とある親子の会話
執務室に呼び出され父親から齎された情報に、青年は思わず愁眉を顰めた。人払いがされている事から良くない内容だとは思っていたが、想像以上だった。特に、隠されていた本当の理由を父親から聞かされた時は、青年は思わず仰天した。
「父上、事実ですか?」
「協力要請目的の虚偽報告の可能性も考えたが、調査結果は事実だった」
執務机に行儀悪く腰掛けた青年の父はやれやれと肩を竦める。何時かこうなる事を予見していたのか、あるいはどこからか技術が漏れたのか。
「そこで、だ」
青年の思考を断ち切るように、彼の父は微笑んだ。
「極秘に接触してみようと思う。ま、時間が掛かるのは確定だし、何より接触手段が無い。今後の戦況の推移によっては止めた方がいいかも知れないし……そうだな。ニ・三年様子を見てから決めよう」
以前、技術の流出について懸念を抱いていた父から出た言葉とは思えず、青年は確認を取った。
「父上、本気ですか?」
「ああ。今後の状況次第ではね」
青年の父はにっこりと笑顔を浮かべ、一度言葉を切り肩を竦めた。青年は父の仕草に嫌な予感を覚えて、内心で身構えた。彼の父が笑顔のあとに肩を竦める動作を取るのは、『知っておかねばらならない、父ですら知りたくなかった嫌な情報を告げる合図』なのだ。
「密偵が全滅した」
「なっ!?」
さらりと告げられた内容の重大さに、青年はギョッとして父に詳細を訊ねた。
「全滅!? 密偵は全員『彼らの親近種族』だった筈です! それが、誰一人帰って来なかったと?」
「そうだ。非常に信じがたい話だが、事実だ。『環境不適合種である』彼らも、遂に見えて来た終わりに形振り構っていられなくなったんだろう」
「そんな……」
衝撃の事実に打ちのめされ、青年は茫然とする。
「私も『クゥ』から『彼らの変調期』についての詳細は聞いていたが、実際に起きると本当に呆れる」
そこまでするものなのかねぇと呟き、彼は未だに茫然としている息子の肩を叩いて正気に戻した。正気に戻った青年は血相を変えて訴えた。
「父上、今すぐ彼らとのっ」
「落ち着け」
「何故ですか!? 彼らが盟約を破って、こちらに侵攻して来る可能性が出て来たと言うのに!?」
「だから、お・ち・つ・けっ」
ぺしっと頭を叩かれて、青年は口篭もった。
「憶測の域を出ていないし、可能性が非常に高いだけだ。それに、今ここで騒いでも何の解決にも、対策にもならない」
「……接触が対策、と言う事でしょうか?」
父の言葉に思考が少しばかり冷えて来た青年は、父が言った『接触』の真意を問う。
「そう言う事だ。味方が敵となるのなら、『敵の敵は味方』と言う素晴らしい格言通りに、協力を要請してみるのも悪くは無いだろう。これまでの事を考えると、接触は厳しいし、何より接触方法が無いから、……ここは一人二人拉致するしかないかな?」
息子からの質問に回答しつつ、犯罪としか言いようのない手段を考え始めた。
あっけらかんとした父の物言いに青年は頭痛を覚えて、額に手を当てた。しかし、聞き慣れない言葉が混じっていたので父に訊ねる。
「父上。『敵の敵は味方』とは、一体どこの格言ですか? 『共通の敵は束の間の協力をすべし』ではないのですか?」
「あっ、セダムの格言じゃなくて地球の格言だったな」
「地球? 地球とはどこの国ですか?」
「何時か教えるよ」
「もったいぶらないで下さい」
息子からの指摘で二つの失言に気づいたようだが、追及の手は緩まない。
戯れのような会話はもう一人の息子がやって来るまで続いた。