も『教え下手』について疑問に思わない当たり、佐藤大佐に教官役は向いていないと、多くの面々が思っているようだ。

 支部長の地位を利用するようで悪いが、嘘は言っていないので言い逃れは出来る。支部長の言葉は、実際に自分がそう言われた。ぶっちゃけると、自分も『佐藤大佐じゃなくても良くね?』と、聞かされたその場で似たような疑問を口にしてしまった。フォローの言葉はどこからも出なかった。

 自分が飛び級卒業で、受講必須の訓練を受けていない事がバレなければどうにかなる。と言うか、バレたら大変な事になる。

 退役目前の佐藤大佐の今後の進路に関係する事で、尚且つ、支部長が興味を示しているからこそ、誰も怪しまないのだ。

 月面基地に到着するまでに全て受け終えたが、『佐藤大佐に教官役は向いていない』以外の感想しか浮かばなかった。



  西暦千九百九十年後半頃。月に向かう為に掛かった時間は約八日間だったと記録に残っている。

 千百数十年経った今では、軌道衛星基地と月の位置関係による都合で、六時間から十時間程度と大幅に短縮されている。技術の進歩は凄いね。その辺りを調べていないから何とも言えないが、エンジン技術が進化して、重力制御機まで誕生したから移動は快適そのものだ。

 約八時間もの時間を掛けて月面基地に到着したが、自分の活動空間は艦内のみなので、佐藤大佐と違い月面基地に下りる事は無い。

 さてここで確認する事が在る。それは時間についてだ。

 世界標準時間が適用される月面基地と、日本支部の軌道衛星基地の時差は約八時間。

 つまり、到着までにかけた時間分が時差となっている計算だ。

 月面基地に到着するなり、佐藤大佐は一足先に来ていた部下らしき人達に捕まって連れて行かれた。空き時間(厳密には待機時間)を利用して、持って来たノートパソコンでレポートを作成して、ネット経由で松永大佐に提出する。疚しい事が無いなら持って行けと言われた、ボイスレコーダーの録音データも併せて提出。

 夕食を艦内食堂で取り、シャワーを浴びて早々に寝た。

 

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