表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
私はモブキャラその一の訓練生 西暦3147年6月下旬~7月中旬まで
8/186

とある親子の会話

 執務室に呼び出され父親から齎された情報に、青年は思わず愁眉を顰めた。人払いがされている事から良くない内容だとは思っていたが、想像以上だった。特に、隠されていた本当の理由を父親から聞かされた時は、青年は思わず仰天した。

「父上、事実ですか?」

「協力要請目的の虚偽報告の可能性も考えたが、調査結果は事実だった」

 執務机に行儀悪く腰掛けた青年の父はやれやれと肩を竦める。何時かこうなる事を予見していたのか、あるいはどこからか技術が漏れたのか。

「そこで、だ」

 青年の思考を断ち切るように、彼の父は微笑んだ。

「極秘に接触してみようと思う。ま、時間が掛かるのは確定だし、何より接触手段が無い。今後の戦況の推移によっては止めた方がいいかも知れないし……そうだな。ニ・三年様子を見てから決めよう」

 以前、技術の流出について懸念を抱いていた父から出た言葉とは思えず、青年は確認を取った。 

「父上、本気ですか?」

「ああ。今後の状況次第ではね」

 青年の父はにっこりと笑顔を浮かべ、一度言葉を切り肩を竦めた。青年は父の仕草に嫌な予感を覚えて、内心で身構えた。彼の父が笑顔のあとに肩を竦める動作を取るのは、『知っておかねばらならない、父ですら知りたくなかった嫌な情報を告げる合図』なのだ。

「密偵が全滅した」

「なっ!?」

 さらりと告げられた内容の重大さに、青年はギョッとして父に詳細を訊ねた。

「全滅!? 密偵は全員『彼らの親近種族』だった筈です! それが、誰一人帰って来なかったと?」

「そうだ。非常に信じがたい話だが、事実だ。『環境不適合種である』彼らも、遂に見えて来た終わりに形振り構っていられなくなったんだろう」

「そんな……」

 衝撃の事実に打ちのめされ、青年は茫然とする。

「私も『クゥ』から『彼らの変調期』についての詳細は聞いていたが、実際に起きると本当に呆れる」

 そこまでするものなのかねぇと呟き、彼は未だに茫然としている息子の肩を叩いて正気に戻した。正気に戻った青年は血相を変えて訴えた。

「父上、今すぐ彼らとのっ」

「落ち着け」

「何故ですか!? 彼らが盟約を破って、こちらに侵攻して来る可能性が出て来たと言うのに!?」

「だから、お・ち・つ・けっ」

 ぺしっと頭を叩かれて、青年は口篭もった。

「憶測の域を出ていないし、可能性が非常に高いだけだ。それに、今ここで騒いでも何の解決にも、対策にもならない」

「……接触が対策、と言う事でしょうか?」

 父の言葉に思考が少しばかり冷えて来た青年は、父が言った『接触』の真意を問う。

「そう言う事だ。味方が敵となるのなら、『敵の敵は味方』と言う素晴らしい格言通りに、協力を要請してみるのも悪くは無いだろう。これまでの事を考えると、接触は厳しいし、何より接触方法が無いから、……ここは一人二人拉致するしかないかな?」

 息子からの質問に回答しつつ、犯罪としか言いようのない手段を考え始めた。

 あっけらかんとした父の物言いに青年は頭痛を覚えて、額に手を当てた。しかし、聞き慣れない言葉が混じっていたので父に訊ねる。

「父上。『敵の敵は味方』とは、一体どこの格言ですか? 『共通の敵は束の間の協力をすべし』ではないのですか?」

「あっ、セダムの格言じゃなくて地球の格言だったな」

「地球? 地球とはどこの国ですか?」

「何時か教えるよ」

「もったいぶらないで下さい」

 息子からの指摘で二つの失言に気づいたようだが、追及の手は緩まない。

 戯れのような会話はもう一人の息子がやって来るまで続いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ